階段の影に隠れた敵機を追ってメインシャフトの床に降りるのと同時、砲撃の閃光が高機動型の光学センサに写った。
着地の寸前に狙い澄ました、まさに会心の砲撃。確実を期して三点射で叩き込まれた成形炸薬弾が時間差で続けざまに炸裂し、高軌道型の機動を上回る超高速のメタルジェットが三条の火箭と化して青い闇を疾走する。
ただ。
それはこの短い時間の戦闘で繰り返されてきた攻撃パターンでもあった。
新型のレギオンとて学習し、予測するのには十分な時間であった。
着地と同時に横ステップを踏んだ高機動型は、ただそれだけの動きで射線から退避。時限信管に設定された敵弾が目の前で炸裂。
高速のメタルジェットは虚空に消えていき、破片は装甲の一部にダメージを与えるだけであった。
発生した黒煙と火焔が皮肉にも高機動型の姿を敵機から隠す。
高機動型はその黒煙が晴れ切れる前に突貫する。
敵機からすれば目の前に高軌道型が現れたように見えるだろう。
とても人間が反応できるような速度ではなかった。
赤いセンサがわずかに動く。
しかし、それだけだった。
純白の機体に。艶消し鉄色の、鋭利な刃が食い込んだ。
チュォォォォォォォン!チュォォォォォォォン!
地上では砲撃が行われていた。
メインシャフト上部からリノのガンダムが降り、追いかけてくるレギオン目掛けて砲撃を行なっていた。
ジャガーノートを追いかけてやってきたレギオンはことごとくがガンダムのビーム攻撃で焼き払われ、生き残りをジャガーノートがするという簡単な作業とかしていた。
『MSのせいで狭い!』
『だけど楽でいいじゃん』
『奴らただのカカシですな』
「よし、最後の言ったやつは帰ったら課題だ」
『えぇー!!』
リノはコックピットから照準を合わせ、引き金を引く。
チュォォォォォォォン!
攻撃を仕掛けるなか、フッと同調が切れる。
対象から消えたのは一人、
「シン……?」
破壊したのは機体下部。熱源からパワーパックの場所だ。
チェインブレードの稼働を止め、引き抜くとがシャリと音を立てて崩れる。
動体反応無し。
動力反応無し。
動力温度低下。
再起動不可能な温度に到達。
《コールサイン。”バーレイグ”の無力化を確認》
《了解。バーレイグの鹵獲は可能か》
《可能と推定》
高機動型は中にまだ生きているだろうと予測し、コックピットに手をかける。
《回収を開始》
開閉レバーと推察した突起にチェインブレードの先端を引っ掛ける。
ブレードを稼働させ、ロック部分を切り割り、そのまま無造作に跳ね上げた。
眼下で高機動型がキャノピーを開ける。
ーーかかった。
コックピットを覗き込む高機動型。
その背部上面装甲をアサルトライフルの照準に捉え、シンは瓦礫の中から身を起こす。
斥候型を除いてセンサーの感度は低い。
その原則に賭けてシンは黒煙の中コックピットを脱出し、中二階の瓦礫の中に身を隠した。
見たところ複合センサーのようなものもなく、武が悪いわけではないと思っていた。
フェルドレスの搭乗員に支給される七.六二ミリ自動小銃は原始的なアイアンサイトによる照準しかできず、あくまでも自衛用の武器でしかない。
だが、今回はそれのおかげでレギオンに搭載される対照準システムは作動しなかった。
ダダダダダダッ!
装填済みの小銃から多数の弾丸が発射される。
ワイヤーに乗れるほど軽く設計された高機動型、それも先の戦闘で傷付いた装甲の穴に向かって引き金を引き続ける。
タクティカルリロードで敵に反撃に隙も与えず、弾倉を打ち尽くす。
ズタズタにされた高機動型はよろめきながらもシンを視界にとらえていた。
《送信情報に訂正。”バーレイグ”の生存を確認》
しかし、その時。シンをここに叩き落とした近接猟兵型のミサイルランチャーが暴発。
巨大な爆炎と衝撃波をもたらしながら辺り一帯に光をもたらす。
それのせいで高機動型は爆風でプレートがひしゃげてしまった。
《ダメージ蓄積危険値を突破》
《外装ユニット放棄。形状変《外部割込》《特記事項オメガ実行》換開始》
それは突然起こった。
フレームが曲がり、声も消えかけている高機動型から銀色の流体マイクロマシンが噴き出し、徐々に形を成していった。
頭、そう頭だ。
銀色の長い髪。
繊細な目元、細い鼻筋を経て、薄い唇と尖ったおとがいへと続く。
金属光沢の銀色はそのまま。伸び上がったマイクロマシンの頂点に生まれている。
瞼が開き、明後日の方に焦点を合わせ、顔がこちらを向く。
唇が動く。
さ が し に き な さ い
それと同時に銀色の体は崩れ去り、同時に蝶の形となって空を飛んでいく。
「なっ……」
逃げられたと確信し、シンはそこでレイドデバイスが取れていたことに気づく。
瓦礫の中からそれを見つけて付けるとレーナの声が聞こえた。
『ーーーシン!無事ですか!?』
「何とか」
『良かった……!』
心底ホッとした様子のレーナの声が聞こえ、息を吐いていた。
後ろでフレデリカが何か言っているようだが、今はその甲高い声を聞くのが辛かった。
相変わらず真実ノイズに目を顰めながら言う。
「レーナ。一つ頼みがあるのですが」
『なんですか』
「誰か迎えに来てもらえませんか。……負傷はしていないのですが、動けません」
先の高機動型の戦闘に加え、レギオンの声のせいで視界も白くなり始めており、立っているのも辛くなって来ていた。
レーナはそれを聞いてホッとした様子で笑う。
『ああ、それでしたらもう直ぐ……』
そう言うとがしゃがしゃと音が聞こえた。
二か所で。
ほとんど同じタイミングでキャノピーが開き、見した二人がそれぞれ顔を出す。
「よ、お前にしちゃ、酷くやられたじゃねえか」
シャフトの上でそう言うのはライデンだ。
「んで、お出迎えが欲しいんだって?死神ちゃん、人狼と一つ目姫とどっちで帰るよ」
身を乗り出して装甲に頬杖つき、尖った歯を剥き出すようにしてシデンが笑う。
取り敢えず、どっちも嫌だと言う感想しか出なかった。
『共和国は我々に仕事を増やすことが趣味のようだ』
合州国の共和国派遣軍は撤退を開始した。撤退完了まで二ヶ月はかかるかと思われるが。既に工兵の撤退は完了させ、今残っているのは左翼思想の兵士だけであった。
帰還したリノ達はリュストカマー基地で、書類仕事をする羽目になっていた。
「……」カタカタ
「……」カチカチッ
リュストカマー基地の一室ではリノ、エリノラ、クラウ、テオの四人がパソコンと向き合って亡霊のような顔をしていた。
新型のレギオンと共和国で鹵獲したザクに関して情報があったのだ。
『北部地域の戦争史博物館からザクが無くなっていた』
この事から回収されたザクの製造番号を確認した後、それと同じであったことが発覚。その時の詳細な情報を書くよう言われたのだった。
だから、この数日間ろくに寝ていない。
隈を作りながらリノ達は報告書を書いていた。
そして書類を作り終え、メールで送るとリノ達はため息をついた。
今回は緊急性を要する事からメールでの送信で要請されていた。
「終わった……」
「お休み」
「ZZZ……」
「俺も、ここで寝るわ……ZZZ」
四者四様に全員が部屋で爆睡し始めた。
途中、アノラさんが差し入れでクッキーを持って来てくれた時は泣くほど嬉しかったし、そのクッキーが美味かった。
途中で、タバコを吸ってもクラウから文句が出ないほど、全員が疲れ切っていた。
取り敢えず死んだ魚のようにグッタリと寝ているとそっと扉を開けてハルト達がリノ達を見ていた。
「うわ……」
「臭っ!何この匂い……!?」
「これ……中で死んでない?」
「カローシってやつか?」
部屋から立ち込める臭さにクレナが鼻を摘み、セオが思わず聞いてしまう。ついて来たレッカはドン引きし、同じように面白そうだからとついて来たダイヤが呟く。
それ程までに部屋の中は地獄であった。ライトが消された部屋には灰皿に積み上げられた吸い殻と紙、電源の切れたパソコンと椅子にグッタリと横たわる三人、一人は床で雑魚寝をしていた。
「カオス……」
「これは酷い……」
「うわ、ここ吸って良かったっけ?」
「それよりもっと言うところあるでしょ……」
四人は部屋の扉をそっと閉めるようとするとリノが寝言を言う。
「書類……書類……」
その様子に今度こそ全員がドン引きしていた。
「し、仕事に取り憑かれている……!!」
「こ、こう言うのをシャチクと言うのか……」
四人は危険物を着たような目でそっと扉を閉じるとダイヤのおふざけで扉に《立入禁止》と印刷された紙を貼っていた。
同じ頃、グレーテは基地の部屋である紙を見ていた。
それは連邦軍西方方面軍参謀長から直で渡されたある調査結果であった。
リノ中佐やノウゼン大尉が見たと言うメッセージの件で既にパンパンだと言うのに新たに渡されたその結果はグレーテを凍り付かせるには十分であった。
そしてグレーテは両手に二種類の紙を持ち、片方にはこんな数字が書かれていた。
『50%』
その紙に記された結果にグレーテも調査を依頼された参謀長も驚愕をしていた。
そしてもう片方にはレギオンを開発したと言うゼレーネ・ビルケンバウムと言う女性の資料が書かれていた。
彼女はレギオンのロールアウト後に病死したとなっているが、実の母ですら彼女の遺体を見ておらず、死亡診断書も埋葬記録も残っていない。
そして現在、ギアーデ連邦の北側。ロア=グレギア連合王国では特殊なレギオンがいることが確認されている。
通常であれば残っているはずのない、初期ロットのレギオンである。通常、指揮官型は重戦車型が行なっているが、この機体はこの初期ロットの斥候型が指揮をとっていると言う。
ゼレーネの死はこの初期型がロールアウトした直後になっている。
ならば彼女はどこに行ったのだろうか……
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい