86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#38 雪風に埋もれて

要塞奪還作戦も最終局面を迎えた頃、高機動型を取り逃した事はシンエイ・ノウゼンにも伝わった。

 

『すまない、抜かれた!!』

「問題ない。それよりもリノは他のMSの確認を……」

 

来た。そう直感的に感じたシンは通信もそこそこに視線を前に向ける。

その瞬間、高機動型の左側をアンダーテイカーの高周波ブレードを切り散らし。

 

 

 

高機動型のチェインブレードが水を斬るように<アンダーテイカー>の機体に深く斬り込んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《推奨対処・鹵獲を棄却。”バーレイグ”撃破》

《装甲内部の破壊を確認。生体反応無し。制圧をーー》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーハズレだ、屑鉄」

 

同時、高機動型の背後に降り立った()()()()()()()()()()()()()でシンは言う。

 

「見分けているのは外観で、兵装とパーソナルか……」

 

無防備な背後を、スクリーンに収めてシンは呟く。この少し前、レルヒェの乗る機体と乗り換えていたシンは操縦席の操縦桿を握っていた。

いくら連合王国のものとはいえ、人が乗ることを前提に作られた機械だ。弾倉交換の時間も惜しいと、レーナの発案。ヴィーカの指令で戦闘の一瞬をついて乗り換えていた。

照準が初めて高機動型に合う。電子音が響き、照準が確実に固定される。

変わらない右手の操縦桿のトリガーを引く。

 

背後、零距離、完全な不意打ち。

 

これでまず対応できる人は居ないだろう。そう、人ならば……

 

高機動型はそれでも足掻いた。チェインブレードをパージ、装甲の殆どをワイヤー状に変え、地に突き立てて本体を引き寄せる。飛び去るよりもわずかに早い動きで、射線上から外れた。

放たれた成形炸薬弾は高機動型の側面を掠っただけとなった。

 

「ちぃ……!!」

 

この距離を避けるか。シンは舌打ちをしてしまった。今までこの距離で外した事はなかったからだ。

だが、これで。

 

『ついに、全部の鎧を解いたな。間抜けめ』

 

アンダーテイカーのキャノピーが跳ね上がる。爆発ボルトから飛んでいくキャンピーの下からレルヒェが飛び出す。<シリン>の青い血潮が降りかかり、片手にサーベルを持つ少女は高周波ブレード。本当の意味で白兵戦を考えない武器。それに素手が一瞬で千切れて吹き飛んだ。

 

『はぁっ!』

 

高機動型がチェインブレードを振るう。紛い物とはいえ生身の人間が白刃を持って戦う。どこぞの漫画家というようなあり得ない光景が広がっていた。

チェインブレードがレルヒェの下半身を持っていく。逆手で振り下ろされたサーベルが剥き出しになったブレードの基部に突き刺さる。

過電流の青白い光が蛇のように高機動型内部に食い込み、よろめく。

 

カァン!

 

薬室に弾薬が装填される。ガンランチャーが閉鎖音を響かせる。

高機動型の破断痕に銀色の液体が滲む。その刹那、

 

 

 

シンはレルヒェを見た。

 

 

 

意思と感情を反映して煌めく瞳。この唇が動く。

知覚同調の向こう、一人の青年が鋭く叫ぶ。

 

 

『ーーー撃て!!』

 

 

戦闘に最適化されたシンの体と意識は半ば自動的にトリガを引いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

飛来した二〇ミリ徹甲弾がレルヒェの右肩を穿ち、生成したメタルジェットが装甲を穿つ。破砕孔内部に入りその体を炎上させた。

遅れて銀の蝶の群れが業火を抜けて空に舞い上がって、空に逃げ出していた。

 

「これでも逃げるのか……厄介なものを造ったものだ」

 

対戦車ライフルを担いでヴィーカは呟く。そして疑問に思っていた。レギオンの動向に。

確かに高機動型は強力ではあるが、効率的には量産機に比べれば悪い。

 

一騎当千の時代は終わりを迎え、今は一台の戦車が、一基の巨砲が戦場を支配する時代だ。なのになぜだろうか……

機械だから人には思い浮かばない事をするかもしれないが、意図が読めない。ーーー……ん?

 

その時、ふと銀の蝶の向きが変わっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

高機動型を撃破し、破壊されたMSの処理を始めていたリノはクラウに肩を叩かれた。

 

『リノ、あれ……』

「?」

 

接触通信でクラウが指を指した。それを見てリノは目を大きく見開く。

 

「なんで、あんな所に……」

 

視線の先、M61の砲撃でボロボロに穴の空いた外壁の外。そこから感じる強い視線を感じた。

そこには遠目でも分かるボロボロの白色の斥候型が佇んでいた。その斥候型は普通ならば積んでいるはずの汎用機関銃もなく、全くの無防備であった。

無人の戦野の片隅に佇むその機械はまるで女王のようであった。

 

<無慈悲な女王>

 

本来であればあり得ないはずの初期型の斥候型。周りを重戦車型が囲み、辺りは吹雪始めていた。

その右肩の鮮やかな色彩は白い平原ではよく目立っていた。

 

三日月とそれに凭れる女神。パーソナルマークだ。

 

月の女神(セレーネー)……」

 

古代神話に出てくる女神の名だ。ふとその名前が出てくると<無慈悲な女王>はついと複合センサーをこちらに向けた。

カメラが斥候型を捉える。

 

 

 

 

ーーごめんなさい、こんな母で。

ーーでも、こうするしか…出来ないから……。

 

 

 

 

「グッ……!?うぉぉ……」

 

 

途端、頭と右目に釘を刺したような痛みが走り、思わず押さえてしまう。

これは何の記憶だろうか。視線の先にはぼんやりとした視界が浮かび上がっていた。痛みが治るとクラウの声が聞こえた。

視線の先には

 

『リノ?大丈夫か?』

「あぁ、問題ない……それより今の斥候型は?」

『居なくなったわ』

 

クラウから報告を聞いたリノは少し考えると彼女に聞いた。

 

「そうか……

 

 

 

クラウ。MSは?修理できそうか?」

 

そう聞くとクラウが呆れたような声を出した。

 

『はぁ、無理しないでよ?取り敢えず、ここでは修理できないのが三機。もう直ぐ運び出す予定よ』

「分かった。こっちは瓦礫の撤去を行う。残った者は集まってくれ。それと歩兵と戦車隊をこっちに……」

 

リノは今の現象を取り敢えず、仕舞い込むと部下に指示を出した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「終わったか……」

 

要塞から運び出される数台のMSを乗せたトラックと人員を見送るとリノは呟く。

 

「死者がいなくてよかったけど……」

 

その横でエリノラが被害をまとめたレポートを読みながら呟く。

 

今回の奪還作戦で合計八機のMSが損傷した。外部に被害がなくとも、中のフレームや制御系に損傷があった機体がままあったのだ。まぁ、あんな狭い場所で戦っていては気付かぬうちにどこかぶつけてしまうか……。

そんなことを思いながらリノは絶賛緊急修理を受けているMSを見ていた。被害はハミングバードも受けており、一部フレームが凹んでいる様だ。

 

「やれやれ、一難去ってまた一難か……」

「少なくとも作戦は遅れるわね……」

 

そう言うと二人は南側の外壁を覗き込んでいた。

 

「すごい景色だ……」

「本当……」

 

そこには大量のアルカノストの残骸と、壊れたシリン達が九十九折になって積み上がっていた。

空堀のそこではシリンの人工血液や、レギオンの流体マイクロマシンが混ざった奇妙な池が出来上がっていた。

この光景に彼らはどこか思うところがあった様で、じっと見つめてはどこか神妙な面構えでどこかに歩いて行った。

 

「はぁ……予想以上の光景で少し後悔しているよ……」

「そうね……」

 

リノはそう呟いてタバコに火をつけていた。するとリノは思い出した様にエリノラに聞く。

 

「そう言えば聞いたぞ、情報部への転属。()()、断ったって?」

「ええ、当たり前よ」

「はぁ、心配性にも程があると言うか……元いた部署に戻るだけじゃないか」

 

リノはそう言い、若干ため息をついていた。

そう、エリノラは士官学校卒業からあの事件があるまでの半年ほどを国家安全保障局(NSA)に配属されていた。理由は焔紅種で、異能持ちだったから。それに触れれば相手の情報を丸裸にできるのは尋問にうってつけだからだ。その為、彼女にはよく情報部に帰ってこいと催促状を送られているが、その尽くを彼女は断っていた。

理由は『リノと共白髪まで寄り添う』と言うことだ。その為リノも一緒に連れて行こうとしたが、それはフィッシャー少将が拒否していた。『エースを遊ばせる気かね?』と、特にその時はレギオンの攻勢があると言う事で情報部は何も言えなかったのだ。だが、ここ最近は大攻勢もないと言う事から催促状がちょくちょく届く様になったと言うことだ。本国に帰った時は情報部の顔を出して手伝いをしているそうではあるが……

 

そんなこんなでエリノラが断固として情報部に戻ろうとしないことにリノがため息をつくとエリノラは言う。

 

「私は嫌よ?リノに置いていかれるのは?」

 

最後まで一緒に行く。

 

変わらない我儘なところにリノも思わずフッと笑ってしまうと彼女の顔を見て後頭部に手を添える。

 

「ああ、分かっているさ……

 

 

 

 

 

エリノラを置いて行こうとは思わないよ」

 

「ええ、勿論」

 

そう答えると二人はお互いに口を付け合っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

これを遠くから見ていたダイヤ達が顔を真っ赤かにしてその場を後にしたのは二人は知らない話であった。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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