86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#52 悩み

「女王陛下女王陛下ぁ!()()()思い切ってこんなんどうよ。エッロくねぇ?」

 

半ば無理やり部屋に上がり込んできたシデンがそう言い、レーナに近くの街で買って来た下着類を見せる。それはもう多種多様で、色々な物を買って来ており、それらを見たレーナは顔を真っ赤かにして『破廉恥です!』『何で私のスリーサイズ知って居るんですか?!』などと叫んでいた。

 

「……」

 

レーナは完全に上の空になっており、そんな下着類すら眼を通さなかった。

 

「女王陛下?どうかしたのか?」

「えっ」

「いやほら、最終日の……」

「あぁ……」

「どうせ、死神ちゃんにエスコートして貰うんだろう?だったら見えねぇ所までしっかりお洒落しとこうぜ。女王陛下の先輩はそうしてたって言ってたしな。……つーか」

 

シデンはニヤリと笑うと、際どい冗談を言う。

 

「もしかしたら見せることになるかもしんねぇしな!そんときゃアネットは私が責任を持ってバーで足止めしておくから。後は部屋で……」

 

シデンの際どい冗談はレーナを子供の様に眼を伏せさせてしまった。

 

「いや、シンはもしかしたら別の人と……」

「……は?」

「シンには、私じゃなくても…私は」

 

レーナはその後内心に、此処まで来た白銀種のあの共和国の軍人を思い返してしまう。

その様子を見て、何があったのかを察したシデンは小さく嘆息する。

 

「……あんのなぁ、女王陛下」

「っ……?!」

 

シデンはレーナを押し倒し、シデンはレーナに鬼気迫る表情で言う。

 

「シデン……?」

「良い加減にしろよ」

 

それはとても鋭く、冷たい瞳だった。

怒りを孕んで、キツく光る。

 

「いつまでもそうやって、何かっていうとすぐ線引いて後退りしやがって。そりゃああんたは女王陛下だ。引かなきゃいけねえ線もあるだろうさ。そいつに文句なねぇよ。けどな……今あんたが引いたその線は要らねえんだよ。私らはもう誰もあんたを白豚とは言わねえのに、勝手に自称して壁の中に閉じこもって。いつまでそうやって八五区に居るつもりだよ!」

「だって、私は共和国人です。……無意識にでも傷つけた側です。それは変わらない。……私には()()しか無いんです」

 

あの大攻勢で、自分は母と上司を。その前は父を…みんな死んでしまった。

 

守る家族も家も、レーナは無い。

 

シンと共に戦う、その誇りさえ失ったら自分は何も残らない。どれだけ嫌いな形であっても、それだけしか自分は残らなくなってしまう。

 

「なんだよそれぁ」

 

そんなレーナの悲鳴をシデンは嗤って切り捨てる。

 

「これしかねぇ、なんてどっから出てくるんだよ。そんなに簡単に何でもかんでも、無くせるとでも思ってんのか?……私の目ぇ見ろ」

 

そう言い、シデンは自身の濃藍と雪色の双眸を見せる。自分の識別名ともなった所以の遠くから見れば隻眼の様に見える目。

 

「親父は両方とも銀色だった。雪花種の血はそんなに強くなかったけどな。目の色の違いはお袋から、あたしと妹は両方引き継いで、それで、どうなったと思う?」

 

アンジェがそうだったように、不満の溜まる八六区での記憶をシデンは抱えて。

 

「人間もどきの劣等種のエイティシックスから、人の形の化け物だって。魔女だって言われて、妹は()()()()()()()()()()慣れなかった……無くせるもんなら、無くしてぇよ……けど無くせねぇだろ。過去ってやつは。間違いも無力も後悔も……その先の決断も。だったらアンタだって無くせねぇんだよ。あたしらと一緒に戦って共和国人ではあっても白豚じゃあ無くなった。()()()()()としてのあんたは!」

 

今日まで戦ったその事実はーー消そうとしても消えない。

 

「なあ、レーナ。…あんたは確かに共和国人で、けど白豚じゃ無くて……そんであたしらの女王陛下だ」

 

シデンの言葉にレーナはぎくりとなる。…誰かに昔、同じことを言われた気がした。

いつだったか……壁を越えようとしない、僅かに哀しげな。変わろうとしなかったレーナに対して言われた……

 

 

 

ーーその悲壮面、やめて下さい。

 

 

 

「最初は白豚と、人間もどきだったかも知れねぇ。けど、あたしらはもう。その線を越えたつもりだぜ。そんであたしは、あんたにも越えてほしい。シンだってそいつは同じだ。だから……良い加減超えてくれよ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ゼレーネ、もう一度聞く。ーーー何故俺を呼んだ?」

《否定、探索の要請は高機動型を撃破した敵性存在に対して。特記事項オメガの実行トリガーは高機動型の破壊。特記事項オメガの視認者は、必然的に高機動型を撃破した者となる》

 

此処最近は問い掛ければ答える様になった。ただし、応じるのはシンか、稀にヴィーカのみ。何が目的か、情報提供の意思があるのかも未定。何と問うも、明かそうとはしなかった。

 

レーナが今日も此処にいない事に心配から焦りが生まれるも、これを噛み殺してゼレーネに聞く。

 

「……それならどうして、高機動型を撃破した者を?」

《高機動型を撃破可能なら、人でなき者ゆえ》

 

遠回しにお前は化け物だと言う口調で言う。

 

《殺戮機械たる〈レギオン〉に、比肩する者は人ではなき者ゆえ。まして改良種たる高機動型を、撃破に至る人外の怪物ゆえ。故に研究対象として、鹵獲対象として高価値。我ら〈レギオン〉の目的の達成の為、極めて高価値》

 

狂人め、と誰かが呟く。殺戮機械そのものの、異質な欲望で渇望だった。

シンはそんな呟きを耳にしつつ、静かに問うた。

 

「何のために」

 

すると、映像の先で光学センサがシンを見た気がする。

 

「貴方は何のために〈レギオン〉をこれ以上強化しようとして居る?人を滅ぼすためか。……そうだと言うならどうして、あの時俺を殺さなかった。どうして今、俺と話をして居る」

 

敵意も憎悪も何も無い、純粋な疑問であった。

 

「貴方は何の為にーーー〈レギオン〉を作ったんだ?」

 

ゼレーネの言葉には矛盾がある。と言う事は隠された真意があると言う事。語る口は半ば無理矢理こじ開けた。この先、同じ事はできない。強制したところでまともに答えない彼女のことを信用できない。

だから、ただ知りたいと思ったことを問うた。

 

暫しの沈黙の後、ゼレーネはまるで恐る様に聞く。

 

《……我が…憎くは無いのか。エイティシックス。我ら〈レギオン〉に同胞を殺戮された。玩弄された。蹂躙された。虐殺された。その事にーー憎悪や怒りを感じないのか?》

 

一瞬、シンは沈黙する。

彼と同じ、エイティシックス達は……脆弱だった。それが当然の様に、次々と死んだ。祖国に棄てられ、まともな指揮も支援もなく。出来損ないのフェルドレスしか与えられずに。

 

それはもうあっけなく……

 

その誰もがシンにとっては大切な仲間だ。……けれど、

 

「ーーああ」

 

それでも、〈レギオン〉を憎いとは、思わない。

 

思えない。

 

ゼレーネは月色の光学センサをゆっくりと伏せる。

 

拒絶の様に、恐れの様に。……後悔の様に。

 

《……応答を終了。以降の回答を拒否する》

 

それきり〈無慈悲の女王〉はこの日、シンの呼びかけに応じなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くあぁぁ……眠…」

 

ノーマルスーツを着て、リノは思わず欠伸をしてしまう。今日は、久しぶりにシンが〈アルメ・フュリウーズ〉のテストに来て居る。何でも、〈無慈悲の女王〉と喧嘩になったそうで暫く休みを入れるとの事。それで、こっちに来たそうだが……

 

『ちょっと、訓練中に欠伸しないでよ』

「あぁ、悪い悪い……(可笑しいな……)」

 

エリノラに言われて眠気を押し殺すが、リノは違和感を感じていた。

昨日は訓練に備えて早めに寝た筈だし、そもそも実戦で寝不足なんてしてたらその瞬間仏さんになるから眠気の対する耐性もある筈なんだがな……

昨日の夕方くらいに右目が少し痛む事故もあったし、何が起こって居るんだか……

 

なんて思いながら、リノはいつも通り機関銃を持って射撃を始める。相手が相手なので眠いとか言ってられない。

 

「さぁ、一仕事と行くか……」

 

そう言い、接近してくるガンダムを狙う死神に向かって射撃を始めた。

 

 

 

 

 

暫くし、訓練が終わってガンダムを元の位置に戻そうとした時。ちょっとしたある光景を目にした。

 

それは、シンとオリヴィア大尉が楽しげに談笑して居るのを遠くから眺めるレーナ。しかし、レーナの目は困惑して居る目をしていた。

 

「(あぁ…こりゃまずい事になりそうだな……)」

 

あとで、事実を伝えに行こうとした時。突然、右目に激痛が走った。

 

「うっ?!あぁ……!!」

 

その痛みに思わずレバーの操作を誤ってガンダムトレーラーに載せるのを誤って地面に倒れてしまった。

 

『おい、大丈夫か?』

 

ガンダムが倒れ、シンから通信が入る。周りでは何事かと軍人がわらわら集まってきた。

痛みが治り、リノはレバーを手に取ると、そのまま返答をする。

 

「あぁ、問題ない。……少し操作を間違えただけさ」

 

そう言うと、リノは再びガンダムを立たせてそのまま再度ガンダムトレーラーにガンダムを載せていた。事故はあったものの怪我人もおらず、大事に至らなかった所にあとでホッとしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「アネット……」

 

部屋に戻ったレーナはそのまま同室にいたアネットに声をかけると、そのままぺたんと椅子に力無く座り込んだ。

先ほど、ガンダムが起こした事故で話題になって居ると言うのに、そんな事に気にもかけないと言う事で、大体何となく察したアネットは念のため、レーナに聞く。

 

「どうしたの?そんな顔で……」

 

すると、レーナは霊鬼の様な雰囲気を出しながら言う。

 

「シンが、盟約同盟の、オリヴィアって人と話していて。楽しそうで」

「ああ……オリヴィア大尉ね。〈アルメ・フュリウーズ〉の教官でウチに配属される盟約同盟軍切手のエースパイロットで近接特化で、未来予知の異能持ちだって言う……」

 

オリヴィアは気さくな人でしょっちゅうこのホテルにやって来てはリノ達などと楽しく会話をしていた。

 

「シンが、八六区で最初に配属された戦隊の、戦隊長さんにも似て居るらしいです。女性の」

「へぇ……」

 

あぁ、やっぱりかと思いながらアネットは問う。

 

「で?」

「どうしよう」

「何がよ」

「シン、大尉と話していて、楽しそうで」

「それは聞いたわ」

「同じエースだし、同じ近接戦が得意だし、同じ異能者だし」

「それもさっきあたしが言ったわね」

「どうしよう」

「だから、何よ」

 

レーナの顔がこの世の終わりと言わんばかりに情けなく歪む。

 

「取られちゃう……」

「…………はぁ」

 

何を今更……

アネットはため息をしたくなるのを我慢する。レーナ、貴方勘違いして居るわよ……

しかし、続いた言葉に思わず眉を吊り上げる。

 

「どうしようアネット。取られたくないの。シンと大尉が、話して居るのも一緒に居るのも嫌なの。……そんな事思っちゃいけないのに、でも、取られるのは嫌なの」

「あんた何言って居るの?思っちゃいけないって、何?」

「わたしは、私が、共和国がエイティシックスをまだ資産だなんて、もしかしたらシンの重荷になるかもしれなくて。だから私はそんな事を思う資格なくて」

「あんたは考えすぎなのよ」

「でも……」

 

そう言うレーナに、アネットは一番良い人を思い付くと、ホテルの内線を使ってある人に来てもらう様に電話した。

 

 

 

五分後

 

「はーい、エリノラお姉さんが来たわよ〜」

 

そう言って部屋にエリノラがやって来た。こう言う時は人生の先輩に聞くのに限る。




諸事情により、#30の内容を一部変更しました。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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