「ーーーそれで、そのオリヴィアって人にシンが取られるかもしれないって事?」
「はい……」
レーナの部屋でエリノラとレーナは対面で話す。部屋の扉の前ではアネットがレーナが逃げ出さない様に入り口を封じていた。
事情を把握したエリノラはレーナを見ながら優しい声で言う。
「レーナちゃん、そんな重荷とか資格とか考えすぎよ?」
「ですが、シンには…私じゃなくても、本当はいい筈で……」
「だったら、レーナちゃんでもいいんじゃない?連合王国の時のボイスレコーダー、忘れちゃったの?」
そう言い、エリノラはあの今では伝説と化し、ダイヤやリノなどの一部面々は面白がって携帯の着信音にしているあの音声。それを思い出すも、レーナは泣き出しそうになりながら言う。
「……私は共和国人で……」
同じことを何度も言うレーナに、エリノラは肩を軽く持つとエリノラの顔を見せながら言う。
「それで?シンが貴方のことを嫌いになったって誰か言ってたの?」
「……上官ですし…」
「それで?」
少なくとも、一〇代が指揮官をして居る部隊がおかしいと言う話で……これがもし普通の軍隊であれば多少の恋愛如きで問題にはならなかっただろう。
機動打撃群は現時点であちこちで恋愛関係ができて居るわけで、何ならリノに恋心を抱くが、婚約者がいると言って失恋した者もいたのだ。
「だから……」
そう言い、レーナが口を開いた瞬間。エリノラは先制して言う。
「あぁ、だからって言い訳は無しよ?あのレコードを聴いて、今更やめるの?」
「っ!!そんなつもりじゃ……!!」
ばっと顔を上げて、否定するが、エリノラはそこであえて鞭のように厳しい言葉を投げる。
「貴方が思っていなくても、同じことなの。言い訳をして逃げても、それで居なくなったら置いていったも同義!」
そう言い、その話を聞いていたアネットも同じ事を思う。選ばれたくせに…とは口が裂けても言えなかったが……
それでも少し寂しかった。アネットは幼き頃のシンに初恋の様な感情を抱いていた。しかし、シンはそれに気づくことなく戦争で別れてしまった。
「そばにいたいと言うのに、取られたくないって思うんなら。貴方はシンに対してどんなふうに思って居るの?」
「わ、私は……」
顔に出て居るから良くわかる、きっと、拒絶されたらと言う負の気持ちが頭を覆って居るのだ。シンに拒絶されたら……
一度出た負の感情は時間が経つにつれてどんどん増幅していき、最後は怖気付いてしまうものだ。自分の場合は、それが怖かったわけだからとっとと婚約の話に持って行ったのだが……どうやら、レーナはサッパリ系の恋愛感覚ではない様だった。まぁ、自分の場合は子供の時から毎日会っていたわけだから信頼がそこで出来ていたのだろうが……
「(初々しい…とっとと告ればいいのに……)」
内心ではそう思いながらも、エリノラはレーナの肩を掴んだまま忠告する様に言う。
「いい?こう言うのは早くしないと、後悔する事になるわよ?」
前に誰かから聞いたことある話を、レーナはエリノラから聞くのであった。
「失望して黙った。そんな感じじゃないの?」
「あぁ、俺もそう思う」
「それまでの挑発と違って、あれは彼女の素の感情に見えた」
ボフンと軽い音と、物が飛び交うのを視界の端に捉えながらシン、ヴィーカ、そして二人に呼ばれたリノが話す。
シンはリノに対してあることが気になっていたが、結局分からずにいた。
このホテル名物の大浴場前の柱廊広間では家具が片付けられ、広々とした空間で度々怒声が聞こえる。
「メッセージと態度を含めて、あれはこちらを試して居るんだろうけど。条件は高機動型を撃破可能な事と……〈レギオン〉を憎むこと、か?」
「思うにあれは、憎めないことが問題だったんじゃないか。ーーーと」
「あぁ、駄目だ。サッパリ意図が分からん……」
そう言うと、シンとヴィーカは飛んできた枕を避け、リノは片手で枕をキャッチする。すると、舌打ちするハルトとダイヤの声が聞こえた。
「ちぇ、失敗か……」
「不意打ち失敗〜、三人とも隙だらけだと思ったんだがなぁ……」
そう言い、二人は半分煽る様にニヤリと笑いがなら言う。
「って言うか、参加しようぜ!それとも三人ともビビってんの?」
「やろうぜ!それも派手にな!!」
その一言に、三人は何かが切れる。何気に、この三人はネームド。渾名が付けられる実力者だ。
「ーーーいいだろう、相手をしてやる」
「空かかってこい、有象無象」
「酒と煙草もやれん若造めが……」
そうして、大人気ない大乱闘が始まった。
「あーあーあー、やってんねぇ……」
レーナの背中を軽く押した後、リノを探しにきたエリノラは浴場前の広間に来る。するとそこではレーナに起こされるシンの姿や、枕を散らばらせながら倒れる様に爆睡して居る様子のリノや他の子供達がいた。レーナに起こされるシンを見ながら、後もう少しかなと思いつつ呟く。
「さて…起こしますかね」
「おや、どの様な起こし方で?」
エリノラの呟きにやって来たオリヴィア大尉が聞いてくる。レーナには言っていないが、このままの方が良さげなので、オリヴィアの重要な話をしていない。このまま勘違いをしてくれれば勢い余ってそのまま言ってくれるかもしれないと思いながらエリノラは両手を大きく広げながら言う。
「ウチの育ってきた孤児院の名物ですよ」
そう言い、アイダから教わったとっておきの目覚ましを発動する。
ダァァァァアアン!!
それはもう、レギンレイブの砲声の様な大砲の音に近い物だった。何故かあの孤児院で育った女子達にしか上手く扱えないと言う謎の技であるが、今回はその音のデカさが功を奏した。
「ぎゃぁぁぁああ!!」
「耳がぁぁあ!!」
「な、何だ?!」
砲声のような音に一斉に全員が目を覚まして何事かと大慌てになる。そりゃ、普段からよく聞く音ではあるもののこんな場所で聴くはずが無いからな。
「ん、あぁ…相変わらず心臓に悪い音だ……」
そう言い体を起こしたリノはつい寝てしまったかと軽く後悔をする。ここ最近は疲れやすいとは言え、まさか枕投げをした後に疲れてそのまま寝るとは……
「い、今のは……?」
ヴィーカを起こしに来ていたレルヒェは目を見開いて手を叩いただけで轟音を叩き出したエリノラに疑問が浮かんでいた。
暇つぶしに始めた枕投げ大会。風呂から出た後の暖かさや動いた事で全員が寝ると言う事態になっいたが、リノ達は深夜に部屋で横になって寝ている。
孤児院の頃から慣れた光景ではあるが、軍に入った後。それも、初陣後のエリノラの駄々捏ねには困った物だった。自分の手に届く範囲で行動させろと言い、最終的に情報部が折れる形でエリノラはMSに乗ることになった。
元々情報部の人がMSに乗ろうとするもんだから、正直士官学校時代に免許を取っていなかったら相当面倒なことになっていただろうと思う。
「(まぁ、それももうすぐ終わるのか……)」
リノは内心、やや申し訳なさを感じつつも必要な事だと割り切って居る。後で怒られるかも知れないが、彼女の方が圧倒的に優先である。
「(一応、書いておくか……)」
リノは寝ているエリノラを見ながら、部屋に机に座ると。ライトを付けて卓上に一枚の紙を取りだした。
翌朝
眠れないにも関わらず夜明け前の早朝に目が覚めたレーナは一人、部屋を出る。中庭の薔薇園を抜けた先に広がる銀の鏡のような湖の水面は見事に夜空を映し出していた。
見たことはないが、海とはこう言う物なのだろうか。湖の間際でそう思うレーナはぼんやりとその光景をが舐めていると、視界の端で誰かが立ち上がった。
「……レーナ?」
その声を聞き、レーナは思わず振り向く。
「シン……?こんな時間に、こんなところで何を」
「昨日、変な時間に寝たせいか、目覚めてしまって」
そう言い、シンはここに居た理由を話すと。レーナはシンの座っていた丸太椅子に一旦座り、更に真横に座り直した。
「ゼレーネは、あれからどうですか?」
レーナは話題を探して、最も良さげな話をふる。
「まだ本題には。……正直まだ手詰まりです。回答を拒否されてしまって……昨日の枕投げは。実はその解決の糸口を探していて」
「絶対嘘ですよねそれ」
思わず、レーナは突っ込んでしまうと。思わずくすくすと笑う。シンが冗談を言って自然に話せるようにしてくれたのであれば、自分もそれならと冗談を続ける。
「ファイド、連れて凝ればよかったですね。ファイドならもっと簡単に意思の疎通が出来るかも知れないじゃ無いですか。こう、ジェスチャーとかで」
「そうかも知れませんが、あいつはそろそろ我儘を言っても通る物じゃないと学ぶべきです」
そう言って、シンはひたすらに駄々を捏ねたファイドを思い出していた。
「……父が研究していたという、
試作〇〇八号と呼ばれたその機体に名前をつけたのもヴィーカやアネットによればシンなので、名前が同じなのはたまたまではないか。
シンの口調は願望に近い物ではあるが、スカベンジャーの生産工場は仮にも軍の施設だ。試作品の人工知能が紛れる余地もすべもある筈がない。だから、願望に寄り添う冗談の続きとしていた。
「それなら、ファイドのコアブロックを精査してみたらもしかしたら、本当にその子が見つかるかも知れませんね。『久しぶり』って、言ってくれるかも」
すると、シンは淡く苦笑する。
「そうだとしたら……」
「どうしました?」
「……いえ、そうだとしたら、嫌だな。と思って」
怪訝にレーナは瞬く。言って居ることが矛盾していた、今の口調からしたら、久々の友人だったらいいと感じたのではないのだろうか。
「ファイドがもし、生き残っていたなら。完成できれば、人の代わりに戦えるのでしょう。それは、俺は嫌です。たとえば今のファイドが改良すれば戦えるようになるとして、俺はそれをさせたくない。ファイドについても、俺は同じです。戦うために作られてはいけないものを、戦争の道具にはしたくない」
生きていないから、人間ではないからと、戦わせたいとは思わない。
レーナにとってのファイドは『戦死者ゼロの戦場」を実現するための道具でしかない。
しかし、シンにとっては戦場での死……幼い日の友人の死である。
「ジャガーノートと慰霊碑と一緒に、ファイドの残骸も残っていたでしょう。あれは特別偵察の最後に、俺を庇おうとして戦って壊れたんです。同じことにしたくない。あいつがまた死ぬところをーーー俺は、見たくないです」
ふと、心に蟠っていた不安が、つい出てしまった。
「……それは、ファイドじゃなくても……エイティシックスじゃなくても、ですか?」
「このところ悩んでいたのは、そのことについてですか?」
レーナは思わず硬直する。それを見てシンははっきりと苦笑する。
「言ったでしょう。話したくなったらいつでも聞くと。……大体みんな気づいていますよ。たった一人しかいない、俺たちの女王陛下の不調は」
そう言うと、黎明の闇を曙光が払う。僅かに瞬く、青い空。
その空を背景に。
「先ほどの問いですが……ええ、俺は仲間の誰にも死んでほしくはありません。誰か一人くらいかけてもいいと、思ったことはありません。かけてほしくないから、連れてきた。叶うなら、全員で最後まで進みたかった。だから貴方にも……その、いられなくなったら、困ります」
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やらなくていい