86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#54 あと一歩

「……はい。分かりました、試験結果の情報さえ回していただければ。それで構いません」

 

早朝のホテルの屋上で、リノは煙草を片手に連絡を取る。相手は、本国にいるアーノルド少将だった。

アーノルドは国防総省の一室に割り当てられた部屋で防諜の施された通信でリノと会話をしていた。

 

『君達が送ったデータの解析は完了した。おかげで、無人化の研究は大いに進んだ。来月には試作品が完成すると報告があった』

「そうですか……分かりました。ありがとうございます。では……」

 

そう言うと、リノは電話を切ると携帯をしまった。上司からの報告を聞き、リノは軽くため息をつく。

 

「ふぅ…終わったか……」

 

そう呟くと、リノは朝食が終わるまで煙草を吸うのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

早朝に、シンと話したレーナは朝食の場でアネットに覚悟を決めたことを明かし。背中を叩かれた後、オリヴィア大尉はホテルにやってきてある提案を持ちかけた。

 

「君たちも退屈して居るだろう?どうだ、地下探検に興味はないかね?」

 

と言うわけで、レーナ達はオリヴィアの提案で盟約同盟の観光名所に訪れることとなった。

 

 

 

 

 

「我らが霊峰、ヴルムネスト山。そして連合王国の天険、竜骸山脈。この二つ名の由来が実は同じだ」

 

自然の洞窟とは違う、それでも機械で掘られたような跡でもない。まるで胎内のような岩壁と床面と天井のその道を、かつかつと軍靴を鳴らしてオリヴィアかは歩く。ヴルムネスト山の中腹にある岩の洞窟。そこには体力盛りの少年少女が列を成しても余裕の広さがあった。

 

「かつて、原生陸獣が最後に逃げ込み、竜骸山脈ではその全てが一角獣の王家に狩り尽くされた。ゆえに竜骸山脈。ーーヴルムネスト山もそれは同じだ。最後の爬竜のその棲家だ。その生き残りがいると、そんな言い伝えもある」

 

踵を鳴らして振り返る。その体躯には似合わない異様に広い岩のドーム。

玄関広間と言われて居るこの場所は本当に何のためだったのだろうか?今となっては何もわからないが……

 

「この地下大迷宮は、本当に彼らが残したものだ。探検したまえよ君たち。もしかしたら、まだいるかも知れないからな」

 

 

 

 

「ーーー水を差すようだけど、流石に無理ないか?何千年前の話なんだ、そもそも」

「そう言うイベントなだけでしょ。これはこれで楽しいわ」

 

そう言い、ダスティンの腕を引っ張りながら列から離れていく。彼はこの舞台に初めてきた頃にアンジェに告白をしようとしたがダイヤと言う先客がいたために失恋し、今はアンジェとは友人とも言えないが、話をよくする仲ではあった。

そんなアンジェを見てやや嫉妬を抱きながらダイヤも其のあとを付いていく。

 

「待てやダスティン、この野郎!!」

 

そう言ってダイヤ達が消えていったのを境に、どんどん列から二人組が抜けていく。何をするべきなのか、皆理解したのだ。自分たちの死神を女王へ配慮して……

 

「ユート、一本外れた先に滝があるらしいぞ」

「行ってみる。……ミチヒ、行くか」

「はいです」

 

そう言って列から離れると、アンジェは体の陰でこっそり親指を立てる。

そして列を離れ、曲がり角を曲ったところで三人は立ち止まった。

 

「ナイスフォローだぜ、ダスティン」

「あぁ、よかった……ただあの二人。ぎこちないけど大丈夫なのか?」

「今度はレーナがなんだか、様子が変だったけど。……流石に何から何まで全部やるってのは、野暮じゃないわね」

 

そう言い、アンジェはもどかしげに唇を尖らせていた。

 

「まっ、なんとかなるだろう。あの二人ならよ」

「ええ、特にシンくんは少しくらい過保護にしてあげたいくらいには」

 

そう言っていると、遠くからリノが手招きして三人を呼んでいた。

 

 

 

 

 

流石ら観光名所の大迷宮。あえて明かりを減らし、異様に入り組んだ道。異様に滑らかな壁には玉髄が混じって不思議に透明であった。分岐のたびに地図を確認しながら歩いていた。この道のおかげでふと自分がどこにいるか分からなくなる非日常があった。

進むうちに周りにいはずの仲間達は消えており、気づけばレーナとシンだけとなっていた。

 

「……?みんな、一体どこへ」

「面白そうだからと脇道を逸れたり、リノの提案で化石を見に行って居るみたいですが。……流石にわざとらしいなと」

 

しかし、きょとんとなるレーナにシンは何でも無いと首を振った。

 

「もう少し先が玉座のドームで。原生陸獣の完全骨格の化石が見られるようです。そこまで行ったら戻りましょうか」

「そうですね……あまり遅くなってもいけませんし。何だか、出られなくなりそうです」

 

そう言い、狭い岩肌が剥き出しの通路を見てレーナは思わず肩をすくめる。それを見て、シンは片手を差し出した。

 

「足元、暗くて危ないので」

「あ……。ありがとうございます」

 

レーナはありがたく手を繋いでもらうと、先導するように半歩先の彼をおった。

レーナはそんなシンを見て、緊張してしまい。其の感覚をわかって欲しいと思うから、自然と其の言葉は漏れた。

 

「あの……このところ、すみませんでした。心配をかけてしまって」

 

いつの間にか、たどり着いたのは玉座のドームだった。先ほど、化石を見に行ったと言っていたが、いないじゃ無いかと不思議に思ってしまった。

しかしそこは、見上げて居ると魂が吸い上げられそうな、荘厳なものであり。其の奥の壁一枚の、それが生き物とは思えないほど巨大な白骨の眼窩が玉座の王のように、古代の神殿の暴神のように、息詰まる厳粛で見下ろしていた。

振り返る赤目に思わず繋いだままの手を強く握りしめる。

 

「でも、……嬉しかったんです。心配してもらえたの。嬉しかったです。だって、」

 

見下ろす紅い瞳。そこに写って居る自分が、こんなにも嬉しい。

 

「私は……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

……と言う二人を。

 

「おやおや」

「期待以上の成果だね」

「いい雰囲気だな」

 

別の通路から、こっそりを顔を覗かせるリノとエリノラとカイエは口々に言う。他の出入り口からはダイヤ達が眺めており、二人の成り行きを温かく見守っていた。

 

「さすがは経験者、いいやり方じゃないの?」

「ふぅ、とりあえずここでの大仕事は終わりでいいかな?」

「あぁ、そうだな」

 

リノは二人の様子から見て、こちらの気配に気づいて居るかも知れないが、シンよりも問題なレーナに注視していた。アネットからの垂れ込みで、レーナが腹を括ったと知り、このタイミングだと言って前からオリヴィア大尉にお願いしていた二人を告白させる作戦を発動した。

事情を把握した周りの面々が協力してくれて、あと一歩といった具合であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

レーナはどうやら悩みを解決できたようだ。それまでは言うまいと思っていた想いを、ここで言っても良いだろう。薄く暗さを口実に、手を繋いで……

其の勢いで言ってしまうかと思っていたが、らしくなく緊張してしまい。シンは言葉を塞がれていた。

 

自分と同じ石鹸の匂いが、薄暗さで他の感覚が研ぎ澄まされて居るおかげか、よく石鹸の匂いが匂う。足音を殺して歩く癖のおかげで、絹の鳴るような長い銀髪が擦れる音が耳につく。

 

 

繋いだ華奢な手が、今日に限って自分よりも熱かった。

 

 

目的地の玉座の間で言おう。

 

 

そう決めていたのに……逃げて居るのがわかって居るが、自分の鼓動が激しく、頭でどうにか決意を立て直す。

けれど、其の前に呼びかけられて、自分は動けなくなってしまった。

 

「だって、私は……」

 

見上げる白い瞳。

そこに自分しか映っていないのが、嬉しいと思った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……あれ?ダスティンは?」

 

ふと、隠れていたアネットが気づく。

 

「ねぇ、アンジュ。ダスティンどこ行ったの?一緒じゃなかった?」

 

言われてアンジュとダイヤは唇を引き結ぶ。

 

「ちょっと、探検に夢中になっちまってよ……」

「はぐれちゃった……」

 

そう言い、アネットは途端に嫌な予感が走った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一度こぼれて仕舞えば、後は崩壊したダムの如く言葉が溢れる。

 

「シン、私は……」

 

あなたのことが。

 

 

 

 

 

其の時。

 

ガタッ

 

と、大きな石を倒したような音が空気を読まずに飛び込んだ。

 

「ひゃっ!?」

 

レーナは思わず飛び退く。流石にシンも驚き、わずかに身を引いた。

二人は姿勢を崩さずに、音のした方を見る。この玉座の間に続くいくつかの道の一つ。

 

「……誰か、居るんですか?」

 

まぁ、何をどう間違えても伝説のナントカがいるわけではない。

物陰にいる誰かは誤魔化そうかと頭を回転させた後。結局そろりと、姿を現した。

 

銀髪の、長身の、意味もなくホールドアップした……

 

「すまない、俺です」

 

ダスティン。

 

「……」

 

思わず無言で二人は見返してしまう。

レーナですら、見開いて感情のない白銀の目で見つめる。思わずダスティンはたじろいでしまい、不意を突かれた生き物の本能からか、硬直してしまっていた。

 

「ええと、あの……………………………………気にせず続け、」

 

そう言った瞬間、薄暗い影から無数の手が伸び、一瞬でダスティンは消えてしまった。

 

「……」

 

だからと言って、続けるほど。レーナは図太くないし、シンも流せるほど鈍くなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!」

 

灯りの届かない、細い通路でリノが鬼の形相で殴りかかろうとするのをライデン達が必死に止める。視線の先には複数の人間に叱られているダスティンの姿があった。

 

「ダスティン!お前なぁ!!」

「今ものすごい良い雰囲気だったのにさぁ!」

「ぶち壊しにしてんじゃねーの!空気読んで出んなよ!!」

「イェーガー!貴様馬鹿なのか!何が気にせず続けろだこの不調和者が!!」

 

あのヴィーカですら貴様と言うほど、キレ気味であった。それどころか、リノは完全にダスティンを殺る気満々であった。

助けをアンジュに乞うダスティンであったが、彼女もまた怒りに満ちた笑顔を向けていた。

 

「…………………………………………すまない」

 

今、彼にできることはこれしかなかった。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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