86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#58 一夜の夢

レーナを気遣って出て行ったシンを見送り、踊りを終えたリノ達にライデンが声をかける。

 

「お疲れさん」

「あぁ……全く、いいご身分だよ。とっとと告ればいいのによ」

「いや、無理でしょう」

「ええそうね、少なくともこんな公衆の面前で告白できる度胸があると思う?」

 

そう言い、セオとアネットが話に割り込んできた。

 

「おや、珍しい組み合わせね」

 

エリノラがそう呟くと、二人はこうなった訳を話す。

 

「いやなんか、適当にペア組んでたらあぶれちゃってね」

「壁の花決め込んでるのも、今日はつまらないでしょ」

 

そう言い、五人は話にやや盛り上がっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ボールルームからつながって居る石造りのテラスはそこだけでもちょっとした集まりができそうなほど、開けていた。

標高が高い位置にあるお陰で、夏でも涼しい夜風が吹く。

ここはダンスや酒でのぼせた客が体を冷やす為のテラスだ。金属製の蔦の蔓を編み上げたような細工のベンチがいくつか置かれ、湖と夜空で視界が二分される。

 

「……すみません。ちょっと、落ち着いてきました」

 

渡された冷え切ったアルコールの弱いシードルを飲み干してレーナは息を吐く。

よりにもよって真の前で失態を犯してしまった。

 

「少し、疲れが出たのでは。休暇とはいえ、遊ぶにも体力を使いますから」

「それもあるかもしれないですけど……」

 

それ以上に。

隣に、あなたが居るから。

あなたの前ではちゃんとしていたかった。

それで緊張して。

ああ、そうだ。

 

「すみません」

「今度は何に対してです?」

「その……私に付き合わせてしまって……もっと話したい人とかいたでしょう?」

「ああ」

 

どこかどうでも良さそうに相槌を打って、シンもグラスを飲み干す。

 

「構いません。パーティーといっても同じ部隊ですし、今日でなくても話せる相手ばかりですし」

 

すると、初老の給士は長年の経験から影のように二人から空になったグラスを回収して消えていく。

 

 

 

「……今日は、本当はあなた以外の誰かと居たくありませんでしたから」

「え」

 

顔を上げた其の瞬間。

テラスの向こうの、湖の上。

鏡のように凪いだ水面の、漣の影で何かが光る。ーーー船だ、何かの小船から光の尾を引いて天頂へと向かう。

甲高い、笛のような風切り音。

 

やや見上げた先で夜空にドン、と響く音響で焔の花が綻んだ。

見上げたまま惹かれるようにレーナは立ち上がる。

今のは。

 

「ーーー花火」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ガラスの天蓋を其のひととき。色彩の乱舞が白く染める。

天領で弾けた焔の光の輪。其の強い光に踊りが止まる。少し遅れて腹に轟く音。

それは、常日頃から聞く砲声ではなく。黒色火薬の砕けた星のような、瞬きする合間に消える火の粉。

新月の夜に咲く焔の、其の華麗とか儚さ。

誰もが見上げ、伸び上がる焔の花が二度三度。

 

「……花火?」

 

誰かが呟く。

 

「花火だ」

「久しぶりに見た。ていうか、」

「十年ぶり、とかだよな。うわぁ……」

 

すると、このホテルの支配人が奥の階段からマイクを片手に声を張る。

 

「ギアーデ連邦、第八六機動打撃群の、エイティシックスの皆様!」

 

まだまだ余裕のある会場で、声は響き渡る。

 

「楽しい宴の其の最後に、当ホテルからの心尽くしでございます。ーーどうぞ、お楽しみを!」

 

大気を鳴らし、なおも続く花火の下。楽団が賑やかに演奏を始めた。

 

 

 

 

 

「……花火か」

「久しぶりだ」

 

会場の中、花火を見ながらリノとライデン。セオとクレナ、エリノラは呟く。

 

「前もちょうど、この頃だったよね」

「もう、二年も前の話か……」

「あの時はもうちょっと居たっけ」

 

思い出すは二年前の、あの廃墟となったサッカー場でやった花火大会。一番印象に残って居るのは、ダイヤがアンジュに告白をした事。

それから、初めてMSの肩に乗って遠くを眺めた事だろうか。

あの時はリノ達の出来る最大限の特別だったが……

 

「あれがみんな最後になるって……あの時は思ってたのにね」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

思えば、それは一夜の夢であった。

兄と同じ兵科の友人だと言って紹介してきた人が居た。彼の名前はリノと言っていた。

顔を合わせた時、俗に言う一目惚れを私はしていた。彼はその名前の由来のように、私には神々しく太陽のように見えた。その後も何度か会って居るうちに相手もこっちの気持ちに気づいてくれた。しかし、相手は戦闘属猟兵。貴族の相手には相応しくなく、結婚なんて無理に等しかった。兄もその事に気づいて気遣ってくれたが、出来ない物はできなかった。この時ほど、身分と言うものを恨んだことは無かった。

相手が相手だから母は絶対に結婚を認めない。しかし、自分はあの人と共に居たかった。

 

 

 

だから、一回限りの賭けに出た。

 

 

 

彼が戦地に赴く前夜、一度きりの関係を持った。向こうもそれを分かって再度聞いたが、決意は変わらなかった。本来であれば許されざる行為、バレれば家を追い出されても仕方がなかった。

だけど、それでも私は望んだ。その人と一夜を過ごした。

 

 

 

 

 

そして私はその賭けに勝った。

 

 

 

 

 

その後はあらかじめ隠蔽する為に私は合州国に留学と称して国を出た。監視の目など簡単に振り切れる自信があり、実際振り切れた。そして私は数ヶ月身を隠した。そしてそこで身分を偽って合州国の病院であの人との子を産んだ。それがとても嬉しかった。しかし、戦地で兄と同じタイミングであの人も失ってしまった。それも、友軍の誤爆で……

妊娠したとこっそり伝えた時は心底喜んでくれていた、あの笑顔も見る事は叶わなかった。

 

恐らくは誰も知ることの無い、今は自分だけの知る秘密。

 

今後、誰にも明かすことはないだろうこの秘密を、私はこのまま隠し通したかった。しかし、苦労して産んだ我が子を育てる事は無理だった。

自分の優秀さゆえに、帝国が手放す訳が無かったのだ。帝国の追跡が目前まで迫った時。私は雨の中、目の間に会った教会にその子を置いた。名前は、父親と同じリノと名付けて……

 

私は親のとしての責務を放棄した。この子を守る為に。

 

恐らく二度と会う事はないだろうと思っていた。何故なら、自分は二度と合州国に行くことはないからだ。別れ際、自分はリノと名付けた子供の髪の毛を刈り取り、それが最後の餞別と思って教会の前にその子を置いて行った。

泣きもせず、ただ呆然と空を眺めていた子供に背を向けて、私は去って行った。

 

 

 

 

 

しかし、私が帝国に帰ってから事態は変わってしまった。

帝国の諸外国への侵略に対し、合州国、共和国、連合王国が共同で帝国包囲網を引いた。それに対し、帝国は私が人を守る為に作ったレギオンを使ってやると意気込んでいた。

それに危機感を感じ、私は咄嗟にリノの事を思い返していた。親の資格を捨てたはずなのに、未練がましく息子の事を考えてしまっていたのだ。否定しようにも否定できなかった。腹を痛めて体に危険を犯してまで産んだ我が子を完全に割り切れなかったのだ。

 

 

 

その意思の強さ故か、〈レギオン〉となった私は初めは合州国戦線の指揮官機として送られた。

故に、初めの頃……ノゥ・フェイスが来るまで私は毎日あの髪と目をした人物が犠牲にはなっていないかとヒヤヒヤしていた。そこに後悔の念も持ちながら……

 

 

 

 

そして、戦争が始まって少し経った頃。今からは五年くらい前に、とある合州国のモビルスーツ部隊を補足した。

八機の旧式機や新鋭機などが入り混じった混成部隊だ。あの中に少年がいない事を祈りつつ、〈レギオン〉の本能に従って部隊を送る。何せ、新型は重戦車型の一五五ミリ砲ですら正面では貫通出来ない化け物だ。だから引き摺り出して、関節を撃った後に背中の機関部を撃つしか撃破する方法はなかった。

〈レギオン〉お得意の物量に物を言わせた作戦だ。そして、次々と七機のMSが爆発していく中、一機のジムが果敢に奮戦をしていた。四個機甲師団が一機の旧式MSによって撃破された事を受け、統括ネットワークは指揮官機としての頭脳を手に入れる為に鹵獲が推奨された。

 

そしてその命令に従ってジムを重戦車型の零距離砲撃で倒した後。中の搭乗員の鹵獲をする為に高周波ブレードを当てて溶断していた。時間は掛かったが、コックピットハッチを開けた瞬間。光学センサに向かって銃撃が飛ぶ。目の前の合州国のパイロットは右目が潰れ、右腕も負傷して居るのにも関わらず、残った腕で最低限の武装である拳銃を撃っていた。

その心意気には敬服すると思いながら、鹵獲しようとしてはみ出たドックタグを見た時、私は固まった。

 

リノ・フリッツ

 

同じ名前の人名なんてそうそういない。だが、万が一があるかもしれない。だからよく顔を見た時、確信した。間違いないと……

 

 

 

なんと言う天文学的確率を引き当てたのだろうと思っていた。しかし、彼の右目を潰したのは自分。途端に後悔が襲いかかったが、その時また。自分がかつて行っていた実験を思い出した。その実験は確立した訳ではなかったが、合州国軍の増援が迫って居る中。考える暇はなかった。

潰れた右目のガラス片を取り、その傷跡に装甲の隙間から垂らした流体マイクロマシンを流し込む。後は、流し込んだ流体マイクロマシンを視神経と接続させる。出来る事はやった。後は、見守るしかない。

そう思い、私は合州国軍から逃げる為に撤退をして行った。

 

 

 

 

 

それからの経過は、はっきり言えば成功したと言うべきだろう。再生医療としていけるのではないかと言われていた流体マイクロマシンの技術は思わぬ副産物も産んだが……

それは、自分が意識をすればその流し込んだ流体マイクロマシンと接続出来ると言う物だった。原理はさっぱり不明で、合州国で確認されていたニュータイプとか言う異能者もどきと何か関連がとも思って居るが、さっぱりだ。

接続した流体マイクロマシンの映像はデータに記録されることも無く、自分のログにも残らない。完全に通信が遮断された状態でもその映像は見ることができた。

ただ眺めることしか出来ないが、息子と同じ目線で見ることが出来た。但し、長くは接続できない上に向こうが寝て居ると見えないと言う欠点があるが……

 

 

 

もしかすると気づいて居るかもしれない。バーレイグ…いや、シンエイ・ノウゼンは…あの驚異的な戦闘力を持つ、自分達にとっての銀の矢は……

 

レギオンですら無くなりつつある、自分たちの上の存在を止められることができるかもしれない彼ならば……

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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