86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#6 呆れ

セオがレーナを罵倒している途中、エリノアは湿原からカイエの機体を引っ張っていた。

 

「〈キルシュブリューテ〉、無事?」

『あ…ああ、何とかな。イテテ……』

「怪我はないですか?」

『ああ、椅子が硬くて腰が痛いくらいかな』

「なら大丈夫そうですね。さ、引き上げます。揺れるので気をつけて下さい」

 

そう言うとエリノアは湿原の〈ジャガーノート〉の足を持ってそれを引っ張った。

 

ガコンッ

 

引き上げられた〈ジャガーノート〉はそのまま陸地に挙げられるとエリノアは〈ジャガーノート〉の状態を確認した。

 

「右前脚が欠損していますね……」

 

『そうか…じゃあ、歩けないって事か……』

 

カイエはどうしたものかと思っていた。ファイドにお願いしてもおそらく時間はかかるだろう。

するとカイエの機体をエリノアが抱えるように持った。

 

『うおっ!』

「頭ぶつけないで下さい。揺れますから」

 

そう言い、エリノアは両手で〈ジャガーノート〉を持って歩き始めた。

カイエはジャガーノートを軽々と持った〈キャノンガンDX〉に興味津々だった。

 

『すごいな、ジャガーノートを軽々と……』

「合州国だと戦闘後の瓦礫の除去作業とかにモビルスーツが駆り出されたりとか結構あるから。これより重いものなんか結構ザラだよ」

『そんな事もあるんだな……』

 

エリノラの話にカイエは面白そうに聞いていた。

 

「今日はカイエのことでセオが少佐と大喧嘩して大変ね」

『ああ、知覚同調越しに聞いていた。まぁ、セオも色々思う事はあったんだろうな』

 

カイエとそんな話をしているとリノのジェガンが見えてきた。

 

『〈グリズリー〉、遅いぞ』

「ごめんごめん、〈キルシュブリューテ〉の機体の足が取れて歩けなくなっていたんだ」

『あー、なるほど』

『うぇ!カ、カイエがMSに乗ってる〜!!』

『え!まじかよ!』

『ズル!私にも乗らせてよ!』

 

そんな声が聞こえ、笑い声が聞こえる中。セオだけが何も喋らず、ただダンマリとしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

戦場にいる兵士において食事というのは数少ない娯楽の時間である。兵士の士気や生命にも関わってくる為、食事に関しては常に最善の注意が払われ、味も重要である。

 

「なんだこれ?」

 

その日、リノはダイヤに呼び出されて銀袋に包まれた何かを貰った。

 

「ウチの戦闘糧食。リノの持ってる奴と交換してくれよ」

 

ジェガンの中には偵察任務の時に大量に食料を積んでいた為。時々食べているのをダイヤは見ていたそうで、ダイヤが共和国の戦闘糧食を渡して交換をお願いしにきていた。

 

「……」スンスン

 

「おい!別に変な物じゃねえぞ!」

 

「ふーん、そうか……」

 

リノは共和国の戦闘糧食というものにも興味は有った。だから快く交換の申し入れをうけいれた。

するとダイヤはよっぽど嬉しかったのかガッツポーズをしてリノからパッケージに入れられた黄色い液体の入った戦闘糧食を手に入れていた。

 

「ほい、これと交換でいいか?」

「おう!サンキュー!」

 

ダイヤは受け取った戦闘糧食を持って宿舎へと戻っていった。

リノは交換した共和国製戦闘糧食を見て袋を開けて中身を見た。

 

「チョコバウムみたいだな」

 

黒焦げた乾パンのようにも見えるが……

ともかく、賞味期限内であることに間違いはなかったのでリノは交換した戦闘糧食を一口食べた。

 

「……」

 

一口齧り、それを口の中の歯で噛み砕き味を感じる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

戦闘糧食の交換をしたダイヤはホクホクした様子で戦闘糧食を飲んでいた。

 

「お?何だよそれ」

 

そこにハルトがダイヤが飲んでいるものを見て聞いてきた。聞かれたダイヤは自信有り気にハルトに見せた。

 

「リノと交換した戦闘糧食。プラスチック爆薬と交換してもらったぞ」

「うわ、あれと交換かよー。よく少佐が許可したな」

 

ハルトは羨ましそうにダイヤの持つ糧食を見ていた。

 

「……一口貰っていいか?」

「え!お前そんな趣味が……!!」

「馬鹿か!その味が気になるんだよ!」

 

ダイヤの想像にハルトが突っ込んだ。そして少々の喧嘩の後、結局ハルトが糧食を口をつけない様に慎重に飲んでいた。

 

「これ美味い!」

「だろ?これが戦闘糧食だってよ」

 

レモンの酸味と塩のしょっぱさがうまい具合で合わさり、絶妙なテイストを生んでいた。

そして、共和国のプラスチック爆薬と称される戦闘糧食と比べてダイヤ達はため息をついていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……(不味い)」

 

俺は不味そうな顔をしていた。そして片手には一口だけ齧った茶色い棒状のものがあった。それは共和国製の戦闘糧食であり、食べた感想は不味いの一言であった。

どうもこの戦闘糧食、彼らからはプラスチック爆薬と呼ばれる物らしい。ちょうど歩いていたレッカがそう教えてくれた。

何も知らずに交換を要求してきたダイヤには後でお返しをしなければならないと決意をしていた。

 

 

 

後に彼の手記には殴り書きでこのようなものが残されていた。

 

 

 

『アレはまさに食への冒涜であった

 

タンパク質や栄養分を適当に入れて混ぜ込んだ共和国の戦闘糧食はまさに豚への餌だったであろう

 

前線でこれが出回ると兵士の食欲が一気に失せた時点で味はお察し頂きたい』

 

 

 

尚この商品は合州国で《マカノッチー》と言う名前で前線兵士から敬遠され、焚き火の燃料として使われるのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

エリノラは珍しく〈キャノンガンDX〉のコックピットで知覚同調で連絡をしてきたレーナと通信をしていた。

 

「ーーーーなるほど、少佐殿は彼等とどうすればいいか聞きたいと?」

『はい……私が余計な事を言ったばかりに……』

 

年上の女性という事でレーナはエリノラに昨日の戦闘後の一件で思っていたよりも大きい衝撃を受けていた様だった。

そんな彼女の相談を受けてエリノラはレーナにアドバイスをした。

 

「昨日のことは〈ラフィングフォックス〉も随分思う事があったと思う。だけどそれは今までの共和国の白系種が行ってきた行動が理由よ。それが全部を表している」

『っ……』

 

レーナは思わず唇を強く噛んでいた。エリノラの指摘は間違っておらず、何も答えられない事に不甲斐なさを感じていた。

 

「だったら行動で示せばいい。少なくとも少佐殿は彼らに歩み寄ろうとしている。それは良い事だと思う」

 

そしてエリノラはレーナにこう言った。

 

「だからミリーゼ少佐。こういう時は正面から行く事をお勧めする」

『正面……ですか?』

 

レーナの疑問に

 

「そう、全員と知覚同調を接続して。そうね……まずは彼らの本名を聞くと良いだろうね」

『名前…ですか……』

「号持ちではなく、本名をね。……そしたら色々と見方が変わってくるかも知れないわね」

『そうですか……色々と聞いてくれてありがとうございます』

「そう、まあ少なくともあなたの様なお人好しに指揮官というものはあまり向いていない気もするがな」

『それでも、私は指揮官を続けるつもりです』

「フッ、貴方も大概お馬鹿さんね。そうね、副隊長としてアドバイスをしておくわ。

 

 

 

 

 

指揮官で居るのなら、指揮官としての覚悟を持ちなさい。その覚悟がなければ貴方はレギオンの大波に飲まれてしまうわ」

『……よく覚えておきます』

 

エリノラの最後の言葉をレーナは心に書き留めるとそのまま通信をアンダーテイカーに切り替えた。

エリノラは〈ジェガン〉の全方位ホログラムから入ってくる映像を見ながら広い森と平原を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

明かりが消され。プロジェクターの電源が入り、暗い部屋の壁に白い光が映る。

 

白い壁紙に、長机。

長机には二〇人ほどの青い共和国軍の制服を来た男女が椅子に太々しく座り、プロジェクターの映像を見ていた。

プロジェクターの横では細い棒を持った同じ共和国軍の制服を着た男が映し出される映像に棒を当てていた。

 

「こちらが、共和国領内で見つかった合州国の戦闘機械です」

 

男が映したのは倉庫の一角に鎮座している二機のロボットであった。

 

「補給した者の話によれば。これは合州国が開発した人型機動兵器〈モビルスーツ〉と呼ばれる兵器で、合州国陸軍の制式装備との事だそうです。おそらくは一年戦争時に製作された兵器の進化系でしょう」

「「「おぉ……」」」

 

会議室内に響めきが広がり、興味深そうにモビルスーツとやらを見ている。

欲望のままにモビルスーツを見るその目は気持ち悪いの一言で済ませられなさそうだった。

すると進行役の男が映像を切り替えて別方向からの写真を見せた。

 

「このモビルスーツは合州国の有色種によって操縦されている様で、使っている弾薬は100mmと報告が上がっております」

「100mm……」

「合州国規格の弾薬か……」

 

会議室の軍人は紙に書かれた資料を基にモビルスーツの推定性能値を見ていた。

その中にはジェローム・カールシュタール准将の姿もあった。

全員がモビルスーツの映像を見ていると一人が声を上げた。

 

「資料によればこれは有色種が乗り込んでいると聞くが?」

 

この問いに進行役の男は間を置いて頷いた。

 

「……そうです。名前はリノ・フリッツとエリノラ・マクマという有色種です」

「ふん、合州国の豚どもが操縦か……」

 

面白くなさそうにモビルスーツを見ている少し太った士官は資料を机に置き、情報を聞いた。

 

「政府の見解はどうなっている」

「概ね我々と同じ意見です」

「そうか……」

「そのため、計画も予定より早めに進みそうかと……」

「了解した。準備が出来次第始めろ」

「ハッ!」

「では会議はこれにて終了する。各自解散して持ち場に戻る様」

 

そうして士官が続々と部屋を出ていく中、カールシュタール准将は資料を見て内心呆れてしまっていた。

 

「(今の共和国は合州国風に言えば『土台の腐った納屋』と言った所か……こんな計画が承認されようとしているのだから……)」

 

カールシュタールは資料に記された計画書を見てため息を吐いた。

 

『モビルスーツ鹵獲計画』

 

単純にそれだけが記された紙には計画に際して必要な物資、期間、概要が書かれていた。

カールシュタールはこの国を憐れんだ。もう五色旗の栄光は何処にもない。

只々汚い大人が他国の兵器に僻み、奪おうとするだけの我儘の様な計画であるからだ。

カールシュタールは一人なった会議室を出るとそのまま執務室に向かい、紙を机の上に置いたまま仕事をしていた。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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