#60 軍人の職責
「ねえ、どう言うつもり?」
同盟から帰国する前、ホテルのロータリーでエリノラが紙を片手にリノに詰め寄る。
周りでは連邦に帰る為に準備を進めるエイティシックスの姿があり、喧騒がロビーを包んでいた。
盛大なパーティーをした翌日。エリノラは憤慨した様子でリノと面向かっていた。
「如何にもこうにも、そう言う命令なんだから仕方ないだろう……」
「惚けないで」
いつになく刃物のような鋭利な眼差しで問い詰めるエリノラに、リノは彼女の肩に手を置く。
「俺たちは軍人だ。上からの命令には逆らえない。お前はやり過ぎだから上の堪忍袋の尾が切れたんだよ」
「……」
怪しむ目で、リノを見て居るエリノラはその紙に書かれていた命令書を再び読む。今朝、部屋で準備をしていたエリノラの元に届いたものであった。
『異動命令:エリノラ・マクマ大尉は盟約同盟での休暇を終えた後。国防総省情報部に移動を命ずる』
端的に書かれ、正式な書類である証も記されたその紙を見て、エリノラは再度リノに問う。
「手廻ししたのは、貴方なの?」
「…さあな、少なくとも。俺に
「っ…!!」
リノの言葉にエリノラは目を見開いて驚いた様子を見せ、動揺していた。そんな彼女を見て、リノは何処か優しげのある目で言う。
「分かったなら、命令通りに動いてくれ……頼む、自分の体を労ってくれ。俺の心配事を増やさないでくれ」
それは強制でも何でもなく、リノ自身の心から出てくる心情であった。
しばしの間が流れ、エリノラはそっと目を伏せて紙をしまう。すると、リノ懐から一枚の紙を取り出す。
「俺から渡せる物だ。後は、お前の許可さえあれば……」
そう言い、渡した紙を見ると、エリノラは思わず聞く。
「これ…貴方が軍を辞めてからじゃなかったの……?」
そう言い、渡された紙にはリノのサインがすでにされていた。それは、婚姻届であった。
「エリノラがサインすれば、そのまま通るようになっている」
「でも……」
「これが、今の俺にできる最大限の事だ」
そう言うと、リノは常につけて居る婚約指輪をエリノラに渡す。
「後で必ずこれを取りに行く。だから、お前は待っていてくれ」
「……五年前のようにならない?」
「それはどうだろうな」
エリノラはやや不満げな表情を浮かべつつも、リノを信用して婚約指輪を預かる。
「必ず戻ってきなさいよ」
「分かっているよ。俺は今まで死んでねぇんだから」
そう言うと、リノはエリノラを迎えに来た車に乗せ。見送るのであった。
それから、ハミングバードを連れて連邦に戻ったリノはメンテナンスを終えた各機体を見ながら、久しぶりに再開したクラウ達と合流する。
「それで?エラは本国に帰ったと……」
「ああ」
リュストカマー基地に戻り、目の前で整備を受けているハミングバードを見ながらリノは頷く。
「長官直々の命令書だ。断れんよ」
「あんたが仕組んだ事でしょうに……」
そう言い、呆れた様子で軽くため息を吐く。そして、リノに聞く。
「で、本当のところは?」
「ん?」
すると、クラウはやや怪訝な目で言う。
「舐めんじゃないよ。エラに甘いあんたが、なんで今回はここまで彼女に厳しいのか」
「あぁ、そう言うね……」
「……何があったの?ご丁寧に指輪まで外して…」
そう言い、つるんとなった左手を見ながら言うと。リノはやや遠い目をしていた。
それは、リノ自身も驚きつつ分かっていたような目をしていた。それを見て、クラウは思わず目を見開く。
「…っ!!まさか……」
「あぁ、さすがは元諜報員だ。徹底的に隠していたから追跡は大変だった……」
「……流石は相思相愛なだけあるわね」
そう言い、恐らく幼い頃から過ごしてきた経験が生きて居ると感じつつも、エリノラを後方に送った理由に納得する。
「じゃあ、アンタも後方に異動しなさいよ」
「それは無理だ」
「……置いて行くかもしれないのに?」
そう言い、クラウは厳しい目をリノに向ける。しかし、リノはそんな目線を気にする素振りもせずにガンダムを眺めながら言う。
「その為に俺は、彼奴に新しい約束をした。前の約束を破ったがな……」
「何?」
言い草から、婚姻届でも渡したかと思いながらクラウは聞く。
「預けた物を取りに行くと……」
そう言うと、クラウは納得しつつも不満そうにリノを見る。
「だったら…せいぜい生き残りなさいよ。死んだ時、私は何も彼女にしてあげられないわよ」
そう言い、クラウは振り向いて格納庫を出ようとした時。リノはガンダムを見たまま言う。
「死んだらその時は宜しく頼むよ……」
思わずクラウは振り返ってリノを凝視してしまう。しかし、彼はガンダムを見たまま動かない。それを見て、クラウはあり得ないと否定しつつ去り際に言い残す。
「嘘つき野郎は嫌われるぞ」
そう言ってクラウは格納庫を出て行く。その途中、クラウは内心決意する。
「(彼奴がその気になったらイチモツ蹴っ飛ばしてでも連れ帰ってやる)」
同時刻
リュストカマー基地 演習場
連邦の西部戦線の主戦場である、森林と市街を忠実に再現して設営された演習場で、金属の骨組みだけのビルディングが第一機甲グループの次の戦場の再現だ。
〈ジャガーノート〉の全幅ギリギリの鋼鉄の梁と柱。幾何学的なパターンで整然と組み合わされ、縦横に走るそれらを蹴って二機の多脚機甲兵器が疾走する。
パーソナルマークはシャベルを担いだ首のない骸骨と、交差するマスケット銃。シンの駆る〈アンダーテイカー〉と同盟から訓練教官として派遣されたオリヴィアの〈アンナマリア〉だ。互いに有利な位置を奪い合い、相手の得手を潰しあって、ともに高機動戦用に開発された機体をその性能諸元の限界まで振り回して目まぐるしく戦闘は進む。
実戦に勝る訓練はないと言うが、練度を維持するにはやはり適切な訓練と教育が不可欠だ。
今回の演習相手は厄介だ。以前、シミュレーション上では倒したが、やはりコンピュータはコンピュータ。実戦とは違う部分もやはりあった。
「少しーーーいえ、大部卑怯な気はしますが、」
演習が終わり、オリヴィアの敗北で終わった演習。次の者に演習場を渡すと、デフリーフィングの為に設営されたテントでシンは言う。
「ようやく出し抜けましたね。大尉の異能」
「実戦で同じ手を使われていたら死んでいたところだ。敵が生きて居るのに手を止める油断を、演習でしれてよかったがーーー」
オリヴィアの持つ未来視の異能。……リノと違い、薬物で発言したものではなく代々受け継がれてきた本物の異能。三秒先を見せる異能を使って、その嵌め手にまんまとやられたオリヴィアは前の少年に目を向ける。見た目とは裏腹に……
「君、本当に負けず嫌いなんだな。同盟での最初の演習、もしかして根に持っていたのか?」
「あの時大尉、本気では無かったでしょう。機甲搭乗服ではなく勤務服で演習に参加していて……それは確かに、少し気に食わなかったです」
「ああ……あの時はおばあさまが突然、今から連邦のフェルドレス共と決闘してこいと言ったから、私も搭乗服の用意がなかっただけなんだがな」
因みに、オリヴィアの祖母は盟約同盟軍北部防衛軍司令官、ベル・アイギス中将である。
「その意図返しもこうして済ませたのだしーー種明かしをしてもらって構わないか?無論、私が君に負けて死ぬ時以外明かせないと言うのなら話は別だが」
「生憎とそう言うことは……主砲の射撃モードの一つに登録した外部音声をトリガとするものがあって。想定される状況は自機を放棄した時だけでしょうから……自動小銃や拳銃の銃声を登録しておいたんです」
「そんなものまであるのか、連邦のフェルドレスーーいや〈レギンレイブ〉には。……実戦での使い道などほぼないだろうに」
戦場では実に様々な音が鳴り響く。そうなればこの自動小銃の音だってかき消されてしまうほどには……
「以前、似たような状況になったことがあって、それで追加されたんですが……使ったことはありません」
「だろうね。それなのに、そんな使い道のない設定まで持ち出してきたのか。たただ私に勝つためだけに……君は本当に負けず嫌いなんだな」
「大尉の異能、見ようとしていないと見れないのでしょう。それならこれでと……」
オリヴィアはそこでなぜ、海外の軍人が自分の異能について気付いたのかと疑問に思った。
「……どうしてそう思うんだ?」
「演習では俺を含め、大尉の裏をかけませんでしたが。日常生活ではそう言ったことはありませんでしたので。……いつも見えて居るわけでも、危機が迫れば見える訳でもないのかと……」
「これは一本取られたな。しかし……」
オリヴィアは両手をあげた後、ニヤッと笑う。
「そう言う豪胆さと観察力はミリーゼ大佐との件で発揮すれば良いだろうに」
「……なんの話ですか?」
シンは思わず身を硬くする、
「おや、はっきり言ってしまって良いのかな?あの夜は君、随分と落ち込んでいたが」
ニヤニヤとして容赦のない迫撃にシンはグッと喉を鳴らす。もちろん、レーナに告白して、口付けで返されてなぜか逃れられた夜の話だ。
あの後、混乱した後に非常に落ち込んだ。
おそらくはレーナも同じ想いだったのだろう。出なければ口付けで返される筈がない。
しかし、それが自分の願望に過ぎないのであれば今度がレーナが逃げた理由がわからない。けれどそれなら口付けの理由が……と堂々巡りをして一晩ほど復旧不可能となっていた。
で、当然その光景はどんどんと広まって行くわけで……それもホテルのバーで項垂れていたので不特定多数から見られていたのも広まった原因だった。リノ達に至ってはプレゼントを準備していたと言う事もあり、申し訳なさもあった。
翌日には落ち着いて、レーナも急に言われて混乱した挙句の暴走であったと理解したし、それならひとまず待つこととなったのだが……
休暇が終わってレーナも作戦指揮官として忙しいとはいえ、この一ヶ月間棚上げにされて居るのは流石に納得がいかない気がしなくもない。
ちょっとくらい拗ねてもいいのではないかと思ったところで、オリヴィアが苦笑する。
「私は第二機グループの訓練で次の派遣にはついていけないが、帰ってくるまでにはどうにかしておきたまえよ」
「言っていいですか大尉。……五月蝿い」
「これは失礼、ノウゼン大尉殿」
つい半眼で吐き捨てたシンにオリビアは余裕たっぷりに笑った。
誰か、UCのトリントン基地襲撃ででザクスナイパーに破壊された戦車の名前を知りませんか?
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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