86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#63 未知なる戦場

「ーーさて、まずは久しぶりノウゼン。ミリーゼ大佐も」

 

リュストカマー基地の状況説明室では、シンの属する第一機甲グループの派遣を控えて大隊長と副長、作戦指揮官であるレーナとその幕僚、同行するヴィーカと彼の幕僚にリノと副官を拝借したクラウが詰めていた。その中で唯一、第二機甲グループに属する少年が楕円のテーブルの一角で笑った。

ツイリ・シオン中尉。休暇中の第一機甲グループの代わりに作戦を受けていた第二機甲グループの戦隊総隊長だ。

 

「連合王国以来だから、一ヶ月と少し、か……まだ通学期間じゃないのか、第二は」

 

シンは首を傾げ、学生服ですくめる。

 

「状況説明にって、今日は特別にね。第三のカナン達は作戦中で、あんた達の派遣先ーーレグキート征海船団国群で戦ったのは今の基地には私たちしかいないから」

 

レグキート征海船団国群

ギアーデ連邦の北、連合王国の東側に領土を持つ小国家群である。

この十年を小国丸々一個を防衛陣地にしたことでこの闘いを凌いできた国だったが、所詮は小国家群。十年ぶりに連絡がつくや否や救援を求めて来ていた。それを受けてツイリ達が派遣され、三つあるレギオンの拠点うちの二つを制圧した。だが、三つ目は攻め込めずに一旦撤退をして来ていた。彼の国は戦前は確か合州国の支援を受けていた国家のはずだ。

 

「あんた達が第一今回制圧するのはその残った三つ目の拠点……私たちの撤退の事情は聞いていると思うけど、まずは見てもらった方が早いわね」

 

そう言うとホロスクリーンが展開され、荒い光学映像が映し出された。

全体を埋めるのは色気も深さもさまざまな青で、それは風の強い日の湖にも似た波立つ水の広がりだ。牙の様に尖った波濤の向こうに、金属製の建造物が聳え立っており、要塞と知れた。

 

 

 

……次の目標は水上。七年の戦歴をもつシンですら経験した事の無いーー海上での戦闘だ。

 

 

 

其の困難も、この瞬間には遠かった。

海上要塞の最上階。拡大映像。

鉄色をした<レギオン>の中では珍しい、黒い装甲。鬼火のような蒼い光学センサ。連邦の色とは違う紺碧の蒼穹を背に拡がる、銀糸を編んだ二対の放熱索の翅。

忘れることなどできるはずもない、天に牙向く一対の槍のような砲身。

血赤の目を掠め、シンは吐き捨てた。ゼレーネやエルンストから聞いてはいたものの、二度と戦いたい相手ではなかった、

 

「ーー電磁加速砲」

 

口径、八〇〇ミリ。初速八〇〇〇メートル毎秒。有効射程は実に……四〇〇キロ。

 

たった一輌で連邦、盟約同盟、合州国、連合王国、共和国の各戦線を脅かした最大最強の<レギオン>。

 

 

 

電磁加速砲型(モルフォ)

 

 

 

沈黙が、ブリーフィングルームを支配した。直接対峙したのはシンと一部リノだけだが、その脅威はここにいる全員が知っていた。

一年戦争以来の合州国の大規模部隊二三万を。わずか二日で連邦の四個連隊二万名余りと基地を。グラン・ミュールをたった一夜で陥落せしめた大攻勢での<レギオン>の切り札。この一輌を撃破する為に各国が協力し、大攻勢の出血がある中、敵中突破を敢行。其のおかげで各軍の前進が停滞。

たった一機で国家の戦略を返させてしまったそいつが……

 

「船団国群はこの拠点を摩天貝楼と命名したわ。位置はレギオン支配域となっている旧クレオ船団群の海岸から、直線距離で三〇〇キロの沖合。電磁加速砲型を確認した調査船は直後に砲撃で沈没。つまり、一の露呈を向こうも把握したわけで……以降、防衛陣地などに砲撃が毎日実施されている」

 

海抜が低く、領土の大半を湿地で埋める船団国群を守るのはレギオン支配域に接する海域の無数の小島に構築した砲陣地群と軍艦だ。

その為、船団国群はその成り行きから無相応な程……それこそ合州国と肩を並べられる海軍力を有していた。砲陣地に設置した射程が一〇〇キロ超の長射程を持つ多連装ロケットの援護の下、海岸付近まで軍艦が進出。堅牢な防御陣で固めた<レギオン>の側面から、艦砲と多連装ロケット砲で薙ぎ払うのがこの十年での船団国群の闘い方だった。……国土の大半が湿地帯だからこそできた荒技でもあったが。

 

「海上砲陣地はこの一ヶ月で壊滅。軍艦の被害甚大で、何より陸上の第一列が半分近くレールガンの射程圏内。私たちが撤退すると同時に第二列まで後退。事実上の最終防衛線まで、ね」

 

するとヴィーカが淡々と口を開いた。

 

「そして船団国群が陥落すれば大攻勢の再来か……泥濘地で重量級のフェルドレスを運用できない戦場が電磁加速砲の砲陣地となれば、連合王国も連邦も打つ手がない」

 

合州国南方のどこかにあると言う噂のストーンヘンジの性能はいまだに公表されていないが、話では一発何ドルとかで砲撃をしているとか何とか。それを今は船団国群に撃っているという。おそらくは試射もかねてなのだろうが……

流石に電磁加速砲型は連邦を超えて合州国に届く訳ないのだが、どう言うわけかストーンヘンジは合州国南端からほぼ反対の船団国群まで届いていると言う。仕組みは一旦中間圏に砲弾を打ち上げて射程を伸ばしているとか何とか……

やれやれ、何も明かさないのも実に秘密主義の合州国らしいとヴィーカは思っていた。

合州国はモビルスーツを動かすと言われている噂の核融合炉ですらも公表していない。まぁ、事情が事情なだけに徹底的に秘匿するのもわかるが……

 

 

 

するとリトが顔をしかめた。

 

「……ひょっとして、連邦がもっかい俺たち出すの、本音は自分達が危ないから?」

 

ため息をついてツイリは言う。

 

「リト、あんたその思ったこと口にする癖改めなさいよ。あんただってたとえばここで、リトってば本当は泣き虫だって事言われたくないでしょう?」

「ちょ、やめてよツイリ兄!」

「あと私のことたまにお母さんて呼ぶみたいにノウゼン隊長って呼んだりとか」

「ちょっとやめてってば!」

「……シオン。リトはいいから続けてくれ」

 

シンのツッコミにツイリは肩をすくめる。

 

「連合王国の派遣でも言ったと思うけど、ノウゼン。私はツイリって呼んで。ファミリーネームは嫌なのよ。……思い出すから」

 

そう言うと、彼女はほろ苦く笑う。

 

「姉がいてね。戦死したけど。例によって何も残してやれなかったから。せめて姉の言葉使いは残そうと思ってね……」

「ちなみにお姉さんがいたってとこから嘘だから」

「ちょっとリト!話拗らせないでよ!」

 

前提を崩され、レーナは中途半端に固まり、ツイリはむくれる。

 

「八六区で何でもかんでも殴り合いになっていたのは知っているでしょう?私、この図体だから何かと喧嘩の元になったのよ。……それで、この喋り方が一番喧嘩を避けられた。五年も過ごしてたら、すっかり癖になっちゃってね」

 

ヒラヒラと手を振り、話を続ける。

 

「ともかく……私たちの失態を押し付けるようで悪いけど。流石に四〇〇キロの超長距離砲相手に無用に突っ込むのは船団国群でも流石にできなくて」

「この一ヶ月、船団国群が最終防衛線に追い詰められながらも救援を急かさなかったのはその為です。彼らに準備とーー待つべき機があるからと」

 

そう言って連合王国の紫黒の軍服の着た少女の士官が喋った。彼女は船団国群ではヴィーカに変わり<アルカノスト>を率いた副長の少女。

 

「すなわち、電磁加速砲型の四〇〇キロ砲撃域の突破の準備です。まずはこちらをご覧下さい」

 

そう言ってホロウウィンドウに映る資料を見せた。其の時何気なしにツイリが言う。

 

「よろしくね、ザイシャ少佐」

「……!だから、私の名前は仔ウサギちゃんじゃないですってば……」

 

そう言い、何とも気弱そうな印象の少女は半泣きでツイリに振り返った。

 

「けど、そうやって連合王国の人が呼んでいるのに?」

「それは……ヴィークトル殿下が……!」

「お前はなあめが言いにくいからな。仕方あるまい」

「それならローシャとお呼びくださいと何度も申し上げておりますのに……!」

 

そう言い、部屋を見回すが、シンもレーナも悪いと思いつつ目を逸らす。

 

「いいから続けろ」

「……御意に、仰ながら臣。説明つかわります」

 

画面には船団国群沿岸部とそこから広がる海図。……その中央に赤く灯る摩天貝楼拠点のシンボルはその周囲に。

 

「摩天貝楼拠点は先程のツイリ中尉の説明通り、<レギオン>支配域の沖合三〇〇キロに建造された要塞です。建造時期は不明、恐らく船団国群以外の沿岸国が陥落した後、その港から進出、建造したと思われます」

 

現状、存続が判明している国は大陸中北部から西部、南部にかけての狭い範囲のみだけだった。おまけに東方諸国には分厚い阻電錯乱型によって通信はできなかった。

 

「開戦以前、船団国群が採掘計画をしていた海底鉱脈の真上にあり、近くの海底火山もある事から恐らく工廠でしょう。そして……ご説明した通り。この拠点の周囲には海面より高いものが一切存在しません」

 

地図上にも摩天貝楼拠点の周囲には小島の一つもなかった。それはつまり、射程四〇〇キロの砲撃下から身を隠す場所がどこにもないと言う事だ。

 

「故に船団国群は嵐を待っています。今にも崩壊しそうな防衛陣地を一ヶ月間守りながら。船団国群では、この時期。夏の終わりに北から大きな嵐が訪れる。その嵐に紛れる形で電磁加速砲型の砲撃域を突破するために」

 

ザイシャの言葉にレーナは聞いた。いくら嵐に紛れると、簡単に言ったが。

 

「ですがーー嵐を越えるには……」

「並の船では難しいでしょう。特にこの海域は沿岸から遠く、波が荒いため小型の船では嵐でなくとも負けるそうです。戦闘機でさえ、嵐の中を飛んで帰投できる保証はないのだとか。つまり、波の船では嵐を越えられない、ならば破格の軍艦を出せば良い」

 

すると画面が変わり、少し特徴的な艦船が出てきた。

その艦船はアイランド型と言われる特徴的な艦橋を有し、甲板には平たな飛行甲板と二列ずつ設置されたカタパルト。艦載機の邪魔にならないよう飛行甲板から一段下げて作られた二基四門の四〇センチ連装砲と艦橋最上部に掲げられた古風な女性像が淡い陽光を鈍く弾いていた

 

「征海艦ーー今作戦に置いて起動打撃群を運ぶ、原生海獣狩りの軍艦です」

 

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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