86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#66 合州国の軍艦

レーナの報告を受けて、ホロウィンドウの向こうでグレーテは頷く。

 

『ご苦労様。……悪いわね、ミリーゼ大佐。やんちゃ坊主達を任せてしまって』

「いえ。大佐こそ次の派遣先の、ノイリャナルセ聖教国その折衝を担っていただいて」

 

グレーテは今回は第一機甲グループに同行していない。

 

「派遣要請がひっきりなしだとは聞いていますが。まさかこんなに、どこもボロボロだなんて…‥」

 

訪れて目にした、船団国群の戦場は……今にも崩れそうな防衛戦に明らかに数の足りない兵士。海岸沿いに散らばる軍艦の残骸。もはや目を覆いたくなる状況だった。

連邦と連絡が復旧した際に連絡を求めてきたのも通りだ。船団国群には機動打撃群程度の予備戦力ですら残されていないのだ。

現在、船団国群は合州国の建設中のコロニーに国民を亡命させるプログラムを受け入れたばかりであった。

 

『流石にもう、十年だもの。終わらない戦乱に、耐えられる国ばかりではないわ』

「……」

 

余裕のある連邦や合州国、連合王国などの大国や、盟約同盟のように天然の要塞に守られて居るわけでもなく。

重苦しい沈黙を払う様にグレーテが咳払いをして言う。

 

『ところで大佐。もう一つ、報告があるのを忘れて居るわよ』

「えっ!?」

 

慌ててレーナは記憶を思い返す。

 

『ノウゼン大尉への回答は、どうなったのかしら?』

 

まさかの上官からの迫撃だ。

 

「なななな、何の話ですか!?」

『男の子をやきもちさせるのも女の子の特権だけど、だからって焦らすと嫌われちゃうわよ。実際大尉ったらすごく落ち込んでいたから。あの、』

 

言いさしてグレーテは嫌な記憶を思い出したようで、顔を顰めた。

レーナの顔は真っ赤だ、埋まりたい。

 

『人斬り蟷螂までさすがに同情を禁じ得ないって…顔でね。……そう言えばヴィレムったら、旅行に顔を出した目的の例の件は、その後どうなったのかしら』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

海上要塞の攻略作戦を前にエイティシックス達は海に遊びに行っていた。遊ぶと言っても海水浴ではなく、海中を除いて魚影を探したり、潮溜りでカニや小魚を釣ったりしていた。忙しさを背に聞きつつ、眼前に広がる海面を岩場の端に立って言葉もなくシンは眺めてた。同じ様に目を奪われていたライデンが感に堪えないと言う調子で唸った

 

「……すげぇな。これが本当に全部水なのか」

 

そう言うと何故か猫の様に泣き出す海鳥や海岸でリトやマルセルと共に釣りをしているファイドを見るとライデンが再び海を見ながら呟く

 

「しかもこんだけの水に味がついているとか。正直信じられねえな」

「舐めてみたのか?」

「普通に塩だよ……いや、ちっとばかしこう、なんか生臭かったな。あの、名産だって言う魚の卵の塩漬け、あれを薄くした感じの。つーかお前、あれ美味いって思ったか?俺は正直、生臭くてダメだったんだが」

 

ライデンは顔を顰めながらシンに言った。それは駐屯基地にトーストに付ける物として置かれていた朱い魚卵の塩漬け。船団国群伝統の保存食だといい物珍しさに多くのものが手を出していた。シンもそのうちの一人だった。

 

「いや?特に苦手とは思わなかったな」

「…お前、本当舌バカだな……」

 

そう言うと近くで貝殻を拾っていたフレデリカが口を挟んだ。

 

「シンエイめの味覚音痴についてはさておき、あれについては好みの問題であろ。少なくとも妾は好きじゃが」

「というか、トースト以外も山ほど食べていたな」

「レディになんと言うか!た、確かに体重は増えたが!これは成長期なのじゃ!」

 

そう言うと、そんなエイティシックス達の横に一人、近寄ってくる。

 

「おや、先客かい?」

「あっ、貴方は……」

 

そこには釣具を持って、ライフジャケットを着たテオが立っていた。

 

「お主、何をするのじゃ?」

「見て分からないか?釣りだよ」

 

フレデリカの問いにそう答えると、彼は慣れた手つきで準備をする。そして、餌のついた針を持って思い切り海に向かって投げた。

 

「懐かしいなぁ、子供の頃。よくリノ達と海に行って釣りをしたか……」

 

そう呟くと、テオは竿を引いて魚を引っ掛ける。すると、竿が引き。リールを巻き上げると、一匹の魚が釣れる。

 

「ひっ?!」

 

ジタバタと暴れる魚を見て驚いてライデンの後ろにフレデリカは隠れる。そんなフレデリカを見てテオは少し笑う。

 

「ははは、そんな怖がらなくても大丈夫さ」

 

そう言うと針から魚を取った後、そのまま持っていたクーラーボックスの中に入れる。

 

「こいつは鮮度がすぐ落ちるから氷締めっていう方法で魚を締めるんだ」

「へぇ〜……」

 

そこでリトがやや興味ありげに見て居ると、テオは言う。

 

「釣りにも色々あってね……僕は、軍を辞めたら海に出ようと思って居るんだ」

「そうなんですか……」

 

そう言い、テオは今日の肴の為だと言って何匹か魚を釣り上げていた。

八六区でも、一応川で釣りをしたことがあったが、殆ど釣れなかったなと思い返すと、テオに釣りの話を色々と思わず聞いてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーー卿の事だ。指揮官たるもの、任務を優先すべきだと考えたのだろうが、ミリーゼ」

 

臨時のオフィスで開示可能な最近の戦闘記録を見ていたレーナにヴィーカは嘆息する。

 

「別に息抜きに海で遊ぶくらいは構わないだろうに。俺が行かないのは単に何度も見たから珍しくない。と言うだけだぞ」

「連合王国最北の国境、雪禍連山の北縁の断崖の下がそのまま海でして、冬には氷で埋まる海です。壮観ですぞ」

 

いつも通り控えるレルヒェは補足すると、レーナは苦笑する。

 

「いえ…海はつい見てしまいましたし。この後の作戦でも見ますけど……自分から見に行くのは、次は戦争が終わってからにしようと思って」

 

海を見せたいと、シンに言われた。その願いに自分は応じた。

だからーー告げられた想いには未だ応えられていないのだから、せめてその願いくらいは……

 

「戦争が終わったら見に行こうと、そう言われて。その約束は守りたいので」

 

ふん、と鼻を鳴らしてヴィーカに、笑みを消して向き直る。

 

「ヴィーカ、確認したいことが……」

 

戦況の混乱もあってか戦死者と戦闘の規模があっていない。

そして、目撃証言の増えて居る回収輸送型。本来は後方に居るはずなのだが……

少なくとも連邦ではそのようなことは確認されていなかった。

 

「連合王国では、どうでしょうか?それと、()()から聞いたと言う〈レギオン〉の戦略変更も」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーそろそろか……」

 

街の外れで、その時を待っていたリノは遠くからやって来る複数の影を眺める。

空に浮かんでいるのは……軍艦だ。多数の砲塔に銃座を持ち、ミノフスキークラフトを搭載する合州国海軍特有の艦艇だ。

 

「こんなガラクタばかりの艦艇で…よくも……」

 

そう呟くと、街の方からざわつく声が聞こえ始め。何事だと驚いた声が上がっていた。

今回、船団国群に派遣する為に臨時で編成された、廃艦寸前のオンボロ艦で組み合わせた艦隊だ。MS輸送と、囮としてこの船団国群に来ていた。

オンボロとは言え、他国に囮用の艦艇を送れる余裕がある時点で、合州国は異常なのだろう。駐屯地には多くの合州国製の武器が並び、中にはM61A5の姿もあった。彼らに取って貴重な機甲部隊であるM61A5は、今後さらに送られることになっていた。どうせ、一年戦争前の旧式だ。いくらレギオンに鹵獲されたところで痛くないのだろう。

 

「さて、挨拶にでも行きますかね……」

 

そう呟くと、リノは着陸する場所まで移動し始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

意外と、あっさりたどり着いてしまった。

一年前、電磁加速砲型を倒す為に死地に派遣された時の事を思い出す。その時思い浮かべていたのは、こんな北の海ではないが……

初めて海を見た時の感想は、ぽっかりと意識に穴が空いたような空虚さだ。

目標をしていたものをなくして、立ち尽くすときにも似ていた。

 

だって自分は何も変わっていない。

 

八六区を出て、それきり何も変わっていないのに。見たことない景色にくるだけ来てしまった。それが、ただ虚しかった。

足を止めていても……何も変わらなくても、流れに乗って仕舞えばここまで来れた。

今思えば二年前、連邦に保護されてエルンストの屋敷に招かれたときもそうだが……

目の前の海は青黒くて如何にも陰鬱で、風は冷たくてどこか嘲笑われて居るようだ。

初めて見た海だと言うのに……かけらも美しくなかった。

久しぶりに意識した、八六区で染み付いた認識。

 

人間なんて、この世界に必要ない。

 

いっそ意地が悪いくらいに世界は人間に対して無関心だ。

それをなんだか、思い知らされたような気がした。

居た堪れなくなって、踵を返して街に戻った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「戦場の外の街は平和って思っていたのだけれど……」

 

そう言ってアンジュは基地の食堂のおばさんに言われて船姫の祭りが行われているという街に向かった。船姫の祭りは征海船団に属する船の艦首像に宿る精霊を祀る祭りで造船所のある街で合州国でも似たような物が行われていると言う。

 

アンジュは街を歩いた時に荒廃感を感じていた。

土埃に傷んだ建物。割れた舗装に立ち枯れた街路樹、建物の機能としては成り立っているが、補修が行われていない様子だった。

走り回る子供達も繕いの古い服を着ており、祭りなのに乏しい出店とささやかな合成品の菓子類。乱立する様に立ち並ぶ避難民のプレハブ住居。

 

小国ながらに十年〈レギオン〉と戦い続けてきた船団国群の、これがその代償。

 

「連邦などの大国が特別だったのね……他の国はもう、とっくに限界で……」

 

戦い続ける力も本当は無いのに、それでも生き延びるためにあらゆる物を切り詰めてきたーーその果てに力尽きて、虚しくすり潰されて消滅する。

その現実を、今更のように思い知る。

 

「ーーでも、お祭りはするのですね」

 

傍ら、同じく祭りを見たミチヒがポツリと言った。

一輪一輪が慎ましいながらもとにかく大量の花。せめてこれだけでもと持ち寄ったのだろう。それでも歯を食いしばりながら、どこか必死に笑いながら営まれる民族の祭り。

 

「私はお祭りなんて、何も知らないので。ーーだって、受け継がなかったのです。故郷なんて覚えてなくて、家族は皆死んでしまって。だから寂しい以上に、ここにいる皆さんは羨ましいです。誰もがこんなに苦しくてもやらないといけないと思えるほどに、大切なものを持っている事に……」

 

 

大切なもの。何をおいても執着するものーー己の形を規定する何か

エイティシックスにはそれは唯一抱えた、戦い抜く誇り以外には……未だ何も。

 

 

 

 

 

その時、遠くから轟音のような音が聞こえ、街を覆う様に大きな影が現れた。耳に轟く轟音は、思わず塞ぎたくなるほど大きかった。

 

「あれは……」

 

その影に塗装されたマークを見て、アンジュ達はその国の底力を感じた。

 

 

合州国

 

 

レギオンと十年以上戦争をしていながらも、連邦以上の国力を残す巨大な国家。

まだ、ハルトやレッカしか仲間の間では行ったことがないと言う。最も身近だが最も知らない国。

 

だけど、街を覆うほどのこの巨大な建造物を見て、その力を見せつけられているような気分だ。

確かに、こんな大きなものを見せつけられたら。船団国群が合州国の亡命プログラムに乗るのも理解できた気がした。

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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