86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#68 オンボロ艦隊

「なんつーか、…ちっと割れてきちまったな」

「……そうだな」

 

いつの間にかセオがいなくなり、祭りに興味を引かれたアンジュはともかくクレナも海に来ていない。当然ライデンやシンは気づいていた。

海を見たくなくてこの海岸にいない者、人の集う街に居づらくてここに居る者。初めて見る海や合州国の空飛ぶ軍艦に大興奮の者。知らない街や祭りを見にいった連中と、それぞれ入り混じって、けれどそこに、断絶がある。互いに何かを違えてしまって居る。

最後まで戦い抜く。血でもなく誇りを絆とした、その誇りを持って同一であったエイティシックスに、……いつの間にか分裂が生じて居る。

 

「だからってお前、気にしなくても良いんだからな」

「置いてくとか、見捨てるとか、そう言うんじゃねえ。そいつのペースト選択があるだけだ。だから、お前が何選ぼうが、他は気にしちゃいないんだよ」

 

事実、シンとレーナの恋愛事情に突っ込む輩は今のところいない訳だし。

 

「……わかってる」

 

この声は理解して居るが、納得はしていない時のそれだ。

 

「けど、そう言って放っとかれるのも辛いなら。俺は随分助けてもらったと思うから、その時は、」

 

思わずライデンは苦笑する。むしろ、まだそんな事言っていたか。この馬鹿。

助けられたのはむしろ、これまでずっと。

 

「そいつはもういいよ。…… もう充分だ、我らが死神」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「「乾杯」」

 

祭りの行われて居る街のバーの一室でリノとカイエは互いに開けたばかりの地ビールの入った瓶を飲む。

作戦が始まるまで暫くある上に、地ビールが好きなカイエに合わせて酒を飲んでいた。

エリノラがいない事にやや寂しさはあったものの、それでも二人は楽しんでいた。

 

「ぷはっ!あぁ、上手いな……」

「ああ、何でも届いたばかりの物らしい」

 

そう言い、地ビールを飲みながら肴を楽しんでいると店の店主が追加で注文したビールを持って来ながら言う。

 

「お二人さん、いい飲みっぷりだねぇ。何かいいことでも?」

「あぁ、美味いビールにうまい肴。これで気分が乗らないわけあるまい」

「ははっ、それもそうか。そいつぁ、いい事だ」

 

そう言ってビールを置いて、奥に消えていくとカイエはリノと話す。

 

「しかし、エリノラが後方に異動するとはな……」

「まぁ、上の考えて居ることなんて分からんよ」

 

そう言い、リノは一本を早速飲み干す。国に来た途端酒を探し始めていたカイエは相当な酒カスな気もするが、こうしていい酒場を見つけれくれるのはありがたかった。酒は飲める時に飲んでおいた方が言い。

すると、カイエはリノに昼間の一幕を言う。

 

「そういえば昼の軍艦。あれは凄かったな」

「ん?あぁ、あの艦隊か……」

 

すると、リノはやや気分が落ちながら言う。

 

「何、あんなのオンボロの艦艇ばかりさ」

「そうなのか?」

「ああ、当たり前だろう」

 

そう言うと、リノは呆れたように吐き捨てる。

 

「一線級なのはカイラム級とサラミス改級だけで、後はレパント級やマゼラン改級の一線を退いた……レパント級なんて一年戦争時にガラクタと化した艦艇だ」

 

そう言い、送られてきた艦隊の編成を思い返す。

今は追従してきたコロンブス級が補給を行って居るはずの艦隊は旗艦のラー・カイラム級一隻。それとマゼラン改級一隻、それとサラミス改級二隻。それから、囮用のレパント級ミサイルフリゲート六隻だ。

特にレパント級はミノフスキー粒子の登場で一年戦争序盤にガラクタと化してイラナイコ宣言を受けていた。

艦艇も全てミノフスキー・クラフトが艦底部に装備され、出航準備が進められていた。

 

「はははっ、そんなに艦艇を他国に送れる時点で国力の差を感じるよ……」

 

少なくとも囮艦として六隻も艦艇を派遣するのは相当余裕があると言う訳だ。確かに、その点は認めるが……

 

「一部のモビルスーツは運べないから地上に残していく予定だ」

「まぁ、戦車を征海艦に乗せてもね……」

 

そう言い、カイエはふと船団国群の駐屯地に停まっていたM61を思い返す。何でもあの車両は戦前に合州国から格安で売ってもらった戦車だそうで、古い履帯式……と言うかそもそも合州国はフェルドレスを開発していなかったから仕方ないんだが……。格安で手に入れた戦車は船団国群の貴重な機甲戦力として、この十年を戦い続けていた。そして、また今度合州国からここに余剰となったM61が送られてくるそうだ。その貨物は帰りに船団国群からの避難民を乗せて……

 

「さっきニュースで見たよ。合州国で建設中のコロニーに船団国群の国民を移住させるって」

「ああ、政府としてもサイド7は〈レギオン〉戦争が始まった影響で工事が中断していたからな。何とか完成させたい気持ちがあるんだろう。予定ではサイド8まで作る予定だったからな」

 

そう言うとまた一本ビール瓶を飲み干す。

 

「だから送られるサイド7は避難民の亡命政府で構成されるから完全な自治権が与えられる可能性がある。国民には他国の人間だからと言って黙らせて自治権の主張も抑え込む気だろう……言っちゃあ悪いが、合州国にとっては資材さえ送れば後は工事を勝手に進めてくれる。都合のいい労働者って所だな。それこそ…サイド毎の独立闘争など、とうの昔の出来事だしな……」

「おーおー、人聞きの悪い言い方で……」

 

そう言い、カイエも同様にビールを飲んでいるとリノはカイエに一つの箱を渡す。それは厚紙で覆われたえんじ色の箱だった。

 

「これは?」

「シンとレーナ用に前に買っておいたやつだ。いつシンに返事があるか分からんからな。返事があったら、こいつを渡すつもりだった」

「あぁ、前に言っていたやつか……」

 

そう言って箱を見ると、リノはカイエに言った。

 

「俺が渡せない場合は、カイエから渡してもらっていいか?」

「ああ、分かった」

 

そう言うと、カイエは頷き。リノもややほっとした様子をしていた。

結局、二人はこの後夜中まで飲み明かしたとか何とか……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「距離も数も、離れてるからざっくりだと言うけど、これだけ分かってりゃ随分楽になるな。陽動の連中も、もちろんうちも」

 

大学の建物を接収した。元は礼拝堂だった場所がブリーフィングルームだ。因みにリノもいる事には居るのだが、酒臭くて敵わんと言う事で部屋の端に追いやられていた。

ステンドグラスの光が入るそこで大テーブルに地図を広げてイシュマエルは破顔する。観測機母艦の数と大まかな配置を、シンが確認して記した海図。

 

「例の代わりに、帰ってきたらいっぱい奢るぜ大尉。船団国群伝統の、海産物の干物でも肴にさ」

「……」

 

海産物という時点で、何をするのかを察し、変わってセオが突っ込む。

 

「艦長、それってあれでしょ。地元の人が旅行者から買う系の珍味とかでしょ」

「そんなこたねえよ。……原料の生き物が、ちょっと見た目が面白いだけで」

 

随分打ち解けて居るなとリノは思う。エイティシックスとイシュマエル達征海氏族達は。

船団国群の軍人も街の人も、気のいい人が多い。そのせいか、もしくは。似たような境遇だからか……

 

「あ、今夜の夕飯は期待しとけよお前ら。ちょうど祭りの季節だし、お前らがきてくれて助かったんだからって、厨房のおばちゃん達、張り切ってっから」

 

そう言い、イシュマエルはブリーフィングルームを出て行く。それを見送った後、レーナは幕僚や大隊長達を見回す。

 

「それでは。……私たちも始めましょう」

 

レーナはそう言うとホロウィンドウに映し出した。

 

「これが摩天貝楼拠点の最新映像です」

 

そう言って立体映像で映し出された地図は鉄骨の骨組みだけから成る、どこか生き物の死骸のような、それでいて巨大な海上の要塞。

 

「最上部までの高さは。推定一二〇メートル、七基の塔が、中央に本棟が一つ、それを支える柱が六つ。内部は十から十二ほどのフロアに分かれており、ここにジャガーノートの三個支隊を投入、攻略します」

 

ステラマリスに搭載可能なジャガーノートは一五〇機ほど。あまりの機体は地上にてお留守番となった。

 

「リト・オリヤ少尉、レキ・ミチヒ少尉。貴方達は陸上に残ってください。貴方達は船団国群の全線の機動防御のため、前線後方に拘置とします」

「俺とミチヒ、攻略に行くんじゃないんです?それに、機動防御って……」

 

すると、リノがその疑問に答える。やや、酒臭いがさっきよりはマシだった。

 

「こっちが海で暴れ出したら、陸上で〈レギオン〉が動く可能性がある。船に乗せられないMSと戦車も置いていくから一定の戦力を残しておきたいのよ」

 

二人は顔を見合わせて、そういう事ならと頷いた。

 

「了解なのです」「任せてください」

「敵編成の変更がある可能性があります。即応できるよう備えておいてください」

 

チラリとヴィーカが視線を寄越した。

 

「連邦に追加の弾種を頼んだのはそれでか。アルカノストもこの作戦では俺が指揮する斥候以外は防衛線配備だな?ザイシャを指揮官に残していくから、合わせて使ってくれ」

 

輸送量に限界がある以上、総合的な戦闘力で勝る〈アルカノスト〉を地上に置き、〈ジャガーノート〉を要塞戦力とし送る必要がある。

すると続いてシンが口を開く。

 

「目標となる羊飼いは聞き取れる限りでは二機。電磁加速砲型と、拠点が工廠だとーー自動工場型だというならその制御中枢と見て良いと思います。ここからは距離があるので数しかわかりませんが、近づけば正確な位置も知れる。レルヒェたちを斥候に、俺が先導するので問題ないかと」

 

グレーテを経由して西方方面軍から言われた、無茶な作戦。

 

「敵情分析の為に可能なら制御中枢を奪って来いと指示が出ていますが、無理はしないでください……優先度は低いと私は判断します」

 

シンは一瞬沈黙し、怪訝よりも先にいつもの冷徹さで頷いた。

 

「了解」

 

 

 

 

 

ブリーフィングが終わり、各々出ていく中。レーナとリノは海図を見ながらリノが指を指す。

 

「今回、先発するフリーゲート艦は囮として摩天貝楼拠点に向かう。超射程の無誘導ロケット弾を搭載して居るので、観測機母艦の撃沈くらいは出来ます」

「分かりました。先遣隊として、フリゲート艦隊を送るということですね?」

「その解釈で構いません」

 

そもそも囮用ですしお寿司。このレパント級は先遣隊として出た後に無人航行で観測機母艦の撃沈を目的に作戦行動を行う事を主任務としていた。

 

「では、自分もこれで」

「ええ、作戦までに酒を抜いておいて下さいね?」

 

レーナに冗談まじりにそう言われてしまった。恥ずかしい……

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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