86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#69 嵐

その日、西方方面軍司令部では。リヒャルトが撮影された映像をまとめた資料を眺めていた。

 

「……」

 

写真に写って居るのは何かのプラントの様で、周りにはモビルスーツや攻撃ヘリが巡回をしており、物々しい雰囲気を出していた。

すると、ホログラムの先でグレーテが話をする。

 

『先日、()()()()()の場所で撮られた写真だそうよ。情報部によれば、そこのプラントからパイプラインが伸びていて、合州国本土の貯蔵庫に送られて居るらしいわ』

「……では、このプラントは何かを精製していると言うことか……」

 

プラントはガスタンクのような物が建設されており、地下から何かを組み上げて居ることしか分からなかった。

 

『確かなのは、合州国が共和国の許可なしに地下資源を採掘して居る…と言うことくらいしか……』

 

しかし、戦前の情報によると。ここの地下には大規模なヘリウムが埋蔵されて居る可能性があった。

 

「合州国の目的は、この地下に埋まって居るヘリウムの採掘か……」

 

ヘリウム……合州国においてヘリウムと言うのは重要な資源だ。何故なら……

 

『合州国の持つ核融合炉に、そのヘリウムが使われて居るから?』

「一般的に考えてみればそう言う結論だろう。……しかし、共和国が気付いた様子は?」

『今の所は無いわね。それか若しくは…既に取り込んでいるか……』

「……」

 

聞いていて気分のいい物では無い。しかし、核融合炉の実用化すら漕ぎ着けていない連邦に、この資源はただの場所取りにしかならない無用の長物。

ただ、見て居ることしかできない事実に。リヒャルト達は歯痒い感情が脳裏をよぎっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……もう直ぐか…」

 

現在はラー・カイラム級の格納庫の中に収容されて居るハミングバードの中で、リノは息を整える。作戦時間に合わせて寝起きして居る影響で早朝も早朝、まだ日の上らない時間にリノは目を覚ましていた。搭載スペースと、別の装備を持つために、クラウだけはステラマリスに乗艦している。

甲板に露天繋止されて居るそれを確認しつつ、リノはその時を待つ。

 

現在、リノ達が乗艦して居るのはラー・カイラム級機動戦艦の〈アレグランサ〉であった。艦長とは既に挨拶を済ませていた。随伴するマゼラン改級やサラミス改級二隻でも全モビルスーツを搭載できず、ジムやロト、一部ジェガンや戦車は地上に置いていく事になった。

因みに、エリノラの乗っていたガンダムは既に回収され、本国に戻されていた。次に乗る者がいない限り、あの機体は解体される事になるだろう。

 

 

 

マゼラン改級は元は宇宙戦艦。レギオンザク……装甲が圧延鋼板と複合装甲の為、ビーム兵器で簡単に破壊できるから、皆でボロザクやら見た目から銀ザクやら散々な言われ用のモビルスーツの劣化版の攻撃にも耐えられるだろうと予想していた。

 

元々博物館にあった核融合炉を抜いたレプリカのバックパックを装備した機体を鹵獲し、真似できる部分は全て真似て生産をしていた。

連合王国で見たレギオンザクは腕部を取り外し、戦車型の砲塔を横にした物を取り付け、発射レートを稼いでいた。

 

現在レギオンザクは完全再現し、ヒートホークを装備したタイプと戦車砲を搭載したオリジナルの二種類に分かれていた。物量に物を合わせて砲撃を行いながら接近。怯んだ後にヒートホークを持った機体が接近して接近戦で両断していた。

やはり腕部のパーツは生産が大変なようで、見かけるのはほぼほぼ戦車砲を取り付けた急造品だった。

 

『リノ中佐、』

 

コックピットで目を閉じていると報告が入った。カイラム級の艦長だ。

 

『嵐が来るぞ』

 

ようやっと待ち侘びた報が届いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

港では多くの人間が行き交っていた。派遣された艦隊の、補給艦からロケット弾の補給を終えたレパント級四隻は準備を行う。

 

『プログラムの順番、完了しました』

『出港準備完了しました』

 

中身は剥がされて何もないレパント級、武装と機関の類以外はほぼ全て取り除かれており、センサーも旧式のままであった。

花嫁に行く前のように塗装し直された船体の中には自爆用の爆弾が満載になっており、レギオンによる鹵獲を防いでいた。最悪、機関部の核融合炉を暴走させれば良いので、そこは搭載されたMSに任せるしかない。炸薬が山積みなので当然、砲撃を受ければ爆発する仕組みであった。

この艦隊の任務は観測機母艦を撃沈し、艦隊の進路を啓発する事だ。その為、レパント級の特徴を活かした長射程のロケット弾による飽和攻撃と先遣隊として先にミノフスキー粒子散布を行うはずだ。降着装置が畳まれ、レパント級は離陸していくとそのまま後部のロケット推進ノズルが起動する。

 

その様子を見ながら、艦橋で帽子を振る。その艦に人の乗って居る気配はない。だが、最後の任務を全うするために出航していくのにそこに人の有無など関係なかった。

 

 

 

 

 

「ーーこれは…」

 

ステラマリスの甲板に出て出航していく合州国のフリゲート艦を見送る。六隻のうち四隻が出航して行き、先遣隊として先に摩天貝楼に向かう。残りの二隻は主力艦と共に移動を行う予定だった。

そして、その出発していくフリゲート艦から、シンは声が聞こえた。

 

 

……高機動型と同じ、数字の羅列のような声が……

 

 

「まさか……」

 

シンは出発していく艦隊を見送りながら内心驚いていた。合州国は、無人兵器の開発に成功したのかと……

そして、先に出発して行った艦隊を見送った後。シン達を乗せたステラマリスも闇夜に乗じて出航していく。

遠くには、燃料ギリギリで飛行し、そのエンジンノズルから僅かに光の漏れるレパント級で構成された艦隊を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

闇夜に紛れて出航していく艦隊を見て、街から深夜だと言うのに人々が見送る。

灯火管制や無線封鎖が行われており、エイティシックス達も甲板に上がっていた。遠くには港街にいた住人が一言も発さず、静かに手を振って見送る。隠密の出航なので、〈ステラマリス〉が汽笛を鳴らすことも無い。

その光景が妙に、印象に残っていた。

 

 

 

 

 

夜の短い高緯度地方の夏の夜陰に乗じて接近するため、征海艦隊がそれぞれの港を発ったのが作戦前日の夜。

母校から北東に位置する摩天貝楼拠点に真っ直ぐ向かうのではなく、北上して集結地点である風切羽諸島で合流。海鳥程度しか棲め無い岩の小島の中、海水に侵食された断崖の影にそれぞれ隠れて作戦開始までの一日を息を潜めて待機する。

その〈ステラマリス〉で艦橋最上階、シグナルブリッジを物珍しくレーナは見回す。これから丸一日の待機の始まり。発見されないために可能な限り静粛を求められる事になっていたが、それは慣れていた。

現在、横には空に浮かぶ軍艦……合州国の戦艦が海面スレスレに停船する。伝統的な藤色に塗装された艦隊は甲板にいる船団国群やエイティシックス達は大興奮で眺めていた。中には記念に写真を撮る者も居た。

 

最長で半年にわたる航海をする征海艦は内部に礼拝堂や図書室もあって、このシグナルブリッジを含め、待機の間は見学して回ってもいいとイシュマエルに言われて居る。

かんかん、と音を立てて階段を登ってきたのはエステルだった。

 

「ミリーゼ大佐。甲板に降りてみませんか。面白いものも見れますよ」

「甲板……ですか。いえ、わたしは」

 

エステルや乗組員には悪いが、戦争が終わるまで海は見ないと決めたのだから。

それでもつい、戦艦などに目が行く中。下を目に向けるとああと気づく。青い、昏い光。

やっぱり見たい、と好奇心が頭をもたげて、レーナは苦労して視線を引き剥がす。だって、約束だから。

 

戦争が終わってから、二人で見るのだから。

 

 

 

 

 

ちょっと来てみろと乗員に言われて甲板に出て、アンジュとダイヤは並んで息を呑む。星振の光は眩いようで、夜の海を照らすほどではなく、その豪奢な闇の空の下。

 

「すごい……」

「波が…光ってる……だと!?」

 

闇色の海が、まるで星屑か蛍の群れのように青い、淡い幻の様な光の粒子に彩られている。

夜光虫と言う生物が、この景色を作って居るのだと言う。

この景色に他のプロセッサー達も甲板のあちこちで海を眺めていた。横には合州国艦隊も停泊しており、その光景と合わせて記憶に留めていた。

 

「本当に綺麗ね。……大声で言えないのが勿体無いくらい」

「ここも、もう戦場か……。また、戦後に来てみたいな」

「そうね……」

 

アンジュとダイヤはそんな話をしながら海を見ていた。

 

 

 

 

 

艦載機発艦の邪魔になる為、飛行甲板には柵や手すりはない。

視界を遮る物がない、その一角でセオは子猫のように身を乗り出すクレナに言う。

 

「……まぁ、これはこれで、青い海ではあるよね」

「うん……!」

 

ーー行きたいね、南の海の。戦争が終わったら。

 

一年前の、あの時も。電磁加速砲型を追う最中。そう言っていたクレナは目を輝かせて、ぼうと光る青い海を見つめる。

話ではその南の海の沖合にはコロニーと呼ぶ水上都市が建設されて居るとか。こんな征海艦よりも何倍も大きい、水に浮かぶ街が……

頭上の星屑と同じ、幻のような青い光。見て居ると何だか、その暗い深みの奥から何かが浮かび上がってきそうな不安さえあって、ついぽろりと溢れた。

 

「来ちゃったね……海」

「ちゃった、って。それじゃあ来なくなかったみたいだよ」

 

クレナが相手だったから溢れた。

多分、クレナも()()()同じだから。

 

「もうちょっと色々、区切りがついてから見たかった。僕はどうなりたいのか。どこへ行きたいのか……その答えが出てから、見たかったな」

「……無理に見つけなくても、大丈夫だよ。私達は、仲間だもん。同胞だもん。それは絶対変わらないから……そう言う物だって、エステル大佐が言っていたよ。だから、大丈夫」

 

クレナは言う。言葉とは裏腹に心細い子供のように膝を抱えて。

 

何かを間違えても。

同じ生き方を是として選んだ、エイティシックスであることだけは。

 

「そうかな」

 

エステルやイシュマエルや……この国で出会った征海氏族の末裔達。自分たちと同じ、故郷も家族も戦火に奪われて失くして、けれど誇り高く生きて居る人たち。

 

「……そうだね」

 

会えて良かった。

同じ生き方をして居る人たちがいると、それでも生きられると知ることができた。

それなら自分達エイティシックスだってきっと、今のままでも生きていける。

 

「色々ちょっと、焦ってたけど……そうだね。きっと、大丈夫だ」

 

そう言うと、セオはふとその時。リノから言われた言葉を思い出してしまった。

 

『あんまり甘えるなよ…八六区に……』

 

イシュマエルと真逆の事を言う彼に少しだけ嫌悪感が生まれていた。

 

 

 

 

 




カイラム級の艦名はごめんなさい。ぱっと出たのこれしか思いつかなかった……

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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