星暦二一四八年 六月三〇日
この日も二機のジェガンは戦闘のために街に出て様子を窺っていた。
しかし、今日はジェガンが前線におらず、後方で待機をしていた。
「本当に聞こえてきた……」
リノが冷や汗をかきながらそう呟く。すると通信機越しにエリノラの恐ろしいものを見た様な声が聞こえる。
『うっ……』
「〈グリズリー〉、無理なら下がれ。安全な場所に隠れておけ」
『いいえ、行くわ』
「そうか……」
今回後方支援になったのはシン達から受けた説明を聞き。本当は戦闘に参加することも危険だと言っていたが、実際に確認をしたいからと後方支援という形で出撃をしていた。
百聞は一見にしかず、実際にそれを聞くと足元に亡霊がしがみついてきる様であった。だんだんと血の気が引いていきそうであった。
ビルの影に隠れて居るとレーナが入って来て通信をして来た。レーナがレギオンの襲来を事前に察知できることに疑問を呈しているとその
『この声……』
『少佐、知覚同調を切ってもらえませんか? 今回は〈黒羊〉が多い。俺と同調しているのは危険です』
『危険って……それに〈黒羊〉とは?』
『それについて知りたいならば、後で説明します。もう時間がありません。同調を切ってください』
『……知覚同調なしでは状況の確認が出来ないでしょう。同調は切りません』
無知とは罪だな。そう思ってしまう程度にはリノは落ち着きを取り戻していた。
段々とクリアになってくるその
『――かあさん』
「……」
そして〈アンダーテイカー〉が一気にレギオンの中に突入するとその声は一斉にクリアに脳内に響いて来た。
『かぁさんかあさん母さんカァさんカアさんかあサンカァさんカアサンカァサん母サンカァサ――』
『イヤだいヤだイやダイやダイヤだいヤダイヤだいヤダイヤだイやだイヤダイヤだいヤダイヤ――』
『熱いあついアツいアツイアついアついあツい熱いあついアツいアツイアついアつ――』
『助けてタスケテタスけて助けテタスけて助けてタスケテタスけて助けてタスケテタスけて助けてタスケ――』
それはまさに死人の声、死に損なった亡霊が嘆き、死の歌の様に響いていた。
『イッ……イヤァァァァァァ!!!』
『少佐!切りますよ!』
無数の死人の声が響き、自分も思わず知覚同調を切りたくなってしまった。
エリノラは耐えられず、知覚同調を切ってしまった。
レーナの前に居た前任者はこの声を聞いて自分の頭を吹っ飛ばしたそうだ。確かにこれは人を壊せそうだと思っていた。
彼らにとってはただの雑音にしか聞こえていないそうだが、初めて聞く俺たちは動かさなければならない手をなかなか動かせずに居た。
『今日はいつもより五月蝿いなぁ!!』
ライデンの声が聞こえ、〈ジャガーノート〉は戦場に突っ込んでいく。
よくこんな声がする中戦場に集中できるものだ。そんな事を思いながらリノはレバーを動かして〈ジェガン〉を動かす。
今回は使い物にならないかも知れないというシン達の予想は当たっており、今回の戦闘で自分達はほとんど敵を撃破する事なく終わっていた。
隊舎に帰還し、リノとエリノラは疲れた様子で二人は〈ジェガン〉の肩に乗っていた。
適当に隊舎のぬるいシャワーを浴びた二人は湯冷めの心配もなく空を見ていた。
「ねえ、さっきの……」
「ああ……聞いていたさ」
「凄い……私なんかすぐに切っちゃった。あまりにも恐ろしすぎて……」
二人は今日の戦闘を思い出してエリノラはリノに寄り添って小さく震えていた。
大の大人でもあれは恐怖を植え付けるには強烈すぎ、戦闘後もあれは嘘ではないかと思っていた。
「しかし、これでシンが言っていた意味がよくわかった」
「……」
〈レギオン〉による大攻勢が始まる
この国で戦闘をしていた時にシンから聞いた事だ。
初めは疑問が多かったが、〈レギオン〉の数が減って居る事。戦争初期と比べて〈レギオン〉の知能が上がって居る事。それを聞いてアップデートが行われて居るのかと思ったが、今日の戦闘で全てが分かった。
まさか遺体の埋葬が禁じられて居るエイティシックスの脳を回収して居るとは思わなかった。
そして〈レギオン〉に取り込まれた脳は壊れたラジオの様に同じ言葉を繰り返して聞こえる。
なんとも恐ろしい話だと思った。
これなら大攻勢に関する情報に信憑が増す。エリノラを慰めながらリノはその様な事を考えていた。
気づいた時、俺は合州国軍の旧式量産型モビルスーツ《RGM-79ジム》に乗っていた。
初めてのMSの操縦に初々しさを持ちながらレギオンとの戦闘を行っていた。
そんなレギオンとの初戦闘は最悪の地獄となった。
二個小隊八機のMSはレギオン重戦車型の急襲を受け壊滅。
初めての着任で自分にMSの癖を教えてくれた小隊長も、
自分が来る少し前に着任した自分が先に来たからと先輩ぶる仲間も、
部隊のMSは建物内にに隠れた重戦車型と戦車型が脚部の関節部を狙って行動不能にし近接猟兵側が動けなくなったMSのコックピットによじ登り、装備してる高周波ブレードで突き刺しパイロットを殺傷し、戦車型が砲撃により倒れたジムの胴体部に向けて砲撃し撃破され残った味方も奇襲による混乱により撃破された。
最後に残った俺のジムの頭部バルカンは底をつき、頼みのビームスプレーガンも故障し、ジムの手足を武器にしてレギオンを相手にしていた。
足で斥候型を踏み潰し、
破壊した戦車型の残骸を手に持って近接猟兵型に叩きつける。
思えばこの時ほどレギオンを倒したことはないかもしれない。
初めての戦闘で慣れないジムを操縦し、無我夢中で生きる事を望み、味方の救援が来るまで前線を文字通り死守していた。
もしここで戦死して仕舞えば寮を出る時にエリノラとした約束を果たせなくなる上にオバアに迷惑をかけてしまう。
捨てられていた自分を拾って育ててくれた恩返しをすると意気込んだ矢先で死んでたまるかとビームサーベルを振っていた。
順調にレギオンを倒し、あと少しでレギオンが全滅する。
そう思った時。ジムに大きな衝撃が加わり、メインモニターが割れ、後ろに倒れる感覚が起こる。
重戦車型がレギオンの残骸に乗って射角を広げてそれによる至近距離の砲撃を喰らいジムの右胸部を貫通。その余波で俺の右目に割れたメインモニターのガラス片が突き刺さり、右腕に焼けるような痛みが加わる。
『ぐっ・・・・あぁ・・・・!!』
ジムが倒れた衝撃で右目が真っ暗になり、おまけに左目の視界も真っ赤に染まる。
『あぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!!!』
薄れゆく意識の中、俺は一矢報いてやろうと残った左腕でレバーを動かす。
しかし、操縦システムがレギオンの攻撃により停止し、機能せず。ただコックピットをこじ開けようと何かが金属を切る音だけが聞こえる。
薄れていく意識の中、俺はガコンッと大きな音がし、レギオンのセンサーが顔をのぞかせた所で視界がブラックアウトした。
急激に意識が引き戻される。
そして目の前にはエリノラの顔があり、キスをしていた。
リノの様子に気が付き、エリノラは小さく微笑む。
「お帰り」
「あぁ……」
回復する意識と共に自分が何をしていたのかを思い出した。
確か戦闘に駆り出され、長距離砲の砲撃で吹き飛ばされ失神してしまった〈バーンドテイル〉の援護のために向かった先で戦車型の奇襲を受けたのだった。
今回の戦い方はいつもと違い、長距離砲による準備砲撃を受け、自走地雷がウヨウヨとしており、戦術を変えなければならなかった。
特に目立っていた〈ジェガン〉は長距離砲に重点的に砲撃を受けていた。
戦闘の経過は良好で、マシンガンだけでなんとか敵の攻撃を抑えることは出来ていたが。
〈バーンドテイル〉の援護の時に咄嗟に
「気をつけてね。今回は比較的小規模だったけど、一部とは言え命を使うようなものなんだから」
「ああ、気をつけておくよ」
リノは
目の前にはコックピットの開いた状態の〈ジャガーノート〉一機と踏み潰された斥候型、そして〈ジャガーノート〉の背後に居る撃破された戦車型だった。
その戦車型は真正面から何かが貫かれたように穴が空き、あたりには銀色の液体のような物が飛散していた。
「取り敢えず全員が無事よ。損害は目の前にいる軽傷者が一人だけ」
「そうか」
どうやら頭を切ったようで、血が流れていた。
エリノラがリノのヘルメットを取ると片手に包帯とガーゼを持ちながらリノに言う。
「ちょっと抑えるわよ」
「イテテ……」
ガーゼで抑えられ、頭をグルグル巻きにされ、包帯を巻き終えるとエリノラは汚れたガーゼを手に取ってそれを燃えている自走地雷の残骸に放り投げた。
「応急処置はしたから。後は自分で戻ってね」
「ああ、助かった」
そう言うとエリノラはコックピットを出るとそのまま駐機してあった〈キャノンガンDX〉に乗り込みその巨体を動かす。
リノも〈ジェガン〉のコックピットを閉じて機体を動かす。久しぶりにあの夢を見たと思いながら。
その時、リノの右目はいつもの青色の瞳をしていた。
基地に戻り、真っ先に言われたのはレッカからの感謝と謝罪だった。
「ごめん、今日あなたを危険な目に合わせちゃって……」
「馬鹿言うな。ジェガンの装甲を舐めるんじゃない」
頭に包帯を巻いた状態でそう言うリノにレッカは頭を下げていた。
リノの乗る〈ジェガン〉にはシールドがついておらず、その影響か所々に凹みが出来ていた。
機体のことも考えると上官にお叱りを喰らうこと間違い無いのだが。この子達と交流を深め、できれば合州国に亡命をさせたいと思っているリノは半ば独断で共和国に残っていた。
レッカの謝罪を受け、リノはその謝罪を受けるとそのままレッカは去っていき、リノは絶賛洗浄されている自分のジェガンを見ていた。
「(受領から三ヶ月でこれはやり過ぎたな……)」
そんなことを思いながらリノは泥が落とされ、所々塗装が剥げた〈ジェガン〉が姿を表す。
それはエリノラの〈キャノンガンDX〉も同様で自分ほどでは無いにしろ所々に傷があり、塗装もはげていた。
レーナから部品交換の申し出があったがそれは流石に拒否をさせてもらった。
本人は気づいていないかも知れないが、モビルスーツの情報を漏洩させないためにも部品の交換は絶対にさせなかった。
レーナからの話でしかないが、共和国の内情は思っていたよりも悲惨だった。
戦争を有色種に押し付け、八五区と言う鳥籠の中で薄氷の上を偽りの平和が支配している。
いずれは負けると悟っていても決して認められるわけが無く、目を背け続けている。
これほど悲惨な国がかつてあっただろうか。
今頃合州国にいる共和国出身者はどうなっているのだろうか。生まれた祖国の悲惨さに嘆き、怒りを抱くのだろうか。
そんな事を思っていると森の方で赤いライトが点滅しているのが見え、リノは新しくカバーを掛け直したヘルメットの電源を入れる。
「どうした」
『隊長、大事件です』
いきなり聞こえてきたテオの声は緊迫した様子であった。ただ事では無いその様子にリノは目を細めながら聞き返す。
「……何があった」
『隊長の指示で共和国のネットワークに接続して軍の内情を確認しました』
それから聞いたテオの報告にリノは思わず苦言を呈す。そんなガバセキュリティの軍で大丈夫なのかと。
『共和国軍は毎年一〇万単位でジャガーノートを発注しています。おまけに年間被害数もほぼ同じ数です』
「……クズだな」
『ええ、おまけに生き残った有色種も各戦線を盥回しにされて最後まで生き残った隊員には特別偵察任務という〈レギオン〉支配域の奥まで生かせる片道切符の死の命令が下されるようです』
「……」
もはや言葉が出なかった。そこまでして共和国は有色種を消したいのか。共和国の行動にもはや怒りをこして呆れてしまっていた。
「まるで染み抜きだな……」
そう呟くとテオはさらに悪いニュースを持ってきた。
『それと隊長。聞いておいて欲しい事が……』
「言ってくれ」
『実は……』
この時のテオの報告はリノをイラつかせ、最早呆れさせるには十分なニュースだった。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい