86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#70 武器使用自由

頭上の星屑はかつての八六区の、人工の灯りのないからこその豪奢さで、眼下に広がるこれも儚い蛍のそれにも似た淡い光。

八六区にいた頃は何も感じなかった。その煌めきの幽かさを、それから二年経った今。シンは少し寂しいと感じる。この寂寞が今はなぜか、奇妙に胸に迫る。

この艦尾側に大きな荷物を積んだ全長三〇〇メートルの甲板にはあの目立つレーナの…見紛うことの無い銀髪の長い髪は見当たらない。誘ってみようかと思ったが、戦争が終わるまで海は見ないと言ったそうだとヴィーカから聞いた。海を見せたいと言った、自分の言葉の応えとして。

それは嬉しいが……それよりは流石にそろそろ答えて欲しいのだが。

その時ふと、艦首近くに立つイシュマエルの背が目に入る。

見て居るシンに気づく事なく、飛行甲板に膝を突く。そのまま額づくようにして、ーー恐らくは飛行甲板に口付けをした。年老いた母親につけるような敬服と謝意で。

 

「……?」

 

何だろうとシンが思う間も無く、フレデリカに呼ばれる。

 

「シンエイ」

 

それきりシンはこの事は強い疑問を持っていなかったので忘れてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『ーーミシア第九艦隊より、アルシェ第八艦隊。作戦開始線に到着。作戦を開始する』

 

翌日。

敢えて日没前に母港を発った二つの陽動艦隊は如何にも目的地を偽装する風で〈レギオン〉支配域沿岸へと一旦進路をとった後に転針。敵砲の射程圏の外縁を進む。視界の先には海面スレスレを進む四隻のレパント級の姿があった。それらの艦隊は陽動艦隊と同様敵砲射程外縁を弧を描いて進み、艦隊司令はその手にある操作盤を手に取る。

 

「ーー了解、聖エルモの加護を」

 

無線封鎖で届かない祈りをエステルはする。作戦開始に備えて艦長たる兄は今は休息を取っていて、その代打として立つ最後の統合艦橋だ。

 

「〈オーシャン・フリート〉各艦に伝達。出撃準備。ーー陽動艦隊が交戦に入り次第、摩天貝楼拠点へ侵攻を開始します」

「アイ・マム。……兄上には、」

「まだ宜しいでしょう。兄上には本艦隊が交戦に入った際、万全の状態で指揮を執って頂きーーその上で見届けていただきますから。……それよりも、合州国艦隊に発光信号を」

 

その発光信号の後、作戦の為に合州国艦隊は前進を始め。全員でそれを見送っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『モビルスーツ隊は発艦せよ。繰り返す、モビルスーツ隊は発艦を開始せよ』

 

格納庫にアナウンスが響き、リノのハミングバードも格納庫のエレベーターに乗り込む。全天リニアシートから見える景色には先にカタパルトから発艦する隊員の姿が見える。

殆どが自分よりも年上で、それでも自分を隊長だと思ってくれる隊員達。

今回連れてきたのはリゼル全八機とジェガンD型四機とA2型四機、それからジェガンSC一機。

本当はもっと余裕のある機体数を載せられるが、SFSに場所を取られてしまっていた。一時はリゼルに全機乗っけるかとも思ったが、効率が悪くなると言う事で94式ベースジャバーに乗せていた。航続距離を上げて戦闘時間を増やす為に……

 

エレベーターが上がり切り、リノの駆るハミングバードも前に出る。

既に艦隊は前進を開始し、後ろに流れていく海面が見える。

遠くには既に発艦した様子のモビルスーツが見えており、ハミングバードもカタパルトに足を掛け、やや前傾姿勢を取る。

 

「すぅ〜……リノ・フリッツ。ハミングバード。出ます!」

『中佐、良い戦果を!』

 

その瞬間、カタパルトが前進し、一気にモビルスーツは加速してそのまま離陸する。

エンジンの加速をかけ、四機のブースターで一気に加速すると空中でウェイブライダー形態に変形し、そのまま先に発艦した部隊の後に追いつく。

 

そして、周りに全機いることを確認すると知覚同調を使って連絡を入れる。

 

「良いか?俺たちの目的はあくまでも陽動だ。向こうに無駄弾を撃たせろ。それから、観測機母艦を見つけたら片っ端から潰していけ。()()()とエイティシックスの花道を作ってやれ!!」

『『『了解』』』

 

良い返事だ。最後尾からはクラウの乗るジェガンも追いついてきて居る。ある物に乗って……すると、クラウから通信が入る。

 

『ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布完了』

 

よし、戦う部隊の準備はできた。

 

「よし、ウェポンズフリー。……戦闘開始だ!」

 

その声と共に部隊は散会し始めた。遠くでは、少しだけ一瞬の光が漏れた様な気がした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

作戦が始まる少し前、合州国艦隊が先行して進みだし、モビルスーツ隊の発艦が始まった頃。〈ステラマリス〉でも、作業員が走り回っていた。

甲板上に繋ぎ止められていた大型のその飛行物体に危ないと言われて甲板端の遠くから見ていたクレナがふと呟く。

 

「本当に飛ぶの?あれ……」

「さぁ?でも明らかに飛ぶ見た目をしていないよね……」

 

そう言い、セオは灰色に塗装されたその機体を見る。上は連邦でも見た事のある旅客機に似ているが、下が明らかにおかしい。変に角張った箱の様なものを取り付け、子供の工作の様に取り付けられた前に一個、後ろに二個の回転翼。機体上部の後ろ側には四つのジェットエンジンが配列されており、カーゴの部分には一機のジェガンと、武器が何丁か置かれていた。

すると、スピーカーから音声が入る。

 

『進路よし、ガンペリー・シギント。発艦を許可する』

『了解。ガンペリー・シギント、ジェガンSC。発艦する』

 

そう言い、その声に反応する様にクラウの乗るジェガンSCが乗り込んだ強襲型ガンペリーは回転数を上げるとVTOL機の様に垂直に離陸していき、ジェットエンジンが前方に推力を伸ばし始める。

 

「本当に飛ぶんだ……」

「ねっ」

 

クレナとセオは信じられない様な目でその光景を眺めていた。

気のせいだろうか、管制員も信じられないと言った様な目をして居る気がする。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

強襲型ガンペリーやモビルスーツ隊が発艦していく様を見て、シンは神父様に教えてもらった話を思い出していた。

 

 

 

あれは、神父様がリュストカマー基地に来た時の事だった。神父様は基地を歩くモビルスーツを見て怪訝な目をしており、思わず疑問に思ってしまうとその理由を話してくれた。

 

神父様は二八年前の一年戦争の時。丁度現役で軍人をしており、その目で一年戦争を見ていたのだと言う。

身近だけど、何も知らない国である合州国の話しだと言う事で気になって詳しく聞いてみた。

 

「あの時の夜は本当に、美しい景色だと思った。

空一面に、幕が降りる様に光の線が無数に空に上がっていた。流星の雨の様にな。その時、通信障害が起こっていたこともあって皆空を見上げていた……」

 

今でも時折思い出す事のある景色だと言う。想像しただけで綺麗だと思ってしまうが。神父様は曇った表情で続けた。

 

「だが、翌日にはその流星の正体が分かった。

 

 

……それは人工衛星だった。それも、世界中の人工衛星だ。自分達が流星だと言ってみていたのは、自分たちの国の人工衛星だったかもしれない。それと同時に、合州国で内戦が起こったと言うニュースも入った。

人工衛星が落とされ、世界規模で通信が出来なくなったから何も情報が入ってこなかった。そこで、情報収取のために自分は合州国に向かう事になり、実際に戦地に赴く事になった……いやぁ、驚いたものだ。この時代に、まさか観戦武官の様な事をしなければならないとはね……」

 

まさかの話に驚いた。観戦武官と言うのは、歴史の教科書で少しだけ齧った事のある言葉だった。確か第三国の戦争を観戦し、士官の制度とかを見る武官だったか……確か、戦争の規模拡大と移動手段や通信手段の発展で無くなってしまった文化なはずだったが……

 

「だが合州国に着いた時、自分は絶句した。

戦闘はいつどこで起こるかわからない上に、毎日の様に変わる戦線。一般人が生活していた街でいきなり戦闘が始まった。それは言い難い地獄だった……」

 

そう言い、昔のことを思い返しながら朗読する様に話す。散々地獄を見てきた自分たちだが、それとはまた違う景色だと神父様は言う。

 

「その時、戦闘をしていたのがモビルスーツだった……あの陸上の鋼鉄の巨兵は街の中でまるで歩兵の様に近接戦をしていた。街中にはザクと呼ばれていた化け物が機関銃を撃ち、そこから弾き出された戦車砲の様な薬莢が逃げ遅れた民間人に直撃して……そのまま死んでいた。少なくとも、今のお前には詳しく聞かせられないくらいにな……」

 

そう言い、神父様は俺を見てそう口にする。どうして詳しく言わないのかは分からなかったが。敢えて聞こうとは思わず、話の続きを聞いた。

 

「あの呪われた兵器が様々な場所で戦闘をするから何処にも安全がなかった。おまけに国土はブリティッシュ作戦とか言う人工衛星落としのおかげで至る所にクレーターが出来ていた。……実を言うと一部は合州国との国境に落下して共和国側にも落ちていたんだ。

だが、あの惨劇を見て自分達派遣された役員は国に帰っても戦争に参加するべきではないと訴えた。そしてあれよこれよと参戦準備に手間取っていたら、内戦は一年で終わった……それが、後に一年戦争と言われる合州国の内戦だ」

 

とても重みのある、悲壮感溢れる話だった。歴史でざっとしか習っていない一年戦争だったが、当事者からしてみればあの強靭な神父様さえこうしてしまうほどに辛い経験だったのだと理解する。

そして最後に神父様は俺に言った。

 

「あのモビルスーツは呪われた兵器だ。お前達の思う夢の様な兵器では決してない。

確かに〈レギオン〉相手には多大な戦果を上げているかもしれない。だがあの兵器に取り憑いているのはパイロットを地獄に引き摺り下ろそうとする悪魔だ。そして、その悪魔は周りにも悪い影響を及ぼす。……だから決して、見誤らないでくれ」

 

神父様はそう言い残すと、格納庫に入っていくモビルスーツを忌々しく見ていた。神父様があんな表情をしたのは初めてだった……

シンは少しだけモビルスーツと言うものに神父様の話を頭の片隅に置いていた。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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