86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#75 上陸

軍艦としても巨大な征海艦は飛行甲板までの高さは二〇メートル近い。鋼鉄の梁を格子に組んだ鋼鉄製の巨大な蜘蛛の巣。一口に鉄骨といえどその一本の大きさもまた巨大で戦車型でも容易く通れるほどの大きさだった。

最下層の迎撃部隊を砲兵に薙ぎ払わせ、ついで先陣を切ってスピアヘッド戦隊が進出。ワイヤーアンカーを梁に引っ掛けて跳躍し、アンカーを回収しながら着地する。

摩天貝楼拠点内部は幾つかの階層に分かれており、それぞれ三つのフロアに分け、階層AからEと呼称した。そのA階層一フロア、要塞最下層のフロアに立って、シンは頭上に広がる要塞、その内部を見上げる。

外から見ても巨大だったが、中か見るとその途方もない広さがよくわかる。基地一つ、工廠の一つが丸ごと収まる広大さだ。

正三角形の格子状の各フロアが重なり合ってレース模様を黒々と刻んでいた。最上階にいる電磁加速砲型へ補給をする為か複々線程のレールが弧を描いて各フロアを貫いていた。目眩のするような、白日夢のような海上楼閣の威容。

その影と亡霊達の悲嘆、永遠の薄明と幾何学模様の影絵を背景に。

ざ、と鉄色のレギオン特有の影が無数に、一斉に立ち上がった。

 

「うわ、例のザクがいるよ」

 

そう言い、同じく鉄色をした一機のモビルスーツが視界に入る。持っているのはヒートホーク、近接戦仕様だった。うっかり踏みつけられそうで怖いが、そんなことも言ってられない。

 

「ーー死神殿。予定通り、我ら〈アルカノスト〉が斥候を勤めまする」

 

言い置いて〈アルカノスト〉の一群が飛び出す。上のフロアに登るための足場は、レールの他は要塞中央部を二重の螺旋構造を描いて登る鉄骨製の階段のみ。これではどうぞここを撃ってくださいと言わんばかりだ。だから本来の足場ではない。壁面の構造材や支柱を軽量を生かして登り、増設したワイヤーアンカーを巻いて一直線に駆け上がる。

 

無論〈レギオン〉も黙っているわけがなく、〈アルカノスト〉進出と同時に囲うように近接猟兵型の一段が降り立つ。

その背後では対戦車砲兵型がずらと砲口を並べて立ち上がるところで、ここの主兵力は近接猟兵型と対戦車砲兵型のようだ。足場の悪いここでは軽くて運動性のいいこの機種が有効だ。

どうせ、隠れている〈レギオン〉の斥候型はシンの異能である程度わかる。自分たちの役目は〈レギオン〉を倒し、エイティシックスが進出するまでに戦力を減らすことが目的だ。

 

「まずは目を潰す。ーー優先して斥候型を狙う」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

揚陸を終えた艦隊は一旦通り過ぎた後、再集結して合州国艦隊と合流する。かの艦隊は要塞周囲を飛ぶザクに攻撃を加えられたのか、やや損傷していた。そんな艦隊の〈ステラマリス〉に照準が合わさる。

〈ステラマリス〉は戦車型の射程距離から離れており、征海艦単体では脆弱だ。〈レギオン〉にとっては鴨であり、〈ステラマリス〉はこの作戦最大の弱点だ。摩天貝楼の上、第五層。弾薬切れに追い込んだはずの電磁加速砲型が円蓋を出て身を乗り出し、俯角を取って青白い稲妻を纏う。

 

「まぁ、狙うわな。俺だってそうする」

 

その瞬間、合州国艦隊が砲撃を開始する。流石はメガ粒子砲、強烈な砲戦とミサイルが飛翔し、砲身が爆発を起こし、更には飛行するモビルスーツ隊の一斉射で砲身が溶けて根本から折れた。

 

「ーー電磁加速砲型の砲身の破壊に成功」

『ちっ、野郎装甲と装弾数を増やしていやがったか……』

 

少なくとも対ビームコーティングを施していた時点で装甲面ではかなり強化されている。去年の時にリノ達の長距離攻撃で砲身が破壊されたのを見ての変更だろうか。クラウのガンペリーからの狙撃と合わさって砲身を破壊していた。どっからその技術を持ってきたのやら……

 

『ええ。ですが声はまだ消えていないーーまだ撃破には至っていません。残弾を残している以上、砲身交換が完了次第、砲撃が再開される』

 

第一層第二フロアを攻略中のシンが応じる。

つまり、それまでに拠点の制圧と、電磁加速砲型の撃破を完了させなければならない。

工廠と思われていた拠点であったが実際は全てのフロアが空洞で、拠点の制御中枢と思われた二機目の〈羊飼い〉も電磁加速砲型と同じ最上層にいるらしい。撃破目標が同じ場所にいるのはいいが、……電磁加速砲型ではない二機目の正体は不明だ。

 

『換装完了までの、予想時間は?』

「この一月の、船団国群への砲撃のインターバルは最小で六時間……同程度と見てください」

 

六時間……それまでに作戦を完了させなければならない。

 

『レオーネ、上から直接行けないか?』

『やれるならとっくにやってる。突入するにしたって向こうのレーザー兵器の攻撃と対空自走砲型の攻撃で接近は無理だ』

 

そう言い、リノは要塞を周回しながらついでにレギオンを外側から実弾で攻撃していた。要塞を溶断するわけには行かない。よって要塞への攻撃は実弾のみで終わっていた。

 

 

 

先程までおそらくはオリジナルのバックパックを装備したレギオンザクが要塞から飛び出しており、その対処に追われてしまった。飛び出したレギオンザクは全機撃墜し、外は一瞬の静粛に包まれた。

 

「ーーこちらの損害は?」

『リゼル一機、ジェガンが二機。パイロットは一名殉職。残りは着艦したわ』

「……了解した」

 

損害を確認し、リノは内心冷や汗をかく。元々少ないとはいえ、三機を失った。予備機は〈アレグランサ〉にあるが、パイロットの負荷を考えて再出撃は無理。つまり、残り十二機でこの戦線を抑えなければならない。

 

「早めに来てくれよ。エイティシックス……」

 

そう言いながらリノは要塞のビルディングの間をすり抜けて〈レギオン〉の注意を引いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

積載重量が限られる中、分析のための演算能力を持ち込むレーナの〈ヴァナヴィース〉とヴィーカの〈カデューカ〉の中。

斥候を行う〈アルカノスト〉を管制しながら、その〈アルカノスト〉とのデータリンクを通じて共有される摩天貝楼拠点の光景にヴィーカは目を眇める。先刻までここを埋めていた〈ジャガーノート〉は出撃し、広くなった〈ステラマリス〉の中。

建築途中のような、立ったまま朽ちた巨獣の白骨の様な、この異様な形状の要塞。

 

……建造の目的はなんだ?

 

それが分からない。工廠と、ザイシャは言ったが、その様な設備はない。これからその予定で、これから資材を運ぶ予定だったのだろうか。よもや電磁加速砲型の砲撃陣地だけなわけもあるまい。それならそもそもこんな遠洋に作る必要はない。

目的が見えない、出所も分からぬほど大量に投入された鉄材の、それだけの投資をする価値はあるのだろうか?

いや。

 

「出所については、分かりきっているか」

 

未だ阻電錯乱型の電波妨害で鎖されて、多くの国家、勢力圏は未だに連絡がつかない。生存さえも分からぬまま。

例えば大攻勢で滅びても、ーーその声はこの周辺国には届かない。

滅亡を確認できないのは……どの国も滅亡していない事とイコールではない。そう、ゼレーネも言っていた、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「……ミリーゼの予想、当たるかもしれんな」

 

少なくとも、自分たちのよく知る国でも同じとをしていると、レーナから聞いていた。そしてヴィーカは知覚同調を起動させる。

 

「ホーンドアウル。今から要塞の周囲をマッピングして欲しい。できるか?」

『良いけど、何に使うの?』

「いや、念の為だ」

『了解』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

大火力だから軽装甲の対戦車自走砲型は各層に濃密な火力ポケットを構成し、進出と同時に猛砲火を浴びせてくる対戦車砲兵型。足元の奈落にも一切恐怖なく飛び移り、垂直面をワイヤーの支えなしに疾走して飛び掛かり、一対目の脚部を高周波ブレードで斬りつけてくる近接猟兵型。

何よりもこの第一層第三フロアからは遥かに高い第五層、底面に群れる阻電錯乱型の銀の紗幕を割って降り注ぐ。電磁加速砲型の六連装回転式機関砲の掃射。

知覚同調で確認する〈レギオン〉の絶叫。それが強まり、ライデンは急停止。目の前を機関砲弾の弾道が斜めに斬り裂く。一撃でへし折られた鉄骨の梁が外れて落ちていく。

四〇ミリの機関砲弾だ。〈ヴァナルガンド〉の上面装甲すら貫徹する……。一呼吸で何百発もの弾丸を吐き出し、加熱しやすいのが問題点だが、幾らか増設した様だ。

 

視界の端、僚機が登攀しかけた垂直の支柱から飛び移るのが目に映る。あれはカイエの機体だ……

ちょうど近接猟兵型の突貫を外れた様だった。目標を失い、そのまま虚しく落ちていく近接猟兵型を〈キルシュブリューテ〉は照準し。

直後に上層の梁に隠れていた自走地雷が飛びかかった。

 

『っ!?』

 

その瞬間、ライデンが動く直前。自走地雷に一発のビームが貫通する。外を飛行するハミングバードからだ。ついでに〈アンダーテイカー〉が落ちていく近接猟兵型の動きに気づき砲撃。背中のミサイルに誘爆して爆散。

 

『……済まない。助かった』

『気をつけろよ』

 

一方で無言のまま、頷いたらしいシンが指揮下の全隊と、それからユートやリノに知覚同調をつなぎ直す。しんと静謐な、それでいてよく通る声が戦場を渡る。

 

『各機。敵迎撃部隊に自走地雷を確認。小型で見落としやすい。データリンクを当てにしすぎるな。警戒を厳に』

 

本来なら言うまでもない当然の注意に改めて促して、静謐な声音のまま、ふと、かれらの死神は言い添えた。

 

『作戦時間はまだある。ーー悠長にもできないけど、焦る必要もない』

 

すると、知覚同調で連絡がいく。

 

『済まない、こっちの推進剤が切れかけている。一時戦線を離脱する』

『了解した。まだ焦らなくても良い、気をつけろ』

『忠告感謝する』

 

そう言い、ガンダムは要塞から離れてカイラム級に補給をしに向かった。

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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