86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#79 嵐の作戦

足場に注意しながら登攀し、ここまで上がってきた。しかし極限まで研ぎ澄まされた神経が疲労。

退路を誤って射撃を喰らい、すぐ近くの僚機の存在を失念し衝突し。あるいは脚を踏み外して下層へと転落し、戦死者と負傷脱落者の数は積み上がっていた。その様子にガンスリンガーの中でクレナはきつく歯噛みをしていた

自分の役割は仲間やシンを危うくする敵機の排除。電磁加速砲型のような高価値目標を仕留めるために狙撃砲を装備するガンスリンガーに期待される役割でーーシンの傍らで戦い続ける為に自分が研いだ技能だったはずだ。

それなのに、クレナは標準を合わせることですらできていない

 

気ばかりが焦る。

 

見えない射撃がとにかく厄介だ。合計するとどうやら二四基あるらしい回転機関砲の波状攻撃と要塞外周から水平の格子を描いて中央から放射状に、頂上階の底面全体から垂直に、一方から斜めの角度でランダムに照射される攻撃子機型の熱戦と。

どちらも数が多い上に射撃範囲が広い影響で回避に専念するしかない。警告がどうしても先になり、鋼鉄の梁の巣に籠る間はなかなか砲撃が通らない。反撃ができない。

 

ジリジリと焦燥が腹の中を焦がす。

私は、同胞なのに。シンと同じーーいつまでも同じ、エイティシックスなのに。

 

戦い抜く者 なのに。

 

それは失われない。

そう教えてくれた人が、今日彼ら自身の誇りを失うことは思い出さないふりをしていた。

 

シデンの〈キュプクロス〉を追おうとした回転機関砲の照準が、ーー不意に静止して〈ガンスリンガー〉に切り替わる。暗い砲口に睨みつけられてようやく、クレナはそれに気づく。

 

「っ、ブラフ……!?」

 

回避は間に合わない。無意識に身を強ばらせた。

転瞬。

八八ミリの砲号と共に、回転機関砲の側面に着弾。

撃ったのは〈アンダーテイカー〉。シン。

 

『大丈夫か?クレナ』

 

聞き慣れた彼の静謐な声が問うてくる。ほっとクレナは息をついた。

そう、きっと大丈夫だ。

どんな事だってきっと今みたいに何とかなる。彼女の死神はこんな風にーー決して自分を見捨てないでくれる

 

だから、大丈夫。

 

「うん!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

クレナの声を聞いてシンは小さく息をついた。彼の異能は物理的な音声ではない。レーダーのように共有できないのもどかしかった。

〈レギオン〉の位置が聞き取れても、攻撃のタイミングを計れても、それだけでは全員を助けられない。それが嫌だと、強く思った。

 

フレデリカと同じだ。

奇跡に頼りたくはない。それ以上に彼女を犠牲にしたくもなくて、ーーけれどその結果、仲間が死ぬのも容認したくない。

 

エイティシックスが死ぬのは当たり前だとーーもう思いたくない。

無茶だと分かっている。

都合の良い奇跡を誰よりも願っているのは自分自身だ。

叶うならば、誰も犠牲にならない道を選びたい。

 

八六区をもう、……自分達は出たのだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ジリジリを胸を焦がすような時間の果て、ヴィーカがついに解析を完了させ。データリンクを通じて各艦艇のホロスクリーンと戦闘中の機体に転送された。

 

「ヴィーカ、火力拘束、および面制圧の指揮権を一時そちらに預けます」

『了解。ーー該当する各機、聞いてたな。今送った通りに標準を設定しろ』

「シン、ユート。前衛の指揮はそのまま。突入のタイミングは任せます」

『了解』

「砲兵戦隊。次弾装填。弾種、対人散弾」

 

火に弱いアルミ合金の〈レギンレイブ〉がそれと乱戦になる可能性も考慮し、焼夷弾に加えて持ってきた弾薬だ。

 

『こちらモビルスーツ隊、準備完了。ハイパーバズーカを装備した』

 

リノからの報告もあり、レーナは了解して傍にいる征海艦隊の指揮官を見る。

 

「イシュマエル艦長」

「ああ、任せろ」

 

レーナは摩天貝楼拠点を見据え、レーナはその言葉を通信に乗せた。

 

「ーー作戦開始」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

砲身の摩耗ならまだしも、折れた砲身の換装には流石に時間がかかる。おまけにモビルスーツの攻撃で用弾装置が故障した。

敵部隊の排除は未だ未完了。

対空レーダー以外のあらゆるセンサと、有する三対二四基の回転機関砲を下方に下げ、指揮下の攻撃子機型と阻電撹乱型の指揮を執りながら射撃を繰り返す電磁加速砲型はふと、その高速の機関砲弾の奏でる叫喚の狭間に違う音を捕える。

聞こえるはずのない細やかなノイズ。

眼下の戦闘にさえ殆どマスキングされてしまう、何も聞こえないはずの聴音センサが。

 

遠くで、こぉん、と鳴く音を、幽かに捉えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

凛とレーナは声を張った

 

「作戦開始ーー〈ジャガーノート〉は全機退避」

「撃ぇっ!」

 

イシュマエルの号令でステラマリスの主砲四〇センチ連装砲四門が射撃。

猛烈な衝撃波が飛行甲板を駆け抜けた。距離が近く、砲兵仕様の〈ジャガーノート〉が悲鳴を上げた。

砲弾は〈ステラマリス〉艦首方向。摩天貝楼拠点の上方へと突き進む。秒速八〇〇メートルの高速を持ってほぼ真上に飛翔し、時限信管が作動。空中で分裂した原生海獣の装甲鱗を剥ぎ取るための爆雷が外装パネルに食らいついた。

爆雷の炸裂と共に一溜りもなく広範囲にわたってへし折られる。

 

「ーー八八ミリ榴弾は耐えられても。四〇センチ榴弾は耐えられない。そしてーー」

 

拠点内部を外の嵐から守っていた壁が消えた。

嵐の風がまともに吹き込む。一気に侵入した強烈な風に摩天貝楼拠点内の気圧が瞬間的に上がった。

 

「この風圧の嵐ならーー内部から拭き飛ばせる!」

 

逃げ場を求めた風が第四層の全周に渡り、爆風にも似た威力で吹き飛ばした。

砕けた青い破片が海に降る。阻電錯乱型の脆い羽根は吹き散らされた。散々対空でモビルスーツを近寄らせなかった対空砲兵型も、ビームも風に負けて収束出来ずに吹き散らされる。

その間隙をつくようにして。

 

「砲兵戦隊、斉射!」

『バズーカ発射!』

 

〈ステラマリス〉の甲板上と、空中。砲兵使用の〈レギンレイブ〉一個戦隊とハイパーバズーカを持ったモビルスーツ隊が斉射。

対人散弾の詰まったキャニスター弾と三八〇ミリのサーモバリックロケット弾は放物線や斜め上から下に直接頂上階に、上下から電磁加速砲型とその宿る要塞頂上へと迫る。

空中で炸裂して霰のような散弾を撒き散らし、同時に爆発したサーモバリック爆薬が穴の空いた天蓋の中で炸裂。酸素と混合して大爆発を引き起こす。

機上に張り付く阻電攪乱型はその爆発と散弾に耐えきれず、燃やされていき、新たな阻電攪乱型が舞い降りるのを防ぐ。

 

光学迷彩に隠れる無数の攻撃子機型が、生き残っている八門の回転機関砲がーーついに露見した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「火力拘束、面制圧仕様各機、照準補正!」

 

続けてヴィーカの司令が飛ぶと。それぞれ指定された場所へと砲撃をし始めた。艦砲射撃の後は要塞の内外で同時に作戦進行が必要だ。レーナでは難しいので、要塞内部。半分の指揮を彼が受け持つ。バズーカを持ったモビルスーツ隊はサーモバリック爆薬でひたすらに銀の翅を焼き尽くす。急激に酸素が消費されるためか、要塞内部でも下から上に向かって風が吹いているそうだ。

そして爆炎や暴風に煽られ、中にいたであろう潜んでいた攻撃子機型が姿を現した。

タダでさえ小型な部類の攻撃子機型は熱線を打つ為に莫大なエネルギーが必要になる。エネルギーパックを交換する時間もない。その為、どこか有線でつながっているのだろう。指定された場所にミサイルや砲撃が加わり、灼かれている攻撃子機型を続々と撃破していた。

そのう内、爆発した光学迷彩が剥がれ、柱の影に身を隠した攻撃子機型が姿を現す。文字通り翅のない蜂を思わせる、六脚の形状と〈レギオン〉特有の鉄色。針の代わりに腹に抱えた熱線の発振装置と光学センサを青く煌めかせ、一対の脚の昆虫めいた鋭い先端を梁の接続や設けられた穴に深々と差し込んでいる。

 

射点の固定ーーすなわち要塞からエネルギー供給のための電源口。

身を固定する攻撃子機型は咄嗟に移動ができない。この暴風で一瞬身動きが封じられたのも幸いした。

 

『掃射!』

 

四〇ミリ機関砲と、八八ミリ散弾砲に三八〇ミリロケット弾。その織りなす唸りと噛み付く咆哮、高い叫喚の合唱が、摩天貝楼拠点に轟いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

バズーカの残弾も僅かの頃、ついに電磁加速砲型の回転機関砲がーー実に三対二十四基のガンマウントアームを剥き出しにした。

それに気づいた〈ジャガーノート〉は榴弾を放ち二対を、狙撃仕様の〈ジャガーノート〉が格子の奥に潜む八基を吹き飛ばした。

 

榴弾の炸裂にハイパーバズーカの爆炎。攻撃子機型の誘爆の焔。

第四層全体を赤黒く塗りつぶす業火に、電磁加速砲型のセンサーは塞がれた。転瞬、その爆炎を抜けてアンダーテイカーが駆け抜けた。頂上階の底面を高周波ブレードで切り開くとついに頂上階に到達した。

ごぉっ!と吼えた機械仕掛けの亡霊の断末魔は二つ。いずれも電磁加速砲型の中からだ。おそらくは制御中枢と、自由度の上がったガンマウントアームと回転機関砲。おそらくこの二つ用のサブのサブ中枢。

壊れたオルゴールのように鳴り響く思惟、その怨嗟と呪詛を繰り返していた。

 

帝国万歳、帝国万歳、帝国万歳ーー……

 

エルンストの予想通り、旧帝国の帝室派の残党。

切り開いて躍り上がった位置は電磁加速砲型の至近。三〇メートルもの砲身では例え砲が無事でも死角が存在する。砲塔の後ろに二対、天には向かうように広がる放熱索の翅が崩れる。バラりと解けて近接格闘用の導電ワイヤーと化し、先端の鍵爪を雪崩のように落とそうとする。

電磁加速砲型が自身を守るための最後の切り札。

 

けれどそれは。

 

一度見た攻撃はシンには通用しなかった。

解けて直ぐ、天を突くように広がった形だ。〈アンダーテイカー〉とは少し距離があった。その距離を詰めるよりも先に砲兵やハイパーバズーカの砲弾で燃え上がらせた。通電能力の失ったワイヤーはシンがブレードを当てて叩き落とし、メンテナンスハッチの上へと着地させる

 

一年前、フレデリカの騎士が潜んでいた場所に……

 

振り落とそうと暴れる姿はムカデが酸をかけられた時に似ていた。シンは兵装を五七ミリパイルドライバに変更、四基同時に爆発。激震に歯噛みしながらも兵装を今度は八八ミリ主砲に変更し。

 

トリガを引いた。

 

 

 

 

 

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