86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#8 真実

星暦二一四八年 八月二十五日

 

パンッ!パンッ!

 

廃墟となったサッカー場で花火の上がる音が響く。

夜空を照らすそれは見るものに感嘆の声を漏らさせた。

 

「綺麗なものだ」

「本当ね」

 

〈ジェガン〉のコックピットでそう呟くのはエリノラだ。二機の〈ジェガン〉はハッチを開けたまま地面で閃光を放つ小さな花火を見ていた。

この花火は少佐がわざわざ送ってきてくれた物だった。今日は共和国の革命祭、せめて今日だけは楽しんで貰おうという少佐の心遣いから特殊弾頭として送られてきた物だった。

 

「彼らに取ってはこれが最後の花火大会になることとなるのか……」

「そうね……」

 

リノは悔しそうに、悲しそうに、そう呟く。

彼がそう思うのも無理はないとエリノラは思っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

きっかけは一昨日の事。リノは隊舎の食堂に全員を集めていた。

 

「何?話って」

「わざわざ全員集めて」

 

そんな疑問が投げかけられる中。リノは口を開いた。

 

「今日は集まってもらって申し訳ない。皆に聞いてもらいたい事があった」

 

いつになく真剣な眼差しで話すリノに全員が耳を傾けていた。

そして語られる話に全員が一瞬驚き、一部は疑問に思う。

 

 

「合州国に亡命しないか?」

 

 

リノは今までに無いほど真剣になって聞いてきた。

 

「君達には秘密にしていたが、ここでの情報は既に合州国本国に送らせてもらった」

「「「「「「!?」」」」」」

 

リノの暴露に全員が驚いた様子を見せる。

ここから合州国と言う国まで粗電攪乱型の電波をどうやって潜り抜けたのか。

それは分からなかったが、それでもリノは自分たちに提案をする。

 

「合州国ではいつでも君たちを受け入れる準備ができている。君達の()()()()()が下された後に俺たちが責任を持って君達を合州国まで案内する」

 

一度も話した事がないのに特別偵察任務の事をなぜ知っているのか。

疑問に思う点は色々とあったが、そもそも亡命という言葉を知らないクレナにライデンが説明をした。

 

「ボウメイって何?」

「簡単に言えば合州国に逃げて匿ってもらうって事だな」

「ふーん」

 

ライデンの説明を受けなんとなく納得したクレナはそれだけで済ませるとリノの話を聞いていた。

 

「この中で合州国に亡命したいと言う者は手を上げてくれ」

 

そう言うと沈黙が続き、手を挙げるものは誰一人をいなかった。

 

「……誰もいないのか……?」

 

リノが驚愕しているとライデンが口を開いた。

 

「リノの提案には感謝をするさ。アンタらが俺たちのために亡命を提案してくれたのはありがてえ。

だがな、ここにいる全員はシンに連れて行って貰うって最初に約束したんだ。だからリノの提案には悪いが断らせてもらうぜ」

 

ライデンから語られた言葉に全員が頷くとはいかずとも肯定している様子であった。

その事にリノは止まっていた思考を戻すと言葉を紡いだ。

 

「君たちは……命が惜しいとは思わないのか?」

「……たとえ死んでも、連れて行ってくれるから」

「……」

 

クレナがそう呟き、リノは思わずシンの方を向く。

相変わらず本を読んでいて無表情ではあるが、肯定をしているようであった。

 

「……そうか」

 

リノは全員の意思を確認すると悔しげに拳を握った。

 

「気が変わったらいつでも言ってくれ。合州国はいつでも君達を歓迎させてもらう」

 

そう言い残してリノは食堂を後にした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ダメだったんなら最後まであの子達を見届けましょ」

「そうだな……最後まで粘るとしようか」

 

花火が打ち上がるのを眺めながらリノはそんな事を呟き、各々花火を楽しむシン達を眺めていた。

 

この時、アンジュとダイヤはお互いに自分の正直な思いを伝え合っていたそうだ。

そして、最後まで共にするという誓いを立てていた、

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

星歴二一四八年 八月二七日

 

この日は市街地戦の為、〈ジェガン〉二機は建物の影に隠れながら〈レギオン〉の様子を確認していた。

 

『戦隊各員傾注、これより〈レギオン〉の前進拠点の制圧にかかる』

 

シンの声が通り、全員がレギオンと相対する時、リノの頭に映像が映る。

空にぽっかりと空いた穴と爆炎。

リノは久しぶりに起こった未来視に瞬時に何が起こったのか理解できた。

 

『〈デカンの悪魔〉が来る!!全員逃げろ!!』

 

そう叫んだ刹那、粗電攪乱型の埋め尽くす空に大穴が空き、着弾すると爆炎と衝撃波をもたらす。

 

『何だ!?』

 

全員が混乱する中、リノの声が戦隊に響く。

 

「三秒後にポイント二〇三、八秒後にポイント四〇八に砲撃が来るぞ!!」

『三秒!?』

 

そうレッカが叫ぶ中時間は経ち、三秒後に第二射目が、八秒後には三射目が着弾し、爆炎と衝撃波をもたらした。

 

『か、解析出ました!発射位置、東北東百二十キロ、推定初速は……秒速四千メートルっ!?』

「……間違いない、デカン高原で一撃で一〇個師団を葬ったやつだ!!」

 

レーナの報告にリノは舌打ちをする。

 

『作戦中止! 直ちに撤退してください! 少しでも早く戦闘区域外へ!!』

『――っ! ……了解』

 

レーナの指示のもと、シン達は急いで戦闘区域を逃走し始めていた。

その中でリノは先の砲撃で未来視が発動した事に心底ホッとするのだった。

 

 

 

 

 

レギオンの追撃を逃れるために花火大会をしたサッカー場跡に全体は隠れていた。

今回の砲撃でトーマ、チセ、ルイ、クロトが戦死した。

四人も戦死したことに自分の不甲斐なさを感じて居ると知覚同調でレーナが補充の事を話していたが、シンは全員に確認をとった後。

真実を話した。

 

『少佐、補充はきません。ただ一人も……』

『……え?でも…計画は』

『俺たちは全滅します。この部隊は、その為の処刑場です』

 

改めて聞くと共和国の愚かさを感じ取れるその計画に無性に腹立ちを抱いてしまう。

しかし、その事実を知らないおめでたい指揮官は信じられないと言った様子であった。

 

『……な…何を言って』

 

レーナは信じたくないと言う思いだった。

言われてみれば確かに八五区内で有色種を一度も見たことが無い。

シンの様に兄弟がいたり、クレナの様に両親がいたプロセッサーが未だに戦っているこの状況。

レーナは自分のおめでたさに吐き気がしてしまった。

 

『プロセッサーの大半は任期満了どころか、一年も待たずに戦死するから、市民権やらの口約束は反古に出来る。

しかし、問題は俺達のような死んで当然の戦場で一年、二年と生き延びてしまう“号持ち”のプロセッサーだ。白豚からしたら反乱の火種になると思ったんだろうな。だから、“号持ち”は激戦区をたらい回しにされる。そこで戦死するようにな。

そうやっても死なない、どうしようもない奴がたどり着く場所が――第一戦区第一防衛戦隊。というわけだ』

 

ライデンの静かな声が響き、リノ達は倒錯してしまいそうになる。

 

死なせるために戦わせる。そう自覚したレーナは一本の蜘蛛の糸に縋るように言う。

 

『それでも……それでも、生き延びさえすれば……』

『そんな奴らに与えられるのが成功率、生存率ゼロの特別偵察任務だ。そこまでやられて帰ってきた奴はいねぇ。白豚どもにしてみたらゴミ処理完了で万々歳というわけだ』

 

共和国はどこまでも腐っている。

国単位でここまで腐っているのは今までの歴史上無いだろう。サンマグノリア共和国は最低でも数十年、もしくは永遠に愚の国として名を馳せる事だろう。

レーナは怒りや悲しみに満ちた声でシン達に言う。

 

『そんなの……そんなもの、ただの虐殺じゃないですか!!そんなの……皆さんは知っていて……』

『ああ、最初からな……』

『それが分かっていて……なぜ戦ったのですか!? 逃げようと……それこそ共和国に復讐しようとは思わなかったのですか!?』

『俺は十二まで第九区の白系種のババアに匿われてたんだ。それに俺だけじゃねえ。シンを育てたのは、立ち退き拒否して強制収容所に居残った白系種の神父だし、セオの隊長の例もある』

 

するとそこにカイエが話に入ってきた。

 

『白系種の中にも貴方のような善人もいる。クレナは白系種の中でも最悪の人物を知ってる。エイティシックスの中にも同じようにクズはいた。シンや私なんがそれらを見てきた』

『復讐ってのはそう難しい話じゃない。戦わずに〈レギオン〉共を素通りさせてやればいい。俺達も当然死ぬが、それで白豚共を道連れにしてやれる』

『ならば何故……』

『白系種の大半はクズでもわざわざ死なせることはねぇって奴も中にはいた』

『それを踏まえて俺達は決めた。クズにクズな真似をされたからって同じ真似で返したら同じクズだ。ここで〈レギオン〉と戦って死ぬか、諦めて死ぬしか道がねえなら、死ぬ時まで戦い切って生き抜いてやる。それが俺達の戦う理由で誇りだ』

 

成人にもならない少年がそう呟く。

合州国でもこれ程誇り高い戦士は居ないだろう。

それまでの人生がどうであれ……リノはだからこそシン達を合州国に亡命させ、生きながらえさせ、この歴史を後世に残していきたいと思っていた。

全員がそうでありたいと願い、今日それを確かめ合っていた。

 

『その果てに……死ぬしかないと分かっていても……ですか?』

『明日死ぬからって、今日首括るマヌケがいるかよ。断頭台に登ることは決まっていたとしても、その登りかた、あるいは散り様ぐらいを選ぶ自由はある。あとはその通り、生き残るだけだ』

 

リノは知覚同調で誇り高い若き戦士の話を聞き、その声は記憶の中に残り続けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

帰還途中、珍しくレーナが俺に同調をしてきた。

 

『リノ少佐、お話を宜しいでしょうか』

「珍しいですね。何の御用でしょうか」

『さっきの話で私からお願いしたい事が……』

「合州国に彼らを亡命させろと言う事ですか?」

 

先手を打たれ、レーナは頷く。

 

『……そうです…戦い抜いた先で死ねと命令されるなんて……あまりにも残酷すぎます……』

 

レーナの悲痛な願いは当然リノも重々理解していた。しかしリノの返答は……

 

「ミリーゼ少佐、私も過去に彼らに亡命の話をしました」

『っ!?じゃあ……』

「生憎と亡命をしたい者を募りましたが誰一人として来ませんでした」

『!?何故です!』

「さっきライデンが言っていたでしょう。戦い抜く事が彼らの誇りである……と」

『ですが……!!』

 

レーナは食い下がろうとしていた。しかしリノはこう答える。

 

「ミリーゼ少佐、彼らがそう望んだのであれば。それを邪魔する事こそ、彼らに対する最大の侮辱です。俺たちに出来る事はもう何もありません」

『……』

 

レーナは悲しんだ。この世界の残酷さにレーナはどうしようもできない事に不甲斐なさを感じていた。

そこにリノが言葉を紡ぐ。

 

「ですが、少佐。貴方には彼らに託された使命があるはずです」

 

 

 

レギオンによる大攻勢

 

 

 

「今、共和国でレギオンの大攻勢や敵の超長距離砲に関して知っているのは貴方だけです。ならば今からでも貴方はレギオンの大攻勢に備える必要があります」

『ですが……』

「ミリーゼ少佐、貴方は良い人だ。だが、時には指揮官としての覚悟を持って、損害も気にせずにレギオンと戦わなければならない時があります。貴方はその時、最前線で戦わなければならない。

 

 

その時に生き延びなければならない。

 

 

生き抜くことで彼らに対して敬意を表するんです。今までに死んでいった者達の為にも……私たちは生きるんです。

生きて彼らの行き着いた先まで辿り着くんです」

 

リノの力強いその言葉はレーナの心を大きく動かしていた。

そこにリノは言葉を付け加えた。

 

「少佐、今回放たれた超長距離砲は合州国でも猛威を振るったレギオンです」

『!?』

 

レーナは思わず、軍事機密を話して良いのかと驚いてしまった。

 

「合州国の推定では旧時代にギアーデ帝国が開発、製造した八〇センチ列車砲の近代化バージョンと推定しています」

『ま、待ってください!今ノートに書くので……続けて話してもらえますか?』

「分かりました」

 

そう言い、リノはレーナにバグラチオン作戦時に猛威を振るった敵の新型レギオンの推定情報を渡した。

本来、こう言うのは許可がいるのだが、リノはそんな事も気にせずにレーナに情報を渡していた。

レーナであれば上手く使ってくれるだろうと信じているからだ。良くも悪くも真っ直ぐなレーナであれば何とかなるだろうと予測していた。

そして新型レギオンの情報提供を済ませるとレーナは最後にこう言った。

 

『リノ少佐、共に生き残りましょう。彼らの為にも……行き着いた先にたどり着く為にも』

「ええ、元からそのつもりです。……いつか、お互いに顔でも合わせて挨拶をしたいですね」

『そうですね』

 

二人は共に誓いを立て、戦争を生き抜くことを決意するのであった。

この時、レーナはどこか吹っ切れた様な声色であった。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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