86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#80 横槍

悲鳴のように電磁加速砲型が仰け反り、一瞬硬直をすると一部が溶け落ちた砲身を旋回させた。

 

「チッ……」

 

シンはパイルをパージし、避けると電磁加速砲型かの背から飛び降りた

 

「外した……か」

 

シンはアンカーを引っ掛けながら電磁加速砲型を見た。

どうやら破壊したのはサブ中枢の方らしい。ーー制御系の位置を一年で変更したようだ。

兵装を全て失い、僚機も全滅させられ、それでもなお〈レギオン〉最大の巨砲の威容と威厳を持って。

明るい空に嵐が去ったことを認識した。

荒れ狂っていた波や風は一応の和らぎ、夜が明けていたと気付けるほどに薄くなった雲。

その空を背景に、電磁加速砲型は佇んでいた。

折れた砲身に流体金属が湧き出す。

上空の風は強いらしい。速度を緩めていた黒い雲が散り、青い色彩の鮮やかな紺碧が顔を覗かせていた

鉛色に閉ざされていた天と海とその狭間を眩く照らす。

 

 

 

その蒼穹が暗転した。

 

 

 

「っ!?」

 

〈ハミングバード〉から見ていたリノのコックピットも光度を最低まで下げていてもこの目を瞑りたくなる明るさ。コンピュータの支援ギリギリの激烈な光が空を焼いて薙ぎ払った。展開して居たはずのビーム撹拌膜ですら意味をなしていなかった。

それはかつて、一年戦争時にジオン公国が計画したが結局間に合わず、戦後で初めて実験のみで使われたと噂のコロニーレーザーの様だった。

 

音もなく。

 

恐ろしく長い、けれど刹那の無音の白闇の後。唐突に光は消える。補正が入り、景色は元に戻るとそこには、最前までは鉛色に鎖されていた、嵐のさった今は輝きのあまりいっそ暗いような紺碧の、要塞を織りなす鉄鋼の格子に罅割れた空。……そう、鉄骨だ。眼前を塞ぐ無数の格子。

 

鋼鉄で組まれた要塞の、その頂上ーー第五層が丸ごと全て、焼かれて激しく陽炎を立ち上らせていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……な、」

 

そして頂上階の中心に、最前の威圧ももはや無く無力に頽れたもの。

誰かが呻く。

 

『電磁加速砲型ーーーが』

 

飴細工の様に捻じ曲げられ、作動すらできずに焼けた爆発反応装甲が脱落し、その下の装甲板を剥き出しにして。表面が焼けて白くなった塗装。

密度が高い分、超高温の中でも熔けると言うことはなかった様だが、奇々な木々の様に変形した鉄骨の中。電磁加速砲型は動かない。擱座も明らかに頽れて。

 

嘆きの声はーー聞こえない。

 

見上げたままライデンは呻く。ようやくまともに、声が出た。

 

「何だ、ありゃ……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一瞬。たった一瞬だ。

その一瞬で電磁加速砲型が虫でも潰すかの様に破壊された。MSの持つビーム兵器とは違い、明らかに火力の高い……

その様にレーナは愕然となる。

 

「なーー……」

「砲光種……!よりにもよって!」

 

イシュマエルが呻いた。そしてレーナの問う目を見返す事なく独り言ともつかぬ口調で続ける

 

「原生海獣の中でも一番でかいやつだ。戦闘機でも爆撃機でも。ああやって、レーザーで撃ち落としちまう。レギオンだって真っ向に勝負できない化け物だ」

「原生海獣……これが」

 

何千年と大陸を脱する事を拒み続ける生き物。ここは彼らの領域の一歩手前。要塞も艦隊も領域を冒してはいないが、境界線付近での戦闘だ。気難しい彼らにはさぞ、気障りだっただろう。

イシュマエルは歯噛みしながらもソナーを確認した。数千年に渡り、敗北を晒し続けてきた征海氏族の末裔の憎悪と無念を以て。

 

「……俺たちは結局、あいつらに勝てなかった」

「ーーー」

「ソナーには……まだ映っていないか。だが、確実に近くにいる。縄張りを侵されて威嚇に来たのか……。嵐によって霧ですら吹き飛んだこの時に……」

 

思い出す。進行の途中、踏み越えた厚くかかった霧の海域。

摩天貝楼のエネルギー源は海底火山と推測されていて、その熱源から熱が漏れて副次的に発生したのだろうと推測されていた。そう思っていた霧。

レーザーは水で拡散する。その為、モビルスーツ隊は接近戦を強いられ、実弾兵器も持ち合わせていた。だから海底火山によって起こっていたと思われた霧はこの為だと知った。

 

 

こうすればレーザー攻撃を受けないから。

 

 

「嵐を……奴らも待っていたのか」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

予想だにしなかったその光景を、愕然と見下ろして立ち尽くしたのもしばし。

 

「リノ!無事!?」

 

確かリノはレーザーの飛んできた方角にいたはずだ。

知覚同調を使って暫く返事が来ることを願いながら待ち続けていると、

 

『ーーあぁ…目がイカれちまいそうだ。さすがは砲光種、駐留艦隊が最も嫌う理由が分かるよ』

 

視線の先に映る飛行機雲と青い機体。それを見てガンペリーからクラウはホッとする。先ほどまで狙撃でザクを堕としていた身で、返事があったことに心底ほっとしていた。

 

「全く…こっちの肝を冷やさせないでよね……」

 

自分達を困らせないで欲しいし……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

知覚同調を通じ、光線の正体がレーナからもたらされる。今のが原生海獣。その最大種たる砲光種の攻撃だと。

 

「あれが……原生海獣」

『あんなバケモン…だってのかよ……』

 

エイティシックス達も同様と畏怖は拭いきれない。

視線は自然と、光線の飛来した彼方に向く。光学センサではとらえられない距離。そこにいるこちらに悪意を持つ、見たことのない何か。

あの、空一面を薙ぎ払い尽くした光線を、放つことのできる何か。

戦艦のメガ粒子砲やビーム兵器とは比べ物にならない……

 

意識して、一つ息を吐いて、シンは頭上の電磁加速砲型の残骸にもう一度目をやる。焼かれて表面が変色し、海風にさらされてすでに冷め始めたのか、今は陽炎も立たないその、無力な残骸。

声は聞こえない。戦場で七年過ごしても、もはや見慣れた、擱座したーー『死んだ』兵器に突然の沈黙。

制御中枢の奪取はーーこれだけ焼けてしまっては流石に……仕方がない。

 

「電磁加速砲型は沈黙。当初の作戦目標は遂行したと判断する。……降りよう」

『急いだほうがいい。相手は獣だ。どういう理屈で攻撃してくるかも分からん』

『それに、いまサラミス級が迎えに来るってよ。ここまで』

 

珍しくいとわしげに呟いたユートとやや焦りの気分があるダイヤに頷いて。

 

その時。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《コーラレ・ワンよりコーラレ・シンセンス》

《コーラレ・ツー、喪失。コーラレ・ワン、機体大破》

《砲光種の射爆を確認。脅威度・極大。当該砲光種は接近中》

《プラン・シュヴェルトヴァールの防衛は不可能と判断。ーープラン・シュヴェルトヴァールの自己保存行動を推奨する》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

銀の粒子が雪崩落ちる。

はるか天空から、摩天貝楼の中央をすり抜けて暗い海面へと。

月光をわずかに散乱させるにわか雨のような、滴り落ちる砂時計の砂のような、光の粒子の正体は銀色の蝶。<レギオン>の中央処理を構成する、流体マイクロマシンの分裂した群。高機動型と同じ、流体の蝶。

寄り集まって、其のために再び声が響き渡る。帝国万歳。帝国万歳。ーーレーザー照射前に空に逃れ、阻電攪乱型に紛れていた。

 

「……電磁加速砲型、」

 

其の中央処理系。

其の蝶は墜落し、避けあって銀色の雫となり、海面に没する。

一秒も立たぬ、其の流星。

 

「海に落ちた……墜落したのか?ーーいや、」

 

眼下。流星の沈んだ海の底から、ごうと絶叫が立ち上る。知覚同調を通じ、それはシンと繋がる全てのプロセッサーの耳に届く。機械仕掛けの亡霊の、生前最期の断末魔の思考。戦場で果て、葬られることなく連れ去られら戦死者の、その脳構造を複写して思惟のかけらを取り込んだ〈レギオン〉が繰り返す嘆き。

 

鉄色をした、巨影が浮上。一対の槍の様な鋭い剣尖が海面を破る。三〇メートルはあろうかと言う長大なそれが、ぐわりと伸び上がって天頂をーーまっすぐに接近してくるサラミス改級と〈ジャガーノート〉の立つ第四層を指す。

滴り落ちていった、流体マイクロマシンの銀の蝶。電磁加速砲型の制御系の。全長三〇メートルの、一対の槍状の砲身。ーー要塞を登る最中、海底に聞こえた様な気がした声!!

あれは。

 

「各機!第四層から退避!ーー逃げろ、()()()()()()!」

 

分かっていてもサラミス改級は間に合わない……!!

 

 

 

転瞬。

()()()()()が咆哮した。

 

 

 

視認など不可能な砲弾が駆け抜ける。口径八〇〇ミリ秒速八〇〇〇メートルのエネルギーを持った砲弾は簡単にサラミス改級を風船の様に破裂させ、要塞を下から過貫通を起こす。

 

『っ……!』

『レ、レベッチオ爆散!海底に何かいます!!』

 

咄嗟に身を縮め、無傷の柱へ身を寄せて〈ジャガーノート〉はその致命の礫をどうにかやり過ごす。不吉な風切り音で堕ちていった鉄骨が、海水を大きく跳ね散らかして海へと没する。

少しでも余裕のあるものは第二層まで降下し、戦隊や小隊をバラバラにしてでも散会することを最優先とした。

 

危機に際しては散らばり、警告にはまず従う。無意識の癖がこの時は味方した。

 

海中の敵はなおも浮上する。

吠え猛る叫喚は知覚同調を通じ、頭蓋にビリビリと響くようだ。

そして。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《コーラレ・ワン、回収完了》

《制御系損耗ーー二八パーセント。戦闘起動に影響なし》

《コーラレ・ワン、コーラレ・シンセンスとの接続完了》

《プラン・シュヴェルトヴァール、統合制御回路、起動スタンバイ》

《プラン・シュヴェルトヴァールーー起動》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

刃のような艦首が、ついに波を割って飛び出す。

急上昇の勢いのまま、斜めに海面を突き破り、其の巨体は一瞬、地上数十メートルの位置にいる<ジャガーノート>を見下ろすまでそり立つ。空中に晒される艦底に、折り畳まれた脚。艦首近くに四対並んだ光学センサ。満載排水量十万トンを降らぬであろう、マゼラン級に匹敵かそれ以上の巨大な巨軀が、次の瞬間海面へと雪崩れ落ち、猛烈な水柱と轟音を立てた。

 

装甲の鉄色に輝く上部甲板と舷側。一部は艦首と艦尾に、多くは装甲中央付近にずらりと砲身を煌めかせる四〇ミリ対空回転機関砲。両艦舷に並ぶ、一五五ミリ電磁加速速射砲。数基ずつの対空砲で速射砲を守りつつその射線を確保する為に階段状に折り重なって配される。

そして天守閣のように聳える二つの砲塔と、そこから伸びる一対の、全長三〇メートルもの槍状の砲身。この巨体の上にあってなお遠近感が狂って見えるーー

 

二門もの、八〇〇ミリレールガン。

 

こちらも射線確保のためだろう。艦尾側と艦首側で十五メートル程の差があった。海面から甲板までの高さこそ<ステラマリス>より低いものの、艦橋最上階までも高さならばわずかに上回る大きさだ。

誰かが呻く。慄然と、呆然と。

 

『なに、これ……!?』

『まさかこいつもーーこの船もレギオンなのか……!?』

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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