86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#81 屑鉄の軍艦

『なに、これ……!?』

『まさかこいつもーーこの船もレギオンなのか……!?』

 

海面を突き破り、現れた巨大な<レギオン>。いや、<レギオン>と呼んでもいいのだろうか。これは……

甲板から滝のように流れ落ちる海水の幕はそのままに、ざあ、と二門のレールガンの砲塔から銀糸が伸びる。瞬く間に編み上げられ、翅脈だけで象られた蝶の翅の形状を織り成す。其の全体に燐光を纏い天を縫うようにバサリと翻って広げられる。

放熱索展開。レールガンのーー戦闘起動。

全容を現した其の巨艦は鯨波のように、産声のように、流体マイクロマシンの制御系に捕えられた戦死者の断末魔で咆哮した。

 

『まだ死⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎嫌だ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ね俺ない⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎痛が支え君⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の母さ⬛︎⬛︎るとこ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ろへ助けん⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎い熱⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ーーーーーーーー!!』

 

 

 

 

 

 

『っ。くぅっ……!』

 

知覚同調と酷いノイズがかかったまま無線の双方から、シンが苦鳴を噛み殺すのが微かに聞こえた。

発言本人の声か、体に響くほどの轟音しか同調先には伝えない知覚同調越しでなお、この霹靂の絶叫。それなら異能持ちの持ち主であるシンにとっては、この異様な叫喚はどれほどの。

 

『今のは……』

 

リノが絶句した様子で若干息を切らしていた。

 

 

 

絶叫を、聞き取れない。

 

 

 

正確には、聞き取れる言葉がない。言葉が入り混じって意味が掴めない。

その断末魔はまるで他人の脳を細切れにし、他の脳と繋げたような。混声合唱。

 

「この声は、一体……!?」

 

 

 

 

 

イシュマエルにとってはただでさえ慣れない知覚同調に、エイティシックス達さえも苦鳴を漏らし、身竦むこの激烈の狂気だ。思わずレイドデバイスごとむしりとり、一気に下がった血に軽い眩暈をしながらもホロスクリーンの映るそれを見た。

 

「戦艦……!いや、」

 

戦艦なんと言う生やさしいものではない。

甲板中央、聳り立つような砲塔上で傲然と斜めに天に睨め上げる二門の八〇〇ミリレールガン。二二門の一五五ミリ電磁速射砲と五十基あまりの対空電磁機関砲。

 

威力、射程においても火器を上回る。

 

小国程度なら、一機で壊滅できる電磁加速砲型。それに浮上した時に垣間見えた脚部。脚があった。泳ぐためではなく、海底や陸を歩くためのそれが。つまりはおそらくはこのまま

 

 

 

ーー揚陸が可能だ。

 

 

 

陸上までは無理だが、沿岸部までなら。

させてたまるか。

 

「<ステラマリス>より各位。不明艦を電磁砲艦型と呼称ーー……」

 

この海は征海氏族の海だ。

たとえ、この作戦で征海艦隊も、征海の誇りも失われるとしても我らが海だ!

屑鉄なんかに泳がれてたまるものか。

 

「敵性存在として処理。ーーこの場で撃沈する!」

『全機攻撃開始!あるだけ撃て!残弾は構うな!』

 

知覚同調でリノの怒号が聞こえ、残存艦艇の砲塔が一斉に電磁砲艦型に向ける。

 

 

 

 

 

突然知覚同調の対象が一人増える。

 

『ーー殿下!』

 

ピリッとヴィーカは片目を眇める。ザイシャ。陸の戦場に残してきた彼の副長。普段はさておき戦場においては極めて有能な、彼女がこのタイミングで連絡すべきと判断したなら。

 

()()()

『は。<レギオン>陸上部隊が攻勢を開始、増援を確認しました。敵増援は』

 

其の彼女が一瞬。戦慄に声を詰まらせた。

 

『ーー高機動型。その量産機です』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

船団国群の泥濘の戦場に、火の雨と無数の光球が降り注ぐ。

起動防御のために防衛陣地帯の後背に控えた<ジャガーノート>の砲戦使用機やメガ・マシン・キャノンを装備した<ロト>そしてM61A5E3戦車の群れ。彼らが撒き散らしているのは焼夷弾だった。

戦車砲弾としても榴弾砲弾としても、あまり一般的ではないナパームの焔は、機甲兵器には効果が薄い。それは<レギオン>にも当てはまる。その焼夷弾が、いまは雨霰と降り注ぐ。

その焔に戦場の一角が燃え落ちる。阻電攪乱型は火に弱い。そのため、その薄い羽の下から隠れていたものを曝け出していく。

猫科を思わせる俊敏な四肢。鳥の羽にも似た重なり合う銀の装甲。蜥蜴の逆棘のように背に伸びる一本の高周波ブレード。忌々しいそいつがーーそいつらが次から次へと。

 

『レーナの予想通り、なのですね』

「量産型の高機動型が投入されるかも、か。……でもまさか、本当に当たるなんて」

 

前線ではロトがタンク形態で大暴れしているお陰で安全に隠れているミチヒとリトは言い合う。

量産に伴い色々とオミットされている部分が多いが、それは量産にあたって必要ないとされたからか。

 

()()()()()()()()ってとこまで、どうもあたってるみたいだし。……どうやらったらこんなの、見てもいないのにわかるのかな?」

 

つい、唸るような声が漏れた。

<首狩り>。戦死者の脳を取り込んで自身に課せられた寿命の枷を外し、性能強化を図る。さらなる高性能を求めて生きた人間の首を刈り集める行為。連邦でも連合王国でも、何より八六区では日常的に、目にした機械仕掛けの亡霊どもの非道。

高機動型の後ろには普段は滅多に出てこない回収輸送型が控えていて、高機動型の落とした首を代わりに拾い、生捕りにした者を引きずっていく役割なのだろう。脳は特に腐りやすい。その前に迅速に回収するための。

不快にリトは鼻面に皺を寄せる。

 

「流石に舐めすぎだよ」

 

少なくとも身を守っていた皮が剥げた時点で……予めレーナが用意していたから対策済みであった。

 

『くたばれ!屑鉄どもがぁぁ!!』

 

ドミトルがロトの中でそう叫ぶとメガ・マシン・キャノンで化けの皮の剥がれた高機動型に容赦無く弾幕を浴びせ続けていた。

そしてミチヒやリトも獲物を取られまいとする勢いで戦場に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そして遥か遠い陸の戦場と、同様に。

その時()()()は揺らめく光の屈折を纏い、母艦の高い砲塔と長い砲身を駆け抜けて、海上要塞に飛び渡り、艦尾側ではある変化が起こっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

真っ先にシンは気づいた。レーダには映らない。光学センサも欺瞞される。それでも耐えることなき、亡霊の声を常に聞くその異能は、そいつらの出現と接近を精確に捉える。

 

「各機、警戒を!光学迷彩機ーーおそらくは高機動型だ!」

 

すると蝶の翅の微細な羽ばたきと同じ光の揺らめきを纏う何かが要塞の外壁を駆け上がる。殆ど垂直の鉄骨を一直線に疾走する。蹴りつけられたパネルが脱落をする。数はーー四機!

近くを通りかかる隙に<ジャガーノート>が回頭し、八八ミリ戦車砲で外壁パネルを叩き割り、ついで機関砲と散弾砲が進路上に弾幕を展開。三機は叩き落としたが残りの一機がすり抜けてなおも頂上へと走る。

狙いは。

 

『またシンかーー好かれてんなお前!』

「しつこいバカに好かれてもな」

 

そう言いながら<アンダーテイカー>と<ヴェアヴォルフ>は会話をした。相変わらず敵の姿は見えないが、シンは()()事で敵の位置を把握した。敵はレギンレイブでも不可能な天井から疾走してアンダーテイカーへと迫りーー

 

「……予想していないとでも」

 

頭上に八八ミリと三八〇ミリサーモバリック弾の一群が炸裂、対人散弾が雨霰と要塞全体に降り注ぐ。原生海獣とレールガンによって半ば消し飛んだ上層に鉄の驟雨として降り注ぐ対人散弾に高機動型は迷彩も、トカゲやコウモリのように華奢な機体を高周波ブレードが切り裂く。

絶叫と共に一機の銀の獣が光学センサを青く光らせ、起き上がる。

 

「なーー……!?」

 

翼のように背に負う高周波ブレードが、叫喚を放って白熱する。機関砲弾の盾となり、引き裂かれた一機目を足場代わりに蹴り付け、二機目が迫る。

ライデンの擁護を予測し、追撃に向かおうとしていたアンダーテイカーはその突撃を避けきれない。

骨を磨いた純白と、流動する銀。ーー二機の機甲兵器が正面から衝突する。

 

 

 

 

 

その戦闘を第二層からセオは見る。

交差の瞬間、アンダーテイカーは身を捻り、高機動型の高周波ブレードからはコックピットを守ると同時に己のブレードを敵機に貫通させる。だが、この距離では慣性までは殺せない。突進の勢いでアンダーテイカーは激しく突き飛ばされる。

高周波ブレードを突き立てられた、高機動型はアンダーテイカーに絡め合うように組み付いたまま流体装甲が自爆、その衝撃波でアンダーテイカーは弾き出される。折れ飛んだブレードが甲高い音で宙に舞った。

 

『っ……!』

 

それでもアンダーテイカーはかろうじて高機動型をーーその残骸を蹴り放し、左右両方のアンカーを射出。割れ落ちた外壁パネルの向こうの鉄骨に垂れ下がりーー

直後にレールガンの咆哮。第三層の一本の柱を掠めて彼方へと飛び去る。八〇〇ミリのレールガンの衝撃波だけで鉄骨のワイヤーを揺らして外した。

アンダーテイカーが落ちる。それはまるで溶岩湖に落ちた高機動型のように

激震で脱落した鉄骨と外壁パネルに先行してーー

 

「ーーシン、」

 

シャベルを担ぐ首のない骸骨のパーソナルマークが、あっけなく暗い海に落ちた

 

知覚同調が切れる。同調相手に気が失ったかーーー戦死した時に途絶えるそれが

 

シンと同調している間は絶える事のないレギオンの絶叫が、その時ふつりと途絶えるーーそれきり無情な、静粛が降りた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、電磁砲艦型で<アレグランサ>の乗員が異変に気づく。

 

「あれは……っ!艦長!」

「なんだっ!」

「艦尾方向、カタパルトと思わしきものが出現!何かが出てきます!」

「何っ!?」

 

思わずその方を見ると、ちょうど何かが射出された直後だった。

 

「センサーに感!数四、接近中の物体は……モビルスーツです!!」

 

艦長はすぐさま指示を出す。

 

「右舷弾幕を張れ!射撃開始!近寄らせるな!!」

「モビルスーツ隊!電磁砲艦型よりモビルスーツ発艦!迎撃せよ!」

 

通信員が報告をし、一斉にモビルスーツ隊は出ていく。帰還し、補給もままならないが、それでもやるしかない。

 

 

 

 

 

「う、うわぁあああっ!!」

 

遠征艦<デネボラ>艦橋。目の前に映る一機のモビルスーツ特有のモノアイが恐怖を駆り立てる。頭部と胸部の一体化した二次元軌道の青いモノアイ。ブロック構造の胴体部分。そして片手にはヒート・サーベルを備えていた。

そして、艦橋に向けてヒート・サーベルが振られようとした時。

 

ギィンッ!

 

金切音にも似た音が聞こえ、艦長は目を恐る恐る目を開けると目の前にいたモビルスーツはヒート・サーベルを抱えたまま静止し、その直後目の前にいたレギオン製と思われるモビルスーツは肩から斜めに真っ二つに赤熱した後、両断された。

落ちていくモビルスーツからヒート・サーベルを奪い、現れたのは青いガンダムだった。その手にはビーム・サーベルを持っていた。

 

『大丈夫ですか?』

「あ、ああ……」

 

砲撃の最中、ガンダムのパイロットに問われ、しどろもどろになりながら答えるとそのままガンダムは次の獲物を求めて飛び去っていった。

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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