86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#82 新型の劣化品

「全員よく聞け!」

 

知覚同調でモビルスーツ隊全員に聞こえるように連絡する。

 

「今電磁加速砲型から発艦したのは……リック・ドムだ!繰り返す!発艦したのは<リック・ドム>だ!舐めてかかるな!死ぬぞ!!」

『『了解』』

 

リック・ドムとだけ聞き、一気に全員の緊張が増す。それだけ、その機体は脅威だということだ。

 

「ホーンドアウル!実弾兵器による攻撃を行え!場所は、艦尾カタパルト!」

『了解』

 

おそらく対ビームコーティングもこいつはしている。いったいどこから情報が漏れたのか……あるいは鹵獲したのか。

いずれにせよ、この巨艦を逃がしてはならない。ここで取り逃がせば、大陸を大きく南に回って合州国をコロニーか、南部から攻撃を仕掛けるかもしれない。

 

「発艦したドムを片付けろ!それから、武器は積極的に回収しろ!!」

 

少なくともビーム・バズーカや拡散ビーム砲を装備していなさそうでまだそこは救いだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……あ、」

 

一瞬セオは呆然となる。何が起こったのかわからない。

わからないはずがなかった。その時、<ラフィングフォックス>は<アンダーテイカー>を見上げていて、だから全てが目に入っていた。

 

「……シン」

 

応じる声はない。

知覚同調は切れてしまった。

あの時。

戦隊長を見捨てたあの時。最後の言葉を聞いた直後に無線が切れたのと同じように。

忘れていた。

戦隊長は。

白系種だったのに自ら戦場に戻った戦隊長は、その戦場で死んだ。

大切な奥さんや生まれたばかりの子供がいて。死んだら嘆く誰かが、いる人だった。共に生きる誰かがいる人だった。生き延びて抱く幸福も未来もあった人だったのにーーーそんなことは無関係に死んだ。笑う狐のパーソナルマーク以外何一つ残せずに。

未来なんて、共に生きる誰かなんていない自分は、生き残ったというのに。

自分は誰からも惜しまれない。もう家族なんか誰もいないし帰る故郷さえない。むしろ死ねと言われた。だからって死んでやろうとは思わないけど、それでも……生き残るなら、隊長であるべきだったはずで。

同じように。シンも。……ようやく共に生きる誰かを、その未来と幸福を、望めたはずの同胞さえ。

 

未だ何も望まぬ、自分を再び残して。

 

忘れていた。

 

そして今、思い出した。

 

命の価値も、無事を願う祈りも残される者の涙の量も、無関係に刈り取って回る。

むしろ価値がある者から、嘆く人の多い者からこそ、優先して奪い去っているのかもしれない。

その途方もないーー世界の悪意を。

 

 

 

 

 

「……あ」

 

レーナもまた、その光景に立ち尽くす。

細かい破片を撒き散らしながら<アンダーテイカー>が墜落する。止まっているのかのようにゆっくり感じられ、その実ごく短い落下の時間を、激しく立つ水柱が終わらせる。そのまま無力に、なんの足掻きもせず、暗い海水に沈む。

 

「あ……あ、」

 

椅子を蹴ってフレデリカが飛び出していく足音が、どこか遠く聞こえた。

勢いのあまり、焦燥のあんまりつんめりそうになるのも厭わぬ全力疾走、そのけたたましい靴音の合間に必死に叫ぶ声が混じる。

 

『救難邸。落ちた者の安否は妾が見るゆえ、早急に救助するのじゃ。急げ!』

 

聞きながらレーナは動かなかった。

 

 

 

<アンダーテイカー>が。シンが落ちた。

 

 

 

でも、きっと無事だ。

そう思いたい。突き落とされた高さこそ相当なものの、落ちた先は水面。強力なショックアブソーバーを備えている<レギンレイブ>だ。何より落下中にワイヤーアンカーを引っ掛けて落下速度の減衰と姿勢制御を行なっていた。真っ逆さまに落ちたわけじゃないからきっと大丈夫だ。

 

戦闘中の落下に備え、すでに周いには救難艇が走り回り、SFSも飛んで回収作業を行なっていた。

 

でも。

 

本当に、舌が水ならあの高さからの衝撃を緩和できるのだろうか。

いかに強力といえど限度がある。そもそも至近距離での高機動型の自爆のダメージは?

何より、仮に無事ならどうして。

どうして、今なお知覚同調が繋がらない。自分はここだと、救助を求める声がレーナの元に届かないーーー……!?

 

「いや……!」

 

帰ってくると、シンは言った。

そう約束した。あの雪の戦場で、互いに互いを、置いては行かないと。

共に生きたいと、そう言ってくれた。

不意にこの作戦の始まる直前の、シンとの会話が蘇る。

今度はシンの方からだった、不意打ちの口付け。噛み付くような。どこか拗ねたような、けれどこれ以上に泣く甘やかな。

言われた言葉。

 

ーーレーナの答えは、答えるつもりになったら、教えてください。

 

まだレーナは答えていない。

本当は伝えるべきだったと思った、伝えたい言葉を未だレーナは返せていない。

それなのに。

 

全身の力が抜けてフラフラとへたり込みそうになった。貧血の時のように血が下がる。目の前の視界が白く暗く霞かかる。

指揮官が、艦橋で。部下はもちろん他国の軍人の前で。鮮血の女王としての体面、あるいは誇りと言うべきものを頭がよぎるが、今はそれも遠い。膝が体重を支えられない。いつもどうやって立っているのか、そのやり方も忘れてしまった。

ふら、と細い体が揺らぎ、マルセルが察して立ち上がる。

知覚同調の向こう、聞こえていなかった怒声が耳に殴りにかかる。

 

『ごちゃごちゃうるせえぞガキども!!』

 

そう叫ぶのはリノだった。あまり歳の差を感じない気もする彼はレーナや、他の面々に聞こえるように怒鳴り散らす。その声にレーナや他の面々も夢から覚めたようにレーナはその怒声に一瞬びくりとなる。それは少し、怖いようにも感じた。

 

『あいつは無事だ!必ずな!あの特別偵察さえ、生き残った奴だ。地下の洞窟で、さえも、生き残った!そう、簡単に!死ぬ柄でもねえだろ……がっ!!』

 

時折言葉が途切れ途切れになり、聞こえる音は砲撃し、何かを切っている音だ。戦闘中だと言うのに、彼は危険を犯してでも通信を繋いできた。

そこでハッとレーナは息を呑む。

 

八六区の絶死の戦場。生き残ったエイティシックスの最終処分場である、東部戦線第一戦区第一戦隊スピアヘッド。その最後の、生還率ゼロの敵地行軍任務。

それが最後の別れになるはずだった、死命さえ越えて。

 

『そこまで悪運が強いやつだ。おまけにまだ死んだわけじゃねえ。着水の衝撃で知覚同調が外れただけかもしれねだろうが!頭を回せ頭を!死にてえのか!?』

 

帰ってこない、訳が。

必死にレーナは頷く。何度も何度も。

 

「そうですね。本当……その通りです」

 

立ち直す。顔を上げる。心配げに見ているマルセルと、醜態に羽目を向けぬまま、けれど視界の端でこちらを見守っていたイシュマエルに頷いて声を張る。

 

「ヴァナヴィースより、各位。スピアヘッド支隊の指揮をライデンに移管。作戦目標を出現した<レギオン>、電磁砲艦型もまた排除すべき脅威です。この長距離砲に海上移動の自由を与えては、船団国群のみならず全ての国が危うくなる。よってーー……」

 

スクリーンの中央、映し出されたその巨影を睨みつけた。

 

「電磁砲艦型を最優先の撃破目標に設定。ーー総力を上げて殲滅します!」

 

その通信を聴き、ガンダムのコックピットでリノはやや口角を上げて知覚同調を切って呟いた。

 

「そうだ、その息だ……」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

敵艦、それも二門のレールガンを主砲とする法外の巨大戦艦の出現は征海艦隊の乗員にも衝撃を与えたが、八〇〇ミリの攻撃を受け総隊長を失ったり、迎えに行ったサラミス級を一隻爆沈させられた合州国やエイティシックスに比べればまだマシだった。当初の作戦目標である電磁加速砲型の射撃再開に備え、摩天貝楼拠点を半円状に囲んで砲撃の準備を整えていた。

 

「<ステラマリス>より各艦!ーー目標、電磁砲艦型。照準を補正次第各個に砲撃!」

 

故に海戦の火蓋は征海艦が切る。

遠制艦は二門、征海艦は四門。有する四〇センチの連装砲が咆哮する。重量、実に一トン近い砲弾が海風を切って電磁砲艦型へと殺到する。

上の合州国艦隊は電磁砲艦型から飛び出したモビルスーツを全面的に引き付けている。だから、砲撃は自分たちの腕にかかっていた。

 

 

 

 

 

ただし、征海艦の本来の主砲精度は遠距離に爆雷を投射するものだ。海上の、それも移動目標に対してはさほど高くない。高価な誘導兵器を殆ど保有しない船団国群は放たれた砲弾はそのまま照準した先ににしか向かわない。

 

巨艦にあるまじき、そして<レギオン>特有の異様な加減速と急回頭を持って海面に稲妻のような航跡を残して電磁砲艦型は時間差をつけて四〇センチ砲弾、その全てを悠々と躱す。四対の翅をレールガンの砲塔に付け、回頭する戦艦の、艦首の蒼い光学センサが<ステラマリス>を映す。

一拍遅れて二門の八〇〇ミリレールガンが旋回。

艦首側のレールガンが、対艦戦闘を意識していない征海艦へと照準を合わせようとして。

 

チュゥゥゥゥンンーーー!!

 

上から砲撃が飛んできた。合州国の残されたサラミス改級。これが沈めば、残るはマゼランとカイラム級の二隻のみ。

 

『<ステラマリス>、征海氏族達(こども達)!よく聞け!』

 

サラミス改<バイカル>の艦長から通信が入る。

 

『屑鉄のうまい部分を食わせてやる!たらふく食い散らかせ!』

 

そう言うと、<バイカル>は電磁砲艦型に放物線を描くように突入を開始。砲撃を行いながら接近する。対ビームコーティングがされている電磁砲艦型は何発かは弾くものの、距離が詰まり、何度も同じ箇所を撃たれてやや損傷する。

〈バイカル〉は今までの波状攻撃で既に中破した船で廃棄することが決まっていた。

 

「っ!!そんな!!」

 

イシュマエルもレーナも<バイカル>が何をしでかすのか分かった。慌てて止めようにももう遅い。

 

攻撃を前方に集中させ、対空砲までも発射してそのまま恐るべき速度で突貫する。

八〇〇ミリレールガンが慌てて旋回して砲撃を行うも艦尾に掠っただけで終わり、そのまま<バイカル>はほぼ速度を殺さずにMS発艦用のカタパルトを有する前方から電磁砲艦型の穴の開けた艦首側に突っ込んだ。

ミサイルランチャーで穴の開けられた艦首側に堂々とやや斜め上から突っ込み。火花をあげて横付けにして、係留用のワイヤーを射出する。

 

『機関全速!!』

 

そして、エンジンからジェット噴射が大きくなり、突入後も使える武装は全て対空砲や主砲めがけて砲撃を行う。

やがて船体がモーメントの作用で回転し始め、<バイカル>は機関全速のまま止まらない。そして、船体が回ると同時に中央部の艦艇が急速な旋回に回され、浮き上がり始める。

 

「っ!!砲撃!撃てっ!!」

 

艦底部が見え始め、イシュマエルは<バイカル>の意図を察して砲撃を行う。<バイカル>を中心にでかい駒のように電磁砲艦型を振り回し、その隙にイシュマエル達は砲撃を行う。

また、<バイカル>が突っ込んだ場所は艦首側の主砲の砲身のやや付け根側。艦首側の主砲では撃てず、艦尾側でも艦尾くらしか狙えなかった。おまけに船体が傾いていることもあり、主砲の旋回にも制限がかかり、砲身の自重で主砲は下方向に無理やり回されていた。

 

「砲兵戦隊射撃用意!弾種焼夷弾、敵機の光学迷彩を無効化します!」

「全艦撃ちまくれ!問題ない、あの船は絶対に当たらない。兎に角撃ちまくれ!!」

 

 

 

 

 

 




今度出るというRGガンダムを見て、今年の夏休みは消滅したなと思うこの頃……

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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