〈ステラマリス〉の甲板から斉射の火線が弧を描く。
嵐の去った蒼穹を、ひどく昏く陰らせて電磁砲艦型に降り注ぐ。放たれたナパーム弾は降り注ぎ、燃やし尽くすとその中からあるものが姿を現し、レーナはくっと目を細める。
敵機確認。やはり。
「高機動型……量産型が、やはり」
レーナは予想を立てていた。
〈レギオン〉の戦略の転換、何故わざわざ高機動型と言う機種を使ったのか。
共和国市民を材料に作った〈放牧犬〉、それで〈レギオン〉にとって雑兵は大量に手に入れた。あと足りないのは、指揮官。それも、教育を受けた上級士官の首。普段は後方にいるが、大攻勢で何処か大陸の小国か、まだ通信すらできない何処かから首を回収したのだろう。
人として抜きん出た者を圧倒し、けれど火砲で遺体をーー脳を損壊させるかもしれない。現代戦場ではおよそ廃れた近接白兵戦を、あえて行うのに適した兵種。そう。
「性能向上の材料を得る、〈首狩り〉のため。ーー高機動型は必ず量産される」
それは……予想していた、のに。
シンと同調している間の、耳を劈く断末魔の絶叫はヴィーカにも辛い。電磁砲艦型の、複数の脳が混ざったかのような異様な叫喚は尚更に。
同調と共にその負担が失われた今、皮肉にもその絶叫がある程度聞き取れる物だったと気づく。意味の無い叫びではなく、それは〈レギオン〉との戦争が始まる前に、何かの式典で聞いた言葉だった。連邦や大陸東方の国家が使う言葉。
思い返して、ヴィーカはその帝王紫の片目を眇める。
「混ざっているのは、東の将か。……なるほど、〈レギオン〉の性能向上、か」
既に滅ぼされたであろう何ヶ国かの……
あの絶叫も、何十人もの末期の叫びがおそらくその脳構造ごと、〈羊飼い〉に鹵獲された佐官や将官の記憶ごと後付けしたせいか。
「……やっかいな」
『モビルスーツ第二波の攻撃を確認。至急各員は迎撃を!』
〈アレグランサ〉から通信が入る。それを聞くと同時にコックピットに四角いマーキングがされる。数は六。ザクとリック・ドムの混成部隊だ。
リノは知覚同調で連絡をする。
「こちら隊長機、モビルスーツ隊の相手は俺がやる。他は電磁砲艦型の援護を……」
『しかし、中佐お一人では……』
「問題ない。そのためのこの機体だ」
そう言うと、レバーを倒し、一気に急降下を始める。既に阻電攪乱型の姿は見えない。青い空が見えた。
現在、高度一〇〇〇メートル。天候は晴れ。風向き、東南東秒速五メートル。ビーム減衰率二パーセント。ビーム兵器使用可能。
既に発射されたビーム攪拌膜は砲光種に持って行かれた。だから攻撃は可能だ。
「さぁ、俺のガンダムについて来れるか……!?」
その瞬間、目の前に計九本の桃色の光線が走り、前方の二機が同時に爆発して堕ちていく。
この戦闘であることが分かった。それは、現在飛行しているボロザクやドムの兵装だ。今、飛んでいるのは腕まで完全再現した完全なレプリカ。両腕を戦車砲に改造したオリジナルは
「相手が悪かったな……」
二機同時に撃墜され、残った四機はガンダムを追いかけ始める。その手にはヒートホークや、ヒート・サーベルを持っていた。
リノはレバーを押して速度を上げると、向こうも同じように速度を上げてくる。
「見せてもらおう。レギオン製のモビルスーツの性能とやらを……」
要塞に残された〈レギンレイブ〉は安全に乗り込んでこようとする高機動型を撃ち抜いていた。だが、母艦の砲塔上から跳躍し、要塞に飛び込む機体もあった。その機体は要塞の第三層、最上層にいたライデンが俯瞰する形で見た。
目的は要塞の奪還か、首狩りか。
いずれにせよ……
「ーーユート!高機動型の迎撃はこっちでやる!第三層にいる奴らを借りるぞ!」
そうしてライデンは指示を出した。
バラバラに散った部隊を再編するのは慣れているし、なにより再集結する時間はない。たがら、ユートもわかって頷いた。
『頼む。ーー第二層にいる各機。以降俺が指揮を執る。火力拘束機、面制圧は高機動型を警戒。戦車砲装備の前衛および狙撃手の護衛に当たれ。前衛と狙撃手は電磁砲艦型の機関砲、連装砲の排除を。……征海艦隊の支援をする』
その直後、けたたましい音と共に要塞の第四層の部分を縫うように〈ハミングバード〉が飛行し、四機のモビルスーツに加え、新たに発艦した二機のモビルスーツが追いかけていた。
〈バイカル〉の突貫で身動きのできない電磁砲艦型。船体が傾き、そのお陰で砲身を動かすこともできない。対空砲の射撃も、モビルスーツ隊のバズーカによる攻撃で装甲蓋すら開けられない。
念の為動きつつ、砲撃を行った艦隊の四〇センチ砲弾やロケット弾はその尽くが虚しく弾かれた。
『なんだと……!?』
『硬い……っ!』
続いてマゼラン改級〈バーミット〉と〈アレグランサ〉の砲撃とミサイルが着弾するが、対ビームコーティングと装甲で凹んだだけだった。
おそらくは人員を配置しない分を装甲に回しているのだろう。直後に左舷側の一五五ミリ速射砲十一門が猛然と火線を空に吐き出す。舷側は艦の弱点ではあるものの、最大火力を投射できる。まずは空に浮かぶモビルスーツの排除を優先したのだろう。発射されたバズーカやモビルスーツが被弾し、二機が桃色の爆炎と共に核融合炉が爆発した。
「っ…!!」
その苦戦に第二層、スピアヘッド戦隊では唯一。ユートの指揮下に入ったセオは歯噛みする。寄りにもよって軍艦の一番の天敵を重点的に狙うとは。
電磁砲艦型はたった一隻。その上移動を封じられ、けれどまるで鼠の群れが虎を狩るような一方的さ。
残存艦隊よりも多くの砲を積み、その上速いレールガンの弾幕。二二門の一五五ミリ速射砲と二門の八〇〇ミリ主砲が織りなす、悪夢のような猛砲撃。おまけに艦尾にはカタパルトを持ち、モビルスーツを射出していた。
摩天貝楼拠点第二層に展開するセオ達の八八ミリ戦車砲の〈ジャガーノート〉も速射砲を狙い。あわよくばモビルスーツに船体に取り憑いてもらおうと思っていたが、敵艦には五〇基あまりの四〇ミリ六連装対空砲。それの猛烈な弾幕の為に狙い撃つどころか足止めの射撃すら難しい。ーー主砲や速射砲を守る為の装備だ。必ず十字砲火に晒せる位置に配置していた。
防楯が硬く、この距離での貫徹は難しい。
確実に排除するなら。
「近づかないとーー乗り込まないと駄目か」
電磁砲艦型までの距離は最大跳躍よりも僅かに遠い。ただ跳躍しただけでは届かない。
何か、何か距離を増やす良いものはーー……
あった。
見回し、視界に映ったそれを見てセオは操縦桿を握る。
「〈ラフィングフォックス〉より各機。ーー乗り移る。援護を!!」
操縦桿を前進に叩き込み、〈ラフィングフォックス〉は飛び出す。フロアを一つずつ降りていくより外側を駆け降りた方が速い。アンカーを引っ掛けて機体を支えつつ、垂直の塔の壁を一気に下へ。
ギョッとライデンが通信に割り込む。
『セオ!無茶すんな!動揺していると足掬われるぞ!!』
「わかってる。……大丈夫、動揺なんかしてない」
本当は嘘だ。動揺している。その自覚はしているつもりだ。呑まれて冷静な判断が出来なくならないように、胸の底を焼けつかせる感情の塊を否定はしない。
救いを得られたはずの、未来を見ることができたはずの……幸福になれるはずだった人でさえ、失われた。無慈悲に、あっけなく唐突にーーこの世界唯一の、平等として。
それなら自分は、救いさえ得られぬ自分たちは。ーーきっと尚更、あっけなく無慈悲に。
呑まれはしない。呑まれたら、本当に死んでしまう。
「でも、……無茶をしないのは、無理」
胸の底を焼けつかせる、叫びたいような感情を押し込める為には。
目指すは眼下、先程レギオンのモビルスーツが激突して飛び込み台のように斜めに突き出た鉄骨。
「いけ……ぇっ!」
過たず着地して落下の勢いを殺さず疾走、最大戦速のまま先端を切蹴って跳躍した。
「ーー砲兵戦隊、弾種変更。対人散弾、装填次第発射!」
〈ラフィングフォックス〉が飛び出すのに呼応して、レーナは命じる。こちらも、対光学迷彩用に持ってきた弾種だ。艦砲射撃にも耐える電磁砲艦型の装甲を破るには足りないが、ーー爆炎でセンサを欺瞞するくらいなら。
跳躍の間は回避できない。その間にセオを電磁砲艦型に射落とさせない為に。
『サーモバリック弾、発射!』
上からもバズーカからの射撃でサーモバリック弾が発射され、爆炎が電磁砲艦型を覆う。
「射撃を継続!ーー別命あるまで弾幕を維持しなさい!」
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい