乗り移ると叫んだセオの声も、レーナの援護の命令も、知覚同調でクレナにも届いている。第三層、レールガンの砲撃を逃れ、退避したまま立ち尽くして動けない彼女。
自分も援護しないと、と、頭の片隅で思うが動けない。
ふらふらと定まらない視線に追従してヘッドマウントディスプレイの中を飛び回るレティクルが、なんだかひどく目障りだ。カタカタと震えて力の入らない、操縦桿を握っている感覚すらない右手。
だって、シンが落ちた。
彼だけはいなくならないと思っていた、思っていたのに……
シンと会うまでに、シンと会ってからも大勢、死んでいった仲間達みたいには。二年前の、スピアヘッド戦隊のクジョーやキノ、悪ふざけで嬲り殺された両親や、……大好きだったけど決して帰ってこなかったお姉ちゃんみたいには。
シンだけは、決して。自分を置いては。
逝かないはずだったのにーー……!
「やだ…嫌だよ。……おいて行かないで……!」
立ち尽くす。体に力が入らなくて、思考が働かなくて動けない。その癖手は震えて、視線は定まらなくて、一発の砲弾さえももう当たる気がしない。
だって。だって自分の居場所は彼の隣しかないのに。他に何もなくても、誇りさえたとえ失ったとしても、それでも同胞であることは、せめてそれだけは、変わらないはずだったのに。
〈ガンスリンガー〉の傍に何かが駆け上がった。白い、磨いた骨のような。失った首を探して戦場を這いずり回る白骨死体のようなフェルドレス。〈レギンレイヴ〉。
…….無くした首を。失くして奪われた兄の首を。たった一人で捜して戦場を彷徨うなんて、こんな自分にはきっとできない。
貴方なってしまったシンを、ーー自分はもう、見つけられない。
〈レギンレイヴ〉の紅い光学センサがこちらを向く。誰かの目の色にも似たそのあかいろ。
パーソナルマークは鱗と翼を持つ乙女。シャナの駆る〈メリュジーヌ〉。
高機動型を相手取るのは手が足りないと見て、ブリジンガメン戦隊の全機が上がってきていた。知覚同調が繋がり、シャナ特有の冷ややかな声が言う。
『クレナ。何してるの援護をーー……』
しかし、シャナは察し。隠す気もない舌打ちが一つ。
『下がりなさい。ーー撃たないなら邪魔よ』
冷たくあしらった直後、第三層に隠れていたのか一機のザクがヒートホーク片手に現れた。
「っ!?」
その恐怖に、クレナは動けない。目の前にいる鉄の巨人の青いモノアイが〈ガンスリンガー〉を捉える。ここで頭に撃てばザクは姿勢を崩して落ちる。それなのに引き金に手が届かなかった。
そして刃の部分が白熱し、ガンダムですらも切り裂く片手斧が振り上げられる。咄嗟に周囲の面々は逃げ出していた。動けない彼女は死を見た。彼のいるかも知れないその場所に……
その時。
突如現れた手がザクの顔を握りつぶし、持っていたビーム・サーベルを器用に使って腕だけを切り落とした後、手前に引いて海に落とし。持っていたビーム・スマートガンを使って綺麗に胸部を撃ち抜いて爆発させるとザクに変わってこちらを見る。
人の顔を彷彿とさせるデュアルカメラ。〈レギオン〉と似たような青い光学センサ。ザクと違う系統の同じ鋼鉄の巨人兵。パーソナルマークは左右で目の色の違う獅子。
『死にてえのかクソ餓鬼!!撃たねえなら引っ込んでろ!!』
知覚同調で怒声が聞こえる。半年間の短い戦友だった、その人が……
ガンダムはそのまま要塞から離れて行くと、その容赦ない言葉に、少女は文字通り役立たずと化した。
突入した〈バイカル〉に砲身が向く。残された電力を一極集中して艦尾側の砲身を向けると、〈バイカル〉の艦尾を照準を撃ち抜く。そしてそのまま爆発した〈バイカル〉の推力が無くなり、電磁砲艦型の船体が大きく元に戻り出す。既に全員が退艦した無人の〈バイカル〉は残骸と化す。
『来るぞ!』
今まで何発か海面に撃っていた主砲が空に向けられる。そして、八〇〇ミリの咆哮が空に轟く。艦尾側の主砲は〈バーミット〉の船体に着弾、爆発が起こる。
『左舷砲塔全滅!!』
『ダメージコントロール!』
『弾幕を張れ!!』
八〇〇ミリの砲弾は戦艦の土手っ腹を過貫通し、艦首側の主砲は〈アレグランサ〉の艦首を抉り取る。
『艦首ミサイル発射管全滅!』
『艦首が消失!』
徐々に艦隊の戦力は削がれ始めていた。
〈ラフィングフォックス〉の一〇トン超の機体が、底の見えない青い奈落の与え緩やかな放物線を描く。頂点に達し、重力に引かれて落下軌道に入る。
電磁砲艦型の甲板にはまだ少し届かない。ワイヤーアンカーを射出して突き出たレーダーマストに引っ掛け、巻き上げてそのまま距離を稼ぐ。ーーその愚直な突貫に、対空砲の照準が向く。
射線に入る瞬間。飛来した爆弾の雨で爆炎と衝撃波が射線を遮り、〈ラフィングフォックス〉の機影を隠す。
同時にセオは絡ませたワイヤーアンカーを回収し、逆側のアンカーを射出。
舷側にアンカーが掛かり、そのまま下向きに弧を描いて海上を移動。ワイヤーを巻き上げつつ上昇に転じる軌道を利用し、電磁加速砲型の甲板に飛び移った。
甲板を穿ちながら掃射する対空砲を避けて、甲板上に折り重なる要塞の構造材の影へ。ーーフロア崩落を電磁加速砲型が積極的に仕掛けなかったのは下にこいつがいたからか。
直後にレルヒェの〈チャイカ〉とユートの〈ウルスラグナ〉、前衛担当の数機と生き残りの〈アルカノスト〉が乗り移る。対人地雷の煙幕に隠れて同じ場所に滑り込む。
ごぉん、と先ほど使った足場が崩れるのを見た。
〈ラフィングフォックス〉の最も近くに潜んだ〈チャイカ〉が、非難がましくこちらを見た。
『貴殿も大概無茶をなさいますな、狐殿…!そのような蛮勇は、死神殿だけにしておいていただきたいのですが』
「後にしてよ小鳥殿。…みんな、やることはわかっているね?レールガンを潰す。とりあえず対空砲を潰したらモビルスーツが降りてこられる。そうしたら艦砲射撃と合わさって仕留めてもらえる」
『了解だ』
後続は望めない。ここにある戦力だけで出来るのは対空砲や速射砲を倒すくらいだ。
『速射砲はモビルスーツや征海艦隊にお任せでよろしいでしょうな。ーーただし、これほどの装甲を持った軍艦を倒すには制御系を狙わねば難しいかと』
何しろ、全長三〇〇メートルの巨大。ここらの軍艦では針穴のような物。おまけに浸水対策もバッチリとられている筈だ。
また、〈イシュマエル〉に聞くと、原子力艦は、動力部に攻撃を喰らっても簡単には壊れないほど頑丈に作られているのだと言う。
煙突がない以上、動力は原子炉。制御中枢が、その一点がこの軍艦を止める弱点で、それは外見では見つけるのは難しい。
するとヴィーカが知覚同調を繋いで言う。
「それについては、こちらで解析する。〈シリン〉であれば侵入は可能だ」
<アルカノスト>のコックピットハッチが開き、少女の姿を模した機械人形がぞろりと甲板に降り立つ。
『流石に中央処理系に通路がつながっているわけではないだろうが、中に入れば外からはわからぬものも見えてくる。……<レギオン>とはいえ、合理的に配置するなら艦内施設の位置はある程度既存の軍艦と同じだろうしな。戦艦、あるいは強襲揚陸艦と考えれば配置の予想はつく』
強襲揚陸艦は何かは分からないが。
「……よくわかんないでけど、できるなら任せるよ王子殿下」
『と言うより俺しかやるしかない。ミリーゼらも手一杯な以上、俺以外にこれをできる人間がいない』
淡々と言い、忌々しげに続けた。
『ノウゼンがいれば。こんな手間をかけずとも制御中枢などわかるのだが』
「……」
いっそ無遠慮に、無造作に抉り取られて歯を食いしばる。ーーなるほど情けのない鎖蛇だと、何度もヴィーカ本人が言っていた言葉を今更のように実感する。
「だって……いないんだから、自分たちでなんとかするしかないでしょ」
対空砲と速射砲の山の奥。<アンダーテイカー>を突き落とすトドメとなったーー仇のレールガン。
討つために、まずは最初に。
「まずは、対空砲」
『ああ。ーー後ろから撃たれたくない。艦首のそれから排除する』
高機動型にとっては足場だらけの、この鉄骨の要塞。
立体的に跳ね回り、全方位から攻撃してくる高機動型達を、引き連れて囮役の<ジャガーノート>が疾走する。貫徹力を重視した戦車砲を装備し、広範囲を纏めて薙ぎ払う兵装は格闘アームの重機関銃だけで高機動型との相性の悪い、機動戦を得手とする前衛担当のプロセッサーの駆る機体。
量産機とはいえ、運動性のはあちらの方が上。だから……
『ーーライデン!』
「おう!」
囮の<ジャガーノート>が通過した直後、ライデン指揮下の臨時小隊が機関砲と機銃二丁を掃射。ーー背部に四〇ミリ機関砲を装備する、機関砲仕様の臨時小隊。
まんまと砲撃域に誘い出された高機動型はまともにその掃射を浴びる。
戦車砲では相性が悪いから、追ってくるのを利用してーー仲間のキルゾーンに誘い出す。
すでに確立した対策だ。
量産型投入の可能性を見たレーナは対応し易い兵装の<レギンレイヴ>を増員していた。機関砲に加え、必ず加えられた散弾砲装備の機体。面制圧能力の多連装ミサイルに追尾目標の一つとして設定された高機動型のデータ。
弾幕に自ら飛び込むように引き裂かれた、高機動型の一群が頽れる。……声は、シンがいないからそもそも聞こえない。掃射を喰らわせた全機が間違いなく大破しているのをーー死んだふりかもしれないから確認してから視線を外す。
ーー次。
汗を拭い、息を吐く。息が上がっているのを、その一連で確認する。対策は確立していて、対抗手段も揃えて。けれど決して、楽な戦いではない。
それでも、対策ができているだけまだマシ。初見でレールガンを装備する戦艦を相手にするセオやユートに比べれば。
ましてーー……
「アンジュ、ダイヤ。ここはもういい」
『ライデン君?でもまだ高機動型は……』
「下を頼む。セオを援護して……助けてやってくれ」
えっと、驚き。眼下で飛び回る白い影を見た。
『あの馬鹿……』
『セオ君。なんて事を……』
<ブラッグドッグ>と<スノウウィッチ>は了解すると機体を翻した。
その向こう、ブリジンガメン戦隊が餓狼のように飛び回って高機動型を撃破する光景が見えた。かの戦隊の副官シャナの駆る<メジュリーヌ>は第三層第三フロアで上方から対空砲の狙撃を担当していた。
その役目の<ガンスリンガー>は、今も混乱している様子で動けない。
……無理もない。クレナもセオも。珍しくダイヤやアンジュも、今はともかく墜落した瞬間は明らかに恐慌していたレーナも。
ライデン自身、動揺している自覚はあった。
何しろ声が聞こえないーーこれまで共にあった、あの忌々しい亡霊の声が。最前のあの、電磁加速砲型の異様な絶叫さえも。
もう何年も共にあったーー彼らを率いてきた紅い瞳の死神が。
……あの、馬鹿が。
そしれ自分はその馬鹿の、遺憾ながらも副長だ。
その不在は少しでも、埋めなければならないとライデンは鉄色の双眸を鋭く眇める。
『クラウ、頼みがある』
「?」
知覚同調で連絡が入る。彼女はカーゴの空いたガンペリーに伏せてロングレンジ・ビームライフルや一七〇ミリカノンを用いて狙撃任務に従事していた。そのため、ガンペリーにはいくつかの武器も載せられていた。
『今からそっちに飛ぶ。
「……何する気?」
やや訝しんで聞くと、リノは飄々とした様子で答える。
『何、単純な火力強化さ。あれなら、対ビームコーティングを無効化できる』
登場人物の名前決めの時の一幕
作者「うーん、名前どうしよう……」
テレビ『キャスバル!!キャスバル!!』ドゴーン
『僕はキャスバルじゃない。…シャア・アズナブルだ』
作者「あっ!名前リノでいいや」
と言った具合な名前決め。適当すぎない??
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい