86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#85 恥じない為に

対空砲と速射砲を削るべく<ジャガーノート>は摩天貝楼拠点から射撃を繰り返し、数機に至っては電磁砲艦型と乗り移りさえする一方、征海艦隊も艦砲射撃で速射砲を潰していく。

ただ、制御中枢を破壊するために艦砲は必要なので、数を減らさないためにも一定の距離をとっていた。

的にならないために転針を繰り返しながらの発砲。

それでも砲身が加熱するほどのもう砲撃に、砲戦を予想して魚雷の代わりに大量に持ってきた砲弾がみるみる減っていく。

上空ではバズーカやビーム兵器の射撃が継続され、一部ではビームが貫通して爆炎が上がる。後部カタパルト周囲には山のように対空砲が設置され、接近どころの話ではなかった。

 

ようやく辿り着いた救難艦が海上を漂流する<バイカル>の残り乗員を回収しながら、援軍艦隊が出撃したと救難艦経由で届く。

一方で電磁砲艦型も無傷ではない。

八〇〇ミリレールガンの一対の砲身の内側で、電磁場を構成する銀色の流体金属が射撃の反動で激しく吹き飛ぶ。ーー砲身の摩耗。

粉雪が燃えて落ちる灰のように、銀の雫が海洋の深い青色に堕ちる。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

一個戦隊にみたぬとはいえ、母艦に上陸されたのを放置できないと判断したのか、摩天貝楼へと揚陸した高機動型の一部が、電磁砲艦型へと戻ってくる。当然といえばそうだが、その行動にセオは舌打ちをする。

 

いったいどこまで邪魔を……

 

電磁砲艦型に乗り移ったのはいずれも前衛担当で戦車砲を主兵装とする者ばかり。エイティシックスの中でも機動戦闘を得手とするから、わずかな足場を頼りに乗り込むことができたのだが、いずれも高機動型と相性が良くない。

 

『避けろ!!』

 

その瞬間、リゼルに乗った一人の隊員がマイクロミサイルを放ち、戻ってきた高機動型に面制圧を行うも、攻撃から生き残った機体が襲いかかる。

 

「チッ」

 

セオは舌打ちをしながら接近してくる高機動型に機関銃を叩き込んだ。

映ってようやくわかる、そのことに気づく。接近警報がなる。その機械仕掛けの嘆きは、聞こえない。

敵の潜む位置がまるでわからない。

シンがいないせいだ。

彼がいない戦闘なんていつぶりだろう。

その時にはどうやって戦っていたのか。思い出せない自分にセオは気づく。

それほど長い間、頼り切っていたギリギリまで引きつけて飛び退いて、機関銃を叩き込む。しかし異様な反応速度で、鞠の跳ねるように跳躍して逃れる。離れた先、高機動型のに一基の部品が落ちていた。

 

高周波ブレードが一基、転がっていた。

 

「あれ……は、」

 

アンダーテイカーのーー……。

おそらく高機動型で貫通させた時に抜け落ちたものだろう。八六区の中でも高周波ブレードを使うのはシンしか居なかった。

そして、高機動型はその高周波ブレードを無造作に踏みこえる。

シンと<アンダーテイカー>が海中へ没した今、唯一残った彼の機体の破片かもしれないそれを、心なき殺戮機械は無造作に、無感動に踏みつけようとする。

その時湧き上がったのは怒りではなくーー覚悟や決意と、呼ぶべきものだった。

 

「っ……!」

 

八八ミリ砲を旋回させ、連射。高機動型を避けさせた後。その場所に飛ぶ。ーー敵機の、銀の獣の群の、その只中。でも、それでいい。

 

「ーーファイド!」

 

摩天貝楼拠点の最下層で、明らかにシンの落ちた海を気にしながら補給任務を遂行する、忠実な<スカベンジャー>が振り返った。

即応してグリ切りまで寄ってくるのを目掛けて高周波ブレードを蹴り上げた。

<スカベンジャー>の命令にしては曖昧すぎるが、ファイドならこれでもわかる。

一瞬わたわたと足を踏みながら、落下予想地点に位置を調整。光学センサで軌跡を確認しながら、背部のコンテナに受け止める。

 

「確保していろ!ーー必ずお前が持ち帰れ!」

 

頷くようにファイドは光学センサを上下させる。それを横目に敵機の群れへと向き直った。

ずっと、シンに頼っていた。

ずっと頼られてくれていた。機械仕掛けの亡霊が繰り返す断末魔の嘆きを聞き、<レギオン>の位置を看破する異能。共に戦い、先に死んだ戦友を一人残らず覚え、記憶と心を抱えて最期まで連れてってくれる約束。敵陣に深く斬り込み、敵を撹乱する前衛の役割。

何より、<レギオン>たちの耳を弄する絶叫に晒されながら誰よりも多くの弾雨と敵刃を惹きつける白兵の間合いで戦い続けた、その有様。

全ての仲間を守るために。

その中で自分は惹きつけるのは……

 

『セオ!』

 

途端、知覚同調で叫ばれる。この声は……

 

『無茶すんな!うまく避けろよ……!!』

 

その瞬間、残った対空砲が射撃を始め、現れた一機のモビルスーツが急接近する。片手には球状に三叉のついた槍状のビームを形成した、槍のような武器を持って。

エンジンを噴かし、豪速球で突っ込んでくる<ガンダム>を見て、<ラフィングフォックス>はタイミングを見計らって避けると、<ガンダム>が通過した瞬間、何機かの高機動型が一瞬で融解する。

一列の横一文字に集まっていた銀の獣は撃破された。対ビームコーティングをしているはずの船体も槍状の武器が通った後と同じで傷がついていた。

 

『やはりビームジャベリンだと、コーティングは耐えれなかったか……セオ!気をつけろ!!』

「ああ、大丈夫……」

 

空を飛ぶ青いガンダム、オッドアイの獅子の絵。

一時は同胞として戦った、軍人。自分に甘えるなと言ってきた少し面倒な人だが、実力はある。よく整備員の人に怒られているのが印象に残っていた。

そんな人物に言われ、セオは銀の獣を確認しながら、意識して平静は声を出した。

 

「<ラフィングフォックス>より、各機。ーー高機動型は僕が引き付ける。切り込んで、撹乱する。その隙に排除を」

 

僕が隙を作るから。ーーその役目を僕が引き継ぐから。

返る声は確認せずに、操縦桿を前に叩き込んだ。包囲されるのはあえて無視して、高機動型の群れのーー敵機のさらに奥へ。

 

斬り込んで、撹乱して、敵機の射線を一気に集めて、自身を危険に晒しながら仲間がつくべき隙を、作り続けた彼らの死神が。

 

シンがいつも、そうしてきたように。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

追い立てるように散弾砲を連射し、逃げ足の速い高機動型の退路を狭め、シデンは摩天貝楼拠点、第三層を駆け抜ける。凛とどこか猛々しく、レーナの知覚同調が駆け抜ける。

 

『砲兵戦隊、キャニスター弾装填ーー撃て!』

『ポイントE12。待機解除、掃射!』

 

待ち伏せていた<ジャガーボート>が機銃掃射を叩き込む。

散弾の雨が高機動型をズタズタにした。立ち直ったレーナにシデンはそっと息をついた。

 

ーー立ち直ったな。レーナ

 

あんなやつの事なんか、そんな同様しなくてもいいじゃないかと思うが、忌々しい。死神なんて仰々しい異名を負ったそのありようは認めていなくもないが、あんなアホに鈍いあんな馬鹿。

この戦闘だって、中途半端なところで抜けちまいやがって。

 

「これで本当に死んでたら、地獄まで追っかけ回してぶっ殺してやるからな、色男」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

摩天貝楼拠点、揚陸した高機動型を全機撃破。電磁砲艦型との砲戦の援護を開始。

報告を受け、見届けて。レーナは小さく鋭く息を吐く。まだ、戦闘は終わらない。

電磁砲艦型は健在だ。

 

もう六年も戦場に生きてきたセオも未経験の、白兵距離での戦闘。

それも高機動型の群れを相手のしてだ。のしかかる緊張感は普段の比ではない。

もう何機とも知れぬ銀の獣が飛びかかるのが目に入る。交錯の瞬間ブレードの様に機銃掃射を振り回し、横薙ぎに銃弾を叩き込む。ーー撃破には至らない。装甲の甲板で跳ね、脚を引きずりながら後退するのは捨て置いて〈ラフィングフォックス〉を疾走させる。敵の、集団をただ中だ。脚を止めたらすぐに取り憑かれる。そうなったら戦士は免れない。

慣れたつもりだったが、その実、皮一枚の触れたことのなかった死の気配が、この至近の戦闘では纏わり付いて離れない。生存本能が悲鳴を上げる。死にたくないと、原始の本能が喚き散らす。

 

そう、死にたくない。ーー自分は死にたくない。

 

死ぬわけにはいかない。

 

だって今の自分は、シンの死にまるで見合わない。見合わないまま自分まで死んだら、シンはまるで無駄死にだ。

戦隊長が誰からも、報われなかった様に。今の自分が戦隊長の犠牲に、まるで報いられえていない様に。

……そんなのはダメだ。

砲撃が来る。砲身の加熱も厭わず、生き残った対空砲は〈ハミングバード〉に猛攻撃を撃ち込んでくる。

その対空砲の直上に飛来した〈レギンレイヴ〉のミサイル群が対装甲散弾を叩き込む。

 

この世界は悪意に満ちていて、でも、そう言うものだと認めたらそれは悪意に屈すると言うこと。奪われるばかりで何も得られぬ存在だと踏みつけられて当然の存在だと認める事だ。

自分も仲間たちも、征海氏族達もシンも戦隊長も。ーー奪われて死んで当然だったと。

そんなのは駄目だ。そんなのはーー嫌だ。

僚機が確保している艦首側の甲板、鉄骨の遮蔽の向こうでワイヤーアンカーが撃ち上がる。

アンカーを引っ掛けて新たな〈ジャガーノート〉が飛び上がる。ーーライデンの〈ヴェアヴォルフ〉とアンジュの〈スノウウィッチ〉、ダイヤの〈ブラッグドック〉。

着地と同時に〈スノウウィッチ〉が多連装ミサイルを発射。〈ヴェアヴォルフ〉と〈ブラッグドック〉が掃射。叩きつけられる砲弾が〈ラフィングフォックス〉の周囲に群がる敵機を追い散らす。

 

『ごめんセオ、遅くなったわ』

『残った高機動型はまかせろ、セオ。……だからもう無茶すんな』

『そんなところまであいつの真似しなくていい。いや、すんな』

「……うん」

 

荒くなったままの息をそれでも長くほっと吐く。鋼鉄の雨の合間に二門のレールガンを見上げた。戦闘前に聞いた言葉が蘇る。

 

ーー生きていれば、得られるから。

 

それはきっと嘘だ。

嘘のつもりでイシュマエル入ったんじゃないんだろうけど、でも嘘だ。そうじゃなくてきっと、本当は逆だ。

生きるために、得ないといけない。自分を形作る唯一を、失ったとしても新たにまた。

奪われた後も、生きるために。

負けて奪われて、そのまま死んでしまわないために。

見つけないといけないのだ。何度奪われても何を奪われても、嘘でも顔を上げるためには。

 

ーー自分に恥じるように、生きたくはないから。

 

自分にも。それからーーシンや戦隊長にも。

だから、その為に。

負けたまま生きないために、君を。戦隊長を。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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