「ちっ……」
ヴィーカは船内に侵入させたシリン全機が排除された事に思わず舌打ちを零す。制御中枢の位置はある程度絞り込めて入るがいまだ明確ではなかった。あと少しと言うところだがーー情報取得の手段がもうない以上、完璧を期してはない。〈ステラマリス〉、モビルスーツ隊の残弾もそろそろ危ないだろう。対ビームコーティングをしている以上、マゼラン級の砲撃で中枢を撃てるかは分からない。
知覚同調で統合艦橋に繋ぎ直して、口を開いた。
「ミリーゼ、艦長。現時点での制御中枢の位置予測を送る。候補は三箇所、これ以上の調査は不可能だ。半端ですまんが……」
大口径砲を用いる海戦で、あまり意味はないかも知れないが距離次第では足しになるかとデータを送り、逆の手で戦闘機動の手順をこなしながらヴィーカは言いーー……。
視界の端、格納庫の出入り口の向こうの通路をよぎった鋼色に、ん、と手を止めた。
〈hr〉
最後の対空砲の一基を、クラウは狙撃で吹き飛ばす。
電磁砲艦型の残った高機動型がリノの持つビームジャベリンで焼かれる。
八〇〇ミリ砲弾と遠征艦〈ベナトナシュ〉最後の主砲と交差する。四〇センチ砲弾は炸裂し、一五五ミリ速射砲を吹き飛ばす。一方で〈ベナトナシュ〉も砲弾を喰らい、艦尾が抉り取られる。スクリューまでも破壊され、すぐに停止。
ーー自走不能
スクリーンに映るは明後日の方角に映る速射砲と、厄介極まりない二門の主砲のみ。
だが、各艦何かしらの損害を受け、〈ステラマリス〉の残弾ももう、予備弾薬庫に残っている分だけ。それがつきても体当たりで沈めてやると意気込んでいた。
「現状はどうなっている」
イシュマエルは士官に聞いた。
現状、〈ベナトナシュ〉は自走不能、〈バシリコス〉は全主砲破壊、〈デネボラ〉は火災発生中。破獣艦は一隻撃沈、一隻大破、残りは二隻が中破、残りの二隻は小破。上の艦隊の生き残りは〈アレグランサ〉と〈バーミット〉のみで、〈アレグランサ〉は艦首部分が抉り取られ、〈バーミット〉は船体を過貫通し、浮いているだけでも奇跡の状態。射撃頻度は大幅に減って居た。
現在、海域は脱出した〈バイカル〉のランチと救難艦が走り回って救助を行っていた。
「破竜砲の発射準備をーーミリーゼ大佐」
イシュマエルはレーナを見て言う。
「ミリーゼ大佐、あんたは兵を連れて退艦準備を。救難艦が走り回っている、拠点にいるエイティシックス達も、この状況で救難艦を横付けさせるくらいなら何とかなる。〈レギンレイヴ〉は放棄になるがガキどもだけなら……機動打撃群の任務はーー拠点制圧と電磁加速法型の排除は完了した。あんたらはここまででいい。船団国群の戦争にこれ以上、付き合ってくれなくて大丈夫だ」
その為に無理して用意してもらった救難艦だ。最悪の場合ーー少年兵は帰らせる為に。
「いいえ」
しかし、レーナは首を横に振る。
それがイシュマエルの責任で矜持なら。
それがエイティシックス達にはこれが矜持で、その女王である自分の責任だ
「あなた達を見捨てて逃げることは、彼らの誇りを傷つける。それは私も同じです。彼らがまだ戦っているなら、私は同じ戦場に立たなければならないーー逃げる準備などできません」
〈ベナトナシュ〉の後部甲板から哨戒ヘリが持ち上がる。
積載重量を超過するまで爆弾を乗せているため、ややふらつきながら浮かぶ。
そしてそのまま電磁砲艦型に特攻を始め、会えなく速射砲に撃ち落とされて焔をあげて墜落する。
リノは対空砲を破壊した後、次の狙いを速射砲に定めるとジャベリンを持って接近する。対空砲の邪魔はない。狙うは……
「速射砲を片付ける!」
その瞬間レバーを全て倒し、一回旋回した後。電磁砲艦型に突っ込む。海面スレスレを飛行するので水飛沫が後ろに立つ。
速度はグングン上がり、最も簡単にマッハを超してソニックブームが発生。ビームジャベリンを持ったままマッハを超し、機体に負荷が掛かり始めて嫌な音が聞こえてくる。
「くっ…おぉ……!!」
かかる荷重力に呻いてしまう。視界が真っ白になりそうにはならないが、うっかり電磁砲艦型に突っ込んでしまいそうで怖い。ジャベリンを下に突き出しながら接近すると、そのまま船体スレスレを飛行し、ジャベリンが船体を一線に切り裂いていく。その中で速射砲を数基を破壊。それに音速を超えていた影響で衝撃波が引き裂かれた船体や、飛び出ていた速射砲を中心に一気に破壊する。
一旦通り過ぎた後に旋回、速射砲が沈黙したのを確認すると主砲がこちらに指向する。
「こんな小蠅如きに当たるものか……」
そう言い、回避行動を取った後、砲撃が飛んでくると、機体の端は発射時の衝撃波から逃れられず、右脚のノズルが損傷して軽く爆発した後に煙が上がる。
「ちっ…流石に無理が祟ったか……」
このまま錐揉み状態になると墜落の危険がある。その為、即座に左脚のブースターを切り、姿勢を元に戻す。
『大丈夫ですか……!?』
知覚同調でレーナが慌てて通信をしてくる。
「問題ない、今もこうして浮かんでいるしな……ただ、脚が損傷した。出せる速度は限られる」
『分かりました……』
その後レーナの短いほっとした吐息が聞こえるが、リノは苦い表情を浮かべる。
「ただーー……」
視線の先にはこちらを向く八〇〇ミリレールガン二門。砲身の間をアーク放電が走っていた。
「あの主砲を一時的にでも黙らせてくれると有り難いな」
巨艦が傾く。
八〇〇ミリレールガンを旋回させながら。その船体の傾きに〈ジャガーノート〉は等しく滑り落ちていく。
「くそっ……!」
咄嗟にアンカーを叩き込んで吊り下がっていたライデンは〈ヴェアヴォルフ〉をその場に止まらせる。左舷側の速射砲はさっきの衝撃波で完全に破壊されたが、右舷側はまた一部しか破壊していない。ごぉん、と巨大な影と共に八〇〇ミリレールガンが旋回する。狙って居るのは上空のリノだ。止めを刺すつもりなのだろう。
「揺れなきゃいい……固定されてりゃ、いいんだろう」
兵装選択、切替。
燃え盛る焔の波を切り裂き、電磁砲艦型が回頭する。
全弾打ち尽くしたミサイルポッドを投棄し、重機関銃での残弾を確認を確かめたところで急回転だ。甲板に残るわずかな僚機と共にワイヤーアンカーで自機を固定し<スノウウィッチ>の脚先が甲板から離れるほどの傾斜にアンジュも堪える。
八〇〇ミリレールガンの旋回は見えた。だが、重機関銃ではダメージを与えることは不可能。
「どうすれば……」
アンジュは歯噛みすると前方の突き出た鉄骨にぶら下がる無人の〈アルカノスト〉に気付く。
〈レギオン〉に情報を取れぬよう高性能爆薬を内蔵した。
近くで吊り下がる〈ブラックドック〉の中、ダイヤが言う。
即席の二機分隊を組み、お互いにフォローし合いながら高機動型を掃討し、共に弾切れとなった彼。
〈スノウウィッチ〉からは〈アルカノスト〉までは少し距離がある。より近くにいる〈ブラッグドック〉の中でダイヤは短く話す。
『アンジュ』
「ええ……」
前衛だからってーーいつも先陣を切っていたら生き方まで、立ち塞がるものを切り抜ける姿を、見せてくれた人が示した希望を。未来を。望むべき幸福と言うべきものを。
自分も、彼も。
たとえその人がこの戦闘でこのまま、失われたとしても
『頼めるか』
「ええ、任せて」
あの時、拾った命。
八六区の自走地雷の攻撃から守った人物。彼女は今ここには居ないが、共に生きることを教えてくれた。
今は生きたい、最後まで。目の前にいる彼と……だから。
兵装選択切替。脚部対装甲パイルドライバ。四基同時起爆ーー撃発。
四基の五七ミリ電磁パイルが装甲板に撃ち込まれてヴェアヴォルフを固定する。反動でアンカーが外れて弧を描くも構わずライデンは兵装を主砲に選択。わずかに旋回性能を持つ四〇ミリ機関砲。一度離したトリガをもう一度引く
「これならーーどうだっ!」
視線を追い、微動して照準を調整した機関砲が獣の唸りにも似た砲号をあげる。機関砲弾の驟雨が中を駆ける。
〈ブラッグドック〉が脚部パイルドライバを全基打ち込む。その機体が固定される
『今だアンジュ、行け!』
傾斜する甲板を無理やり飛び出した〈スノウウィッチ〉が〈ブラッグドック〉を足場にさらに跳躍。斜めに突き立つ鉄骨に着地し、重さに耐えかねてずり落ちるよりも先に〈アルカノスト〉を渾身の力で蹴り飛ばす。
「お願いーー届いて!」
〈バイカル〉の開けた大穴の捲れあがった装甲板に脚を引っ掛け、機関銃を放ったアンジュは祈るように〈アルカノスト〉を見た。
〈ヴェアヴォルフ〉の機関砲弾は艦尾側の八〇〇ミリレールガンの砲口に着弾。砲身の破壊こそしなかったもののそのインパクトに内側の流体金属がガラスのように撒き散らす。
艦首側の八〇〇ミリレールガンに〈アルカノスト〉が落ちかかる。〈スノウウィッチ〉の叩き込んだ機関銃弾が内蔵する高性能爆弾に誘爆。秒速八〇〇〇メートルにも及ぶ爆轟が流体金属を砕け散らせる。
直後に発射された砲弾の弾道をーー掻き乱された電磁波が、ごくわずかにだが狂わせる。
現在の放線距離はおよそ十キロ。そこまでの距離となれば少しのズレも着弾時には大きなズレとなる。二発の魔弾はいずれも〈ステラマリス〉を大外に外して海面へと突っ込む。
飛行甲板に大波がかかる。母艦は無事だった。けれど引き換えに。
猛烈な射撃の反動に、想定以上の負荷に一〇トン強のフェルドレスに飛び移られた装甲板が、異音と共に外れる。傾いた甲板を〈ヴェアヴォルフ〉、〈スノウウィッチ〉、〈ブラッグドック〉の三機が転げ落ちる。
電磁砲艦型の舷側に水柱三つが立つ。
ステラマリスは皮肉にも八〇〇ミリ砲弾の生んだ大波によって弾道から僅かに船体を逸らす。そして砲弾は海面に着弾していた。
だが、幸運はそれ以上続かなかった。
「っ!二番スクリューに着弾ーー脱落した模様です!」
「水中弾ーーか。最後の最後に運のねぇ」
タタでさえ遅い船速を致命的に減じた。
「ライデン!?ーーダイヤ、アンジュ」
三人の切れた知覚同調にセオは愕然と声を漏らす。
落ちたジャガーノートに意も解さずに電磁砲艦型は回頭を終えようとする。急角度に傾いていた船体が徐々に水平に戻る。
「っーー!」
攻撃の機だ。〈ステラマリス〉も速射砲を避け切れなかったのか今足が止まった。しかも電磁砲艦型の真正面で!
セオは落ちた仲間達に犠牲にまるで突き動かされるように〈ラフィングフォックス〉を飛び出させようとする。
それを見越したかのようにその前に二機のフェルドレスが立ち塞がる。氷細工の蜘蛛のような〈アルカノスト〉と同じ磨いた骨の純白のレギンレイブ。レルヒェの〈チャイカ〉、それにユートの〈ウルスラグナ〉。
共に乗り移って、ついに甲板状にはこの二人しかいない二機。
『敵砲は二基です、狐殿。お一人では倒せない』
『敵は狡猾だ……ここに来てまだ手を残してもいる』
人ならざる少女の冷徹な声が、無機質なまでに感情の薄い仲間の声色が、セオを冷静にさせた。
「ごめん……ありがとう」
『主攻は任せる、リッカ……トドメはお前が、さしたいだろう』
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい