電磁砲艦型が回頭を終え、逆方向に舵をきる。不自然に減速した〈ステラマリス〉に、今度は艦首を向けようとする。確実を期し、接近して仕留めるつもりか。
傾斜が最大となる間は〈レギンレイヴ〉でも動けない。レールガンに接近できるのは今しかなく、その気を逃すつもりは、ユートはなかった。
「〈ウルスラグナ〉より、要塞各機。敵主砲の破壊にかかる。艦首側を〈フリーダ〉。艦尾側を〈ギセラ〉と呼称。まずは〈フリーダ〉を潰す……右舷速射砲の排除を頼む……レルヒェ」
速射砲を優先して排除したい。先ほどのように衝撃波で破壊したいが、そこまでの速度を、今の〈ハミングバード〉は出せない。増援を待っている暇もなかった。
『いつでも』
「ーー行くぞ」
ほとんど同時に吶喊。徐々に疾走が不可能な角度に近づく中。二機のフェルドレスは艦首側のレールガンを破壊するために獣のように小刻みに進路を変えながら疾走する。
左右に小刻みに跳躍を繰り返し、獣のような乱数軌道で照準をさせない。ーーおよそ人間には不可能な、急加減速と急旋回。
生き残った速射砲が照準を合わせ、射撃をしようとしたところを防楯の無い砲塔後部から八八ミリ砲弾を集中。吹き飛ばす。
至近距離の爆炎にも一切の怯懦なしに〈チャイカ〉は駆け抜ける。
八〇〇ミリの主砲を、たかだかフェルドレス数機に破壊されるわけにはいかない。重々しい風を切る音を引き連れて艦首側の〈フリーダ〉、艦尾側の〈ギセラ〉、二門のレールガンが二機のフェルドレスへと向ける。
照準。今ーー……。
『ーーユート!〈ギセラ〉は任せろ!』
転瞬。レールガンが艦首を向き、無防備な艦尾に新たな船体が飛び移った。彼らと電磁砲艦型の間にはかなりの距離があったが、沈んだ〈バイカル〉の残骸を伝って飛んできていた。
跳躍で足りない分はワイヤーアンカーを伝って甲板へ到達。先頭はシデンの〈キュクロプス〉。続いてここまでの戦闘で五機が脱落し、〈メジュリーヌ〉を要塞上に残して十七機のブリジンガメン戦隊全機。
海賊さながらに飛び移った彼女達はすぐさま眼下の砲塔へと取り付く。全て破壊された対空砲と左舷側は全滅した速射砲。それらが甲板中央部に折り重なる、砲だけで組まれたような上部構造。再びアンカーを打ち込み、よじ登る。
砲身の長さよりも内側に侵入した彼女達に、〈ギセラ〉は砲身を振り回した。数百トンは降らないだろうその砲身は大質量を持って不注意な一機を飛ばそうとした時、砲身に大爆発が生じる。その攻撃は生き残っていたモビルスーツ隊からの攻撃だ。現在の残存機は七機、実に半数以上が撃墜されていた。その隙に一気に〈チャイカ〉と〈ウルスラグナ〉が〈フリーダ〉と〈ギセラ〉によじ登る。
二門のレールガンが断頭台のように放熱索のワイヤーを振り下ろす。自衛の最後の切り札。だが……
『『……落ちろ!』』
クラウとリノがビームを発射して放熱索を焼き切るが。ビームが当たり、やや小さめの爆発を起こす。爆発の影響で〈チャイカ〉が擱座してしまった。千切れたワイヤーをすり抜けて〈ウルスラグナ〉が接近する。砲身まで二〇メートル。三〇メートルの砲身の死角。だが……
……やはり一歩足りない、か。
〈チャイカ〉に向けられようとした砲身がそのままの勢いで〈ウルスラグナ〉を潰しにかかる。視界の端には砲塔背部、制御中枢があるだろう位置にはまだわずかに遠かった。
不意に思い出す。セオに話した塔の話。誇り以外の懊悩も感情も欲も願いも、ここでは切り捨てなくていのかもしれない。
薙ぎ払われる〈フリーダ〉の砲身。
〈フリーダ〉を破壊する為には黙らせるべき電導ワイヤーのーー蝶の翅が生え出る根元のような基部に八八ミリ戦車砲の砲撃を叩き込んだ。
「方をつける……援護しろ!」
『了解!』
両脚のエンジンが停止。しかし、片付けなければならない物がある。
「破壊するなら誘爆を誘うしかない……」
ブースターを点火し、一気に電磁加速砲の艦尾に回り込む。
「いつもの奴じゃあ貫通できない…なら……!」
そう呟くと、リノは持っていたビーム・スマートガンを左手に持ち、もう一方の手にもう一丁ビーム兵器を持つ。その兵器は五発入りのマガジンを下に備え、明らかに異質な形状をしていた。
「こいつなら対ビームコーティングなんか関係えねえ!!」
そう叫ぶと、右手にビームマグナムを持って対空砲が黙った艦尾の電磁カタパルトと対爆シャッターと思われるモビルスーツ格納庫に照準を合わせる。シャッターの高さ的におそらくうつ伏せの形で射出していたのだろう。試しにビーム・スマートガンで撃ってみるが、シャッターに阻まれた。
「実質二発しか撃てんが…一発なら問題ないだろう……」
そう言い、リノは目を閉じて右目の能力を使って中の様子を見る。
「(推進剤のタンクは……)そこだぁっ!!」
一瞬見えた景色に合わせてリノはビームマグナムをやや下に傾けると引き金を引いた。
その瞬間、極太のビームが目の前の対爆シャッターを融解しながら貫通。そのまま極太のビームは艦底部まで貫通し、その光景は〈ステラマリス〉からも見えた。
「あれは……」
その瞬間、艦尾のモビルスーツ格納庫に詰まっていた推進剤に引火。恐らく今までで最も大きい爆発を起こした。その威力たるは、電磁砲艦型の艦尾が丸ごと吹き飛ぶほどだった。
「くっ……!!」
その爆発の衝撃は〈ステラマリス〉にも伝わり、一瞬艦橋が大きく揺れた。
艦尾が完全に崩壊したのを確認したリノの〈ハミングバード〉は撃った右腕にスパークが走り、全く動かなくなった。
「ちっ、これでも沈まねえのかよ……」
どれだけ硬い装甲を積んでいるんだと内心毒吐きながら、爆煙の上がるその場所を見る。推進剤に誘爆してこの有様。だから確実に大ダメージを負っているはずなのだが……
「二発目は……」
この威力なら確実にこいつを沈められる。だが……
「機関部に撃てない……」
そう、こいつの動力は原子炉。これがもし、自分たちのMSと同じミノフスキー型核融合炉であれば躊躇なく弾けるが、こいつは核燃料を使う核分裂型。撃てば放射線が撒き散らされる。
今回は機関部ではないから撃てたものの、撃沈するにはどうすればいいのか……
「ーーシデン、導電ワイヤはこちらに任せて」
僚機が退避する中。あえて残った摩天貝楼拠点、第三層第三フロア。その一角で、電磁砲艦型にギリギリまで寄っている〈メジュリーヌ〉で、シャナは得意でもない超距離狙撃の照準を合わせる。
狙撃ができないからこんなギリギリの場所で砲撃をしている訳だが。
視線の先では艦尾の大爆発で船体が大きく歪み、ちょっとだけ爆発の反動で前に進んでいた。
だって負けて死にたくない。
この世界に人間なんていらない。人は、世界は、悪意に満ちて残忍だ。……そんなことは分かっている。今し方クレナやレーナが思い知らされる様に、目の前で奪われてしまわなくても今更分かってる。
世界なんて残忍だ。
死んだ方がいっそ楽だと、薄笑みさえ滲ませて刃を突きつけてくる。
そう、死んでなんてーー好きになれないこんな世界の、言う通りにしてなんてやるものか。
〈ギセラ〉の背部に、斜め上から砲撃。
狙うはワイヤーの束の生え出る、根本の僅かな装甲。摩天貝楼からはもはや点にも見えないその一点に、正確に、高速徹甲弾を叩き込んで飛ばす。
死にかけた臓腑の様に、のたうちながら鋼索は落ちる。その合間を抜けて〈キュプクロス〉は砲塔背部、レールガンの制御系が置かれているだろう場所に、散弾砲を突きつけた。
『ーーくたばれデカブツ』
砲号。
うち放たれた八八ミリ砲弾が〈ギセラ〉を背部から貫徹。悲鳴の代わりに流体金属をばら撒き、固定されていながら一瞬のけ反った様になった艦尾の八〇〇ミリレールガンが、ついに火を噴いて頽れた。
一方艦首側、もう一門レールガンである〈フリーダ〉は、導電ワイヤーを根本から喪失する。叩き込まれた成形炸薬弾に導電ワイヤーを排除しても、〈フリーダ〉そのものは死んでいない。
近接した敵機を薙ぎ払わせる為、振り回されたレールガンの砲身は速度を減じさせる事なく、横殴りに薙ぎ払われる。
先ほど起こった艦尾側でこっからでも見える爆発が起こり、船体が大きく揺れていた。
『自衛兵装排除。……あとは、』
咄嗟にユートは〈ウルスラグナ〉を横に跳躍させた、らしい。その回避虚しく瞬く間に追いついた〈マリーダ〉の砲身が、〈ジャガーノート〉と〈ジェガンA2〉を巻き込んで小石の様に突き飛ばす。
知覚同調が切れる。苦鳴の一つのもあげぬままに、〈ウルスラグナ〉はモビルスーツと共に海に転落する。
その壮絶と、引き換えに。
『ーーうん、任せてユート。それに皆……』
未だ残る爆炎に隠れながら〈ラフィングフォックス〉は〈フリーダ〉頭上に飛ぶ。
地を這う様に疾走した〈チャイカ〉と〈ウルスラグナ〉を囮に、ワイヤーアンカーと跳躍で〈フリーダ〉の頭上の空中へと。
〈フリーダ〉に自衛用の火器はもうない。ただ、〈フリーダ〉そのものはーーレールガンそのものはまだ砲撃をしていなかった。槍の様な砲身が旋回し、〈ラフィングフォックス〉を捉え直す。全体に電流が駆け巡り、次の瞬間破砕音にも似た雷鳴が轟渡る。
センサーには口径八〇〇ミリの砲口が写る。できれば砲塔背部に向かいたいのだが。ここで妥協をし、照準を恐らく装填されているであろう八〇〇ミリ砲弾に合わせる。
撃発。
八八ミリ砲が砲声を上げる。本来八〇〇ミリ砲弾が進む道を逆進して八八ミリ砲はレール半ばまで進む。途中で電磁波を形成する流体を切り裂きながら。
信管が作動し炸裂。
電磁場を形成した流体の一部が盛大に撒き散る。回路がショートし、電流が暴走。〈フリーダ〉に装填された八〇〇ミリ散弾がレールの狭間で誤作動。
耳を弄する轟音で爆発。膨大なエネルギーが逃げ場を失い砲身を正反対に折る。
「ーーフリーダ撃破を確認」
後は、と思ったところで衝撃が来た。
「ーーセオ!?」
至近距離の爆発に〈ラフィングフォックス〉は艦首方向へと派手に弾き飛ばされる。擱座した〈ギセラ〉の砲塔上でシデンは思わず声を上げる。
二回ほど転がり、ーー〈ラフィングフォックス〉はよろめきながらも立ち上がる。繋がったままの知覚同調の向こうで、くらつく頭を抑える様子でセオが言う。
『いたた……あ、一応無事』
「ったく……。いつにも増して危なっかしいんだからよ……』
これで八〇〇ミリレールガンはどちらも撃破。後は残りの速射砲を潰して〈ステラマリス〉に帰還するだけだが……
『あっーー……!!』
セオは引き攣った様な声を漏らす。
『ブリジンガメン戦隊も離れろ!そいつはーー……』
焦燥に駆られた早口で警告が飛ぶ。その声がシデンも半ば忘れていた。一年前、レールガンとの戦闘の光景を思い出させる。
機密を守る為に、あるいは敵機を巻き添えとする為に。自らの体内に
『電磁加速砲型は自爆装置を内蔵している!』
警告は、思い出すのが音の少しだけ遅かった。
〈レギオン〉の戦闘不能を警告するシンはここにいなくて、警告は間に合わなかった。
無音の閃光、ついでに爆轟。
駆け抜けた衝撃波と閃光と共に〈ギセラ〉がーーそれ自体千トンはあろうかと言うレールガンが、そのまま鋼鉄の破片に、千々と砕けて吹き飛んだ。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい