自爆した〈ギセラ〉の近くにいたブリジンガメン戦隊全機が吹き飛ばされるのをレーナは見る。衝撃波に弾き飛ばされ、破片を喰らい、無力に電磁砲艦型から転げ落ちる。
「っ……!」
悲鳴をどうにか呑み込む。
駆け回る救助艇に指示を出す。エステルの声が聞こえる。
『五番七番、向かっていますね。十二番、収容完了後待機位置へ。十五番、給油を』
『バイカルのランチが着艦しました!数名の救助者を抱えています』
ーー救難艇は征海艦隊に属する全機が、一人でも多く救おうと焔の海と砲撃の雨の中を休むことなく駆け回ってくれている。その誰かが拾ってくれると信じて……
フレデリカが効率を上げる為に異能を使い続けているようで、泣きじゃくる彼女に救難艇の誰かが声をかけるのを無線越しに聞こえる。
『ーー嬢ちゃん、もう本当にいいから見るのをやめろ。損傷具合は俺らが見てるし、トリアージの訓練もされてる。あんたが無理をしなくてもいいんだ!』
『まだじゃ。……妾には出来ることがある。落ちて、救うべき者はまだまだおる。出来ることをせずに後悔しとうない。じゃからーーまだじゃ』
彼女は泣きじゃくりなが気丈に首を振った。
「……………ええ、」
口の中だけで呟き、レーナは顔を上げる。ーーまだ、電磁砲艦型は死んでいない。
ふと、何かが警鐘を鳴らした。
……死んでいない?
それならレールガンは死んだのか?
何を以てーー死んだと確認できた?
〈レギオン〉の嘆きを聞くシンは、ここにはいない。機械仕掛けの亡霊がこの世に留まる限り繰り返される断末魔の、その絶える瞬間を誰も確認していないのにーー
その瞬間、リノは知覚同調で聞いてくる。
『おい!なんで〈フリーダ〉は自爆しねえんだ?!』
その瞬間、レーナはハッとなって映像を見る。そこには電磁砲艦型の上に渦巻く銀色が映る。
流体マイクロマシンの、恐らくは撃破した〈ギセラ〉の制御と火器管制の為の。
摩天貝楼拠点最上層の電磁加速砲型が撃破された直後の、滴り落ちる銀の雫。
……あの時、気づくべきだった。
電磁砲艦型は高機動型と同じ、不死の機能を持つ指揮官機。機体を撃破した程度では、撃破したとは判定できない。
銀の群れが雪崩落ちる。墜落の様に翅を畳んで、不吉な月光の様に降り注ぐ。
向かう先はセオの撃破した艦首側のレールガン〈フリーダ〉に舞い降り、装甲のわずかな隙間から入り込む。砲身内部で爆発し、もう撃てないはずのレールガンに。
焦げ付く様な焦燥が湧き上がった時、リノが全員に聞こえるよう叫んだ。
『全員逃げろ!〈フリーダ〉から!!早く!!海に飛び込め!!』
だめだ、間に合わない。気づくのが遅かった。
レールガンの砲撃の度に飛び散った銀色の飛沫。あれは、流体マイクロマシンだ。砲身の摩耗とは、流体マイクロマシンの摩耗の事だ。自爆した〈ギセラ〉はともかく、〈フリーダ〉は砲身だけ破壊した。砲が撃てないから死んだと思っていた。
砲身に流体マイクロマシンがあるなら、それはつまり……
流体マイクロマシンさえあれば蘇ると言うこと。
「砲撃が来ます!流体マイクロマシンが砲身になるーー〈フリーダ〉が復活する!」
舞い降りた銀の蝶の粒子が、曲がった砲身を垂らした〈フリーダ〉に吸い込まれる。
光学センサに蒼く、光が灯る。
無力に傾いていた三〇メートルの砲身が水平位置へと持ち上がる。雄牛の角のように、東方の兜の飾りのように歪んで隙間の空いた槍状のレール。
その内側に銀色が滲む。
霜が成長するように銀色の流体が湧き出し、砲身の間を埋めていく。
撃破された〈ギセラ〉の火器管制系。それを構成していた流体マイクロマシンを取り込み、文字通り穴埋めとして。
大地を切り裂く叫喚で紫電が散る。
砲身が僅かに上がり、水平。さらに仰角を取って僅かに斜めに。
照準はーー摩天貝楼拠点。その上の〈ジャガーノート〉達。
八〇〇ミリレールガンが咆哮した。
至近距離で聞く雷鳴の若き八〇〇ミリの激甚の砲号が轟き渡り、同時に二門のレールガンが船体を過貫通し、巨大なビーム攻撃で上に吹き飛ぶように爆発していた。
しかし、超絶の衝撃波で吹き荒れる甲板に、ワイヤーアンカーで飛び降りることで〈ラフィングフォックス〉はその猛烈な衝撃波を逃れる。
けれど凌ぎ切って、這い登って戻った電磁砲艦型の甲板上。
そこから見えた惨状。
「……あ、…」
八〇〇ミリの砲弾が発射直前のビーム攻撃で照準がややズレ、摩天貝楼拠点の端を掠ったとはいえ、聞いたことのない音が聞こえ、要塞全体が軋み悲鳴を上げる。
膨大な重量を支えていた柱がへし折れ、金属の軋む凄まじい金切り声を上げる。
まだ塔に、居るはずの。
「クレナ。それに…今のってーー……っ!!」
その時、〈ジャガーノート〉が、引きちぎられた鉄骨の間に擱座しているのが映る。砲撃の直線に聞いたその声と同じくらい信じされなかった。
幸い、リノが警告したおかげで数はそう多くない。射線がずれたのか、砲弾の当たった跡が照準前とズレていた。
そのおかげで崩壊速度はゆっくりで、擱座した機体に接近し、仲間が中をこじ開けて救出すると一斉に逃げ出す。低い階層から海に飛び込んでおり、その上で瓦礫と化したビルディングがゆっくりと折れているようにも見えた。
射線がずれて要塞の端に当たったとはいえ、支えていた柱が折れたのだ。
そして、砲撃を終えた〈フリーダ〉は流体マイクロマシンを撒き散らし、そして極太のビーム兵器の攻撃で電磁砲艦型の上の二門のレールガンは吹き飛び、木っ端微塵になっていた。……それなのに。
「こいつっ……!!」
船体が揺れる。回頭を始め、旋回を開始する。
狙いは。
「……〈ステラマリス〉」
恐らくはカミカゼ。残った船体を〈ステラマリス〉にぶつける気だ。動ける〈ジャガーノート〉は自分以外他にいない。みんな落ちてしまった。
要塞に居るクレナ達は摩天貝楼拠点が倒れる前に安全な土台まで逃げなくてはならなくて、スクリューを損傷した上に誘い出されてしまった〈ステラマリス〉は進路上から逃げられない。
だから。
その事実に不思議と、精神が凪いで行くのを感じる。自分とこの船しか世界にいないかのように、研ぎ澄まされていく。
自分以外もう、誰もこの事態を打開できない。
〈ステラマリス〉を撃沈されるのはごめんだ。あの艦を失わせるわけにはいかない。
レーナを死なせられない。フレデリカやヴィーカやマルセルや、管制員に整備クルー。イシュマエル達征海艦乗りだって、リノ達モビルスーツ隊だって、生きて帰るまでが役目。自ら捨てる最後の誇りを……。
何より〈ステラマリス〉は帰るための船。ここに居る者皆を返らせないと。
そして自分も。
「……帰らないと、」
そんな場所がなくても、どこかに見つけて。作って。
崩壊する鉄塔は、電磁砲艦型の側面を掠めてカイメンノツk刺さる軌道に倒れる。だから倒れる途中の今、その質量の大半は電磁砲艦型の頭上にある。
今なお無事なワイヤーアンカー。頭上に向けて打ち出し倒れる塔の鉄骨の一つに絡みつかせる。同時に跳躍。
ワイヤーを巻き上げた脚力だけよりも高速でーーレールガンの頭上へと〈ラフィングフォックス〉は跳んだ。
そう、世界は残酷だ。悪意に満ちて、不条理だ。
生きる理由がある人間が死んで、生きる理由なんてない人間が残って。逆だろうと思ってもそうなってしまうことはあって、だから、生き残った側は生きなきゃならない。
死んだそいつに、死んでももうどこにもいないけれどまだ自分は覚えているそいつに、顔向けできないような生き方はできないから。
だから幸福に、ならないといけない。
一人でも、未来なんて考えるのはまだおそろしくても、必ず。
戦隊長。
ーー許さないでくれ。
自分の死を呪いたくないから、そう言ったのだろう。死の瞬間まで、人を気遣った。最後まで高潔に生き切った。
でも僕にはまだその呪いは必要だから。
あなたという呪いがないとまだ、生きてなんて行けないから。
あなたの死に、死んだあなたに、僕は僕の生き方で報いなければならない。誰からも報われなかったあなたに、だからこそ、あなたを唯一知る生き残りの僕が、僕の生き方で報い無いとあなたを本当に無駄死にさせてしまう。
その為に。
あなたはきっと愚かなことをしたのだけれど。
世界中の誰もが馬鹿だったと言われるかもしれないけど、でも間違いなく正しかった。
あなたは正しく生きた、あなたを愚かだという世界に示し続ける為には……僕は、僕が、生きて幸せにならないと行けないから。
幸福にならねばならないという呪いにーーあなたを変える。
狙いは吹き飛ばされたレールガンの基部の装甲下の制御系。器用にも極太ビームが抉り取り、狙いやすかった。その一点を狙い、放物線を描いて〈ラフィングフォックス〉は跳ぶ。
ーーここだ。
狙うべき一点が眼下に来る。機体を反転させ、砲を下方に下げる。短く鋭く、止めていた息を無意識に吐いた。照準が合うまで、あと少し。
その時、生き残った最後の速射砲が振り向けられるのが目に映す。
避けている暇はない。
照準が合う。
トリガにかけた、指を。
軍艦の砲の照準手段を
「艦首から一二〇メートル、喫水線のすぐ上ーー………」
陸上ではまず助からない高さだった。〈レギンレイヴ〉の緩衝系はそれでも搭乗員を守ったが、安静を厳命されるくらいには重症だ。
それでも必要だと思ったから、治療を切り上げて統合艦橋に来た。
まだ仲間は戦っていて、まだ出来ることはある。
そうである以上寝ているわけにはいかない。
肩を貸すヴィーカが苦笑しつつも、やや険しい表情をしていた。振り返り、耳を傾けていたイシュマエルが、火器管制士官に目を向けて照準の指示を出す。
見開かれて凍りつく、白銀色の双眸から今は背を向けてーーたったこれだけのことで切れる息のまま、
ステラマリス甲板ではカタパルト要員が準備を完了し、照準を合わせていた。
四門の四〇センチ連装砲が剛音と共に旋回する。先の嵐とこの戦闘で煤と傷。最後の航海でなお戦傷の誉を負った艦船の女王のその勇姿。
征海艦〈ステラマリス〉のおそらくは最後の射撃。
その最後の射撃に船団国群人ですらない異国の人間の力を借りるのは業腹だが。
『ーー撃ぇ!』
強烈な射撃の反動と衝撃波を撒き散らして砲撃。残弾全てを虚空へと吐き出し、濛々と硝煙を立ち込めさせて沈黙。ーー永遠の、沈黙。
続けて。
「ーー幸せだなステラマリス。我らが初めての、最後の大母上……最後の戦で、破竜砲まで撃って終えられる」
甲板要員の誰かがそう呟く。イシュマエル最後の砲撃命令を聞きながら。
『照準そのまま。破竜砲ーー撃ぇ!』
甲板の蒸気カタパルトから水蒸気を上げてシャトルが動く。実に一五トンにもなる錨を引き摺りながら。
カタパルトは三〇トンもある戦闘機を僅か二秒ほどで離陸速度まで加速させるエネルギーを持つ。そして時速三〇〇キロまで加速した錨はそのまま鏃のように投擲される。
破竜砲
艦載機も砲弾も尽きたとしても眼前の砲光種を葬るためのーー征海艦最後の兵装。
錨が飛ぶ。先に進む四〇センチ砲の、一トンの砲弾を追って。古代の弩砲と大差ない、原始的で乱暴な投擲方法で投げられた鏃が。レールガン、その予想される弾道と交差して。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい