星暦二一四八年 九月二八日
視線の先には念入りな整備をされ、汚れを落とされた〈ジャガーノート〉の姿が。
マークはセオが書き直し、それも真新しくなっていた。
宿舎では隊員達が行き来をしている。
それもそのはず、明日はいよいよ特別偵察任務の日だからだ。
各自必要な荷物や私物をかき集めていたのだ。
「六人か、ハルトの奴は惜しかったよな」
「……あのさ、死んだように言わないでよ」
ライデンの横でそう言うのは左脇に即席の松葉杖をし、腕と足に添木をされて包帯を巻かれたハルト本人だった。
彼は特別偵察前最後の迎撃作戦で近接猟兵型の特攻で、咄嗟にリノの〈ジェガン〉の機転で命は助かったが〈ジャガーノート〉は大破、そして右前腕部と左大腿骨骨折、とてもじゃないが戦闘機械を操縦できるような状態ではなかった。
よって、特別偵察任務に参加する事は叶わなかった。
では彼はどうなるのか。
否、答えは簡単である。
「ごめん…俺たちだけ合州国に亡命する事になっちゃって……」
「いいじゃねえか、リノが『命あっての物種』って言ってただろ?」
そう、合州国への亡命である。ハルト自身、最後まで自分も特別偵察任務に行くと粘っていたがダイヤから、
『俺たちは先で待っているから。お前は土産話を持って来て聞かせてくれよ』
と言われ、渋々と言った様子でリノの手を取っていた。
自分にまた新しい使命ができたと言うことで納得をさせていたが、本音はシン達と共に逝きたかったのだろう。
そんな感情がひしひしと伝わってきた。
するとライデンが意外そうな声で呟く。
「まさかレッカまでついていくとは思わなかったがな」
「本当な」
そう、ハルトがリノの手を取った時、レッカもハルトが心配だからと同じように合州国に亡命すると言い出したのだ。
理由はハルトが向こうでも変なことをやらかさないようにするための監視、と言っていた。予想外な展開にシン達……特に仲が良かったクレナが驚いていた。
何故だと詰め寄るクレナにレッカはこう言い残す。
「クレナ、私も土産話を持って行くつもり。あんな奴の話なんかよりももっと面白い土産話を持って行ってあげる。だからそれまで楽しみにしていて。第一男の持ってくる話なんてウチらになんてさほど面白いものもないでしょ?」
クレナは最後までレッカのことを引きずっていたが、最後は笑って見送ろうと決心をし、覚悟を決めた様子でレッカを見ていた。
その時のことを思い出しながらハルトは思い出したように、苦労しながら左手ポケットから二枚の金属片を取り出す。それはハルトとレッカの機体から切り取った〈ジャガーノート〉の装甲片だった。
「これ、後でシンに渡しといて。俺もそこに行き着くって証を残すために。俺は、いつまでもこの隊のことが好きだから」
「おう、お前は後から大量の土産話を持って来てくれよ」
「ああ、任せろ」
そう言うとハルトを呼ぶ声が聞こえ、ライデンは寝そべっていた便利から起き上がる。
「よっと、時間のようだな……」
「そうだね」
「じゃあ、俺たちは先で待っているぞ」
そう言うと二人は共に同じ方向に歩き始めた。
同時刻、基地の別の場所では女性陣が集まっていた。
「レッカ……本当に行っちゃうの?」
「ええ…ごめん、自分勝手なことしちゃって……」
「ううん……」
クレナとレッカがそう言い、アンジュやカイエもレッカを見て名残惜しそうに別れを告げる。
「次会ったら、色々と話を聞かせてね。待っているから」
「面白い話とか、向こうの話とか。色々と聞かせてくれ」
「ええ、分かった。その時はいっぱい話をしよう。色々と見てくるから……」
湿っぽい別れ方に、レッカは申し訳なさそうにする。
しかし、もう決まってしまった事だ。名残惜しくも、レッカを呼ぶ声が聞こえる。
「おっと、もうこんな時間か……」
「行くんだね……」
「気をつけて」
「また会おうね。レッカ……」
「ええ、クレナもアンジュもカイエも。みんなまた会おう」
そう言うとレッカは自分の乗っている〈ジャガーノート〉に向けて歩き始める。後ろにはコンテナが繋がれ、そこには戦隊からのお土産とハルトとレッカの私物、整備班からのお土産が入っていた。さらに、コンテナの中には分解された状態の〈ジャガーノート〉まで積まれており、中身は一杯一杯だった。
全員が二人を見送ろうと外に集まって二機の〈ジェガン〉と一機の〈ジャガーノート〉を見る。
全高二〇メートル以上あるジェガンは〈ジャガーノート〉と対比をすると地を這う虫のようであった。
「こうやってみるとやっぱり凄い大きいんだね」
「そうだな。今までこいつに何人助けられたんだろうな」
「いっぱいの人を助けたよ。それなのに白豚は……」
クレナは心底忌々しげに呟く。その様子に今回ばかりはアンジュやカイエも同様の気持ちであった。
「おかげで、予定が一日早まってしまったんだもの。碌な事をしないわね」
「今回ばかりは同感出来るな」
アンジュやカイエもそのような事を言いながら宿舎端に目をやる。
そこには真っ黒な遺体袋が四つ並んでいる光景であった。
昨夜 スピアヘッド隊舎端
真っ黒な闇世の中、隊舎の端では黒い服装に身を包んだ四人の人物が銃を片手に集まっていた。
そのうちの一人がつぶやく。
「ーーったく、なんで俺がこんなところに……」
「しっ!文句を言うな。命令を忘れたのか」
「しかし……」
彼らは共和国の八五区からある作戦のために派遣された今時珍しい戦闘服を着る白系種であった。
彼らは国軍本部からの直属の命令で半年間で訓練を受けた金に目の眩んだ雇われ兵である。
「命令を忘れるな。今回はアストリア合州国のモビルスーツを回収する事。その為に搭乗員二人を静かに殺すことだ」
「へいへい、分かっていますよ」
見るからにやる気の出ない新兵にため息を吐きつつも四人は隊舎の中に入り二階の一室に入る。
事前の下調べでこの部屋に目標がいる事は把握済みだ。四人はお互いにアイコンタクトをするとドアノブを握って一気に部屋の中に入り躊躇なくナイフを布団に突き刺す。
そして五回ほど刺し、作戦完了とホッとした時。
パシュッ「ガッ」バタンッ
「っ!?敵k」パシュッ!ガタガタ……
密閉空間の攻撃に同点し、まともに反撃ができない中。二人がやられ、残った二人は一人はいきなり死んだ二人に腰を抜かし、もう一人は持っていた小銃を闇雲に撃とうとしていた。しかし……
パシュッ!「あっ……」ガシャンッ!
そして腰を抜かし、まともに動けない一人は真っ暗な部屋を見まわし、ふと背後の気配に気づく。
「っ!?」ガバッ!
気づいた時にはもう遅く、男は首に腕を巻かれ、頭を手で押さえつけられていた。
すると背後にいた気配は男のようで、そいつは呆れたように喋る。
「やれやれ、暗殺をするには足音が大きすぎだ。バレバレだぞ」
「グ……ゴ……」ミシッ
首から嫌な音が聞こえ、白系種の顔色はどんどん悪くなる。
「共和国の意思は理解した。俺が国に戻ったらこの事をきっちり上官に伝えておこう」
ミシッ「ゴ……アァ……」
顔色は土器色となり、リノは締めている力を徐々に強める。そして最後にドスを効かせた声を耳元で囁く
「よく覚えておくんだな。合州国に刃向かえばこうなると」
ゴキッ!
最後に思い切り締め付け。脊椎を砕いた音がし聞こえ、リノの腕にどっさりと重さがのしかかる。
男は白目をむいて倒れ、口からは血が漏れていた。それを見てリノはため息をつく。
「やれやれ、まさか本当に殺しにかかるとはな……出て来ていいぞ」
そう言うとと少し空いた扉の向こうから片手に完全消音拳銃を片手に持つエリノラの姿があった。
エリノラは部屋の扉を閉じるとため息を吐いた。
「まさか本当に殺しに来るなんて思わなかったわ」
「ああ、俺も正直予想外だった」
そう言いながら地面に横たわっている四人の白系種の遺体を見る。
覆面をしていた影響で幸い血は床に染み付いておらず、被害は布団がボロボロになっただけであった。
案外最小限に終わった被害にホッとしていると部屋の扉をノックする音が聞こえる。
『ねえ、今薬莢の落ちる音がしたけど大丈夫?』
扉の向こうでクレナの声が聞こえ、エリノラが答える。
「ごめん、ちょっと私の誤発。気にしないで」
『……何があったの?』
クレナがそう聞き返す。そしてクレナの声に気がつきゾロゾロと他のメンバーも集まって来ているようであった。
流石に隠し切れなかったかと若干の後悔をするとリノが扉に向かって叫ぶ。
「今、部屋に入ってくるな。俺たちを殺しに来た奴の遺体がある。片付けるまで待ってろ」
『あ、うん……分かった……』
リノの指示に従い、クレナ達は部屋に入ってくる事はなかったが、リノ達を殺しに来たと言うことで様々な憶測をしていた。
そんな声を気にもせず、リノとエリノラは四人の遺体を遺体袋にしまうとそれを積んで外にいるであろう男達を部屋に招き入れる。
「これ運ぶのを手伝ってくれ」
「お、おう……」
「……分かった」
平然と遺体を運ぶリノ達に顔が引き攣りつつも四体分の遺体を運び出すとリノはそれを隊舎横に陳列させる。
「なあ、リノ。説明してくれよ、これは一体何なんだ!?」
「合州国に喧嘩を売った馬鹿どもさ。今頃白豚どもは大慌てだろうな」
「「「・・・・」」」
この時、シン達はリノの姿を見て本当に軍人なのだと理解した。
自分達のような経験と勘で生き残った兵ではなく。きちんとした訓練を受け、人を殺すことに何の躊躇なく行うことができる。
本物の軍人なのだと。遺体を見てこんな軽口を叩けるくらいに、彼は訓練されて来たのだろうと感じていた。
そして彼は馬鹿どもと遺体に向かって吐き捨てるとその場でシン達に言う。
「済まない、予定を変更させて貰う。明日の昼にここを経つ。それまでに準備してくれる様アルドレヒトさんに頼んで来る」
「あ、あぁ……」
ライデンはそんな返答をしながら走り去っていくリノを見続けていた。
開けないほうがいいと言われ、素直し従っているが。中にいるのは俺たちを追いやった白豚。しかし、これを見てどことなく吐き気がしてしまうのは俺達は完全に人が死ぬところに慣れていないと言う事なのだろう。
そうでなければこんな気持ちは抱かないはずだ。
今の時刻は午前二時頃、深夜なのにも関わらず俺たちはリノ達を襲った白系種の遺体を見て眠気なんか何処かに吹き飛んでしまった。
クレナですら少しだけ気持ち悪そうに四つの遺体袋を見ていた。
本来は燃やすか何かして処分したほうが良いらしいのだが……リノはとりあえずレーナに一言連絡を入れただけでそのままジェガンのコックピットを開けると中身を確認した。
「……入られた形跡はなさそうだな」
リノは変化のないコックピットを確認してホッとため息を吐く。
そして深夜にも関わらず対応をしてくれ、さらには真っ先に謝罪までしてきたレーナは素晴らしいとも言えた。
「さてと……これ以上ここにいるのは危険だな……レッカやハルトには申し訳ないが出発を早めなければならないな……」
そう呟き、文句を言いつつも事情を理解し、遺体袋を見たアルドレヒトさんは部下を叩き起こして出発のための準備を急ピッチで進めてくれた。
そのことに感謝しつつ知覚同調で全員に伝える。
「全員に通達。遺体を見て分かってくれたかも知れないけど、これ以上俺たちがここにいるのは危険と判断し、出発日時を変更、明後日十二時から明日の十二時に変更する。それまでに支度をして置いてくれ」
そう言うと全員理解してくれた様で、文句は一切なかった。
そして急遽徹夜でお別れ会を開く羽目となってしまっていた。
「本当、碌な事しないね」
「全くだな、おかげでこっちは大忙しだ」
そう言い、セオとライデンが苛立ちながら〈ジェガン〉に吊り上げられているハルトを見る。
慎重に吊り上げられたハルトはコックピットに入れられる前、シン達に笑顔で手を振る。
最後は笑顔で見送ろうと約束した為だ。シン達も手を振り返すとリノがハルトの椅子を押してコックピット後の展開式の椅子に座らせる。
「痛いところはあるか?」
「大丈夫。ジャガーノートより良い椅子だからな」
「そうか……」ピッ
リノがコックピットのボタンを押すと何もなかったコックピットに映像が映る。
すると外に映像が見え、そこでは手を振り続けているシン達の姿があった。
ハルトはその様子を見て涙がこぼれて来そうになったが、必死に抑えて堪えていた。
リノはコックピットからシンに声をかける。
「シン!」シュッ!
パシッ!「これは?」
「周辺の地図だ。一応測量はしてあるから問題はないはずだ」
「……」
何枚かの紙には等高線と十字の格子の線が書かれ、色はないが地図であった。
「ありがたく使わせてもらう」
「ありがとよ!」
「ハルトを宜しく」
「俺からも頼むぞ!!」
シン、ライデン、セオ、ダイヤからそんな声が聞こえ、リノも頷く。
「ああ、任せろ」
そう言うとリノはコックピットに戻ってハルトに安全のためにヘルメットを付ける。
「右のボタンを押せば外のスピーカーから外に声が響く。押せるか?」
「ああ、問題ないぞ」
そう言い、動かせる左腕でボタンを押す仕草をするとリノは頷いた上で聞き返す。
「本当にいいのかい?これで今生の別れとなるかも知れないが」
「いいんだ、俺にはアイツらにいろんな話をしてやるって言う仕事が出来たからよ」
「……そうか。じゃあ、そろそろ出るぞ」
「ああ、宜しく頼むよ」
シューという音と共にコックピット前面が閉まり始める。
別れとはいつでも辛いものだ。特にこんな別れ方では彼も満足していないだろう。
それでも、彼はなすべきことをなす為。やるべき使命を胸に秘めながら決意をする。
「(行ってくるよ……それでまた向こうで会って、いろんな話をするんだ)」
ハルトはシンから渡された共和国の地図を持って動き始めるジェガンの映像を眺めていた。
エリノラのジェガンの下では今回ここを去るエリノラ、レッカとクレナ、アンジュ、カイエはお互いにジェガンとジャガーノートに乗っていく二人を見送る。
これ以上話すと泣き出してしまいそうなのだ。笑顔で送り出す為にもこれ以上話す事はなかった。
レッカがコンテナと接続されたジャガーノートに乗り込み、エリノラはジェガンのコックピットに入ろうとする。コックピットが閉まる直前。エリノラがクレナ、アンジュ、カイエに何かを投げた。
「これ、受け取って!」
「え?」
「なんだ?」
「これって……」
渡されたのはえんじ色のピンだった。何の変哲もないピンに三人が困惑しているとエリノラが言う。
「それを髪に留めていて。そうすれば目印になるから」
そう言われ、三人は納得をすると〈ジェガン〉のコックピットが閉まり、〈ジェガン〉は動き出す。
二機の〈ジェガン〉に挟まれる形でレッカの操縦する〈ジャガーノート〉も動き出す。
ゆっくりと動く〈ジェガン〉と〈ジャガーノート〉にシン達も追いかけ始める。
シン達は出ていく〈ジェガン〉達に向けて笑顔で手を振る。
何も言わずに、〈ジェガン〉達は基地の門まで辿り着き、外に出ていく。向かう先は南側にある合州国領内。
見果てぬ新天地に向けて旅立っていく仲間達をシン達は見えなくなるまで見送る。その中にはアルドレヒトのおっさんを含めた整備班の人たちもいた。
そして森の奥に消えていく二機の〈ジェガン〉が完全に見えなくなるとシン達は振り向き、各々自分達のすべき事をし始める。
「さて、俺たちも準備しないとな」
「ああ」
「おう!」
「ええ」
「早く行こっ!」
「そうだな」
行けるところまで行く。
それが彼らとの約束なのだ。ならば俺たちは精一杯生き残ってやろうではないか。
彼らにみっともない姿を見せる訳にはいかない。
見果てぬ大地の奥に進んで行った仲間を思いながら六人は基地を歩いていた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい