86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#91 次の派遣先

《ーー試作案・強襲揚陸戦艦型より、白紙地帯駐屯各機》

 

鉄色の巨影が無理に這い上がる。まるでビルを横倒しにした様なその威容は、抉り取られた二門のレールガン。破壊された船体。爆発して捲り上がった艦尾。

 

人が電磁砲艦型と呼ぶ。ーー〈レギオン〉の強襲揚陸戦艦。

船体内部に海水が染み渡り浮く事のみで精一杯だった。海上でのモビルスーツ戦闘でできた大きな欠陥。

なんとか海岸に降り立ち、どう、と横たわる。

 

《地点〇八七に上陸。自走不能。機体放棄を提案する》

 

もはや使い物にならない。全ての武装が破壊され、移動するただの筏と化したそれに、用はないかと思われた。

戦争以前に棄てられ、無人となって久しいこの地に、人間全ての敵たる鉄色の自動殺戮機械の展開も薄い。ただ悠々と点在する発電プラント型と自動工場型のみが、電磁砲艦型を中継し。

 

《ーーーー試作案・陸上戦艦型、救難信号を受信。了解。救援に向かう》

 

その一機が応答する。

こちらも既存の〈レギオン〉とは違う発展・改良系の一体。人目の届かぬ〈レギオン〉の支配域、無人の白紙地帯に隠れ潜む機種。

 

《プラン・フェアディナントよりプラン・シュヴェルトヴァール。確認事項あり。回答を要請》

 

何重にも暗号化された機械の言語で、人類には伝わらない言葉。

文字通り灰の紗膜の向こうに、これも巨大なーー否全長三〇〇メートル超えの強襲揚陸戦艦でさえ比べ物にならない、街そのものの巨大さの影がぼうと滲んだ。

〈レギオン〉特有の骨の擦れる程度の細やかな駆動音で。

 

《ーー統合は可能か》

 

 

 

 

 

〈hr〉

 

 

 

 

 

『さて、それじゃあ新型〈レギオン〉ーー電磁砲艦型の追撃と、私達機動打撃群のこれからの作戦行動について、だけど』

 

第八六独立機動打撃群には四個の機甲グループが存在し、四人の総隊長が各グループのプロセッサーを統括する。

現在船団国群に駐屯する第一機甲グループの総隊長シン。

連邦の本拠地で訓練中の第二機甲グループの総隊長ツイリ。

基地付近の学校で休暇中の第三機甲グループの総隊長。

盟約同盟で駐屯する第四機甲グループの総隊長。

互いに遠く距離を隔てた彼らが通信越しで一堂に会する。

 

摩天貝楼拠点攻略作戦で出た負傷者のうち、軍病院が受けれたのは重症者のみ。それ以外の軽傷者は〈アレグランサ〉や〈ステラマリス〉の医療区画に留め置かれ、その病室のベットの上。海中に転落した影響か、起き上がって目眩が治らなくてシンはそろそろと息を吐いた。

それを見咎めたわけでもないが、サイドテーブルの情報端末のホロウィンドウの中でツイリが眉を寄せる。

 

『その前に。ーー大丈夫かしら、ノウゼン。怪我もそうだけれど、それ以上にリッカの件は』

「……ああ、」

 

平気だ、と答えようとして、思い直してシンは頭を振る。

平気なわけがない。

セオがーー特別偵察さえ共に生き延びた戦友が、負傷によるものとはいえ、戦列を離れる事になったのは、……指摘されずとも自覚する程度には、堪えている。

 

だが……長生きしろ、と言われたからには…。

 

「随分動揺していると思う。無茶を言ってたと思ったら、指摘してくれ」

『分かっています。仲間が戦列を離れるのは、覚悟していても慣れているつもりでも、やはりキツイですからね』

 

ツイリと同じウィンドウで、鳶色の髪に銀縁の眼鏡の、浅黒い肌の少年が小さく頷く。第三機甲グループ総隊長、兼同第一戦隊ロングボウ戦隊長、カナン・ニュード。

 

『まして長く一緒だった戦友なら、尚更にね。心のどこかで、無事なのが当たり前だって思ってしまってるから。……分かってる。それは、僕たちだって同じだ』

 

別ウィンドウで、長い朱い髪を一つに編み下げた少女ーースイウ・カンヤが続ける。第四機甲グループ総隊長兼同第一戦隊スレッジハマー戦隊長。

そんな中、ツイリが嘆息する。

 

『だから私としても、この会議の前くらいは休ませてあげたかったんだけど。こう言う時に限って連邦軍ってば、いつもの余裕ぶった良い大人面が出来ないんだから』

『それは構わないけどーー随分性急だな。会議でもそうだけど、作戦の決定自体も』

 

電磁砲艦型と戦闘したのが今朝方。一日となっていないはずなのに連邦でこれだ。

 

『それだけ偉い人たちが危機感を抱いているんでしょう。射程四〇〇キロ、共和国の要塞壁群を陥落させ、連邦や合州国に猛威を振るったあのレールガンの復活だ。無理もないと思う』

『ここで認識の擦り合わせをしておきましょうか。……船団国群の報告では、大破した電磁砲艦型は海中に没し、以降の行方は不明。艦隊への追撃はなく、船団国群の固定ソナーにも反応がないと言う事から沿岸には来ていない。原生海獣の影響で碧洋にも出られない。よって碧洋と人の領域の境界を移動したと推測される……と』

「ああ……〈ステラマリス〉と入れ替わりで軍艦が捜索に出てるけれどーー戦闘で音紋は記録したから、条件が揃えば遠くに居てもソナーで捉えられるからとは言っていたけど、やはり見つかっては居ないらしい」

 

言って、シンは痛恨に眉を寄せる。

 

「進路だけでも、把握できていればよかったんだけど。……すまない、俺も作戦終了後に動けなくなってしまったから」

 

戦闘後、緊張の糸が解れたのか、目の前が暗くなり、その後のことは覚えていない。

目が覚めたらこのベットの上で、その時はすでに電磁砲艦型の声は何処かに消えてしまっていた。

 

『負傷の程度は聞いている。と言うかむしろなんでそんな大怪我してんのに無理に艦橋なんか言ってんのよあんた』

『そもそも動けなかったのは作戦中からで、その後はまともに歩けなかったのでしょう?だったら大人しく病室で寝てなさい』

『一番上が無茶してると、その下にいるやつも無茶しないといけなくなるだろ。そう言うのはむしろ周りに迷惑だよ』

「……」

 

ぐうの音も出ず、シンは黙り込む。無茶したつもりはなかったのだが……。

嫌そうにツイリは鼻から息を吐く。

 

『でもまぁ、あの損傷具合なら海に沈んだまま浮かんでこなさそうだけど……』

『しかし、ノウゼンの探知の範囲外に出た線も捨て切れません』

 

カンナはくい、と眼鏡を中指で押し上げる。

 

『正直、あの損傷具合で生きているのは低い確率ですが。もし生き残っていても大陸東部まで行けるかはわかりませんし、南部であれば合州国のコロニー駐留艦隊が発見すると思われます。戦闘の修繕をするには……』

『どこかで自動工場型と発電プラント型と合流しないといけない訳だね。けど、摩天貝楼拠点以外の海上拠点の報告は聞いていないけど』

 

イシュマエルが言うには北方の海は海の深さと原生海獣の領域の関係で同じ様な海上拠点を作るのは難しいのだとか。

 

『そう言うあれこれを踏まえて、電磁砲艦型の逃亡先は大陸北方の沿岸の何処か。そこにある一定以上の〈レギオン〉の拠点。ーー私たちの次の任務はその電磁砲艦型の逃亡先を含めた複数拠点の、同時一斉強襲よ』

『目的は電磁砲艦型の破壊、加えて情報収集。特に自動工場型の現在の生産部品と、引き続き制御中枢鹵獲に重点を置くようにとの事です』

 

〈レギオン〉の情報収集を行うには観測範囲の各部隊の動静以外には、それこそ生産拠点や司令拠点を制圧し、生産物や情報を奪取するくらいしかない。

 

『〈レギオン〉に迎撃態勢を取らせないために急襲をかけるから、摩天貝楼拠点制圧では見送った新装備の〈アルメ・フュリウーズ〉をついに投入する事になるわね』

 

作戦前の時点で訓練を終えていたのが第一機甲グループだけな上に砲陣地一つのために見せつけるのは見合わないと言う事で見送っていた。

 

『今回は正規の訓練期間を終えたツイリ達第二機甲に加え、我々第三も作戦に加われるから、最低でも三箇所同時に奇襲を掛けることができます。……休暇は最低限で切り上げて訓練に入ったので。グレーテ大佐やうちの作戦指揮官はいい顔をしませんでしたが、まあ、慣れていますからね』

 

八六区では休暇など、一日も与えられなかった。

それが出来る者しか、生き残ることはできなかった。

 

『僕たち第四は休暇と予備を兼ねて基地で待機になるけど、訓練を優先する予定だ。なるべく早く〈アルメ・フュリウーズ〉の扱いに慣れておきたいからね』

『……って、二人が言ったおかげでグレーテ大佐がカンカンよ……。もし戦争が終わっても、ここで切り上げた分はみっちり学校に通わせてやるし規定の課程を修了するまで全員退役は許さないって……』

 

ツイリが遠い目をする。恐らくは相当怒られたんだろう。ヒシヒシと伝わってくる。

 

『…まあ、うん。大佐がーー連邦がそう言ってくれるのはありがたいよ。戦闘だけこなしてくれればいいって言うんじゃなくてさ』

『実際、通わせてくれるというなら今回切り上げた分も、課程の修了までも学校に行きたいものです。ーー久しぶりだったので、忘れていましたよ。楽しいですね、学生というのは』

『連邦に来ても相変わらず、本当に戦争なんて終わるのかと思うけど。だからって終わらなかったことも考えても仕方ないしね』

 

この半年近く、機動打撃群は連邦や周辺国に派遣されてきた。

シン達が連合王国や船団国群に向かった様に、ツイリやカナン、スイウとその部下達も、それぞれに派遣先で様々な経験を経た。

多くのものを見た。

〈レギオン〉の大軍勢と人の悪意に閉ざされた八六区では、見られないはずだったものを。

ふ、とシンは少し無理に笑った。上手く笑えたかはわからないが。

 

「課程修了までだと、俺たち総隊長は随分かかるぞ」

『そうなんだよねえ……』

『嫌なこと言うわねあんた』

『やめましょう今は。戦争が終わったらその時はたっぷりぼやきましょう』

 

ここにいる面々は通常の課程に加え、さらに追加の課程がある。おまけに特士士官課程さえ、まだ誰も終えていない。

 

『話しを戻しますが……』

 

眼鏡の奥の目をまだ微妙に泳がせつつカナンが言う。

 

『制圧目標となる拠点は三箇所に留まらないため、連邦軍からもいくつかの部隊が投入されるそうです。と言っても、抽出する予備戦力はないので元大貴族の私兵部隊を編入するとか。十個連隊全て投入すると……』

 

そこまで切羽詰まっているのかと、シンは感じる。

 

「了解。それで、ーー次は何処へ?」

『ああ、あなた達の次の行き先は変わらず、ノイリャナルセ聖教国よ』

 

確かその国は西方にある国家で、白紙地帯という人が入れない地域があるという。

 

そう、西方ーー電磁砲艦型が最後に向かった先は。西だ。

 

『第一機甲グループは、電磁砲艦型が最もいる可能性のある、西方に派遣が決まった。……敵討ちが出来るといいわね』

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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