シンが他の戦隊長と通信をしている頃。船団国群の街の酒場の一角でカイエは一人、酒を注文していた。〈ステラマリス〉が帰港して以降、此処に入り浸って居た。
作戦前、リノと地ビールを飲み交わした場所で。
「……」
一人で飲んでいると、横にある人が座る。
「彼女と同じ物を」
そう言い、カイエの飲むブランデーを注文して座ったのはクラウだった。基地でよく見かけていた事からカイエもクラウの事は知っていたし、彼女の話も聞いていた。本当はもう一人、テオもいるのだが、彼は父親への報告で忙しく。此処には来れなかった。
二人が飲んでいるのはリノがよく好んでいた飲み方だった。初めて配属された部隊の隊長が教えてくれた方法だという。煙草然り酒然り、随分と尊敬していたのだと分かる瞬間だ。その隊長は、戦死してしまったが……
「……全く、無茶しやがって。あの大馬鹿野郎が……」
「……ああ、そうだな」
二人とも聞いていた、戦闘の最中。電磁砲艦型にリノは最後の攻撃を仕掛ける時、知覚同調を伝って目の前でアーク放電の起こるレールガンにビームマグナムを構えながら、
『ーー長生きしろよ』
そう言った瞬間、ビームマグナムと電磁砲艦型の砲撃が交差し、レールガンを抉り取った。直撃ではなかったものの、発射された時の衝撃波で〈ハミングバード〉は頭部が破壊され、機体も左肩から胴体に掛けて全身が破砕していた。
その後、火花を散らしたまま電磁砲艦型の船体に衝突。そのまま海に落水した。
「それであの後、救助はされたけど……」
船医から言われた。『生きているのが奇跡だ』と。帰投中の〈アレグランサ〉の中で、帰還機がほぼいなかったいなかった影響でガンペリーを積める余裕すらあったその船内で。
「衝撃波で体がやられたんだってさ……落水後、暫く血が流れて居た上に意識不明。それ以上の詳細は、教えてくれなかった……」
「そうか……」
するとクラウは今の状況をカイエに教えて居た。
「病院内でも、あいつに会うことは出来ない。突っ返されたよ、合州国の歩兵に……」
「そんな事が?」
「ええ、いつもの上の隠し癖よ。勲章者の英雄が死にかけているとあれば、国内が混乱する。それを防ぐために、箝口令が敷かれ、その事実を知る私は、本国に返される事になった……まぁ、これから暫くは軟禁されるでしょうね」
そう言い、クラウは半分自棄になった様子で吐き出す。その横でカイエは合州国の異様さを少し感じて居た。
「こんな時にすら、幼馴染の側に居られないのがやるせ無い……今頃、テオが父親と話しているんじゃないかな」
「父親?」
「ウチらの上司よ。テオだけは、孤児院から引き取られているの。私らが軍でかなり自由にさせてもらっているのはテオの親父さんが居たからよ」
「なるほど、権力者がバックに居るわけか」
「色々と世話になったわ。あの人には……」
そう言い、クラウはカクテルが出てくると、カイエの方にグラスを持って行った。その意味をカイエは理解し、同じようにグラスを取って近づけた。
「幼馴染の無事を願って」「友人の無事を願って」
そう言うと、二人はグラスを合わせて軽く音を鳴らして居た。
「おい、次の派遣先。聞いたか?」
「…ええ、正直なところ気乗りしないけど……」
ドミトルとアノラが基地の一角で話をしている。視線の先には艦首が抉り取られた〈アレグランサ〉、行きよりも圧倒的に数の減った合州国の艦隊が鎮座して居た。周辺では大勢の人が集まり、戦友の死に追悼をして居た。
発見された遺体は既に移送され、目の前にいる艦隊も間も無く出航する予定であった。海に出た隊員達は損害が甚大であった事から本国への帰還が決まり、次の派遣先にはドミトル達陸上に残った中でも一部の面々が向かう事になって居た。
海上に居た面々は全員が帰還する事になっており、そこには自分たちの若い上司も含まれて居た。重症という事で見舞いに行こうとしたのだが、病室の前を歩兵が銃を持ってまるで監視するかの様に待機して居たので二人は近づこうとは思わなかった。ただ、明らかに重症というには異質な空気がそこにはあった。
重症と言っても隊員達にもその姿を見せないということは……この事を口にすれば、恐らく自分達も本国に送られる人員に仲間入りする事になるだろうから、口にすることはない。
隊長と副長がいなくなるという事で、新たにストライカー戦闘大隊はドミトルとアノラが指揮する事になると言われて居た。
そこでアノラは別の話題をドミトルに振る。
「補充部隊の件、聞いたか?」
「…ああ、あの国に正規の部隊を送りたくないと言う上の感情もわかるが……」
「ちょっと表に出しすぎ……っていう事でしょう?」
「そんな所だ」
ドミトルは少しだけ目を眇める。
「……次の派遣先、俺たちの仕事に原点回帰するかも知れんな」
「そうね……」
此処までの人員削減に、送られてくる増援。恐らく上は……
「……一体どうなるか…」
そう呟き、ドミトルは余計な詮索はしない様にしようと心に決めて居た。
少なくとも次の派遣先ノイリャナルセ聖教国ーー
背後の思惑よりも目の前の警戒の方が今のドミトル達にとっては注意すべき事だった。
「……えっとさ、間違ってもそれがダメとか、なんで生きているのかとか言いたいわけじゃないけどさ。本当に良かったと思ってるんだけどさ……」
負傷者が収容されている病院で、椅子にかけてリトは目の前のベットで横になる人に目を戻る。
「ユート、よく無事だったね」
「全くだ」
全く無事には見えないくらい包帯とギプスでぐるぐる巻きにされたユートは頷く。あの三〇メートルの砲身で殴られたというのに命があっただけでも奇跡の部類だろう。同じく殴られたジェガンの搭乗員も全身に骨折を負って同じ病棟でぐるぐる巻きにされて居て意識不明だと言うのに……
「肋骨が折れて肺の片方に穴が空いたのが最悪だな。息をするたびに痛いが、だからと言ってしないわけにもいかない。生き残った事を呪いそうだ」
「あ、ひょっとして喋るの辛い?もうちょっとしてから来た方が良かった?」
「いや、人がいるだけでも気が紛れるし、お前はとりわけうるさいから」
「なんか酷いこと言ってません?」
募黙なユートが今日に限って口数が多いのは、本当に気を紛らわせたいと思っているから。呼吸なんて、それこそひと時も止められるではいけない動作に伴う激痛から。そして。
「生き残っただけ、俺は幸運だったのにと不平を言いたくはないから。気が紛れるのは助かる」
仲間を失った、心の痛みから。
サンダーボルト戦隊も、各小隊の前衛を中心に多くの戦死者、行方不明者を出した。シデンのブリジンガメンと同様、部隊の解散と再編が行われるだろうし、それまでユートは復帰できない。
「……うん。けどやっぱり喋ると痛いんだろうから取り敢えず俺が勝手に話すよ。色々、ユートが気絶して居た時の戦闘とか、あっそうだ、原生海獣!なんだっけ、砲光種だっけ?怪我が治ったらどんなだったか教えてね!」
「……すまんが、俺はその時気絶して居たから」
「あそっか。じゃあ……ノウゼン隊長はダメだろうし、王子殿下にでも聞くかな。いやでも、殿下に聞いても面白くなさそうというか、別の意味で面白い感想を言いそう」
「………」
本当に。
うるさいというか落ち着きがないというか……。
今はーー否、本当はいつもそれが、ありがたい。
リトはしばし引き摺る、死の影を纏って居ながらも平気で明日の話をする。
今日死なずに、明日も当然の様に生き延びるつもりで、生きているから。……そう。
自分も、生き残った。
八六区も、大攻勢も、摩天貝楼拠点の戦闘も。
生き残った。
生きている。
微笑ましい、他愛も無い小話。そして……
『ーー長生きしろよ』
真っ暗な視界の中、聞こえた声。
それは、俺たちに向けられた言葉なのか……今となっては分からない。ただ、その声は何処か暖かくも感じて居た。生きて居てもいいのだと、心から教えてくれた様な……そんな気がした。
子供の頃の他愛も無い夢を、八六区で棄てざるを得なかった夢を、今は再び見てもいい。
「……それなら俺も、聞きたいな」
ん?と小首を傾げるリトに、苦労して肩をすくめてみせた。
「原生海獣だ。……いや、それよりも見てみたい。今度はこの目で」
今度は、ただ観光として。
戦争が終わったら……。
「後ちなみにだが、実際、原生海獣の種類の中には食うと旨いのも居るって、乗員の誰かが言ってたぞ。新鮮な物を生のまま薄切りにして、魚醤に付けて食べるんだとか」
「……食べれるんだ……」
「まあ、生き物に変わりはないはず……だしな……?」
レーザーを撃っていたが。
「……生き物だよな?」
「俺に聞かないでよ。ユート」
その時、ヴィーカは一人。病院へと足を運ぶ。行き先はリノの収容されている病室。いまだに集中治療室から出て来れない状況に、少しだけ違和感を感じて居たが、伝えるべき事を伝えようと思って居た。彼ならば、この情報を伝えてもいいと判断して居た。……と言っても、今更遅いかも知れないが……。
〈レギオン〉の全停止の手段。
方法は無いにしろ、戦争が終わる可能性がある事を伝えるだけでも伝えておいた方がいいかも知れない。
戦争の終結の可能性を知っているのは今の所、自分とノウゼン達だけだ。味方を増やすという意味とはまた違うかも知れないが、なんとなく伝えておいた方が良いだろうと何かが訴えて居た。
そして、病室の前に到着すると、ヴィーカは扉の前で銃を持って警護する兵士に声をかける。
「リノ・フリッツと会いたいのだが……」
しかし返事は前と変わらない。まるで機械の返答の様に、兵士は答える。
「申し訳ありません、イディナローク殿下。現在リノ・フリッツ中佐は治療中であり、面会は出来ない状況下にあります」
「……見舞いでも無理なのか?」
「はい、負傷の具合が酷く。以前として意識不明のままであります」
変わらない。昨日クラウが喰ってかかって居た時と全く変わらない。此処まで面会ができないとなるとむしろ何かを隠している様で怪しくも思ってしまう。何せ、怪我の具合ですら教えてくれないのだ。
「……そうか…ではまた今後来るとしよう……」
ヴィーカはそう言い、病院を後にして行った。そして、病院を出た後。集中治療室のある場所を外から眺めて居た。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい