86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#96 不審な点

《ーー何故いる、蛇。次の作戦が始まったのではないか》

「またご挨拶だな、ゼレーネ」

 

戻された連邦の研究所のコンテナの中。怪訝に言ったゼレーネにヴィーカは肩をすくめる。答えはしないまま薄く笑う。

 

「いい加減、ノウゼンの前でも今の様に話したらどうだ?それが〈レギオン〉としての卿の本性だろう。先日など笑ってまで見せてーーそれが卿にどれだけの負荷がかかることか、あれは未だに思い至りもしないぞ」

《ーーー》

 

〈レギオン〉は所詮、殺戮のための戦闘機械。そこに語彙も感情も必要ない。ゼレーネの〈羊飼い〉には記憶はされているが、再現する機能は〈レギオン〉には備わってないのだ。

雑談など本当はーー流体マイクロマシンが灼けるほどの負荷だ。

しかし、未だに自分を人として扱ってくれるシンに対し、〈レギオン〉としての振る舞いをしたくない。

その事実は、あの優しい子供をひどく傷つけるだろうから。

 

《……何用か》

 

ヴィーカは肩をすくめて、それ以上は追求しなかった。

 

「卿が第二次大攻勢の先陣として伝えて来た電磁加速砲型の四番機。それに該当する機種と船団国群で遭遇した。ーーレールガン搭載の海戦仕様。戦艦、あるいは強襲揚陸戦艦の」

 

戦艦?それもーー船団国群で?

量産型電磁加速砲型は彼女の推察通りだが。

 

《不明。管轄外ーー本拠及び新型実験機の建造は、当該戦域指揮官機のみが把握》

「それはそうだろう。機密保持のために、担当外の情報は知らせないものだ」

《その上でーー不可解》

「……ああ」

 

粗末な外部カメラの粗い映像に、ヴィーカの帝王紫の双眸が鈍く光る。

 

「確認したいのは、その戦艦型の制御系が既存の〈羊飼い〉に、外部データベースとして別人の人格の脳構造を追加していた事についてだ。ーー卿の言う〈レギオン〉の改良というにも不自然だろう。単純に元の〈羊飼い〉から新しく移植すればいい。加えて高機動型、言っていたな人工知能の研究だと。そしてーー面白い名前を付けたと」

 

フォニクス、ーー死に瀕しては己が身を焔にとうじ蘇る、不死の鳳。

 

()()()()()()()高機動型の本領。ーーあれは()()()()()()()()の研究だ。量産されていくらでも換えの利く〈レギオン〉の中、唯一量産できない()()らを死なせぬための改良。つまりは、()()()()()()()()()の叩き台だ」

 

そして〈羊飼い〉の置換ではなく、不死化を図るのは。

新たに得た脳を接続するに留まり、現行の〈羊飼い〉と置換しないのは。

 

「今いる〈羊飼い〉共が己の人格と存在の保持にーーらしくもなく詩的に例えるなら、己の生存に、固執しているんだな?まるで」

 

死を恐れる人間のように。〈羊飼い〉の生前がそうだった、ーー儚くも脆い人間の様に。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「全く、厄介な事だ……〈羊飼い〉の強化に、高機動型の量産。全体的に不自然だな」

 

連邦軍総司令部ジャブローの一室。アーノルドはとある人物を迎えていた。

 

「高機動型で将の首を狩り集めるのはまだしも、歩兵として強襲揚陸戦艦に搭載、その上鹵獲モビルスーツを艦載機代わりか……」

「そのような運用は近接猟兵型で十分……と言いたいか?」

「はは、分かりますか」

「ああ、私も同じ事を思っていた」

 

そう言うと、その老人は吸っていた葉巻を一服する。

 

 

 

彼はゴップ退役元帥。

 

今は宇宙に上がっているレビル名誉元帥とは違い、『ジャブローのモグラ』と言われた軍人であったが、その実力は確かなものでアーノルドも彼に教えを乞うた者だ。どちらかと言うとゴップは官僚軍人という方が正しいだろう。

一年戦争後。合州国大統領に就任し、以降の比較的平穏な時代を作ったレビルの陰で連邦議会議長を一時務め、隠居していたところでかつての教え子に呼び出されていた。

 

「君はいまだに少将だったかね?」

「ええ、私はこの立場で十分ですので……」

「相変わらず欲の無い奴だ」

「私にとっては褒め言葉です」

 

そう言い、アーノルドは客人をもてなす為に本物のコーヒーを淹れて差し出した。

ありがたくそれをいただくとゴップは本物のコーヒーに懐かしさを感じながら言う。

 

「そもそも電磁砲艦型自体おかしな話だ。まだコロニーを襲撃する目的であれば分かるが、あそこからコロニーまで海路でいったい何日かかると言うのかね」

「その前に駐留艦隊が常に配置している原生海獣用ソノブイに反応があり、すぐさま攻撃を行います」

 

するとゴップはコーヒーを一口、口にする。

 

「かと言って船団国群相手では既存の戦力で干上がらせればいい話だ。連合王国の北方は極寒の地でそもそも人がほぼ住んでいない。加えてあそこはフィヨルドと断崖絶壁の大地で上陸地点が想像つかん」

「ええ、電磁砲艦型が投入された地域に必要な戦場なんて存在しない」

「とは言え、無視できない戦力……と言うのが如何にも陽動らしいな。一年戦争を思い出す」

「WB隊ですな?」

「ああ、懐かしいものだ……」

 

そう言うとゴップはまた一服。

 

「しかし、単艦でも無視できない戦力で駐留艦隊の戦力を減らすわけにもいかん。……と言うのが業腹だな」

「参謀本部では〈レギオン〉の本当の目的は摩天貝楼拠点にあると推測しています。〈15−13〉は第二次大攻勢の発生時期の予測を行い、先の戦闘を受けてジークフリート要塞戦線の改修工事を施すと……」

「その…摩天貝楼拠点とやらは海上に建造された〈レギオン〉のコロニーか?」

「その様なものです。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。と言えます」

「……」

 

するとゴップはまたコーヒーを口にする。せっかく教え子が本物のコーヒーを出してくれた。このくらいの価値のある事を返さねばならんが……

 

「その摩天貝楼拠点の解析は出来るかね?」

「ええ、作戦に参加したガンペリーがレコーダーに残しているはずです。ただ、電磁砲艦型自身が拠点を破壊した上に当時は濃霧だった様で詳しく調べるには時間のかかる可能性があります」

「〈レギオン〉自身が撃ったと言う事は、証拠隠滅の可能性がある。本命はそっちだったと言っている様なものだ。……それで、今度の作戦で本拠地にあるだろう情報を集めると言う事か……外国に派遣部隊として懲罰部隊を送って……」

 

 

 

懲罰部隊。

長年にわたる〈レギオン〉との戦争で兵士のすり減りで合州国が行った苦肉の策。軽犯罪者に限ってではあるが、与えられた任期を軍人として職務を全うすれば刑期の帳消しと犯罪歴の抹消を条件に刑務所から徴兵した部隊だ。

まぁ、まず間違いなく士気は低い上に民度も悪い。……いや、士気は高いか。様々な戦線に送られて仕事をするだけで自身の犯罪歴が帳消しになるのだから。

最低限の武装を渡され、万が一にも逃亡や反抗をしない様に督戦隊をつけた部隊だ。

 

「ジークフリート要塞戦線が完成したとはいえ、五カ国街道で散発的に発生する戦闘で死傷者は出ています。それに、兵は幾らあっても今は必要な時期ですから……」

「本音を言いたまえ、ノイリャナルセに正規部隊を送りたくないだけだろう」

 

そう言うとアーノルドとゴップは互いに軽く笑う。二人とも分かっている、あの国の恐ろしさを。少なくともジャブローの軍人や議会の面々が国の面子なんかどうでもいいと思ってしまうくらいの彼の国。

 

「一応、懲罰部隊も正規では?」

「いやはや、懲罰部隊毎にPMCとして独立させているのにか?」

「おっと失礼、口が滑りましたな。先生を前に少し気が緩んだようで……」

「この期に及んでまだ先生呼びするか」

「いえいえ、新人の頃によく世話になりましたから」

 

そう言うと、アーノルドはまた笑ってしまう。ゴップもまたそんな教え子を見ながら爪が甘いと思ってしまった。

 

「君も気をつけたまえよ。君の部下の優秀さは私の耳にも届いている。扱い方を間違えると枕元に爆弾を敷くことになる」

「ええ、分かっております」

 

そう言うとゴップはアーノルドを見てやや目を眇めて言う。

 

「君の()()()()()()()()()()()話は聞いている。……これからどうするつもりかね?」

 

そう問われ、一瞬アーノルドの手が止まる。もうそこまで情報が行き渡っていたかと思いながら、アーノルドは取り敢えずの現状を話す。

 

「今の所、治療に専念させますよ。電磁砲艦型と相討ちとなって終わりましたから……」

「だが、刃こぼれしたことに変わりはない。刃こぼれした刀は新たに研ぐか捨てるか。君の意見を聞こうと思ってな」

 

ゴップに問われ、アーノルドは暫し間を置く。今目の前に座るのは上司であり、ここでの生き方を教わった教師。おとなしく答える場合か否か……

 

「……いえ、彼が目を覚ました後に彼本人の意思を優先します。私の息子の友人なので下手な扱いをすると怒られる上に、ここは合州国。開かれた自由の国。その国の軍人であるならば、自国民の意見を優先すべきなのはお分かりでしょう?」

「『人のふり見て我がふりなおせ』……か、上手い事を言う様になったな」

 

少なくとも自国民の癖に弾圧と強制収容を行った、共和制の皮を被った選民主義国家と同じにはなりたくないものだ。

 

「今回の任務を持ってストライカー戦闘大隊は解体し、部隊の再配置を行います。一応、《八六作戦》は継続の予定ですのでいずれは部隊が配属されるものと思われます」

 

《八六作戦》は合州国が呼ぶ八六独立機動打撃群の関連する作戦の一環だった。

 

「うむ、その方がいい。諸外国に最新モビルスーツを見せつける事なんぞしなくても良い。むしろ良くもあんなにジェガンをかき集めたものだと感心するよ」

「日頃の信頼の賜物です」

「はっ、一年戦争の時はここへの爆撃で散々泣き散らかしていた癖に……」

「今思えばいい思い出です」

 

そう言い、二人は真面目な話を折り合わせつつ、久しぶりの恩師との会話に花を咲かせていた。

 

「リノ・フリッツ中佐は今度の船団国群からの避難船団に合わせて帰国し、軍病院に入院の予定です」

「そうか…船団国群が〈サイド7〉に移住するのだったな……」

「おかげでいい労働力が手に入ったとコロニー開発省の面々が喜んでいるとか……」

「そう言った労働力は全て戦争に吸われていったからな……」

 

二人とも口にはしなかったが、一年戦争時を思い出してしまった。あの頃も似た様な景色だったと。

ゴップはWB隊と言う優秀な囮を持ち、教え子はリノ・フリッツと言う優秀な戦闘員を得た。

 

「……さて、私はそろそろ行くとしよう。本物のコーヒーも飲めた事だしな」

「お見送りいたします」

 

そう言うと、ゴップは片手に杖を持つとジャブローを後にしていった。

自分ですらこの有様なのに、何故レビルはこの歳で宇宙に行けるのだろうか……

 

 

 

 

 

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