86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#98 囚人兵

船団国群では避難民誘導の為の人員としてクラウ達も借り出されており、忙しい日々を送っていた。

 

「ひぃ〜…忙しいったらありゃしない」

 

クラウは大量に送られてくるデーターの整理をしていた。これから軟禁されるかもしれないと言うのに、もう既にオート軟禁の状態になっていると。上空にやや風が吹き、そこには艦首が抉り取られて応急処置が施された〈アレグランサ〉と船体中央部に貫通痕が残る〈バーミット〉が離陸して南に向かっていた。全長五〇〇メートル近くの巨艦と三〇〇メートル以上の戦艦は船団国群から離れていく。

 

今あの中には治療中のリノが収容されている。まだ目は覚めないが山場は超えたと言う事で、本国に移送されるのが決まった。護衛の為にやってきたSFSに乗った〈ネモ〉を眺め、次に船団国群の国民を見ていた。彼らは荷物を纏め、持っていける最低限の物を手に持ち、列車や車列に乗り込む。先の作戦で〈レギオン〉の拠点は全て潰した。国土全域で〈レギオン〉の攻勢が減った上に、大半が湿地帯の船団国群はこれから亡命政府として合州国に国民を避難させるプロジェクトが始まっていた。

何百年と続く付き合いだ。国民の間に大きな混乱もなく受け入れられ、建造途中で半ば放棄されていた田舎のサイド7に自治権を与える事に反対する者もほぼいなかった。

 

港では停泊する最後の征海航海に参加した艦艇の艦首部分の女神像を切り取る作業が行われ、船団国のそれぞれの象徴である魚雷艇の竜骨や、〈ニコル〉の移送作業も行われようとしていた。船団国群政府の強い要望で、これらはサイド7のコロニーに設置されるそうだ。

 

「避難は順調に進んでいる様だな……」

 

クラウ達の横で、イシュマエルが呟く。避難は非戦闘員を優先して行われ、合州国の旅客機や列車がひっりきなしに飛来してきていた。阻電攪乱型が邪魔をしようにも熱核ロケットエンジンに換装された機体ではそんな攻撃も無意味であった。

プロジェクトに際し、〈レギオン〉の妨害を防ぐ意味もあってM61も運ばれてきていた。湿地帯でも問題なく戦闘行動ができるM61に、重量級の入れない〈レギオン〉はかなう術は無かった。

 

「ええ、イシュマエル艦長は最後に移動でしたか?」

「ああそうだ。……て言うか、俺はもう艦長じゃねえよ。〈ステラマリス〉も沈んだ様なものだしな」

 

そう言い、港で艦首部分の女神像が切り取られた〈ステラマリス〉を見る。

 

「解体するか、爆破処理するか。上は揉めてんだとよ。できればそのままにしてほしいが……まあ、無理だな」

 

〈レギオン〉に鹵獲されて悪用されるのを防ぐ為に……と言うか原子炉を積んだ艦艇を放置したら老朽化で何が起こるかわからないわけで。最悪沖合に無人航行させて碧洋に突っ込んで原生海獣に沈めてもらうと言う手段もあるのだが、それだと原子炉が爆発を起こす可能性があり、環境保全の面からあまり推奨はされていなかった。

イシュマエルの曇った表情を見て少しクラウ達も思ってしまう。するとイシュマエルは避難する船団国群の国民を眺めながら呟く。

 

「向こうに着いたら、俺たち元征海艦隊乗組員はコロニー駐留艦隊の軍艦に慣れる訓練をする。今まで俺たちは帝国製の軍艦によく乗っていたから、慣れるのは結構苦労するかもな」

 

そう言い、今後の予定を聞かされ。イシュマエルは避難民の誘導の為に去っていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「聖教国の事前観測で、攻性工廠型の改良元は自動工場型と推測していて。ーー時速数キロの鈍足さを引き継いでいる……か」

 

公用語に方言の違いしかない共和国や連邦、連合王国や盟約同盟、合州国国とは違い、ここら辺の地域はエイティシックスやこっち系の人間には聞き取りづらい上に発音しづらかった。

攻性工廠型(ハルシオン)に付けられた幽世の麗鳥(ジリャル=クク)なる呼称もそれは同様で、故に連邦や合州国はこっちの言い方で置き換えた呼称にしていた。

視線を向けた先、そこではアノラが部下に指示を出した後に眉を寄せる。

 

「ややこしいわね。要するに攻性工廠型は……いっその事電磁砲艦型でいいんじゃないの?」

「それはあくまで推測だ。撃破して、調査しなければまだ分からんさ」

 

しかし、既に二人は確認済みだ。シンの異能でここに到着してすぐに電磁砲艦型の存在をシンは認識し、既に本国部隊には伝えられていた。

ただし、教国相手にはそう言う()()になっており、知覚同調ですらこの戦場では使うことを許されなかった。なので通信は以前のように無線で行うか、モビルスーツ同士の接触通信で行う必要があった。

 

「あぁ…そうだったわね。……それで、その電磁砲艦型()()()()()()〈レギオン〉はなんでここを撃たないのか……」

「まぁ、射的距離ギリギリで撃つためだろう。前線から後方まで。ーーあれだけの巨軀、砲撃と移動を同時にはできないだろう」

 

敵は長射程だが、速度が異様に遅い。ならば迎撃されるまで接近し、そこからはるか後方まで一気に薙ぎ払うのが最善だろう。

それは、聖教国が焦るはずだ。

 

「電磁加速砲型の射程距離じゃあ、射撃地点では聖教国全体が砲撃域だ。ーー下手をすると一機の〈レギオン〉で、共和国の様になるかもしれんな」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーーだから、射撃開始予想地点に到達する前に、攻性工廠型をぶっ倒すのが今回の任務ってことね」

 

リトが率いる第二大隊と、ミチヒの指揮する第三大隊はスピアヘッド戦隊と〈アルメ・フュリウーズ〉から十五キロ離れた前方、最前線近くこれも物資集積場に偽装された真珠色のプレハブの倉庫群の中。作戦図を見届けつつリトは言う。知覚同調と今はまだ有線の通信回線越しにミチヒは苦笑する。

 

『色々すっ飛ばしすぎなのです。それじゃあまるで私たちが全員で突撃するみたいなのです』

「分かってるってば。ーーまずは陽動として聖教国軍が〈レギオン〉正面を圧迫。敵部隊を誘引して拘束。ノウゼン隊長達挺進大隊と俺たちはこのまま隠れて待機でしょ。……聖教国の人達は強そうだから、陽動は平気だろうけど」

 

聖教国軍の規律の取れた精鋭そうな軍隊だが、ことあるごとに持っている少女の肖像画を崇める様に名前を呼んだりするその光景は異様だったが……。

 

「ーーやっぱりアレは不気味だなぁ……」

 

チラリと目を向けた先。格納庫の外を行き交う聖教国軍の兵士は全身を防塵マスクで覆い、顔が全く見えない。彼らの乗機である真珠色の装甲と見慣れぬ形状のフェルドレス。

降りしきる灰の雪の中でぼうと輝く、顔もない軍勢が駆る異形の馬群。

 

『分かりますが、でも仕方ないのです。聖教国の戦場はーー白紙地帯はどこもこんな風だらけだそうですから』

 

大陸の北西の果て、断首半島。ーー通称、白紙地帯。

何百年と火山灰が降り続く、閉ざされた荒野。半島中央部の火山が活動を始め、人々が逃げ出して数百年。マグマと共に組み上げられた重金属が土壌を汚染し、あらゆる生命の生存を不可能とした。

聖教国に対峙する〈レギオン〉はここを拠点とし、それ故に戦場で防塵マスクは必須だった。また、聖教国には歩兵が存在しない為、フェルドレスの周りは無数の小型機を従え、その援護のもと戦場を進む。

くす、とミチヒが言う。

 

『リトはでも、操縦士の人達とは仲良くできてたじゃないですか』

「あーうん。言葉が分かんなくても意外と遊べたよ」

 

プロセッサーと同年代の少年兵達は他国の人間という事で隙を見つけては機動打撃群の隊舎に遊びに来ていた。

菓子を交換したり、カードゲームをしたり、腕立て伏せの回数を競ったり、仕舞いにはチリソースと聖教国の香辛料を混ぜたお茶でチキンレースをして……そしたらシンと聖教国側の上官に叱られて。ーーそう、その時に少女の肖像画を見せてもらった。まるで宝物を扱うかの様に。

 

貴方に栄誉を、ヒェメルナーデ。(レマ・レフォア・ヒェメルナーデ)我らを導け星たるレェゼ(ツリジュ・ユーナ・レェゼ)……だっけ」

 

そう言う意味だと教えたのはブリーフィングにいた聖教国の参謀官。まるで御御影の様に扱う敬虔な手つきだった。

崇拝。熱狂。あるいはーー信仰。

最も神も天国も信じないエイティシックスには居ないが……

 

〈レギンレイヴ〉の格納庫の外。作戦が始まったのか、歓呼の声が聞こえて来る、戦場で彼女を讃える言葉。

 

ーーレマ・レフォア・ヒェメルナーデ!

ーーツリジュ・ユーナ・レェゼ!

 

作戦の第一段階の開始。聖教国軍二個軍団からなる陽動部隊の、出撃だ。

 

『まぁ、でも。俺はこの作戦の不満と言えば()()()()()と行動を共にすることだけどね』

 

リトは不満げにそう言い、ミチヒ達も同じ気持ちで横に立つ偽装用カモネットを被る灰色の〈ハイザック〉を見ていた、

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「よく聞け。第十三部隊」

 

ロトの車内。ドミトルは無線に手を当てる。通信先は今回派遣されてきたトリントン・グループ第十三部隊……俗に言う囚人兵部隊だ。

軍隊の内外で犯罪を犯し、刑務所に収監されていたモビルスーツを使える囚人をその犯罪の重さに合わせて任期を設定し、それぞれ独立したPMCとして国が設立していた。正規軍の送りずらい非正規任務などに派遣され、最近の主な仕事は共和国の治安維持活動であった。

正直、囚人兵がモビルスーツに乗れるだけありがたいと思えという話だ。

彼らの主な武装はジムやハイザックなどの旧式機や諸元上の欠陥機で、武装も一年戦争時の骨董品を持ち出していた。

 

「たった今、聖教国軍の部隊が出撃した。我々の任務は挺進大隊の援護である。よって……」

 

命令を通信で話しながら、ドミトルは内心疲れていた。理由は簡単で、この囚人兵はエイティシックス達との相性が激烈なまでに悪いからだ。

 

 

 

 

 

作戦が始まる前、ドミトルは本国から派遣された部隊の顔合わせをしていた。

 

「ーーお前が新しい看守か?」

「ああ、そうだ」

 

〈ロト〉を降りて、ドミトルは挨拶を交わす。目の前に立つのはスキンヘッドに漆黒の瞳と黒い肌を持つ、本人曰く南方黒種の男。マンリヒャー・カプロンと言っていた。聖教国の格納庫でフリッツヘルムに換装した十二機の〈ハイザック〉と〈ジム〉を駆り、戦線を渡り歩いてきた彼らは<ハイザック>に乗りながら一人が呟く。

 

「あーあ、俺たちはこの国に派遣かよ」

「口を慎め。カルロス」

「俺は餓鬼のお守りなんざごめんだよ」

 

そう言い、カルロスと言った囚人兵は心底嫌そうな表情で答える。そんな彼らを見ながらドミトルは警告する様に言う。

 

「知っての通り今回は連邦軍の部隊が居る。粗相を起こした場合は容赦なく撃つ。戦闘前に遺体の焼却任務をしたくなければ余計な行動はしない事だ」

 

そう言うと、ドミトルは一切目元を緩める事なく彼らを見ていた。一応釘を刺したが……

 

「(面倒な喧嘩が起こらないことを祈ろう……)」

 

 

 

 

 

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