盲目の少女 作:torinikuyakiyaki
『闇の帝王を打ち破る力を持つものが近づいている。七つ目の月が死ぬとき、帝王に三度抗った者たちから生まれる。闇の帝王はその者を自分に比肩する者として印すであろう。一方が生きる限り他方は生きられぬ。一方が他方の手にかかって死なねばならぬ』
シビル・トレローニーがダンブルドアの前で予言した。ダンブルドアはとても驚いたが、さらに驚くべき予言を彼女は下した。
『闇の帝王の血統が開眼するとき、魔法界のすべての人はその者の前にひれ伏す。』
闇の帝王に子供はいない。いるはずがない。そのはずだった。
愛を知らぬがゆえに闇に落ちた。そんな子が愛の結晶ともいえる子供を作るのだろうか。
ダンブルドアは悩んだ。いつもなら自分をも駒の一つと考える冷徹な自分の頭が、何の考えも浮かべることが出来なかった。
闇の帝王は考えていた。どうすればより自分の地位を確立させられるのか。周りの者はだれも信用できない。分霊箱を作り、死を克服し、あのダンブルドア以上の力を手に入れたと自負していた。それなのに、漠然とした不安が彼を覆っていた。そして思いついた。血は水より濃いという言葉はまさにこのことを表していたのだと。自分の血を引く者がいれば、いざというときの身代わりにもできるし、自分の最も信頼できる右腕にできると。
闇の帝王は、信頼できる部下でもあり純血でもあるベラトリックス・レストレンジに目を付けた。彼女との間に子供を作ればいい。闇の帝王はすぐに実行に移した。結果、ベラトリックスは女の子を産んだ。闇の帝王は喜んだ。これで自分は永遠になれると。子どもの名づけをせがまれたが、ある程度成長してから闇の帝王の娘にふさわしい名前をつけてやろうと思った。
ただ、そんな喜びも長くは続かなかった。生まれた子供は音には反応するものの、目の前で指をかざしてもそれを追う事がなかった。女の子が誕生して3か月が過ぎたとき、癒者に見せたところ女の子に視力がない可能性がとても高いといわれた。目が見えないというのは魔法使いとしての死そのものだった。目が見えなければ魔法もまともに使えない、マグルよりも劣っている存在だ。自分の欠点になる存在を生かしておくわけにはいかない。子供ならまた作ればいい。闇の帝王は、せめて母親であるベラトリックスに手を下させようと思い、彼女に「その不良品をさっさと殺せ」と命令した。
ベラトリックス・レストレンジは闇の帝王の忠実な部下であることが誇り、世界のすべてだった。敬愛する闇の帝王のもとで穢れた血、マグル、彼らをかばう愚か者を叩きのめしてきた。この生き方に何の疑いもなかった。だから、闇の帝王と子供を作るのは最高の名誉だと思った。夫のロドルファスと別れ、ブラック姓に戻った後に生まれた女の子は、柔らかく温かく、主君と同じくらいに愛する存在ができたと思った。自分の父と母もこんな気持ちを感じていたのだろうか。初めてこの手に抱いたとき、その小ささにびっくりしたけど、自分の乳を吸う小さな存在が自分の何より大切な存在になった気がした。
ある時わが君から子どもを殺すように言われた。いつもなら迷わない。わが君のためならなんだってやれる。でもこの時は違った。その命令を聞いたとき、全身の血が凍りつく感じがした。何も思いつかなくなり、わが君に「せめて、少しだけこの子と散歩させてください。戻ってきたらわが君の言うとおりにします。」と言った記憶だけがある。外はもう日が落ち、小雨が降っていた。子どもが寒いとかわいそうだと思い、しっかり服を着せて抱っこ紐をつけた。元夫のロドルファスもついてこようとしたが、気持ちの整理がしたいからと言って先に帰した。静かな夜道を歩きアジトからかなり離れたところまで来た。だれにも自分の表情が見られないように、その場で子供に死の呪いを、せめて苦しまないようにしようとしたとき、赤子は私を見てほほ笑んだ。
誰が、自分の子供を殺せるだろうか。闇の魔女と呼ばれ、だれからも恐れられる自分に微笑み、温かさをくれる子供。自分がいなければ生きていけない弱い存在なのに、自分の杖先をためらわせる強い子供。私は、ついに呪文を唱えることが出来なかった。私は代わりに、口に布を噛んで叫ばないようにした後、自分の左腕、死喰い人の証の少し上を目掛けて切断の呪文を唱えた。左腕の肘から下は切り落とされ、おびただしい血が噴き出した。意識がもうろうとするが、この子のために一刻も早く逃げなくては。傷口に癒しの呪文を一心不乱に唱える。元々癒しの呪文なんか得意じゃなかった。止血はできたけど、時間がかかってしまった。ドレスの裾を引き裂いて傷口を縛り、飛行呪文を唱えた。この子は私が守らなければ。
私は、家から追放されたアンドロメダの家に向かった。アンドロメダの家という確証はなかったが、確証を得たら自分が一番に乗り込んでやろうと思っていた。あの時、わが君に知らせなくてよかったと思った。光が漏れる家の扉を残った右手で必死にたたいた。鍵が開き、アンドロメダとその夫テッドが杖を構えたまま出てきた。アンドロメダは私を見て驚いていたが、すぐに嫌悪の表情を浮かべた。
「何をしにここに来たの!私たちを殺すために一人で乗り込んでくるなんて、姉さんも相当おかしくなったのね!」
アンドロメダは杖を振り上げ呪文を唱えようとする。血を失いすぎて、立っているのも限界だった。地面に膝をついた。もう呪文を防ぐ力もない。来る場所を間違えてしまった。
その時、胸元に抱きしめていたわが子が泣き出した。その泣き声を聴いて、アンドロメダは杖を降ろした。
「姉さん。その抱きしめているのは赤ちゃんなの?」
私は頷いた。アンドロメダが私に駆け寄り、
「中に入って。そのままだと赤ちゃんがかわいそう」
と言い、私に肩を貸そうとした。そしてアンドロメダは私の左腕がないことに気づいた。テッドと一緒に私を抱えて家の中に入った。
「左腕はどうしたの?その子供は姉さんの子供なの?父親は誰なの?」
アンドロメダが矢継ぎ早に質問しながら私の傷口にハナハッカのエキスを塗った。私は、
「左腕は…自分で切り落とした。この子は私の子供。名前はまだないけど。父親は言えない。」
と答えた。アンドロメダは少し考えた後で、
「姉さんはどうしてここに来たの?」
私は…子供を守りたいだけ。そう答えた。アンドロメダは
「例のあの人と死喰い人から逃げ切るのは難しい。特にイギリスの中では無理よ。せめて国外に行くべき。必要なものはあげるから、すぐにここから逃げたほうがいい。」
と言った。妹にしたことを思えば、家に入れてくれただけでもありがたいのにここまで助けてくれるとは。妹に何度も頭を下げ、夜明け前に子供をもう一度抱き抱えて、アメリカに向かうマグルの船に乗り込んだ。魔法でマグルから見えないようにしながら船を降りた。降りた先で、アンドロメダの夫テッドの親戚が待っていて、そこでかくまってもらう事になった。私は落ち着いた後、この子に名前を付けた。『デルフィーニ・ドゥルーエラ・ブラック』と。
ベラトリックスが散歩から帰ってこないことに気づいたヴォルデモートは、死喰い人の印を使って探し出そうとした。しかし、見つかったのはベラトリックスの左腕のみ。その時、自分に最も忠実なはずの部下が、不良品の赤子かわいさに裏切ったのだと知った。怒り狂い、周りの死喰い人に磔の呪いをかけた。ちょうどその頃、あのダンブルドアのもとに送っていたスパイから聞いていた予言の話の子供が生まれたらしい。俺様を倒すと予言された子供と、俺様の血を引く目の見えない子供。俺様に抗い続けている夫婦と左腕も身寄りもない女。優先すべきは予言の子なのは明白だ。しっかり見張っておかなかったロドルファスに対して、怒りを込めて死の呪いをかけ、アジトに引き返した。
そして運命の日の10月31日。闇の帝王はポッター家を襲撃。ジェームズ・ポッター、リリー・ポッターは息子のハリーを残して亡くなり、二人の命を奪った闇の帝王は跡形もなく消滅した。ハリーは母親の姉のペチュニアの家であるダーズリー家に預けられることとなる。また、死喰い人の残党がフランク・ロングボトム、アリス・ロングボトムを拉致して拷問による尋問を行い、二人は昏睡状態となる。死喰い人たちは続々と逮捕されていった。
アメリカにいたベラトリックスとデルフィーニはこの機会にイギリスに帰国した。もちろん魔法省はベラトリックスを逮捕しようとしたが、彼女に左腕がなかったことからデスイーターの証明もできず、さらにアンドロメダ・トンクスが身元引受人になった事で無罪放免となった。ベラトリックスは生家に戻った。屋敷しもべが一人で管理してきたらしい実家は、死喰い人となり、親となり、それまでの人生から離れて戻ってきたベラトリックスにとって、やっと落ち着ける場所となった。
アンドロメダの助言によれば、魔法界の視覚障害に関する教育はマグルの世界より圧倒的に劣っている、なので、デルフィーニの物心がついたらマグルの世界の教育機関に頼るのがいいだろうとのことだった。デルフィーニは5歳くらいから、マグルの特別な支援が受けられる学校に通った。そこでは親もカウンセリングを受けたり、親同士で交流したりする特殊な学校だった。それまでマグルは劣っていると思っていたベラトリックスは親同士の交流の中で、マグルも魔法族とあまり変わらないという事に気づいた。それまで、自分の血に絶対の自信があったが、結局娘のことに関してマグルの力を借りなければならないのならば、純血であることにあまり意味がないのかもしれないと思い始めていった。
デルフィーニは、学校で視覚を使わない生活の仕方についていろいろと学んだ。点字を使った読書や白杖と呼ばれるマグルの歩行方法を学んだ。デルフィーニはその技術を、母親に魔法と組み合わせて使っていきたいとお願いをした。デルフィーニは努力をし続けた結果、聴覚を強化し続ける魔法を習得したことでマグルの白杖を使った方法を進化させ、杖の音響によって周囲の情報を読み取って行動する方法を身につけた。インクに魔力を通すことで直接読む方法を会得したことで、彼女は本の虫となった。魔法界の歴史、魔法による戦闘術、さまざまな魔法生物についての本など、彼女は知識をどんどん吸収していった。彼女が大量の本を読むことが出来たのは、分家とは言えブラックの財力によるものでもあった。それに本家のブラックを継ぐ者も現状いない今、デルフィーニは成人すれば本家のブラック家の遺産も継ぐことが出来る唯一の存在でもあった。多くの本を母親に頼んで購入していたデルフィーニだったが、最近の魔法界の騒動について書かれた本だけは、ベラトリックスが激しく拒否したため、最近の魔法界の動向についてデルフィーニは疎かった。デルフィーニは母親が大好きだったため、母親の機嫌を悪くするようなことは基本的に避ける性格だった。
このころ、もう一人の妹であるナルシッサともベラトリックスは連絡を取るようになった。彼女の子供とデルフィーニは同い年、一緒にホグワーツに入学する子供同士早めに合わせるのもいいかもしれないという話になっていった。そして7歳の時にデルフィーニとナルシッサの息子ドラコは対面した。ドラコははじめ杖をつき目を伏せがちのデルフィーニを見て、
「母上!あの子は誰なの?それに何で杖をついているの?」
「彼女はね、あなたのいとこのデルフィーニよ。あの子は目が見えないから杖を使って歩くのよ。」
ドラコはちょっと考えた後、
「じゃあ僕があの子を守ってあげる!母上も父上も紳士でいなさいって言ってたもんね!」
と、ナルシッサとベラトリックスに宣言した後、デルフィーニに駆け寄り、
「僕が君を守ってあげる!よろしくねデルフィーニ!」
とデルフィーニの右手をつかんだ。デルフィーニもにっこりとして
「よろしくドラコ。でもそんなに私ってか弱く見えるの?」
と真剣に考え込むふりをした。
二人は何度か顔を合わせ遊ぶようになり、ある意味初めての友人となった。そのかかわりのなかで関係性は次第に変化していった。純血貴族としてデルフィーニをリードしようとはりきるドラコと、マイペースにドラコの言動を大人っぽくたしなめるデルフィーニの関係は、次第にドラコがデルフィーニの弟かのような関係へとなった。マルフォイ邸で交流していた時、木陰でデルフィーニが読書を、ドラコが箒に乗って遊んでいた時にちょっとした事件が起こった。ドラコがバランスを崩して箒から落ち、それに気づいたデルフィーニが、ドラコの悲鳴がする方向に向かって浮遊呪文を飛ばしたことで、ドラコはケガをすることがなかったというちょっとしたことから、ドラコはデルフィーニを慕うようになった。そうして時間は経ち、ついにホグワーツから入学許可証が届いた。
ベラトリックスは、デルフィーニに父親について話さなくてはいけないと思った。いくら隠したところで、デルフィーニの容姿はわかる人が見ればヴォルデモートと結びつけるのは明白だった。特にデルフィーニの瞳は、普段は自分と同じ黒だったが、感情が荒ぶると真っ赤に染まった。魔力も同年代より明らかに強く、初めての魔法の発現から完全にコントロール出来ていた。デルフィーニ自身はそれをひけらかす性格ではないのはわかっていたが、親元を離れて学校に入ればどうなるかわからない。死喰い人の残党だっていないとは限らない。ベラトリックスはデルフィーニに真剣に話すことにした。
「かわいい私の娘。デルフィーニ、あなたに言わなくてはいけないことがあるの。」
「何ですか?お母様。」
「あなたのお父様についての話よ。前にお母さん、最近の魔法界についての本の購入について、あまりいい顔をしなかったわよね?」
「ええ。あの時は少し驚きましたけど、それと何の関係があるのです?」
「あなたのお父様は…魔法界で犯罪者とされる人物なの。名前を言うのも恐れられる人物。マグル生まれの魔法使いを排斥し、純血による魔法界を作ろうとした人なの。その過程で多くの人を傷つけ、命を奪った。」
デルフィーニは驚いた顔をして、そして合点がいった。なぜ、マルフォイ家に遊びに行ったとき、ドラコのお父さんのルシウス叔父さんが私の方を見て変な空気を出していたのか。おそらく叔父さんはお父さんを知っていたのだろう。
「もしかして、私はお父様にそっくり…とか?」
「瓜二つと言えるくらい似ているわ。見た目だけではなく、魔法に関することも。」
「もしかして、わたしに対して復讐しようとする人がいるかもしれないことについて心配しているのですか?」
「そうね。それも心配。でも一番の問題はあなたのお父様はあなたの命も奪おうとしていたの。」
ベラトリックスは、デルフィーニの出生について、自分の左腕がないことについて、そして学校に入学する子供たちはもちろん、教員の中にもデルフィーニの父親によって不幸になった人が多数いることも話した。そして、デルフィーニの父親の信奉者は、いまだに彼を信じていて、何をするのか予想がつかないという事も。
「そうだったのですね。そのことを頭に入れて学校に行ってほしいという事ですね?」
「そういうことよ。あなたにはつらい思いをさせてごめんなさい。私も心が弱く愚かだった。あなたにすべてを背負わせることになってしまった。どうか許してほしい。」
「お母様は確かに多くの間違いを犯したけど、罪を犯さない事よりも、罪を犯した後にいかに償いをするのかが難しくて大切だって、マグルの学校の先生が言っていました。」
デルフィーニは、涙を流しているベラトリックスに抱き着いた。お母様は間違いを犯したけど、でも自分を愛し守るという選択をした。一方お父様は間違いを犯してもそれを認めない人物だったのだと理解した。お父様を今はあまり恨んでいないけど、いずれ恨む時が来るのかもしれない。でも今は、お母様を守る力を身につけたいと思った。
ホグワーツ入学に必要な道具を準備するため、ダイアゴン横丁にお母様とドラコ一家と来た。多くの人でにぎわう場所で耳がすごく疲れたけど、魔法の気配が心をワクワクさせた。ドラコは、早く自分の杖が欲しいらしくワクワクした様子で、
「父上、母上、やはり一番先に行くのは杖の店ですよね?」
デルフィーニは、走りだそうとするドラコの裾をつかんで、
「私は、制服の購入を先にした方がいいと思います。採寸をするので一定の時間がかかりますが、杖の場合は人によって長引く場合もあると本に書いてありました。なので、一番に行くべきはマダムマルキンの洋裁店です。」
ナルシッサは二人の様子に、
「本当に良い二人ですね。ねぇ姉上?」
と微笑み、ベラトリックスも
「ドラコの行動力は、デルフィーニにとっても積極的にしてくれるのは本当にうれしい。」
と喜んだ。ルシウスは微妙な表情をしながら女性陣に同調し、
「デルフィーニの案に、私も賛成だ、ドラコ。さぁマダムマルキンの洋裁店に行こう」
と二人を促した。
二人が採寸を受けている間、お母さんたちは教科書などを買ってくると言って別行動をとることになった。ちょうどデルフィーニは採寸が終わったので店の端でドラコを待っていると、店の戸がベルを鳴らし、誰かが入ってきたことを知らせた。どうやら、自分たちと同じくらいの歳の男の子のようだ。店に入ってきた男の子は少しきょろきょろした後、話しかけてきた。
「こんにちは。僕はハリー。君もホグワーツに入るの?」
「こんにちはハリー。私はデルフィーニ。君もという事は、私たちは同学年という事ね。これからよろしく。」
と挨拶を返した。ハリーはデルフィーニの持つ長い杖が気になっているようだった。興味津々な視線を感じて、
「ハリー、この杖が気になるの?この杖はね「デルフィーニ!採寸が終わったよ!さぁ次のお店に…」」
ちょうど、ドラコが採寸を終えこちらに向かってきたようだ。ドラコは、私と話していたハリーに気づき、話しかけ始めた。
「君もホグワーツに入るのかい?僕とデルフィーニはいとこ同士なんだ。ホグワーツで会えるといいな。」
と話し、こちらに向き直って、
「さあ、早く杖を買いに行こう!」
と、待ちきれない様子でデルフィーニの腕をつかんで店の外に出た。
店の外には、ちょうどお母様たちが買い物を終えてデルフィーニたちを迎えに来てくれていた。そのまま、お母さんたちと杖を買いにオリバンダーの店へと向かった。オリバンダーの店に入ると一気に空気が変わった。杖がこちらを品定めしているような、歓迎しつつも拒否するような視線が肌に刺さる…そんな気がした。最初にドラコから杖を買う事になった。オリバンダーさんは杖が魔法使いを選ぶという話をしながら杖をドラコに握らせていた。ドラコが何本か杖を振り、何も反応しなかったり、逆に花瓶や棚を壊していたりしたようだったが、ついにドラコの杖が見つかった。ドラコのお父さんが代金を払い、次は私の番だ。
「お嬢さん、杖腕はどちらかね?」
「左手は長い杖を持つから、右だと思います。」
「ほうほう…ではこちらを…これはヤナギにドラゴンの琴線の杖です。」
オリバンダーは私の右手を取って、杖を一本握らせた。私が振ってみると、周りの棚から物が大量に落ちる音がした。多分この杖ではないのだろう。テーブルに杖を置いた。その後何本も試すが、どの杖も何かを破壊するか、全く反応しないか、杖の方から私の手を離れた。
「お嬢さんは、なかなかに難しいですね。でもこの店で見つからない杖はありません!」
オリバンダーさんは自信満々にそう話す。そして私の顔に視線が注がれているのを感じる。顔をつかんで右を向かせ左を向かせ、そして、
「わかった。それならあの杖が合うかもしれません。」
とオリバンダーさんは言いながら店の奥に行き、何やらごそごそと探して戻ってきた。
「この杖はイチイで出来ていて、芯にはかのサラザール・スリザリンと同じバジリスクから取られたとされるバジリスクの牙が使われています。長さは35センチ。使える人が長い間現れなかったため店の一番奥にしまっていました。さぁどうぞ。」
渡された杖を握り、ゆっくりと振ると一本の花が咲いた。花を触ってにおいを嗅いでみた。
「ラベンダー?」
「おお……それこそがお嬢さんにふさわしい杖のようです。お嬢さんは、かつてここに来たある少年にそっくりでした。しかし、お嬢さんの持つ気質と言いますか、そういうものはなんとなく似ていないと思い、生前この杖の芯を提供してくださった方が求めていた人物にお嬢さんこそが当てはまると思いました。その杖は何か大きなことを成し遂げてくれるだろう。その杖が無事に人の手に渡ってうれしいです。」
お母様が代金を払い、杖と一緒にラベンダーの花も受け取った。店を出た後、お母様はペットが欲しいなら買いましょうと言ってくれたけど、目が見えない私にはペットがケガをしても気づかないかもしれないことが怖く、ペットに責任が取れないのが嫌だった。私がいらないと答えると、お母様は小さな眼鏡ケースを取り出し、
「本当はペットと合わせて入学祝いにしてあげたかったけど、こっちはもっと大切だから今渡すわね。」
と言って、魔法の気配がする眼鏡を私にかけた。
「その眼鏡をしていれば、いかなる時でもあなたの目の色は黒色だと周りに思われるわ。だから起きている間はずっとしていなさい。」
「はい。お母様」
こうして、ダイアゴン横丁での入学準備は終わった。入学するのが待ち遠しい。
次回入学です。どうぞよろしくお願いいたします。