盲目の少女   作:torinikuyakiyaki

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Ⅱー3

今日からいよいよ新学期。教科書をトランクに詰め、準備を整えた。闇の魔術に対する防衛術の教科書だけは、今すぐにでも燃やしてしまいたい衝動に駆られたが、我慢してトランクのそこに乱暴に入れた。ふと、机の引き出しが気になり、開けてみた。そこに入っていたのは以前、オリバンダーが手放したいわく付きの杖だった。すっかり存在を忘れていた杖を手にとってみる。オリバンダーの言うような事は今まで一切起こらなかった。杖を箱に戻し、机に戻すかそれともトランクに入れていくか。

 

少し悩んだあと、杖をトランクに突っ込んだ。

 

なぜこの杖を持っていこうと思ったのかわからない。ただ、この杖を眺めていると、この杖でなにかをしなくてはいけない、そんな気持ちになっていた。そして、私は荷物を持ち駅へと向かった。

 

駅に着くと、去年とは違う視線を感じた。確かに私の身長は休みの間にかなり伸びたし、髪も切ったから、私の印象が変わったことに驚いた同級生たちの視線なのかな?

そんなことを考えていたら、ダフネが近寄ってきて、

「あなた、髪を切ってすごくかっこよくなったわね。みんなあなたに夢中になっているわよ。」

と言ってきた。そんなに印象が変わるものなのか。

ダフネにその後、一緒のコンパートメントに行こうと誘われたが、一人で落ち着いて座りたいと思い断った。実際は持ち込んだ闇の魔術の本を読みたかったためだ。スリザリンは闇の魔術を敬遠しないとはいえ、私が闇の魔術に夢中になっているという噂がたてば、身動きが取りづらくなるだろう。

一人で座り、本を読もうとしたとき、誰かがコンパートメントの戸を叩いた。少なくともスリザリン生ではないだろう。

であれば、ハーマイオニーなのか?

私がどうぞと声をかけると、戸を叩いた人物が中に入ってきた。しかし、入ってきたのは一人ではなく二人だった。

「デルフィーニ!ここしか開いてないから座っても良いかしら?」

「ああ、もちろんだよ。それと…そちらの人は誰?」

「この子はロンの妹のジニーよ。ロンからジニーと一緒にコンパートメントに座って欲しいって言われたの。さすがに男子だけのところに女の子一人は良くないでしょ?」

ハーマイオニーの言うとおりだ。だとしても、一族総グリフィンドールで、おそらく自身もグリフィンドールに入ると思われる子を、スリザリンの自分の所に連れてくるのは良いことなのだろうか?

「私は構わないけど、ジニーは大丈夫かな?」

私がウィーズリーの妹に問いかけると、

「わ、私は大丈夫です!」

と、声をうわずらせながら彼女は応えた。

 

私の隣にハーマイオニーが座り、正面にウィーズリーの妹が座った。私が、闇の魔術に対する防衛術の教師が指定したあの本を嫌々ながら予習しようと読み始めると、ハーマイオニーが、

「デルフィーニも彼のことが好きになったのね!?」

と喜んでいた。この本を読むのは苦痛だが、ハーマイオニーが喜んでいるのなら、読む価値はあるかもしれない。

ウィーズリーの妹はというと、何も話さずただこっちに視線を向けているようだった。

ハーマイオニーはあの男の話をするのに夢中で気づいていないようだが、ウィーズリーの妹の様子がおかしい気がする。彼女のことはあまり深くは知らないが、11歳の女の子が放つ雰囲気にしては気持ち悪い気配がする。とはいえ、ほぼ初対面なのにそんなことを言ったら、私が非常識な人になってしまう。

どうしたものかと悩んでいると、

「あ、あの!」

ウィーズリーの妹が話しかけてきた。

「デ、デルフィーニさんって目が見えないって本当ですか?」

「ああ、そうだよ。でも、色々と練習したから見えなくてもほとんどのことが出来るよ。」

「じゃ、じゃあスリザリンでありながらマグル生まれを差別しないとか、学年主席だとか、トロールと取っ組み合って勝ったとかは本当の事なんですか!?」

「最後以外は本当かな。さすがにトロールと取っ組み合ったことはないよ。」

誰だよ、そんな嘘を教えたやつ。興味津々といった様子のウィーズリーの妹に質問責めにされているうちに、ホグワーツに着いてしまい、聞こうと思ったことは結局聞けなかった。

 

そして、組分けは私が考えていた通りにウィーズリーの妹はグリフィンドールへと組分けされた。

グリフィンドールということは、あの時抱いた違和感を尋ねるのがかなり難しくなったということだ。

スリザリンには何人かの後輩が出来たが、後輩たちは私の見た目か、もしくは入学前に他のスリザリン生から聞いた噂を恐れてか近寄る者はいなかった。

しかし、そんな事が全部どうでもよくなる事が起きた。職員の挨拶が行われるとき、ダンブルドア校長が、

「皆に新しい先生を紹介しよう。闇の魔術に対する防衛術を担当してくださるギルデロイ・ロックハート氏じゃ。」

と言った。ロックハートのことが好きな先生ではなく、ロックハート自身。今日は人生で最も最悪な日、いや、人生最悪な日々の始まりだ。

ロックハートの名前が呼ばれる前から周りの女子たちが騒いでいたのはこういう理由からだったのか。パンジーやダフネ、ミリセントたちはあまり騒いでいなかったが、それ以外の特に新入生の女子は喜んでいた。

 

夕食の後、寮に戻ると、周りの女子の話題はロックハート一色だった。もう耐えられないと思い、早々に寝室に戻って眠りについた。

 

次の日の朝。今日はグリフィンドールと合同で闇の魔術に対する防衛術の授業がある。もう嫌すぎて顔に滲み出ていたらしく、ミリセントからは、

「今のあなたは人を殺しそうなくらいに人相やばいわよ。」

と言われてしまった。

憂鬱な気分で大広間に向かい、朝食を取っていると、突然大きな叫び声が聞こえた。どうやらウィーズリーがなにかをやらかしたらしく、親から吠えメールをもらったようだ。普段なら、おろかなウィーズリーを憐れんで終わりだったが、今日はすこぶる機嫌が悪く、朝イチで他人の怒声を聞くことに耐えられなかった。手に持っていたスプーンをテーブルに叩きつけるようにして置くと、グリフィンドールの席に向かった。

 

『いいですか!!ロナルド・ウィーズリー!!!今度お前が…』

いまだにわめき続ける手紙を掴むとテーブルに押さえつけ、杖を突きつけて、

「インフェルヌス・フランマ(悪霊の火よ)」

と静かに唱えた。その瞬間、杖の先から炎が放たれ、吠えメールは灰になった。

 

「ウィーズリーの家ではどうなのか知らないけど、朝食の時間くらい静かにして欲しい。」

私はすっかり灰になった手紙を、杖を振って消しながら彼らにそう忠告した。

朝からあんな手紙を送る母親なんて非常識もいいところだ。そしてそんな手紙を、全校生徒が朝食を食べに来る場所で開封するウィーズリーも非常識だ。変な気配をさせている末の妹といい、ウィーズリー家はおかしい連中しかいないのか?

 

私が悪霊の火を唱えた場面をダンブルドア校長は影から見ていたことに私はこの時気づいていなかった。彼は私の行動を見て、私の姿を見て、誰と重ねるのかは明白だった。だから私の突発的な行動は愚行といえるだろう。

 

薬草学、変身術の授業のあとはいよいよ闇の魔術に対する防衛術の授業だ。あんな自慢屋の話なんて聞きたくない。さっきもロックハートがポッターに絡んでいるのを聞いてしまった。

ハーマイオニーから、あいつの授業が楽しみだという話をずっと聞かされる。

あいつは素晴らしい人なのだと。

あんな男がハーマイオニーの…………

ハーマイオニーが遠い…

 

教室に着くと、ハーマイオニーは私を置いて一番前の席に座った。残された私は一番後ろの端の席に座った。他の女子たちは、ロックハートの授業という事で浮き足立っているようだ。

 

「皆さん!」

あの男の声が響いた。苛立ちでどうにかなりそうだ。

「闇の魔術に対する防衛術の先生はこの私です。夕食の時にもご紹介いただきましたが、私、ギルデロイ・ロックハートが担当になります。勲三等マーリン賞を受賞……」

途中からは頭から滑り落ちるような自慢にはいった。この自慢屋が何の賞を貰っていようが興味がない。自分の経歴と受賞歴を語り終えたあと、

「それでは、皆さんが私の著書をしっかりと読んできたのかテストします。」

と言った。突然のことに教室が一気に騒々しくなった。テスト用紙が配られ、いつも通りに紙に手をかざして読み取ろうとした時、突然横から紙を取り上げられた。

 

「君はデルフィーニ君だね?他の先生から目が見えないと聞いているよ。だから無理をして解かなくても大丈夫だからね。」

 

は?

 

こいつは何を言っている?

 

私はこいつの言葉が理解できず、固まってしまった。パンジーたちが、

「デルフィーニは、目は見えないけど魔法で文字を読むことが出来るからテストをうけることが出来ます。用紙を返してください。」

と言っても、彼は、

「いやいや!障害があるのに、無理をしなくて大丈夫ですよ!」

というばかりでらちが明かなかった。

 

彼にとって障がいがある人に、障がいがない人と同じ事をやらせないことが配慮だと思っているのだろう。

障がいがあっても、出来ることはたくさんある。

それに私は、誰よりも努力して今の成績を、力を手に入れた。なのに、彼はその努力を否定しているのだ。

こういう形での差別は初めてで、そして、本当に悔しかった。

私は何も言わずに、彼の手にあるテスト用紙を奪って書き始めた。書いている途中、涙が滲んできたがバレないように拭いて書き続けた。

テストの内容は、ロックハートが好きなものとか下らない内容だった。答えなんて思い付かない。でも、何も書かなかったら負けなような気がして書き続けた。

 

その後、ロックハートはテストを回収して採点を始めた。満点だったのはハーマイオニーだけだった。自分は満点じゃないのはわかっていた。用紙には涙が何粒か落ちたし、好きな色とか聞かれた問題では、色自体を知らない自分にムカついて涙が溢れた。

 

「満点者が一人だけとは!皆さん勉強が足りませんね!」

ロックハートの声だけが教室に響く。声の大きさだけなら英雄といえる。私に対する発言を聞いたパンジーたちは、

「ありえない…」

「あんなの先生だと認めない…」

と言っていたが、ロックハートのあの発言を聞いたのは私の周りにいた数人だけで、あとは聞こえていなかった。みんなテストのことで頭がいっぱいで、騒々しくなった瞬間に出た発言だったので、誰も聞いていなかったのだ。

「それでは皆さん!魔法界で最も汚れた生き物との戦い方を教えるのが私の仕事です。この籠のなかには何が入っているかわかる人はいますか?」

彼が持ってきた籠からはキーキーと甲高い声が聞こえる。この声は、本の通りだと…

「ピクシー?」

誰かがそう言った。ピクシーが入ってると知った生徒たちは一斉に笑い始めた。ピクシーごとき怖くないと思っているようだが、ピクシーは、恐ろしいというより面倒な生き物だ。そして、まともに魔法を扱えないものには脅威となるだろう。

 

どうせ檻にピクシーを戻せとか言って、ピクシーを自由にするのだろう。……この予想は外れて欲しい。

「今日の授業は…ピクシーを檻に戻すことだ!」

ロックハートはそう言うと、いきなり檻の扉を開いた。その瞬間、気味の悪い笑い声を出しながらピクシーたちが飛び出してきた。

 

ここまでロックハートが愚かな男だとは思わなかった。まともな対処を知らない生徒とピクシーを対峙させるとは。

教室は、たちまち生徒の悲鳴による大合唱になった。ピクシーによるいたずらは止まることがない。杖を奪われる生徒、物をぶつけられて気絶する生徒、本を奪われる生徒など被害は甚大だった。しかし、その事態を引き起こした本人は早々にピクシーに杖を奪われ自室に逃げ込んだ。

スリザリン生もグリフィンドール生も教室のなかを逃げ惑うしか出来ない。誰かが何とかしないと。私は教室の真ん中に走り、

「グラヴィタスパティム!!!(重力よ増えよ)」

と叫んだ。その瞬間教室の重力が重くなり、飛び回っていたピクシーたちが床に落ちた。重力を増やすといっても、地面に立つ生き物を這いつくばらせるまで重くすることは難しい。ただし、宙を舞う生き物にとっては少しの重力でも飛べなくなるだろう。

「今のうちにピクシーを檻に入れて。」

私は周りにそう指示をした。逃げ惑っていた生徒たちは、スリザリン生を中心に落ち着き始め、ピクシーを檻に入れる作業に移った。

 

私は授業が終わると、急いで教室を出ようとした。ロックハートの態度や言葉は、今まで私にぶつけられた言葉とは違うものだった。

私はいくら努力しても認められないのではないかと思わせる言葉だった。

そして、そんな言葉に動揺する弱い私をハーマイオニーに見せたくなかった。ハーマイオニーが尊敬している人物の、他の人なら何でもないと思うような言葉で泣いてしまった私はただの弱い子供のように思えた。

しかし、教室を飛び出す直前に私はハーマイオニーに呼び止められた。

「ロックハート先生今日は調子が悪かったようね。普段の彼ならあんな事態にならないはずよ。でも、彼の授業を一年受けられるのは楽しみよ!」

ハーマイオニーからそんなことを言われたら、自分が何を言われたのか何をされたのかますます言えなかった。

彼女の尊敬している人物の告げ口をするようで、彼女に想われる彼に嫉妬している自分をさらけ出すようで、自分の弱さを見せてしまうようで。

「そうなんだ。私も彼の授業は楽しみだよ。」

本当に胸が痛くて裂けそうだった。

 

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