盲目の少女 作:torinikuyakiyaki
クリスマス休暇に入った。
しかし、今年は帰省できそうになかった。
一つ目の理由は、魔法省によるブラック本家の資産の接収を目的とする圧力によってお母様の仕事が膨大になっていたからだ。
魔法省は、ブラック本家のシリウスが後見人になっているポッターが成人する前に、しっかりとした知識がポッターに身に付く前に財産を奪いたいようだ。
そして二つ目の理由。
それは私自身が厄介な風邪を引いてしまったのだ。咳や熱はもちろん、もっともひどいのは鼻だった。
鼻が詰まり、全く匂いがわからない。匂いがわからないから食欲が落ちる。食欲が落ちるから、風邪が治りにくくなり、長引いてしまっていた。
医務室に行けば貰える薬の効果が、すぐに風邪を治すくらい強力なのは知っていた。だが、副作用で耳から汽笛のように湯気を出してしまうことになる。耳が一瞬でも聞こえづらくなったりするのは、私にとっては大問題だ。そのため、風邪を徐々に治すことにした。
そして、クリスマスの日。
この日は特に具合が悪かった。風邪を拗らせ、若干の熱を出しながら、それでも口に何かを含むべきだと思い、大広間の食事と向き合っていた。
匂いがわからない時に口に入れるパンのなんと美味しくないことか。スープも変に舌にザラザラ感が残る無味無臭のドロドロしたものだし、肉に関して言えば噛みきれるゴムのようだった。
気づけば、先に食事をしていたゴイル達は十分に満足して大広間を出ていったし、パンジーには、
「無理しないで、もう諦めて医務室に行きましょうよ。食事を口に入れるほど、あなたの人相がおかしくなっていっているわ。」
と説得され、ダフネには、
「あなたの百面相しながら食事している姿、とても面白いからそのままでいてね。」
とからかわれた。
そうしている内に、寮に戻らなくてはならない時間がきてしまった。気づくとダフネ達は寮に戻ってしまっていた。
私も戻ろうと、席を立つと足元が揺らぐ感覚がした。確実に風邪が悪化している。
早く戻ろうと思ったが、寒気もしてきた。これは諦めて医務室に向かうしかないだろう。
2階に上がり医務室に向かっている途中で、誰かが…というか男子と女子が言い争うような声が聞こえてきた。
場所は…女子トイレ?
なぜ、女子トイレで男子と女子が言い争う声がするのだろう。私は不審に思いながら声の方向に向かった。
「やっぱりポリジュース薬は飲めない!デルフィーニを嵌めるようなことしたくないわ!」
「何言ってんだよハーマイオニー!これで真実が知れるんだよ!」
「そうだよ!僕たちも飲んだんだし、君も覚悟を決めて飲むべきだ!!」
私はポリジュース薬を飲むのを躊躇していた。
ハリー達はすでに飲み干して、変身を完了している。
時間がない。
飲まないと彼女が無実だと証明できないかもしれない。私が抱えている彼女への疑惑も晴らせる。
でも、飲みたくない。
彼女を騙し、傷つけるようなことなんて私には出来ない。
クラップとゴイルの姿になったハリー達に迫られ、焦りと恐怖から体が震え、視界に涙が滲んできた。中身はハリー達だけど、体が大きくなった彼らはとても怖かった。
怯えて動けなくなっていると、入り口の方から声が、デルフィーニの声がした。
「ここは女子トイレだぞ!!しかも寄ってたかって女子を虐めるためにここにいるなんて最低なことだ!!」
入ってきたデルフィーニは、真っ赤な顔をしていて、フラフラと歩きながらこっちに向かってきた。
「デ、デルフィーニ。私は大丈夫だから。」
私は、彼女に声をかけながら彼女の手を取った。
「ハーマイオニー?どうしてここにいるの?そして、こいつらはあなたに何をしようとしてたの!?」
デルフィーニは足音とか声、魔力の波形から個人を特定して生活している。だから、ポリジュース薬で変身したハリーたちのように、声と魔力の波形が合わない人物をすぐに特定することが出来ていなかった。
「だ、誰だって良いだろ!!お前こそ、スリザリンなのにマグル生まれを庇うのは何でだよ!!」
「そ、そうだそうだ!スリザリンの恥さらしめ!!」
ハリー達は、デルフィーニに見つかった焦りから、彼女は目が見えないことをすっかり忘れて、ゴイルとクラッブを演じ始めた。
「そういうことを言うのは、スリザリン生だけだ。血筋や生まれでしか人を見れないのは最も愚かなことだ!!スリザリンの誰なのか知らないが、私がお前達を叩きのめす前に、ここから出ていけ!!」
ハリー達は、デルフィーニへの恐怖と共にポリジュース薬の効果時間を思い出して、女子トイレから飛び出していった。
「ハーマイオニー怪我はない!?」
「え、えぇ。私は大丈夫よ。」
「あぁ良かった…あなたに何かあったら私は…」
そうだ。
デルフィーニは、隠したいことがあるとその事について口にしないだけで、嘘はつかない人だ。
あの時、魔法薬学の教室の前で私を呼び止めたのは、何か話したい事があったからだったのだろう。
そして、今の彼女の行動は本心だ。彼女が生まれや血筋で人を差別して攻撃するはずがない。
どうして私はこの人を一瞬でも疑ってしまったのだろう。
私は、彼女を抱き締めた。
思っていたより彼女は華奢で。
デルフィーニの背は高くて、抱き締めたところで目線は合わなくて胸元に顔を埋めるような格好になったけど、そんな私の背中に彼女も手を回してくれた。
彼女の体の温もりを感じ……ん?なんかデルフィーニの体温が高すぎる気がする…。
そんな疑問が浮かんだ瞬間、デルフィーニの体は前のめりに崩れた。怒りで顔が赤くなっていたのではなく、熱が出ていたから顔が赤かったのだ。
「デルフィーニ!?しっかりして!!今医務室につれていくから!!」
彼女に抱き締められ、私も彼女を抱き締め返した。久しぶりに安心できた気がする。周りからはあることないこと言われて、ハーマイオニーもロックハートに夢中だったり、私に関する噂のせいで側に居られなくなったり。
寂しかった思いが、安堵へと変わる。
と、同時に今まで気を張っていたからなんとか保てていたものがプツンと切れてしまった。
体に力が入らない。そして、冬の学校の寒さと多少の寒気だと思っていたのが、異常な寒気と倦怠感、全身の痛みへと変わっていく。
彼女が必死になって声をかけてくれているのに気づいていたが、意識が急速に遠退いていった。
その後、ハーマイオニーが医務室に行って先生を呼んできてくれたお陰で、私は入院することになった。マダム・ポンフリー曰く、
「病院というのは、悪化する前に行くから意味があるのであって、手遅れになってから行くのは墓地なんですよ!!貴女は医務室がなんのためにあるのかご存じじゃないようですね!!!」
と。ポンフリーの説教は3時間以上続き、私は説教を全て聞き終えてから眠りについた。
そして、次に風邪を引いたら何よりも先に医務室に行こうと固く心に誓った。
……なぜ、あの人の心は私には向いてくれないの?
『あの女が邪魔をしているね。』
じゃあ、どうすればいいの!!私は彼女のように賢くないし、勇敢でもないわ!!普通に競争しても勝てない!!
『選ばせてやればいい。君か彼女かを。』
そんな事出来るはずがない。あの人の気持ちは変わらない。
『だから、僕がいる。彼女の弱点ならお見通しだよ。』
でも……
『さぁ。僕に全てを任せて。』