盲目の少女 作:torinikuyakiyaki
クリスマス休暇が終わり、私は学校へと戻った。そして、前のようにハーマイオニーと会うことに対して、隠すようなことをしなくなった。ダフネは、その変化を見て私が選んだ選択がわかったようだった。彼女は特に周りに言いふらしたり、けしかけたりはしなかったが、私の行動はスリザリンの上級生から目を付けられることとなった。それに気づいたパンジーやミリセントは、
「上級生に何をされるかわからないわよ。私たちの為にも考え直して。」
とお願いされたが、私はその願いを承諾できなかった。パンジーやミリセント、ダフネは私がマグル生まれと友達でも構わないとは思っている。ただ、マグル生まれと友達でいることで他の寮生と軋轢を生むのであれば、寮を優先して関係を断つべきだと考えている。その考えは間違えてはいない。でも私は、その選択は自己保身に過ぎないと思うし、それにこの時の私はパンジーやドラコ以外のスリザリン生と上手くいっていなかったため、ありえない選択だと思った。
スリザリンの上級生は、私を純血でありながら目が見えない出来損ないだと陰口を叩いていたし、同級生たちは私が授業で毎回点数をもらうので、目が見えないと嘘をついているに違いないと思っていた。前に、彼らの勉強を見てあげた時も、目が見えない奴に指示されたくないとでも思っていたのだろうか。彼らが行う嫌がらせは、わざと肩をぶつける、いきなり突き飛ばす、教科書を隠すなどの陰湿で、それでいて予測できない嫌がらせが中心となっていて、簡単にやり返すことが出来なかった。それでも、何回かやり返したが、やり返すたびにもっとひどいことをされるのであれば、抵抗する気力がわかなくなっていくのも早かった。一瞬我慢すればその場が過ぎ去る。私が選んだのはそういう選択。そう自分に言い聞かせるたびに、自分の中に何かどす黒いものが出来てきているような気がした。
そんな悩みと共にもう一つの悩みを抱えていた。それは月経の期間になると必ず何かしらの悪夢を見るという事だ。例えば、自分よりも体の大きい従弟に階段から突き落とされる夢とか、または4人組の男子生徒に呪いをぶつけられる夢とか、まるで誰かが経験したかのような痛みや苦しみを味わうせいで眠れない日々を過ごしていた。ただでさえ、具合が悪いのに夢の中でまで苦しむなんて。眠れないストレスがだんだんと私の心を蝕んでいった。
嫌がらせに抵抗できなくなっていたある日。私はこの日今までで一番だと言えるくらいに機嫌が悪かった。寝不足も連続で続き、誰かに後ろからぶつかられて眼鏡が壊れてしまった。そんな状況の私を、スリザリンの上級生、おそらく4、5年生と思われる6人くらいに、人気のない廊下に呼び出された。彼らは、
「目が見えないスリザリンの裏切り者め。今まではブラックの名前があるから見逃してやっていたがもう我慢できない。裏切り者がどうなるのか教えてやるよ。」
そんな言葉を吐くと、彼らは私をいきなり突き飛ばした。私は突き飛ばされた勢いで、床に転がった。彼らは私を笑いながら、思いっきり蹴り飛ばしてきた。トロールに殴られることに比べたら何てことない。でもすごくみじめな気分になった。自分は努力を怠ったこともないし、寮のためにいろいろと尽力してきた。なのに、マグル生まれのグリフィンドール生と友達だという、たったそれだけの理由でこんな目に合う。やり返したいが、やり返せばまたやられるだろう。声もあげずに堪える私を見て、
「やり返してみろよ、つまんないな。おい、誰かこいつと一緒にいた穢れた血を連れて来いよ。こいつがどれだけ臆病なのか見せつけて、ついでに二人まとめて教育してやろう。」
穢れた血……穢れた血だと?今、ハーマイオニーを穢れた血って呼んだのか?
それに私が臆病だと!?許せない。私は臆病じゃない!臆病じゃない!!!
私は、杖を出し素早く振った。彼らは、私がやり返すとは思っていなかった。目が見えない私が、杖を使って人を攻撃できるとは夢にも思っていなかったのだろう。だから、呪いによる攻撃ではなく、突き飛ばして蹴るという手段を取ったのだ。だけど、私が杖を振り、転ばせる呪文を唱えたことで形勢は逆転した。
「インカ―セラス」
縛り上げられた愚かな上級生たちは慌てて呪文を唱えようとしたが、
「シレンシオ」
その呪文を唱えることはできなかった。無言呪文が使えれば逃げられただろうに。
縛り上げた上級生たちを全員宙に浮かせ、逆さづりにしながら、
「私が臆病だと?それに私の大切な友人を穢れた血だと?君たちこそ教育が必要なようだな。」
私の言葉に、上級生たちは声にならない悲鳴を上げていた。私への恐怖を覚えるために、私の友人への敬意を忘れないために身体にしっかりと刻んでやろう。
「私を蹴った足を、私を蹴った回数折ってやる。でも医務室に行く心配はしなくていい。終わったら先生に言う前に君たちの脚は治っているから。」
そして杖を、ゆっくりと振った。
セブルス・スネイプが、自室で授業の準備をしているとパンジーとミリセント、そしてダフネが
「先生大変です!デルフィーニが!」
と叫びながら乗り込んできた。彼女たちはスネイプに、デルフィーニが上級生に呼び出されてリンチされていると言った。スネイプは早足で、彼女たちが言う場所へと向かった。ブラックが上級生にケガさせられているとかだろうと思っていた彼の目に飛び込んできたのは、廊下に転がっているスリザリンの5年生たちであった。彼らは気絶しているようだったが、その場にデルフィーニはいなかった。スネイプが呪文で全員を医務室に運んだが、彼らに傷一つないとポンフリーは言った。しかし、目覚めた彼らは口々に、
「赤い目が…赤い目に殺される…ごめんなさい、ごめんなさい…」
と何があったのか聞けない状態だった。そのため、精神を落ち着かせる薬を飲ませたのだが、彼らは何があったのか覚えていなかった。ただ、赤い目におびえていた。
スネイプは、デルフィーニを尋問するために魔法薬学の教室に呼び出した。彼女が平然としていることに驚きつつも、
「つい2,3時間ほど前に、スリザリン生6人が廊下で気絶しているのが見つかった。幸い怪我はなかったが、ブラックがその場にいたという話を聞いている。何か心当たりは?」
と尋ねた。デルフィーニは、
「なんのことでしょう?私は目が見えないので、上級生の方々が廊下に倒れていたところでわかるはずもないです。」
「なぜ上級生のことだとわかるのかね?」
デルフィーニは大きなため息をついて、
「先生には嘘をついても意味がなさそうですね。ええそうです。私がやりました。でもたかが気絶です。私が受けた苦しみに比べたらかわいいものでしょう?」
と言い、気味の悪い笑みを浮かべた。
「なぜあんなことをしたのかね?」
「……先生は自分が臆病だと言われた経験がありますか?」
かつて自分も言われた言葉に、スネイプは何も言えなかった。デルフィーニは、
「たかが親が魔法族かマグルかの違いごときで、自分の大切な人を貶されたことは?」
と言った。かつて自分も大切な人に吐いた言葉が頭に浮かんだ。
この事件の背景には、スリザリンとグリフィンドールの軋轢、マグル生まれへの差別意識、能力がある者への嫉妬による嫌がらせ、そして嫌がらせが悪化していたのに対処しなかった教師の怠慢もある。安易な処分は下せない。
「今回の事は点数を引くことはしない。だが、罰則と反省文の提出はしてもらう。」
スネイプは今回の事件を、校長だけに報告することにした。
今回の事件は、スリザリンの中だけの話題となった。嫌がらせをしていた生徒たちは、デルフィーニを恐れるようになり、デルフィーニも彼らの恐怖を利用して自らを守るようになった。恐怖は、支配するのに一番手っ取り早い。恐怖を利用することで、自分や大切な人を守れるとデルフィーニは思った。実際、例の事件の上級生たちはデルフィーニから身を隠すようになり、彼女に恐れをなした同級生たちも嫌がらせをやめ、デルフィーニの学校生活は安定した。パンジーたちやドラコ、ハーマイオニーに見せる顔は以前と変わらなかったが、何かがデルフィーニの中で変わってしまった。デルフィーニは目が見えるようになる方法に前以上にのめりこんで探し、同時に多くの力のある魔法や闇の魔術、攻撃的な魔法を好んで調べて実践するようになった。フリットウィック先生の元でのコントロールを学ぶレッスンには、闇の魔術に傾倒しかけている後ろめたさから行かなくなり、一人でいろんな魔法を試すようになった。
デルフィーニの罰則はなかなか決まらなかった。トロフィー磨きや清掃活動では、犯したことに対する罰則が軽すぎたためである。その間、デルフィーニは何度もハーマイオニーと会って、一緒に勉強したり時には一緒に昼食をとったりと、さらに堂々と過ごすようになった。ある時、ハーマイオニーにクリスマスプレゼントで贈ったニコラス・フラメルの本についての話題になった。
「そういえばニコラス・フラメルについて私に聞いた本当の理由って何?」
「え?な、何のこと?」
「ごまかさなくていいよハーマイオニー。勉強が好きなあなたにしては、話題に出さなくなるまでが早かったから。できればどうして聞いたのか話してほしい。」
デルフィーニは笑顔でハーマイオニーに聞いた。
「その…ハリーやロンが、立ち入り禁止の部屋にいる頭が三つの犬の話をハグリットにしたときに、ニコラス・フラメルがどうとか言ってて。それに、スネイプ先生があのハロウィンの日にその立ち入り禁止の部屋に入って、怪我をして出てくるのを見たとか言うから。あなたなら何かわかるんじゃないかと思って聞いたの。探るようなことをしてごめんなさい。」
正直、ハーマイオニーがポッターやウィーズリーと仲良くなって、私に隠し事をしていたのに腹が立っていた。でも、この話にはすごく興味がわいた。立ち入り禁止の場所に頭が3つの犬、スネイプ先生の怪しい行動、そしてニコラス・フラメル…私は詳しく話を知りたいと思った。
「それで、ニコラス・フラメルがその立ち入り禁止の場所とどう関係していることが分かったの?」
私はハーマイオニーの手を握りながら聞いた。
「ニコラス・フラメルの作ったといわれる賢者の石がその場所に隠されていて、それを狙う犯人がホグワーツにいるんじゃないかと私たちは思っているの。」
賢者の石。一度調べて、かなり力のあるものだという事は知っている。しかし、世界に一つしかない事や、ニコラス・フラメルによって管理されていることから目にかけることすら困難だった。目が見えるようにする研究に使えると思ってはいたけど、こんな近くにそんなチャンスが転がってきていたなんて。
「それはとても興味深いね。もしも何か進展があったら教えてほしいな。その狙っている犯人が誰だろうと捕まえないと。」
デルフィーニの罰則はある日突然決まった。夜に森番の小屋に来るように言われて来ると、そこには、ドラコ、ハーマイオニー、ウィーズリー、そしてポッターがいた。ドラコは、
「なんで君がここに!?君は何をしたんだ?」
と聞かれた。私は、
「私よりも、君たちのことが気になるよ。そういえばスリザリンの点数がごっそりとなくなっていたのは…ドラコのせいだったのね。」
私が問い詰めると、ドラコは私を追求するのをあきらめた。何をしたのかはこの際聞かないでおいてあげよう。
罰則の内容は、森の中で傷ついたユニコーンを見つけ、それを報告する事らしい。森の中に入るのも驚いたが、ユニコーンが人によって傷つけられ殺される事件が起きていたとは。最近夢で馬にかみつく吸血鬼の夢を見たが、なんか馬に取りつかれているのだろうかと思った。森に少し入ると、すでにユニコーンが一匹死んでいた。ユニコーンの血は死に瀕しているものを生きながらえさせると同時に、その血を飲んだ生き物は呪われるといわれている。この周辺に、死にかけてなりふり構っていられない奴がいるらしい。ハグリットは三組に別れて行動しようと言った。ハリーとドラコ、ハグリットとロン、私とハーマイオニーで行動することになった。
森を進むごとに、空気がどんどん冷えていくような気がする。別れた地点から、かなり進んだところで、ハーマイオニーが、
「デルフィーニは何でこの罰則を受けているの?」
と聞いてきた。私は少し悩んだ後、
「上級生とトラブルを起こしたから。」
「トラブルってどういうこと?詳しく話して。」
答えに困って早歩きになった私の腕をハーマイオニーがつかんだ。私は振り返って、
「前からトラブルがあったの。スリザリンの私がマグル生まれのグリフィンドールと仲良くしていることに対して嫌がらせを受けていた。それに上級生のやつらはハーマイオニーの事をひどい言葉で……。許せなくて、自分が惨めで、悔しくて。魔法であいつらの骨を何度も砕いてやった!でも安心して。足の骨が砕かれたってことは誰も知らない。綺麗に治して記憶も消してあげたから。それでも恐怖は残ったみたいで良かったけどね。」
あの時の事をハーマイオニーには答えたくなかった。あの時私のやった事は、先生に知られたら退学しかないだろう。でも、ハーマイオニーに嘘はつけなかった。
私の話を聞いたハーマイオニーは、とても動揺しているように感じた。そして、
「私はあのトロール事件の時、あなたに恐怖を感じたの。私を守ってくれたのに、命の恩人なのに。あの時に見たあなたの赤い目が忘れられなかった。普段の優しいあなたと、周りを攻撃して楽しむあなたがいる。全部隠さないで話してほしい。」
他人からはそう見られていたのか。私はトロールと戦った時も、上級生に魔法をかけたときもどっちも楽しんではいなかった。自分とハーマイオニーを守るのに必死で…。それに、赤い目についてハーマイオニーも知ってしまっていたなんて……
「私は…。私は……。」
もう父の事も何もかも話して楽になろう。そう思ったとき、遠くでドラコの悲鳴が聞こえ、私とハーマイオニーは悲鳴がした方向に向かった。悲鳴はだんだんと近づいてきて、誰かに思いっきり抱き着かれた。抱き着いてきた人物はドラコだった。ドラコは、悲鳴を上げながら無我夢中で走るうちに私たちと合流できたようだ。
「黒い影みたいなのがユニコーンの血を吸ってた!今すぐ逃げよう!」
彼は、泣きながら私の手を引っぱった。ドラコはポッターと一緒にいたはず。
「ドラコ待って。ポッターはどこ?一緒にいたんじゃなかったの?」
私が聞くと、彼は、
「わからない。はぐれたんだ。」
と言った。多分置いてきたんだろうなと思ったが、そんなことを問い詰めるよりポッターが無事じゃないかもしれない。私は、
「ドラコ落ち着いて。その影みたいなのを見たところに連れて行って。」
「でも…でもあいつ…何されるか…」
私は怯えて震えるドラコに、
「私と、その影のどっちが怖い!?さっさと連れて行って!!」
と、怒鳴ってしまった。ドラコは、
「今すぐ案内します!」
と言って、私の手を引き始めた。私たちが着くと、すでにハグリットがポッターと合流していた。ポッターを助けたのはケンタウロスらしい。今日のユニコーンの保護は、この事件を受けて中止となったが、私たちの罰則自体は終わった。ユニコーンを襲撃していたものの目的はユニコーンの血であることは確定し、森の中に危険な人物がいる以上一年生に捜索はさせられないという事だった。
寮に戻る途中、ドラコが、
「さっきは本当にごめん。僕本当に怖くて。本当に僕って臆病だよね。ポッターですらあんなに怖がらなかったのに、あんなにデルフィーニに泣きついちゃって。」
ドラコは、私だけではなく、ハーマイオニーやポッターにまであんな姿を見せてしまい、とても落ち込んでいるようだった。そして私も後悔していた。焦っていたとはいえ、ドラコを怒鳴りつける必要はなかった。あの時点で、ハグリットたちもハリーの方向に向かっていたはず。結局あの時ドラコを怒鳴ってしまったのは、ハーマイオニーに問い詰められて答えられなくて焦っていたことが理由なのだ。自分の弱さを、他人に怒りとしてぶつけたことで解消したにすぎない。怯えるドラコに、ハーマイオニーに問い詰められて答えられない臆病な自分を重ねたのだ。
「私も悪かった。あんな目に合えば誰だって怖い。それなのに私はドラコを怒鳴りつけてしまった。本当にごめん。本当に臆病なのは私だよドラコ。」