金髪関西弁の女死神ですけども   作:楓香

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最近たくさんの方に見てもらえてるみたいでビックリしています。
評価や感想にお気に入り登録、誤字報告もしていただいて嬉しい限りです。



隊長篇
10話:日常ですけど


 

五番隊の執務室。

壁に掛けられた和時計の秒針が動く音と筆が紙を走る音に混ざって、時々何かを啜る音が聞こえる部屋。

その静かな部屋で、二人の死神が机へ向かって仕事をしていた。

一人は長い金の髪をそのまま下ろしている女、平子真子。

筆で紙に一文書いては、すぐ横に置かれた湯呑へ手を伸ばして茶を飲んでいる。

もう一人は彼女の副官である藍染惣右介。

彼の手元にも湯呑はあるが特に減った様子はなく、黙々と軽やかな手つきで書類を片付けていく。

また筆が紙を滑る音が聞こえる。

真子は筆を走らせながら反対の手で湯呑へと手を伸ばした。

だが、茶を飲もうとしたところで彼女の動きは止まる。

中の茶が無くなってしまったのだ。

 

「あれ、もう無くなってしもうたんか……惣右介ぇ、茶ぁ入れてぇ」

「ご自分でどうぞ」

「冷た!え、温かい茶と正反対に冷たい返事やん」

 

紙面から目を離さずに、藍染は言葉を返す。

一も二もなく拒否された真子は上半身を脱力させ、文句を言いつつ机にもたれ掛かった。

伸ばした片手に持つ湯呑の中を覗いて、次いで自分の副官の顔をジッと見つめる。

和時計の音が数10回鳴るほどに時間が過ぎた。

やがて視線に耐えかねた藍染が小さく音を立て筆を置きお言葉ですが、と一つ前置きをしてから真子を見る。

 

「今日、隊長がお茶を要求されたのは今ので何度目か覚えてますか」

「ん?んー……2回目?」

「6回目です。飲みすぎですし、その度に僕の仕事が止まってます」

「固い事言いなや。隊長を補佐するのが副隊長の仕事やろ?」

「既に隊長がするべき書類も僕が処理しているので充分かと思いますが?」

「ああ言えばこう言う……」

 

大きなため息を吐いて真子は湯呑を持ったままゆっくりと立ち上がる。

どうやら頼むのは止めて、自分で淹れる事にしたらしい。

そのまま隣室に併設されている給湯室へ歩き始めるが、途中で藍染の机にある湯呑を横目で盗み見る。

チラリと見た湯呑の中が全く減っていないのを確認すると、何も言わずに横を通り過ぎた。

真子が給湯室に入って湯を沸かそうとしたその時。こちらへ向かってくるよく知った霊圧を感知した。

移動速度を考えると、歩いているというより速足で移動しているらしい。

真子は手を止め執務室へ戻り、もうすぐ開くであろう廊下へ続く戸を見た。

藍染も近づいてくる霊圧――というより、だんだんと大きくなる足音に気づいたようで、二人揃って戸を見つめる。

やがて勢いよく戸が開かれ、開けた人物は速足の勢いもそのまま力強く足を一歩、執務室へ踏み入れた。

 

「ひよ里やん。久しぶりやな、どないしたん――」

「邪魔すんでェ! !」

 

戸を開けた猿柿ひよ里は踏み入れた足で床を蹴り、自らを弾丸のようにして真子の胸元へ頭突きをしてきた。

邪魔すんやったら帰ってぇ、と平常であれば続けられる筈の真子の口からは代わりに潰された蛙のような声が漏れ出る事となる。

真子とひよ里は二人揃って後ろの壁へ衝突――するかに思えたが、ひよ里だけは真子にぶつかった為に勢いが落ち、その場で地面へ着地する。

よって、派手な音を立てて壁に衝突したのは真子だけだった。

 

「ぉ、おま……!ぁい、はい!肺ッ!」

「なにが『はいはい』や!ハゲマコいつの間に坊にまで戻ったんや!」

「そのはいはいやのうてっ、肺やボケェ! !」

 

咳き込み胸元を押さえながら真子は立ち上がりひよ里に詰め寄る。

 

「いきなっり、なにすんねん!肋骨折れるかと思たわ!」

「なんやあんなんで折れるんかい!身と一緒で骨まで薄いんか!?」

「細さやったらお前も大して変わらんやろ!」

「ウチは丁度いい細さや!マコは縦が長くて横はヒョロとしてるから余計目立つねん!」

 

額を合わせ言葉の応酬――もとい、戯れ合いを続ける真子とひよ里。

もし二人が動物であったならばガルルルという唸りが聞こえてきそうな様子だった。

そして一歩も引かない動物たちの戯れ合いは、一人の男によって中断される。

 

「隊長、少し冷静になってください」

「え!?この流れで止められるのアタシなん!?仕掛けてきたのひよ里やねんけど!?」

 

椅子に座ったままの藍染が冷静に声をかける。

藍染へ視線を向けるため真子が合わせていた額を離すと、視界の端に勝ち誇った顔をするひよ里が目に入った。

真子は目元が引き攣るのを感じる。

だがここで反論したら先ほどの繰り返しになってしまうと思い、大きく呼吸を吐き息を整える事で頭を冷やす。

 

「まぁええわ。で?ひよ里は何しにここまで来たんよ」

「やっとか。聞くの遅いねん」

「……」

「隊長。落ち着いて」

 

ひよ里は懐から紙束を取り出し、真子の顔の前へ突き出す。

 

「近いねんけど。なんも文字見えへんわ」

「なら後ろ下がれや」

「……」

「隊長」

 

真子は目の前にある束を奪い取る形で手に取り、書かれた文字に目を通した。

 

「いやこれ、普通に五番隊(うち)宛ての書類やん。わざわざ副隊長のお前が持ってくるようなモンちゃうやろ」

「……知らんわボケ。ウチかて来たくて来たんちゃうわ。けど、曳舟隊長がウチに持って行ってくれって……」

「はぁ?桐生サンが?」

 

同じ女性であり隊長を勤める十二番隊隊長の姿が頭に浮かぶ。

数少ない女性隊長同士という事もあり、隊首会の後などではよく話をする間柄だ。

脳内で友人ともいえる彼女がいい顔でこちらへ笑いかけている。

 

「なんでや?そないに重要な内容には見えんけど……」

「……せやからウチが知るか!とにかく!ちゃんと届けたからな!」

 

ひよ里は来た時とは反対にゆっくりと、だが力強く歩き、廊下へ続く開いたままの戸を通って真子達へ振り返る。

 

「クソボケッ!」

 

大声と同時に、戸は激しい音を立てて閉められた。

 

「えぇ……なんやねんアイツ。久しぶりに会うた思ったら忙しないやっちゃな」

 

この数年の内に、真子が隊長に昇進したのを追いかける形でひよ里が副隊長に就任した。

昇進祝いとしてリサや拳西達といった、普段から親しくしている者たちで料理屋へ足を運んで以来、ひよ里と話す機会は碌になかった。

就任してからは慣れない仕事に苦戦し、忙しそうにしていたのも理由の一つではある。

だが、ひよ里が隊長である曳舟を母親のように慕い、必死に彼女を支えようと努力していたのを知ったからだ。

偶に彼女から声をかけられ休日に出かけたりはしていたが、勤務中に先ほどのような会話はとても久しぶりだった。

そんな事を考えていると、真子の思考は強制的に引き戻される。

 

「隊長。考え事するのは好きにしていただいて結構ですが、仕事をしてからにしてください」

「……あーはいはい。分かったから、やいやい言わんといて」

 

真子は手に持ったままの紙束を机の上に放るように置き、通算六度目となる茶を入れに給湯室へ足を向けた。

 

 

六度目の茶を淹れてから和時計の長針が4回、一周するほどの時間が流れる。

室内は数刻前と同じく和時計の音と、筆が走る音しか聞こえない閑散とした空間。

藍染は手元にある最後の書類を処理済みの山に置き、和時計へ視線を動かした。

指し示す時刻が定時な事を確認すると、彼は机に広げた文鎮や筆を丁寧に仕舞い始める。

 

「では、お先に失礼します」

「……もうこんな時間かい。おう、お疲れさん」

 

藍染はそのまま机の上を綺麗に片付け立ち上がり、一度戸の前で振り返り礼をして退室する。

すると必然的に執務室は真子一人だけの空間になった。

 

「……結局アイツ、一杯分も飲んでへんとちゃう?」

 

真子は小さく呟いて横にある未処理の紙束で出来た山を見遣る。

 

 

これが隊長になった平子真子の日常。

今日は少しだけ変わっていた。だけど殆どいつもどおりの日常。

 

 




イメージ的にこの二人最初の方はビジネスライクっぽい感じなんですよね。

それと今後の展開の参考にしたいのでアンケートを置いてみました。
皆さんはどちらの展開が見たいのかな~?と、需要を知りたいのです。

どんな真子ちゃんが見たいですか?

  • お労しや……(別名:砂漠の月√)
  • 計画通り(別名:雨の記憶はいらない√)

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