最近になって平子カバーの『種をまく日々』をちゃんと聞きました。
小野坂さん滅茶苦茶歌上手いじゃないですか。しかも歌声平子のままだし。
聞いたことない方は是非聞いてみてね。
なんだろう。
「いかがいたしますか。――様」
なんなんだろう、これは。
「くだらん。地虫ほどの価値もない」
あたしの目の前にいる、これは、なんだろう。
「マッドイーター。貴様の好きにしろ」
なんで、兄さんが真っ赤になって寝ているんだろう。
どうして、あたしはここから動けないんだろう。
「戻られるのですか?」
「丁度いい餌でもいるかと思ったが、とんだ興ざめだ」
人の形をしたそれは、地面に座り込んで動けないあたしや兄さんに一度も視線を向けない。
そのままそれは、宙に現れた黒い口みたいなところへ入って消えた。
横にいた、一体の虚を残して。
「ウックック。小僧め、娘を庇いおって。自ら食べやすくなってくれるとはなァ」
虚は楽しくて仕方がないような声で、あたしと兄さんを交互に見る。
あたしは、走って逃げることも、兄さんに駆け寄ることもできなかった。
――あの人型のなにかが、怖くて仕方がなかったから。
「まさか双子の魂魄に出会えるとは、ワシも運がいい。じっくり味わって喰ろうてやろう」
虚は、あたしの方へ一歩近づく。
どうやらあたしを先に食べる事に決めたらしい。
――いやだ。
――こんな、こんな何もない所で死にたくない。
「小娘、貴様が姉か?……いや、妹か。まぁどちらでもよいか」
――まだ。
――まだ、兄さんを、助けてすらいないのに。
「……ぅ」
「ん?なんじゃ?最期の言葉ぐらいは聞いてやろうかの」
「……ふじ、まる」
――にいさん。
「……ウックックック! !最期の言葉が兄の名前とは!泣ける、泣けるのォ!すぐに会わせてやるから寂しくはないぞ」
虚の鋭い爪がついた腕が、あたしの頭へ伸ばされる。
「――――ぁ」
突然、金の風が走った。
いや、違う。風だと思ったのは人だった。
長い髪の毛を揺らして刀を持って現れた、女の人だった。
「ッグアッ!」
「浅かったか」
あたしと虚の間に立った女の人は虚へ振り下ろした刀を見下ろしながらつぶやいている。
正面にいる虚は斬られた場所を押さえて苦しそうに息をしていた。
それを後ろから見るあたしは、女の人が来ている白い羽織が何を意味しているのか知っている。
――死神……隊長さん?
「おヌシ、隊長格かッ!ワシがここまで接近されて気づけなんだとはッ」
「嬢ちゃんビビらせて悦に入ってたからやろが。素直にキモイんじゃボケ」
「貴様ァ……!」
虚が隊長さんと距離をとるように一歩一歩と後ろに下がる。
あたしの前に立つ隊長さんは、走り出す時みたいに態勢を低くして斬魄刀を構えた。
だけどそれを見た虚が不気味に笑って、一瞬で高く跳ぶ。
「あ……」
小さく漏れ出た声と一緒に上を向く。
そいつは建物の屋根の上に立って、あたしと隊長さんを口を歪めて見下ろしていた。
「流石に今の時点で隊長と争うのは分が悪い。この場は一旦退こうかの」
「逃げるんか?」
「クックック。その手の挑発には乗らんぞ死神」
虚の視線が、あたしの方へ――ううん、違う。
あたしと、兄さんの方へ向いた。
「ワシはマッドイーター。ヌシらはいずれ、必ず喰らうからな」
そう言って笑って、虚はまた高く跳んであたしの視界から消えた。
隊長さんは上を見ていたけど、少ししたら刀を鞘に納めて振り返ってこっちに歩いてくる。
「大丈夫か嬢ちゃん。動けるか?」
目線を合わせるように隊長さんはしゃがんであたしの顔を覗き込む。
ジッと隊長さんは目を合わせてくれて、あたしもただ隊長さんの目を見つめ返した。
そうなってやっと、助かったんだと理解した。
「ぁ、あの……ぁ」
「ん。無理して喋ったらアカンよ。ひとまず立てるようになってからやな」
隊長さんは立ち上がって辺りを見渡している。
キョロキョロと何かを探すようにしていたけど、探し物が見つかったみたいで少し頭を下げた位置で動きが止まった。
その先を、あたしも何となしに見ようと首を動かしてピタッって止まる。
「ふじまるッ!」
さっきまで動かなかったのが嘘みたいに勢いよく地面を蹴って、もたつきながらあたしは走る。
兄さん……ふじまるの倒れている姿を見てあたしはよろめきながら近くへ駆け寄った。
崩れるように地面に膝をついて、両手でふじまるの背中を揺さぶった。
「ふじまる、ふじまる!ねぇしっかりしてふじまるッ!ふじまる! !」
ふじまるの着物が、あの虚の爪の形に裂けていてそこから血が溢れて止まらない。
何度も揺すって声をかけているのに、ふじまるはなにも言わない。
――だめ。
「嬢ちゃん」
声をかけられて横を見たら、いつの間にか隊長さんはあたしの横に来ていた。
隊長さんは同じようにしゃがんであたしの肩に手を置いた。
「嬢ちゃん、心配するのは分かるけど揺らしたらアカン」
「たい、ちょうさん……」
隊長さんはあたしの顔を見てからふじまるの傷口に手を当てると、少しだけだったけど小さく舌打ちする音が聞こえた。
あたしは、ふじまるの方へ顔を戻した。
「隊長」
そうしたら、あたしたちしか居ない筈なのに急に男の人の声が聞こえてきた。
声がした方を反射的に振り返ると、眼鏡をかけた人が立っている。
――この人も、死神なの……?
無意識に体が強張っていると横にいた隊長さんは立ち上がり、その人と向かい合って話し出した。
「隣接地区も見てきましたが、そちらにも被害はなさそうです」
「そうか、ならここだけに出たってわけか」
「恐らくそうですね」
「連絡は?」
「既にいれてます。あと少しで到着するみたいですよ」
「ん。分かったわ」
あたしはただ、呆然と二人を見上げていた。
「そちらの子供は?」
「ぇ」
気づいたらあたしは隊長さんと話している死神さんの顔を見つめていたみたい。
隊長さんから視線をずらしたその人と目が合った。
「虚に襲われとった子。多分あの虚の狙いはこの子らやったんちゃうかな」
「では、倒れている少年はその虚に?」
死神さんの視線がふじまるへと移る。
「……そう。虚の攻撃でやられたみたいや」
「っ兄はまだ、生きています……!」
――まだ、ふじまるは息をしてる。
――生きている。
――だから、助けて。
死神さんと隊長さんはあたしたちを黙って見ていた。
だけどそれも短い時間の事だった。
隊長さんが膝をついて、ふじまるの体をゆっくりと抱き上げたから。
「惣右介、そこの嬢ちゃん背負って。移動するわ」
「え」
「……一応聞いておきますが、どちらへ?」
「四番隊」
――――――――――――――――――――
少年は重い瞼を開けた。
霞む視界で見えたのはいつも過ごしていた今にも壊れそうな木造の物ではなく、見たことがないほど綺麗な天井。
視界が鮮明になってくると少年の耳は一定間隔で鳴る電子音と、幾つもの足音を拾い始める。
ゆっくりと頭を横に向けると、天井と同じように見たことがない沢山の道具が置かれていた。
少年が呆とそれらを眺めていると、ふいに開けた瞼が重くなる。
本能が告げるまま瞳を閉じ、意識が落ちるのを待っていたが――
「あぁ、起きたのかい」
声が聞こえた。
自分に対してかけられた声だと少年は理解していたが、どうにも一度閉じた瞼を開けるのが酷く億劫だった。
少年が自分の思考に従い目を開けずにいると、声の持ち主は怜悧な声をそのままに言葉を続ける。
「二度寝するのは構わないけど、自身の状況を知ろうとしないのはどうかと思うよ」
自身の状況、と言われ少年は重い意識のままに考える。
自分は一体、どうしたのだろうか。
何故、知らない建物で寝ているのだろうか。
なにがあったんだっけ、と。少年は記憶を思い返す。
流魂街に居た自分たちの目の前に、突然現れた虚と人の形をしたナニカ。
咄嗟の事で妹と一緒に逃げようとしたが、人型の発する霊圧に圧され立つことすらままならなかった。
そいつは虚と何かを話していたが、突然虚がこちらへ視線を移し、口を歪めて妹を見た。
そして――
「っ、まつり……?」
時間をかけて瞼を開けながら、少年は妹の名を呼ぶ。
そうだ、自分は虚に襲われる妹を助けようとしたんだ。
虚が爪を振りかぶって、咄嗟に妹の前に飛び出した。
焼けるような痛みが背中に走るのを感じて、それから……それから?
どうなったんだっけ?
「うん、大丈夫そうだね。じゃあ君を連れてきた人を呼んでくるから、そこで待っているといい」
少年に声をかけていた人物はそのまま部屋を出る。
部屋に残された少年は一人、ゆっくりと上体を起こして改めて辺りを見た。
少年が見たこともない機械があちこちに置かれており、部屋の中も綺麗にされている。
少なくとも、ここが流魂街ではなさそうだという事は分かった。
「……ねむい」
危険はなさそうだと判断したのか、少年はまた体を倒して目を閉じる。
と、そこへ今度はよく知った声が鼓膜を震わせた。
「ふじまるッ!」
声と同時に部屋に現れたのは、少年の妹であるまつ梨だ。
まつ梨は走らないように、だが急ぎ足で横たわる兄の藤丸の側へ近づく。
「ちょっと!ふじまる起きて!もう起きられるでしょ?」
「ん〜……もう少し……」
「こらぁ!」
愚図るように妹と反対側に体を向ける藤丸。
起きない兄に声を荒らげるまつ梨だが、彼女の後ろから声がかかる。
「なんや、思ってたより元気そうやん」
知らない女性の声だ。
誰だろう、と藤丸がもう一度体を動かし目を開くと、部屋の入口付近に髪の長い女性がこちらを見て立っている。
「ほら、ふじまる起きて!まこさんに挨拶して!」
「ん……まこさん……?」
まつ梨に揺さぶられた藤丸は緩慢とした動きで体を起こし、真子と呼ばれた女性へ視線を合わせた。
「だいぶ寝坊助やな。丸々一日寝てても足らんか」
ケラケラと女性は笑って藤丸とまつ梨へ近づき、近くに置かれた椅子へ座ってまた口を開く。
「清之介……って言っても分からんな。お前を治したやつの話ではもう傷は完全に塞がった言うてたけど、痛みとかはないか?」
「ない、です……あれ?僕確か虚に背中を……」
「やから治してもらったんやって。後で一応礼言うときよ?まぁ本人やいのやいの言うて素直に礼を受け取ると思えんけどな……」
女性の声は最後の方になるにつれ小さくなっていき、藤丸には上手く聞き取れなかった。
だが藤丸は首を傾げるだけにして、一番聞きたかった事を聞くことにする。
「えっと、あなたは?」
「ん?あれ、言ってなかったっけ?まつ梨ぃ、説明しといてぇや」
「言う前にふじまるが寝ちゃって……」
「そうなん?ごめんて、ならまず挨拶からやな」
女性は一呼吸だけ間を置いて口を開く。
「アタシは死神で、五番隊所属の平子
「分からない、です」
「もう、まこさん!あたしの時にもそれやってましたよね!?」
「やから今回は途中で止めたやろぉ?ならセーフ、問題なしやで」
真子と名乗った女性とまつ梨は小気味よく会話を重ねている。
気を失っているうちに何があったんだろう、と藤丸は考えるが、名乗っていない事に気づいて自分の名前を告げた。
「あ、僕は
「うん。まつ梨から聞いてるで。よろしくな、藤丸」
目を細めて笑う顔を見て、双子は図らずしも同じ感想を抱いていた。
――ちょっと胡散臭い
「まぁ、互いの自己紹介はこんなもんでええやろ。で、何で藤丸がここに居るかの説明やけど。話してもええ?」
「あ、うん。大丈夫」
藤丸が思っていた通り、ここは流魂街ではなく瀞霊廷の中にある四番隊隊舎であること。
虚に襲われた場所からここまで真子ともう一人の死神が運んでくれたこと。
治療を受けてから藤丸は丸一日寝ていたこと。
治したのが四番隊の副隊長であることを、真子がかい摘んで伝えた。
「もう一人まつ梨を運んだやつが居ったんやけどな。今はここに居らんし気にせんでええよ」
「そうなの?」
「そうやの。で、どう?状況飲み込めた?」
「うん。なんとなくは」
「何となくでも分かるんなら上出来や。それで、今から話すのはこれからの事」
「これからの事?」
藤丸が聞き返すと目の前の死神は徐に腕を動かし、膝につけて指を組んだ。
まつ梨が少しだけ藤丸の近くへ足を動かす。
双子は死神の言葉を静かに待った。
「お前らを襲った虚やけど、アイツはまた二人を襲う筈や。そうやろ、まつ梨」
「はい。あいつは、あたしたちを必ず喰らうって言ってました」
襲った虚。
一瞬、藤丸の脳裏に2つ姿が浮かんだ。
しかしすぐにまつ梨を狙った大きい虚か、と藤丸は判断する。
そこに居るだけで存在を押しつぶされるようになるアレが、自分たちにそんな言葉を残すとは藤丸は思えなかったからだ。
横に居た人型をしたアレが何かは分からないが、今は話を遮るより真子の言葉を聞いた方がよさそうだ。
「明らかに狙われている子供を流魂街にそのまま戻すのはどうよって事になったんやけどな。どうする?」
「え、どうするって……?」
「アタシの家、来る?」
藤丸とまつ梨は揃って目を見開いた。
鳩が豆鉄砲を食ったみたいやん、と真子が笑っていたが二人にとってはそれどころではなかった。
本当に、突然の提案だったからだ。
「流魂街よりは襲われる確率はかなり低くなるけど、アタシは立場上ずっと家に居るわけにはいかんし、留守にすることが多くなる」
死神は話を続ける。
「下手したら何日も家に帰られへん日があるかもしれん……二人が嫌なら上に掛け合って、どっか別のとこで面倒見てもらう事も出来るけど……」
藤丸は真子と出会ってまで数刻も経っていない。
だが、何故かは藤丸にも分からないがこの人と話していると凄く落ち着くのを感じる。
そしてなにより、まつ梨が慕っていると分かったから。
きっと、悪い人ではない。
「おねがいします!」
「よろしくおねがいします!」
「返事はっや!」
感想欄でこの双子の事について触れてる方がいらっしゃいましたが、エサクタでした。
如何せんプレイしたの何年も前の事ですのでとても懐かしいですね。
リメイクとかしてくれないでしょうか。
どんな真子ちゃんが見たいですか?
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お労しや……(別名:砂漠の月√)
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計画通り(別名:雨の記憶はいらない√)