金髪関西弁の女死神ですけども   作:楓香

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13話:揚げ豆腐の方なら覚えてますけど?

 

『まつ梨が言ってた人型のやつって、それ上級大虚(ヴァストローデ)ですよね?なんでそない面倒なんが……』

『今はまだなにもわかりません……ですが、あの兄妹の前に現れたのは事実です。不幸にも彼らが出現位置に居合わせたのか、狙われていたのか……或いは全く別の目的があるのかさえも不明です』

『……卯ノ花サン、これ、隊長たち以外に伝えん方が良くないですか』

『ええ、どちらにせよ敵の目的が不明な状態では、混乱を招きかねない事は伏せた方がよいでしょう』

『……滅却師とのドタバタ、やっと収まった思たのに。なんやねんよ……』

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「てわけで、子供預かったわ」

「どういうわけやッ!」

 

ダンッ、と勢いよくちゃぶ台が叩かれる。

時刻は陽が完全に沈み切った戌の刻。

ここは瀞霊廷内に設けられた真子の自宅にある客間。

置かれた座布団の上に座り、二人の女性がちゃぶ台を挟んで向かい合っていた。

一人は家主である平子真子。その向かいに座るのは猿柿ひよ里だ。

力強く台を叩いたひよ里は大きく息を鳴らすと、肘をつき目を細めて真子を見た。

 

「なんやねん……急に今日暇かなんて聞いてきた思ったら子供できたて」

「その言い方は大いに語弊がある。というか誤解しか生まんから止めい」

 

子どもと一緒に住むことになったわ、と告げてきた腐れ縁とも言うべき女は、台に置かれた煎餅を掴み一口齧る。

煎餅をかみ砕きながら、真子の視線は目の前のひよ里から横へと移動した。

ひよ里もその目を追いかけるように、甲高い音を発している一団へと目を動かす。

 

「ふぅ……小さいお客さんの前で演奏するのは初めてだからね、いつもより張り切っちゃったよ……!」

「すごいです!こう、何だかキラキラしてました!」

「リュラリュルルみたいな、聞いたことない音がしてたよね」

「それはバイオリンの音なのか?」

「子供の感性にツッコむなや」

 

一曲弾き終えた楼十郎こと、ローズに拍手を送り感想を伝える双子の兄妹。

その感想に疑問を呈する拳西と、持参した本を読みながら一言添えるリサ。

現在、平子邸の客間にはひよ里、リサ、拳西、ローズと、少ないながらもいつもの面子と言うべき人物たちが揃っていた。

 

「てか白とかラブはどないしてん。なんでウチらだけ呼んだんや」

「白たちは昨日呼んだわ」

「……ふぅん」

「なんやその気のないお返事は」

「なんもないわボケ」

 

ひよ里は家主に倣って目の間に置かれた煎餅を1つ掴み、小気味いい音を鳴らして歯で割る。

いきなり大人数と対面するよりは日を分けた方が小さな双子の精神的な負担を減らせるだろう、とでも考えたのか。

啜る音を響かせて茶を飲む真子を横目で見ながら、彼女の考えを想像する。

恐らくその推測は外れていないとひよ里は思っている。

伊達に百年近い付き合いはしていないのだ。これくらいの思考は読める。

 

「ろーずさん。他にはどんな曲がありますか?」

「なんでその楽器は『きゃんでぃす』って名前なんです?」

 

……あの兄妹に細かい気遣いとかいらんちゃうんか、と浮かんだ疑問は口には出さない。

 

「にしてもえらいローズに懐いてんな。ローズって前から子供受けしてたか?」

「楽器初めて見たから興味深々なんちゃう?知らんけど」

「なんや最後の『知らんけど』て。適当言うてんちゃうぞハゲマコ」

「残念サラサラのツヤツヤですぅ」

 

いつもの言い合いを続ける二人が見つめる先には、双子に強請られて楽器を奏でるローズの姿がある。

彼から少し離れた場所で双子は静かに並んで座っており、初めて聞く音楽というものに魅了されているようだ。

その双子を正面から見ているローズの表情がいつもより柔らかく見えるのは二人の気のせいだろうか。

暫く何も言わずに真子とひよ里はローズたちを見ていたが、視界の端で双子より少し離れた場所で座っていた拳西が立ち上がる。

こちらは普段より眉間に力が入っているように見える。

そのまま拳西は真子たちのほうへ近づき、すぐ近くへ置かれた座布団に座った。

 

「なんや拳西、どないした」

「……おい真子、お前あいつらどうするつもりだ」

「は?なんやの急に」

 

突然投げかけられた言葉に真子は目を開いて拳西を見返す。

 

「あいつら、霊力あるだろ」

 

拳西に言われ真子はあぁ、と納得の声を出して記憶を思い返す。

先ほど双子を交え談笑していた時に、藤丸が置かれていた煎餅を食べたのだ。

 

流魂街に住む者は基本的に腹が減らない。

そのために食事を必要としないのだが、その中でも食事を必要とする者はいる。

それが霊力を持つ者だ。彼らは自らの体内で意思とは関係なく霊力を作り、呼吸をするだけで消費する。

そして消費した分を生み出すために栄養となる食事を必要とするのだ。

故に腹が減る者は大きさに差はあれど皆霊力を持っている。

尸魂界に住む者の間では常識とされている事だ。

 

「別に。死神にさせるつもりないで」

 

軽い調子で真子は告げる。

彼女はそのまま腕を伸ばして湯呑を手に取った。

 

「なりたくないなら、ならんでええ。二人がなりたいなら手助けはするけど強制はしいひんよ。アタシの人生やのうて二人の人生や、アタシが勝手に道を敷くのはちゃうやろ」

 

既に冷たくなった茶を啜りながら言い切る。

ひよ里は何も言わず、残った最後の一欠けらの煎餅を口に入れる。

拳西はそうか、と短く声に出して腕を組んだ。

 

「にしてもなんや。拳西がいきなりアイツらの事聞くとか、そない気に入ったんか」

「あ?別にそんなんじゃねぇよ……ただ、霊力あるならさっき言ってた虚以外にも狙われたりすんだろ」

「確率は上がるやろな」

「今はいいかも知れねぇが、少しは自衛の手段覚えてた方がいいんじゃねぇのか」

「……せやなぁ」

 

湯呑が静かな音を立ててちゃぶ台へ置かれる。

真子は中身のなくなった湯呑を見つめたままに、さきほどよりは小さく言葉を紡いだ。

 

「……まぁ、瞬歩とかなら教えとくわ」

 

彼女は顔を上げて頬杖をつく。

 

「やけど、先ずは字覚えるのが最初やな」

「あぁ……そういやあいつらそっからか」

「読めるのはいいんやけど書くとなるとな……名前くらいは書けるようにしいひんと。まつ梨はええけど藤丸はヤバいんよな、あいつ画数多いから」

「自分の名前も書けへんとかアカンやろ。はよ教えたれ」

「やぁから言われんでもそのつもりやって」

 

ふと、今後の双子の教育予定を話す真子の視界に、こちらへ歩み寄る人影が見えた。

そちらを横目で見ると近づいてきていたのは音楽を聴いていたはずの藤丸だった。

藤丸は真子の目の前まで来ると妹の方へ指を向ける。

 

「マコさん。まつりのお腹がなったみたい」

「ちょっ、と!ふじまるだってさっきなってたじゃない!」

 

兄の声を聞いたまつ梨が急ぎ足で駆け寄る。

仄かに頬が赤く染まり、眉が寄った顔で藤丸へ抗議の声を上げていた。

 

「あぁ……もうそんな時間か。よっしゃ、なんか食べよか」

 

ゆったりとした動きで真子が立ち上がる。

 

「おうお前ら飯まだやろ。ついでやし食うてくか?」

「いただくわ」

「美味しいのを頼むよ」

「献立聞いてないのに注文までつけるか」

 

読んでいる本から目を離さずにいたリサと、楽器を持って近づくローズが答える。

その間に双子は真子の横をすり抜け厨へと競うように駆け出していった。

特に拒否の声が上がらないので、真子は双子の後を追いかけるように厨へと歩く。

厨と客間を隔てる暖簾をくぐろうと腕を動かして、そこで真子は一度動きを止めて振り返った。

 

「ま、てなわけで、アタシが留守の時とかは二人のこと頼むわ」

 

笑って告げて、真子は厨へ消える。

暖簾の向こうで油ないやん!、と叫ぶ声が聞こえるが、一体何を作ろうとしているのか客間からでは何も分からなかった。

 

数刻後に双子が運んできた物は、細かく切られた豆腐が赤い粘液質のある液体に浸された物体だった。

顔を両手で覆った真子の横で、藤丸が小さく分けられた皿へ匙を入れて口へ運ぶ。

笑みを浮かべていた藤丸の動きがピタリと止まる。が、藤丸は何も言わずただ口を動かした。

そんな兄の様子を見たまつ梨が続いて小さく掬った液体を口に含む。

酷く、静かな空間だった。

やがて他の者たちもそれぞれゆっくりではあるが運ばれてきた物を口に入れる。

 

「豆腐に恨みでもあんのか」

 

拳西の声が静かな客間に響いた。

 

 

時間をかけて完食し終えた者たちの感想は、とにかく辛いし、食感が凄かったとの事。

 





麻婆豆腐ってコチュジャンいるんですね。
今回調べてみて初めて知りました。

どんな真子ちゃんが見たいですか?

  • お労しや……(別名:砂漠の月√)
  • 計画通り(別名:雨の記憶はいらない√)
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