たとえどれだけ筆が遅かろうとも、私はこの作品は完結させると決めているんです。
ここは瀞霊廷内にある、とある居酒屋の座敷部屋。
敷かれた座布団の上に座り、五番隊隊長の平子真子と十二番隊隊長の浦原喜助は長机を挟んで向かい合っていた。
「お疲れさーん!」
「お疲れ様っスー!」
陶器同士のぶつかる甲高い音が部屋に響く。
真子と浦原は上機嫌に口元へぶつけあった猪口を運び、一気に傾けた。
「はぁ……やっぱ仕事終わりのコレが一番旨いわ」
「今日も働きましたからねぇ」
中身を飲み干した真子は近くに置いてあった徳利から酒を注ぎ足す。
そうして一杯になった猪口を傾け、再び勢いよく飲み干した。
笑いながら酒を呑む真子の正面では浦原が机に置かれた茹でタコを齧っていた。
「でも繁忙期もようやく抜けましたし、ちょっとは落ち着けるんじゃないスか?」
「落ち着く言うても100が80になるだけやん。大して変わらん変わらん」
「そんなものですかねぇ……」
「そんなモンそんなモン」
そもそも二人は頻繁に呑むような関係ではない。
一年の内に二、三度ほど予定があい尚且つ互いの気が向けば共に呑みに行くぐらいの関係だ。
そして今日はたまたまその2つがあった日。なので二人は就労後の月が出ているこの時間、共に酒を呷っていた。
「そういや技術開発局の方はどないなっとんの?開局して、あー……何年やっけ?」
「えっと、六年ですね」
「もうそない経ってるんか。早いなぁ……ンで、なんかまた新しいモンとか出来た?」
「新しいのですか?まぁ、ボチボチですね」
「誤魔化すなぁ」
動かし続けていた口を一度閉じ、頼んでいた湯豆腐に箸を入れる。
一口大に崩して口の中に入れるとあっという間に崩れてなくなった。
それを数度繰り返した真子は突然、思い出したかのような声を上げる。
「そういや、ほら、前アタシが言うてた通信機器とかどんな感じなん?」
その言葉に浦原は口をつけていた猪口から顔を上げた。
「あぁ、あれッスか!もう殆ど完成はしてるんですけど……」
「なんや歯切れ悪いやないか。問題でもあるん?」
「いやぁ、平子サンが言ってたみたいに、スイスイぃって指先で?画面を操作するのは設計の上では出来たんですけど、如何せん一般普及するには予算が……」
「あぁ……採算合わんって事かいな」
「アハハ……あ、でもボタン形式で操作するのは4年以内には普及出来そうですよ。部品もだいぶ安価で手に入りそうですし」
これが試作品です、と懐から1つの四角い機器を取り出す。
手のひらに乗るほどの大きさのそれは2つに折りたたまれており、上下に開くことができるようだ。
「ひよ里サンや涅サンたちにも協力お願いしてるんですけど、二人ともなかなか付き合ってくれなくて」
片方の腕で頭の後ろを掻きながら笑って告げる浦原。
彼が持つ機器を受け取り、回転させるようにして真子は全体を調べ始める。
白く、丸みを帯びた四角い小さな機器だ。
必要最低限の機能しか付いていないらしく、黒い小さな丸ガラスのようなものがはめ込まれただけの単純な見た目をしていた。
やがて2つに折りたたまれていた機器を開いて、内側に付いていた小さな光る画面を見つめる。
「へぇ……おもろい形してるな。ええんちゃう?」
「機能はこの前平子サンが仰ってた機器どうしでの遠距離の会話ですね。少なくとも瀞霊廷の十二番隊隊舎から一番隊隊舎までは通じてました」
「結構長い距離届くんやな」
「他にも文字を送ったり写真や音声を撮ったり、歩いた距離を測定することも……」
「無駄に沢山機能入っとんな!?」
勝手知ったる様子で内側にあるボタンを押して小さな機器を操作していく。
「なんや、中すっからかんやん。連絡先とか写真もないし」
「あくまで試作品ですから、基本設定以外は弄ってないんスよ」
ほうか、と1つだけ返事を返して再び指先を動かす。
浦原は何も言わずに見ていたが、やがて無言のまま呑みかけの酒を煽る。
「というか、まさかホンマに作れるとは思わんかったわ。冗談で言うたつもりやったのに」
「え、そうだったんスか?でもこれ、平子サンがこの前現世で見た物なんですよね?」
「見たっていうか……なんかこういう機械が出たーって聞いたくらいやで。ホンマモンはもっとゴッツイらしいし、小さなって携帯できるようになったら便利そうやなーって思っただけ」
「……そうなんスねー」
浦原は短く言葉を返す。
「あ、じゃあよければ平子サンにも協力をお願いしてもいいですか?」
「は?協力?なんの?」
「やだなぁ、それですよ」
それ、と指さされた機器を二人は見下ろす。
「それ……といいますか、伝令神器って名付けたんスけど、ちょーっと使っていただいて感想とかを頂けたらなぁって」
「ふぅん、まぁええけど……何でアタシなん。もうひよ里らに手伝ってもらってるんやろ」
「だって、元々は平子サンが言い出した事じゃないですか。これくらいはお手伝いしてくださいよォ」
「アタシは『現世でこういう機械があるらしいけど作れたりするん』って聞いただけやけど!?」
「それに」
浦原はそこで一度言葉を区切り、手元の酒を乾いた喉へ流し込んだ。
「伝令神器、もう使いこなせているみたいですし。それなら平子サン以上の適任はいないんじゃないですか?」
一瞬、真子の眉がピクリと動く。
ほんの僅か、瞬きをすれば見逃していた挙動だったがその動揺を見たはずの浦原は何も言わず、いつもと変わらない気の抜けた笑みを浮かべている。
「……ほーん、そう。まぁ、くれる言うんなら有り難く使わせてもらうわ」
「どうぞどうぞ。あ、ただ何かあったら言ってくださいね?あくまでもまだ実験段階なんで」
「言われんでも壊れたらすぐ持ってて直さすわ」
「出来るだけ壊さないようにしてくださいよー?」
一つ音を立てて、伝令神器は閉じられた。
やがて二人の話はまた別の話題へと移る。
互いの他愛もない日常や共通の顔見知りの話題。酒やつまみを食べながら話はゆっくりと進んでいった。
そして机の上に並べられたつまみや酒が幾らか空になり始めた頃、顔を仄かに赤く染めた真子が手に持った猪口を机に下ろす。
「っひ……ちょぉっと呑みすぎたかなぁ……少し席はずすわぁ」
「あれぇ〜、平子サン大丈夫っスかぁ?」
「平気やぁ平気。まだ歩けるし、だいじょーぶ!」
気をつけてくださいねぇ、という浦原の声を背にして蹌踉めきながら立ち上がり、真子は廊下に出た。
部屋の中よりも僅かに薄暗い板張りの廊下を常よりは危うげな足取りで歩く。
そして曲がり角を曲がると真子は近くの壁にもたれかかり、頭を掻いて天を仰いだ。
「あっぶな……アカン、油断してたわ」
今回のは完全に失態だった。
今世で初めて見る機械を説明もなしに使って、それを人に見られてしまった。
しかもそれを、よりにもよって浦原に見られてしまったのが非常に不味い。
切れ者な彼のことだ。何かしらこちらを警戒され探られてしまうかもしれない。
考えすぎかもしれないが、可能性が0とは言えないのが浦原の恐ろしいところだ。
今のところ、真子は自分の秘密を誰にも話すつもりはない。
だから、誰かに不審にとられるような行動は避けていた。
――避けていた、つもりだった。
「油断、にしても……これは迂闊すぎんか。ホンマにアタシただのアホやん……」
懐から渡された伝令神器を取り出してそれを見下ろす。
無言で少しの間眺めていたが、上蓋を開き片手で操作を始めた。
「……なんで分かるんやろなぁ」
こんなもの、
小さな呟きは、板張りの廊下に落ちて消えた。
調べでみると、日本で電話サービスが開始されたのは1890年みたいですね。
あくまでネットで軽く調べた知識なので正確性は保証などできませんが、流石文明開化の明治。電話までも明治からのモノだったとは驚きです。
どんな真子ちゃんが見たいですか?
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お労しや……(別名:砂漠の月√)
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計画通り(別名:雨の記憶はいらない√)