金髪関西弁の女死神ですけども   作:楓香

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書きたいもの詰め込んだら2話分の文字量になりました。
長いのでお暇な時にお読みください。



18話:現世観光その1ですけど

 

木造建築の建物が幾つも建ち並ぶ町。

その町中を着物に身を包んだ人々が日差しを浴びながら、店に囲まれた道を歩いている。

 

「うわぁ……!ここが現世なんですね!」

 

そんな道から少し外れた一角、通行人の邪魔にならないようにと人混みから離れた場所に三人の男女が固まっていた。

一人は気だるげに背を丸めた女性。長くさらりとした髪を下ろし二人の男女を見ている。

その視線の先にいるのは歳が近そうな二人の若い男女。目を輝かせた快活そうな娘と穏やか顔でそれを見守る青年だ。

三人は互いに顔を合わせて話している。

 

「初めて来たけど、結構活気がある所だね」

「ここは他よりもデカい町やからな。その分人や物も多いんや」

 

背を丸めた女性、真子は遠くの店を横目に見ながら二人の男女、藤丸とまつ梨に問いかける。

 

「で、どないや。初めての現世観光の感想は」

 

二人はほぼ同時に振り返り、いつもより弾んだ声で答えた。

 

「初めて見るものが多くて、すっごく楽しいです!」

「建物とかは流魂街と似てるけどこっちの方が頑丈そうだし、色々違いが見られて面白いですよ」

 

自身の顔を見ながら告げる二人に真子もいつもの笑みを浮かべて答える。

 

「ほーん、そうか。ならよかったな」

 

少なくとも誰かのいつぞやのように、虚の大群に襲われるなんて事にはならなそうだ。

物珍し気に周りの建物や店先に飾られた品を見る二人の後ろを歩きながら、真子は心のなかで密かに安堵する。

今日、五番隊隊長である真子と新人隊士の藤丸、まつ梨の三人が現世に来たのは休日の観光のためだった。

そもそも真子の予定では最初に現世に来るのは自分一人だけのつもりだった。

久方ぶりの休みをとれたので現世に買い物をするつもりだ、と真子が夕飯時に双子へ話した時、双子が顔を見合わせて自分たちも一緒に行くと慌てた様子で告げてきた。

 

「ハァ!?お前ら休みちゃうやろ!?」

「休暇申請出します!」

「なんで一緒に行こうとすんねん!」

「行ってみたいけど初めての現世は不安なんですよ」

「アタシは案内役か」

「面白い案内期待してますね」

「案内料とるぞコラァ!」

 

少し前の出来事を思い返しながら、真子は先を歩く二人の後に続いて歩く。

物珍しそうに品物が外に出されている店へまつ梨が近づき、彼女の少し後ろから藤丸は周りを見渡す。

楽しそうだな、と真子が二人の様子を眺めていると、藤丸が足を止めて真子の方へと振り返った。

 

「真子さん。あそこはなんの店ですか?」

「どれ」

「あの店です。あの赤い旗がかけられてる店」

 

藤丸が指さした先には周りの建物よりも一際大きく、赤いのれんが掛けられた木造の店があった。

どうやら飲食店のようで厨房と思わしき窓からは湯気がいくつも出ている。

風に乗って湯気が三人が居る場所まで流れ、食欲を煽る匂いが漂ってきた。

 

「あぁ、あそこは牛鍋屋やな」

「牛?牛を食べるんですか?」

「最近現世で食うようになったみたいや。甘辛くて旨いで」

 

まるで一度食べたことがあるかのような口ぶりだった。

最近と彼女は言ったが、藤丸が知る限り真子は最近現世に行っていなかった筈だ。

自分たち知らない間に来ていたのだろうか。いったいいつの間に。

藤丸が思わず真子の顔を注視すると、視線に気づいた真子が藤丸の方へ顔を向ける。

 

「なんや、入ってもええけど金もらえるようになったんやから自分で払えよ」

「え、牛鍋ってそんな高いんですか?」

「だいたい千環ぐらい」

「それ一人分の値段ですか?結構高いですね」

「安いわ。牛やぞ牛」

 

安いわと言われても、そもそも牛なんて食べたことないのだから相場なんて分からない。

なんて事を藤丸が考えていると、真子が思い出したように呟く。

 

「それにしても、お前現世(こっち)に興味あったんやな」

 

問いかける、というよりは心の声が漏れてしまった様子だった。

 

「そりゃあ興味くらいはありますよ。僕たち現世に来たことありませんから」

「そんな素振り全く見せへんかったやろが」

「まぁ、行きたいーとか言ったことはないですけど、来たいとは前々から思ってましたよ。レコードや持ち運べる時計とか、尸魂界(あっち)ではなかなか見ませんから面白くて」

「持ち運べるって……それ懐中時計な」

 

分かりやすく浮足立つ妹と比べて、静かに目を輝かせる兄。

普段から素直で打てば響くまつ梨と一歩引いて掴みどころがない藤丸の様子を見て、同期からよく似ていないと言われる、と双子は笑いながら話していた。

確かにあまり似ていないように思えるが、双子というだけあってそっくりな事を真子は知っている。

面倒見がいい、というよりほっとけない質なところや譲れない部分はお互い譲らないところなど、挙げれば切が無いとさえ思う。

誰に似たんだろうか、と考えて無意識にため息が出た。

 

「あれ、どうしたんですか真子さん。ため息なんて吐いて」

「なんでもないわ」

 

いつの間に戻ってきたのか、店を見ていたはずのまつ梨が真子の近くへ来て問いかける。

そんなまつ梨へ大した反応はせずにてか、と真子は話を区切って今度は二人へ問いかけた。

 

「お前ら何か買いたいモンでもあったん?」

 

真子としてはなんでもない質問だった。

わざわざ休みを合わせて現世(こちら)へ来たのだから、何か目的の物でもあるのかと聞いただけのつもりだった。

 

「な、何もないですよ?ただ行ってみたいなーって思ってただけですから、欲しいものとかないです!」

 

垂れている横髪を指先で弄りながらまつ梨が話す。

目線も合わないまつ梨の様子に、真子は自分の顔が引き攣るのを感じた。

 

「……ア、そう」

「はい!ホント!何もないので!」

 

まつ梨は顔をこちらへ向けて不自然なくらいに明るく笑う。

わっかりやすぅ……と内心で思ったが口には出さない。

まつ梨を見る目が更に冷たくなっていくが、藤丸が真子の視線を遮るように二人の間に割って入った。

 

「ま、真子さん。そういうわけで、僕たちちょっと観光してきますね」

 

藤丸がまつ梨の体を反転させ、真子が口を開ける前にまつ梨の背中を押して足早に歩き出した。

藤丸が首だけで振り返る。

 

「あ、買い物が終わったら伝令神器で連絡しますからー」

 

そうして二人は雑踏へと紛れていった。

 

「……わけわからんやっちゃな」

 

呟いて、真子は二人とは反対側へ歩いていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……真子さん行ったよね?」

「……うん。大丈夫」

 

先ほどの場所から少し離れ、建物と建物の間から顔を覗かせて道を歩く真子の様子を確認する藤丸とまつ梨。

二人は彼女の姿が見えなくなったのを確認すると、互いの顔へと視線を移した。

 

「……というかまつ梨。さっきのはいくらなんでもわかり易すぎない?」

「うっ」

「あれじゃあ、いかにも何かありますって言ってるようなものだって」

「分かってるわよ!でもしょうがないじゃない、まさか聞かれるなんて思わなかったんだから……」

「もう少し誤魔化し方勉強した方がいいかもね」

「もう!あたしの事はいいのよ!」

 

咳払いを一つしてまつ梨は話しを続ける。

 

「せっかく現世まで来たんだから、今日を逃す手はないの!こんな話しをしてる場合じゃないわ!」

「確かにそうだね。珍しい物……は、真子さんもう持ってそうだから、やっぱり普通のかな」

「できれば尸魂界(あっち)に無いものがいいんだけど……ま、きっと見つかるわよね。じゃ、行きましょ」

 

まつ梨は来た道とは反対方向へ歩きだし、藤丸もその後に続いた。

明るい大通りに出たところで、藤丸はまつ梨へ預けた金額を思い出しながら小声で呟く。

 

「予算内で贈り物、見つかるといいけど」

 

双子が今日現世に来た目的は、親代わりである平子真子への贈り物を買うためだった。

事の発端は遡ること今から数週間前。二人が初任給を受け取ったことから始まる。

霊術院を卒業して、切望していた五番隊に入た二人。

職務にも慣れ始めた頃、初任給が支給された。

さて何に使おうかと双子が部屋で話し合っていると、不意に藤丸の目にまつ梨がつけている髪飾りが目に入る。

 

一輪の白い花と赤い羽根のような装飾ががあしらわれた髪飾りだ。

藤丸の頭にも大きな赤い尻尾のような髪飾りがついている。

これは霊術院を卒業し久方ぶりに家へ帰った時、居間のちゃぶ台の上に2つ並んで置いてあったものだ。

見覚えがない髪飾りに家の主である真子の物かと思ったが、それにしては彼女の趣味とは少し違う気がする。

二人でうんうん唸っていると、同じく久方ぶりに会う真子が帰ってきた。

挨拶はそこそこに藤丸がこれはなにか、と問いかけた。

 

「お前らの卒業祝い。2つあるからどっちにするか自分らで決めェ」

 

伸びをしながら歩き出した真子の後ろを慌てて追いかけた二人だった。

 

 

初任給を親代わりである真子への贈り物で使いたい。

折角なら、なにか素敵なものを。

できるなら、彼女が持っていない物がいい。

そういった経緯で、二人は現世に行くことを決意したのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……結局、決められなかったね」

「うぅ……」

 

藤丸と並んで歩いていたまつ梨の肩が落ちる。

気になるものが見つかればいいな、と思って現世に来た。

だが逆だった。気になった店に入っては品物を眺め、これも良いあれも良いと悩む。

時間をかけてどれにするか悩むと、全てがいまいちに思えてしまい何も買えない。さきほどからこの繰り返しだ。

つまるところ、気になるものが多くて決められないのだ。

 

「まさかこんなに考えることになるとは……恐るべきところね、現世って」

「ただ単に優柔不断なだけじゃない?」

「なによぅ!藤丸だって同じじゃない!」

「僕は最初の櫛でいいと思ったんだけど……」

「その後別の櫛と悩んでたでしょッ!」

 

まったく、と言って少し早足に先を歩くまつ梨に、藤丸は苦笑を溢して後ろに続く。

しばらく周りの店を見つつ歩いていると、藤丸が足を止めた。

 

「ねぇ、ここ入らない?」

 

藤丸が指を指したのは、少し古びた小さな店だった。

店内に人は少なく品物を軽く見ると、どうやらここは雑貨屋と呼ばれる店らしかった。

 

「雑貨屋じゃない。さっきも何軒か入ったけど」

「でもほら。この装飾とか真子さん好きそうじゃない?」

 

手に取って藤丸が見せたのは大きなとんぼ玉がついた簪だった。

赤いとんぼ玉以外には何もない簡素なものだったが、玉には金色で細かく模様が施されている。

それ1つだけでも華やかさがある、美しい一品だ。

 

「確かに……」

「だろ?ここで探すのがいいと思うけど」

「……そうね。よし、もう悩み続けるのはナシ!ここのお店で素敵なの見つけるわよッ!」

 

まつ梨は気合をいれる為に拳を握った。

そうして暫くの間二人が店内で品物を見ていると、不意にまつ梨が声を上げ駆け寄ってきた。

 

「ね、これ!これいいんじゃない!?」

 

まつ梨が見せたのは、小さな鏡だった。

折りたたみ式の小さな鏡。表面は糸で細やかな刺繍が施された品だ。

 

「これって、こん、コン……」

「コ・ン・パ・ク・ト!ミラー!折りたたみ式の鏡よ!」

 

ほら、とまつ梨が留め具を外して蓋を開く。

両面に鏡が付いているそれは、幾つもの藤丸の顔を反射して写していた。

 

「へー、二面鏡か。質も良さそうだし、いいんじゃない」

「そうでしょ?確か真子さん手持ち鏡は持ってない筈だし、いいと思うの」

「じゃあこれで決まりだね」

 

まつ梨がコンパクトミラーの蓋を閉じて勘定台へ向かう。

遠くからまつ梨が会計を進める姿を眺めて、目的が達成でき安堵の息をついた。

店の外で待とうと藤丸が外に出ると、突然腰のあたりに大きな何かがぶつかった。

 

「お、っと」

 

振り返って視線を落とせば尻もちをついている見知らぬ少年がいた。

 

「いてて……」

「君、大丈夫?」

「ぁ、はい!失礼しました!」

 

藤丸が声をかけると少年は勢いよく立ち上がり、深く頭を下げてはまたすぐに頭を上げた。

少年の短く切り揃えられた黒髪が揺れ、幼い顔立ちが顕になる。

大きな丸い瞳で見つめ返す少年は藤丸の腹くらいまでの背しかなく、十歳くらいに見えた。

質の良さそうな着物を纏い、あまり汚れも見当たらない。

どこかの貴族の子供なのかと藤丸は思った。

 

「前を見ずに走っていたらぶつかってしまいました!お怪我などはありませんか!」

「僕は平気だよ。君の方は怪我してない?」

「私ですか?」

 

少年は自身の体を見下ろし、腕を上げたり首を後ろに回して怪我がないか確認する。

 

「はい!問題ありません!」

「なら良いんだけど……君、凄い元気だね」

「はい!大きな声で話せと、日頃父様から言われておりますので!」

 

藤丸は少年の答えに頬を掻きながら苦笑を漏らし、子供へ目を下ろす。

歳の割に随分しっかりした受け答えをする子供だ。

両親がしっかりした人なのだろうか、とそんな事を考えた。

 

「そういえば走ってたみたいだけど大丈夫?急いでたんじゃない?」

 

少年はあ、と声を上げて慌てて周りを見渡す。

そして少し離れた位置に落ちていた布包を見つけると慌てて駆け寄った。

いそいそと布を捲り中身を確認すると、少年の顔色が変わる。

 

「あぁ、そんな……」

 

肩を落として呆然とする少年に藤丸はゆっくりと近づく。

上から手元を覗き込むと、木箱の中に入っていた割れた湯呑みが見えた。

ひと目で質がいいものと分かるそれは地面に落とした衝撃で割れたのだろう。修復するには難しいほどに砕けてしまっていた。

 

「ごめん、僕がぶつかったからだ」

 

藤丸の発言に血の気が引いた少年は弾かれたように顔を上げる。

 

「い、いえ!あなたのせいではありません!私が前を見ていなかったせいです!」

「それを言うなら前を見ていなかったのは僕も同じだよ。これはご両親に買ってくるよう頼まれていた物?」

 

少年は小さくはい、と頷く。

 

「なら僕も一緒にご両親のところに行く。それで一緒に謝ろう」

「え!?」

「多分……これ、かなり高価な物みたいだし、今の手持ちじゃ同じ物は買えそうにないから」

 

眉を下げて笑う藤丸。

だが、少年は藤丸の提案を聞いても尚必死に首を振る。

 

「いけません!あなたにそのような事までしていただく必要は!」

「事情を説明するだけだから大丈夫。だから、そんなに焦らなくても……」

「有り難いですが、自分の非ならば誰かのせいにせず素直に認めよ、と父様に厳しく言われております!」

 

藤丸の顔を見上げながら、淀みなく話す少年。

 

「あなたに父様への説明をしてもらうなど、余計に私が怒られてしまいます!」

 

少年は深く頭を下げる。

 

「折角のご厚意ですが、遠慮させていただきます!」

「……そっか、うん。そこまで言うのなら、僕はなにも言わないよ」

 

藤丸は硬い表情で頷いた。

すると、藤丸の背後から聞き馴染んだ声が聞こえてくる。

 

「ミラー買ってきたけど……どうかしたの?」

 

ゆっくりとそちらを見れば、想像していたとおりまつ梨の姿があった。

綺麗に包装された小箱を抱え、眉を寄せてこちらを見ている。

 

「まつ梨」

「お店の中まで声が聞こえてきたけど、何かあった?」

 

こちらに歩きながらまつ梨が問いかける。

近づくにつれ先ほどまでは藤丸の影に隠れていた少年に気づき、まつ梨はその場で立ち止まった。

 

「この子は?」

「えっと、さっきぶつかっちゃった子で……」

「いえ!私がこの方に当たってしまったのです!」

 

頬をかく藤丸に被せるように少年はまつ梨に答える。

彼女は二人の顔を交互に見た後、少年の手元の箱に気づいて視線を移すと意図せず中身が見えてしまった。

苦笑いを浮かべる兄と少年が持つ砕けた湯呑み。

まつ梨はそう、と一度頷いて屈んで少年へ目線を合わせる。

 

「藤丸がぶつかっちゃったのね。ごめんね、怪我してない?」

「は、はい!怪我はしていません!それに、ぶつかってしまったのは私が原因ですので!」

「原因とかは置いといて、怪我してないならよかった。ちゃんと帰れそう?」

「はい!私は大丈夫です!本当に、ご迷惑をおかけいたしました!」

「僕は大丈夫だから、そう何度も頭を下げないで。ほら、ちゃんと立って」

 

頭を下げる少年の肩へ藤丸が両手を乗せる。

ゆっくりと顔を上げていく少年に合わせてまつ梨も立ち上がった。

藤丸と話す少年をまつ梨は僅かに眉を寄せて見ていたが、彼女の表情に二人は気づかない。

だが突然、まつ梨は表情を明るくして声をあげた。

 

「あ、そうだ!君、甘いもの好き?」

 

声をかけられた少年はまつ梨を見上げ、口を開いて固まる。

 

「甘いもの、ですか……?」

「そう!あ、えーとなんだっけ、確かびす、びす……」

「……もしかして、ビスケットですか?」

「そうそれ!最近できた甘味なんでしょ?あたしそれ食べてみたくて。よかったらお店に案内してくれない?」

「え。あ、はい……確か近くに店があったと思います」

「じゃあ行きましょう!あ、時間は大丈夫?」

「と、父様には、あまり遅くならないようにと、言われています……」

「じゃあパパッと食べてパパっと帰りましょう!」

 

少年の背をまつ梨はゆるい力で押して歩き始めた。

戸惑った様子の少年は助けを求めるように藤丸の顔を仰ぎ見るが、背中を押され強制的に前を向かされる。

藤丸は慌ててまつ梨に近づいて、歩きながら小声で話し出す。

 

「ちょっとまつ梨、どうしたの。何だかいつもより強引じゃない?」

「いつもよりって何よ!……まぁでも、やっぱり変だったよね」

「自覚はあったんだね」

「うるさいわね。だけど……」

 

まつ梨は一度口を閉じ、逡巡しているようで眉を寄せている。

だがすぐに迷いを断つように前を向いて、再び小さく藤丸に話しかけた。

 

「なんだかこの子、危ない感じがしない?」

「危ない?」

 

まつ梨に背中を押されている少年を見る。

至ってどこにでも居るような少年だ。

特に見た目からしても、これといって特筆することがないように思う。

念の為少年から霊圧を探ってみるが、特になにも感じられなかった。

 

「別にそんな風には見えないけど」

「違うわよ。危害を加える方じゃなくて、精神的な方」

 

ますます意味が分からなくなり、兄は妹の顔をただ見つめた。

もう、と声を上げてまつ梨は押していた手を離し藤丸の耳に手をあてる。

 

「あたしにもよくわからないけど、そのままにしたらダメな気がして」

「この子を?」

「この子を。直感的にそう思っただけだし、確証とかもないんだけどね」

 

そう言って肩をすくめる妹の直感は、わりかし当たるのだ。

少なくとも、兄である己よりかは。

子供を放っておけないところも、自分と同じだ。

いや、自分というより――

 

「まつ梨、真子さんに似てきた?」

「そう?」

 

少し自慢げにまつ梨は笑う。

決して短くない時間、一緒に暮らしていて影響されてきているのだろうか。

妹は確実に養母とも言える人の影響を受けている。

 

「それはそうと、真子さんにもビスケットお土産で買って帰りましょう!」

 

意外と甘いものが好きなところも。

いや、あの人の場合は無自覚か。

女の子の方が成長早いって聞くけど、本当なのかなぁ。

 

「買うのはいいけど、あんまり食べ過ぎたら太るよ」

「う、うるさいわねッ!いいのよ甘いものは別腹なんだからッ!」

 

……本当かなぁ?

藤丸は心の中でひとりごちた。

 

「あ、あの!」

 

突然少年が声を上げる。

二人の顔が自然と少年へと向いた。

 

「お店、到着しました!」

 

今度は少年の指差す方へ目線を向ければ、新しく建てられたであろう店が藤丸たちを見下ろしていた。

 

どんな真子ちゃんが見たいですか?

  • お労しや……(別名:砂漠の月√)
  • 計画通り(別名:雨の記憶はいらない√)
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