金髪関西弁の女死神ですけども   作:楓香

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5話:受付には間に合いましたけど

 

よく晴れた日のお昼過ぎ。アタシは五番隊隊舎の廊下を歩いていた。

辺りは鍛錬する者の声、仕事をする者の声や雑談する者の声などたくさんの音で溢れかえっている。

アタシはその音を無視して歩き、やがて目的の部屋の前に着くと一息ついて声を上げる。

 

「隊長。平子真子(まこ)ですけど、入ってええでしょうか?」

 

すぐに中から隊長の声で許可が下りたので断りを入れてから部屋に入る。

そこには執務机に座ってこちらを見て薄く笑みを浮かべる隊長が居た。

 

「よく来てくれた。すまんな、休養期間中に呼び出して」

「いえ、気にしんといて下さい。元々アタシは怪我とかしてませんでしたし。寧ろずっと部屋に居なあかんかったから、気が滅入ってしゃーないですわ」

 

隊長はアタシの言葉に快活な笑いを漏らす。

いやこの人笑うと案外幼いな。なんや話し方的に笑ったりしいひん人やと思ってたわ。

 

そう。この間の現世に行った後から、アタシたち見回りに行った組は休養というなの自室待機命令が出されていた。

……怪我して生きてた人は、居らんかったはずやし。別に休養とかいらんと思うねんけどなぁ……

そんな事を思ってたら隊長はアタシが入隊式の時に見た、あの真面目な顔になって口を開いた。

いや切り替え早。

 

「この間の現世に現れた虚大量出現の件。報告書は見させてもらった。例の採取された欠片も現在解析させているから、判明次第貴公にも一報は入れよう」

「分かりました。ありがとうございます」

 

軽く頭を下げて一礼する。

……え、本題は?

 

「それで隊長、アタシを呼んだ理由は何ですか?まさかこれだけとか、ちゃいますよね?」

「ん?あぁ、まぁな。今回呼んだのは貴公に一つ打診したい事があってな。悪い話ではないとは思うが」

 

打診……?なに?全然思いつかなくて怖いわ。

自然と体が変に強張って身構えてしまう。

隊長はアタシの状態に気づいてるはずなのに、それを気にせず言葉を続けた。

 

「貴公には空いた穴。十五席に就いてもらいたい」

 

ちょっと予想外の言葉すぎた。

 

「……は?アタシが、席官……ですか?」

「なんだ?不満なのか?」

「いや、不満とかではないんですけど……ええんです?アタシまだまだ新人ですよ?そない簡単に地位上げて。それに穴埋めなら他にも適任な先輩方とか居るでしょうに」

 

本音だった。

いや明らかにおかしいやろ、アタシまだ入隊してから一年も経ってない新人やねんで。やのに席官とか。

いやまぁ確かに始解を会得したって報告とかはしたけども。

なぁんか意図感じるような……気のせいか?

 

「確かに、穴埋めだけならわざわざ新人である貴公を宛がう必要はない。だが、俺は貴公の素質に賭けたいんだ」

「素質、ですか?」

「報告によると仲間を逃がして殿を一人で務めたそうじゃないか。その心意気やよし。既に重責を担う資格ありと判断したまでの事。その貴公がどこまで化けるのか見たいんだ、俺は」

「……エライ評価されてますやん。隊長にそこまで言わせたら引き受けるしかないやないですか。まぁ精一杯頑張りますけど」

「そうか、引き受けてくれるか。では正式な通達はまた後日にしよう。あぁ折角だから今日は昇進手続きに費やすといい。今からなら十分に間に合うだろう」

「昇進手続きて……あぁ、書類手続きとかですか。なら遠慮なく今日はそれに使わせてもらいますわ」

 

隊長はさっきまで浮かべていた真面目な顔を解いて、さっきみたいに柔和に笑う。

要件は以上だ、と告げた隊長にアタシは一礼して、部屋を出て廊下に出る。

そのまま歩いてある程度部屋から離れたところで、大きくため息を吐いた。

 

「なんやの。色々分からんわぁ……なんでアタシあないに評価されてるんやろ」

 

本気で分からん。え、これそういうモンって事で流してええの……?

……まぁ、ええか。

考えても分からへんし後は為せば成る精神でええやろ。

昇進自体は有り難い事やし。

あー、で、せやな。席官なるんやったら手続きに行かな。

 

「昇進は何処やったかなぁ……八番隊やったっけ……?」

 

なにしろ()()()()()()全然覚えてない。

行ってみて聞けばわかるか。

間違ってたら、スンマセンって謝って帰ろ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「席官登録でしたら八番隊ではないですね。四番隊の護廷隊士録管理局まで行っていただく必要があります」

「アッ、さいですか……」

 

スンマセンでした、と受付の人に謝ってからアタシは建物から出る。

 

………………

 

はい間違ってました無駄足でしたー! !

地味に窓口混んでたから並ぶの疲れたのに意味ありませんでしたー! !

 

「ってイヤイヤイヤ、アカンアカンアカン! !言うてる場合ちゃうて!受付間に合うか!?」

 

高かったはずの太陽は気がつけば西へと沈みかけている。

予想外に時間を使ってしまったせいで、管理局での受付終了時間に間に合うか分からなくなってしまった。

 

「ホンマにアカンって!話しすぎてもうた!」

 

瞬歩で移動しながらアタシの頭には数十分前に話していた人の顔が浮かんでいた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「あ」

「ん?」

 

八番隊に向かう途中、塀の上に落ちている派手な着物を見つけた。

いや、正確には派手な着物を掛け布団代わりに寝転がる人だったわけだけど。

寝てると思っていたその人は、アタシが反射的に声を漏らすとゆっくりと上半身を起こす。

そして声のする方。つまり、アタシの方へと視線を下げた。

 

「おやぁ?キミ、八番隊の子じゃないよね。迷子かい?」

 

気の抜けるような、間延びした声だった。

パッと見では昼行灯な印象を受ける人だが、この世界でもかなりの切れ者だと、アタシは知っている。

 

「迷子とはちゃうんです。ちょっと八番隊の方に用事があるんですわ」

「あ、そうなの?なんだ、迷子かサボりかと思っちゃったよ」

 

サボりて。

まだサボった事ないで、アタシは。

……まだやけど。

 

「アタシは隊長から言われて来たんでサボりとちゃいますで。それ言うなら、京楽隊長の方こそサボりとちゃいますか?」

「痛いとこつくねぇ。なんだ、ボクの事知ってたのか」

「そりゃ隊長格の人たちの事は新人じゃない限り知ってるでしょ」

 

アタシが言い終えるや否や、八番隊隊長の京楽さんは塀から降りてアタシの前に立つ。

 

「キミも新人じゃないの?まいっか。隊長に言われて来たって、キミどこの隊なの?」

「あ、すみません、挨拶遅れました。アタシは五番隊の平子言います」

 

うちの隊長とはちょっと違う柔和な顔で笑った京楽隊長へかなり遅れた挨拶をする。

いやアカンやん、アタシ平隊士やねんて。めっちゃフランクな感じで話してもうた。

あ、待ってもしかしてこれ不敬罪にあたる……?

背中にちょっと冷や汗を感じ始めた頃に、アタシの名前を聞いた京楽隊長は少しだけ目を大きくさせた。

 

「平子って、平子真子ちゃん?」

「え?えぇ、そうですけど。なんでアタシの名前知ってるんですか?」

「あ、やっぱりキミが真子ちゃんか。いやね、ちょっと前に報告書で見たの思い出して」

「はい?報告書?……それって、現世で虚が大量に出た時の事ですか」

 

そうそう、と頷いて京楽隊長はまた口を開く。

 

「新人なのに巨大虚を撃退したって聞いたよ。今期は優秀な子が多いのかな」

「それはどうも……ってちゃいますわ。なんでそんな事まで知ってるんですか。他の隊の隊長まで知ってるとかおかしいですやん」

 

アタシがそう問うと驚いたような顔をして、彼は答えを教えてくれた。

 

「あれ、知らないの?他の地区でも同じように虚が出たんだよ」

「え?他の地区でもですか」

「そうだよ。現世の至るところで同じように虚の大量出現が確認されてね」

 

そんな大騒ぎになってたん?アタシ知らんかったんやけど。

隊長、なんで教えてくれなかったんや。

頭の中であの真面目な顔をした自隊の隊長へ不満を漏らす。

 

「緊急事態ってほどじゃないけど、ちょっとした騒ぎになってどこの隊も手一杯になっちゃったんだ。重傷者や酷い所は救援に来た死神も殉職してるし。だからほら、真子ちゃんのところも救援来るの遅れたでしょ」

「あぁ、そうですね……遅れた言うか、来なかったと言うか……」

 

ハッキリと言葉にできず、苦笑いで答える。

 

「だからその時現場に居た死神の情報はある程度他の隊長も知ってるはずだよ」

「はぁ、そうやったんですね。なんも知りませんでしたわ」

「あれから時間は経ってなにも異常はないけど、穏やかではないよね」

 

京楽隊長は言葉を締めくくると、空の方へ視線を向けた。

 

「面倒なことにならなきゃいいんだけどね。どうも」

 

 

 

あの後、京楽隊長は一足早く八番隊へ帰っていった。

アタシは一人歩きながらさっき聞いた話について考える。

 

おかしいやろ。

アタシが居たところで虚がぎょうさん居ったのは滅却師の撒き餌の効果のはず。

なのに他の所でも同じことが起きたって、他の所も滅却師の仕業……って考えるのは安直な考えか?

……いや待てよ。

そもそも、あの撒き餌の効果ってそんな強かったか……?

確か撒き餌って精々雑魚を数匹おびき寄せるのが本来の効果やったはず。

石田が使った時にあんだけの数が出てきたのは重霊地なのと、霊圧の強い人間がぎょうさん居ったからちゃうんか。

やのに、アタシが現世に行った時は巨大虚まで居た。

 

「……」

 

滅却師の他に、何か絡んでそうな気が……

それこそ、虚側でなにか……

 

「……色々考えすぎか」

 

 

それから数か月後、十一番隊の痣城隊長が無間へ投獄されたと聞いた。

 

 

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