金髪関西弁の女死神ですけども   作:楓香

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6話:昇進祝いですけど

 

十一番隊隊長、痣城剣八が無間へと投獄されてから幾年かの年が流れた。

空いた隊長の座には既に新たに剣八の名を継ぐものが収まり、瀞霊廷には平穏な空気が流れている。

そしてここはその平穏な空気の代名詞と言っても過言ではない場所。

瀞霊廷内にある新しくできた甘味処だ。

店内には非番であろう者や一服休憩として寄った女性隊士が多く、姦しい賑わいを見せている。

 

「おばちゃーん。こっちの注文も頼むわー」

 

その姦しい中でもひと際大きく声を上げた座敷に座る女性死神。平子真子は駆け寄ってきた店員に品書きを指で指し示しす。

 

「アタシこの白玉ぜんざい一つな」

「ウチはこのどら焼きとか言うの一つ」

 

真子の正面から同じように品書きに指で品物を示すのは同期の猿柿ひよ里。

店員は二人の注文を聞くと笑顔で頷き、駆け足で厨房へ戻っていった。

 

「しっかしエライ人多いなぁ。まさかここまで賑わうとは思ってなかったわ」

「なんやねんハゲマコが、お前がここ来たい言うから来たんやないかい。こない並ばなアカンなら最初から言うとけ」

「ある程度並ばなアカンのは予想ぐらいできるし、流行りモンは早めに抑えるのは常識やろが。お前もやいのやいの言いながら来てるやんけ」

 

真子は店員が回収を忘れた品書きに目を通しながら軽口を交わす。

お、これも美味そうやんけ。なんて声を漏らしながら目を開かせる様はただの可愛らしい少女に見える。

だが、真子がただの少女でない事は目の前のひよ里は嫌というほど知っていた。

真子の返事が面白くないと言わんばかりに鼻を鳴らして机に頬杖をつき、ひよ里は周囲の客へ意識を移す。

近くの席に居た一人の客は、甲高い声を上げながら運ばれてきた甘味を口に運び、同席のものとにこやかな顔で語り合っている。

視線を横にずらして別の客を見ても、同じような満たされた顔で笑っているのが目に入った。

どこもかしこも似たような光景ばかり。

本来ならひよ里も周りの客同様に、にこやかな顔で居たのかもしれない。

だが今現在ひよ里の顔はにこやかとは対極にあった。

 

「なんやねん。そない不機嫌なんやったら来んかったらよかったやろ」

 

真子が品書きから顔を上げてひよ里を見やる。

 

「誰も来たないなんて言うてへんやろ。勝手に決めつけんなや」

「いやめっちゃ不機嫌やんけ。お前そんな並ぶの嫌やったん?ここ並んだ甲斐はあって美味いはずやぞ」

「喧しいねん。なんも言うてへんねんから黙れや」

「……なんやわけわからんやっちゃな」

 

その会話を最後に真子は再び品書きに目を落としひよ里は周囲へ目を逸らす。

しばし二人の間には奇妙な沈黙が流れた。

やがて真子が品書きに書かれた全ての品目に目を通し終えた頃、店員は二人が注文した品物を持ってやってきた。

コトリ、と静かに二人の目の前に下ろすと店員は去っていく。

 

「……なんやコレ」

「なにって『どら焼き』やろ」

「……これホンマに甘味なん!?こんな茶色いんやぞ!?」

「疑わずまず食えって。美味いし甘いから」

 

目の前に置かれた初めて見るどら焼きを見てひよ里は疑問の声を出さずにはいられなかった。

銅鑼に似た形の茶色の皮が二枚、何かを包んでいるのだろうか膨らんでいる。

一見すると砂糖や蜂蜜といった甘味料は見られない。

中に蜂蜜でも入っているのか。にしては膨らみすぎではないだろうか。

ひよ里にとってはまさに未知との遭遇だった。

 

「てかマコはこれ知ってるんか」

「は?あー……まぁな、ええから食ってみぃや。口合わんかったらアタシ食べるから」

「……ちゃんと自分で食うわハゲが」

 

既に白玉ぜんざいを食べ始めている真子を一度見てどら焼きを見る。

やがて訝しみながらどら焼きを持ち、思い切って口に入れた。

 

「……うま」

「な?アタシの言った通りやろ?」

 

確かに美味しい。

皮の中に餡子が入っているのは予想外で、柔らかで優しい甘みが口に広がる。

木の匙を口に咥えながらニッと笑っている真子へ正直に認めるのは何だか癪に障る。

癪には障るが、認めないことも子供っぽいので素直にせやな、と言って返事をする。

そのまま二口目を口につけた。

美味しい。

 

「せやせや。お祝いやねんからそないふくれっ面で食うより、今の顔で食う方がええやで」

 

真子が表情を変えずに告げた。

 

「はぁ、オイワイ?何のことや?」

「何のことて、惚けてるんか?」

 

咥えていた匙を出して器に置く。

 

「お前の昇進祝いに決まってるやろ」

 

その言葉がひよ里の脳へ伝わると同時に、ピキリと音がするのを確かに聞いた。

 

「喧しわッ! !」

 

二人を挟む机へ手をつき乗り上げ、ひよ里は真子の頭へ一発叩きを入れた。

綺麗な音が響いてそのすぐ直後に真子が鈍い音を立てて机へ沈む。

 

「ったぁ!なにすんじゃひよ里ゴラァ! !」

「こっちのセリフや!よりによってお前、よりによってそこ突くかァ!?」

「ハァ!?なんの事やねん、ちゃんと言わんと分からんねんけどォ!?」

 

お互い身を乗り出し、頭突きし合うような体勢で少女たちは会話を続ける。

 

「っ……ふざけんなや、何でウチの昇進決まったらマコも昇進すんねん!」

「いや知らんわアホ!別に二人揃って昇進オメデトォでええやろが!」

「あぁせやな平子十席オメデトさん!ほら祝ったでこれでええんやろ!?」

「キレながら言いなや猿柿十三席!そっちもオメデトさん! !」

 

キレながら互いに祝い合う光景は何とも奇妙なものだった。

近くに居て騒ぎが聞こえてきた店員が止めようか迷っていると、その横から二人の女性が通り真子たちの方へ近づいた。

 

「なんや騒がしい思ったら真子とひよ里やないの。二人も甘いの食いに来てたんか」

「え、あホントだー!」

 

声に反応して同時に顔を離す真子とひよ里。

そこには自分たちを見下ろす、矢胴丸リサと久南白の姿があった。

 

「は?何でリサと白がここに居んねん。二人とも今日非番ちゃうやろ」

「休憩や休憩。昨日合同で泊りがけの任務あって今から帰るところ。その前に休んでも罰当たらんやろ」

 

リサが説明する間に白はいそいそと座敷に上がりひよ里の隣に座る。

店員へ一言同席でいいと告げてから、リサも同じように真子の隣に座った。

 

「八と九の合同ってなんや。そんなんあったんかい」

「ただの現世の見回りや。だいぶ前に虚大量出現の件あったやろ。それで警戒してあたしらを行かせたんや」

「席官を二人もか?エライ警戒しとるなぁ」

「なんかねーあたし達が行った所のが被害一番酷いところだったんだってー。別に他の子でも大丈夫って言ったのに拳西のいけずー! !」

 

腕を伸ばし抗議するように机をたたく白。

机壊れるで、とリサが一言告げてから会話を続ける。

 

「にしてもエライ混んでるなこの店。最近出来たん?」

「いや知らんと並んだん?確かに最近出来た店やけど、リサって甘いモン食うん?」

「疲れた時は甘味食うのが一番やろ」

 

リサは真子の近くにあった品書きを手にとり、白も見やすいようにと机に置いた。

白は品物の名前を見ながら自分が食べたいものを口に出している。

先に来ていた二人はそれを黙って見ていたが、白が上げた品物が八つを超えた辺りで横のひよ里から止めが入った。

 

「白それ全部頼む気か?金足りんくなるやろ」

 

それに対して白は不思議そうに返事を返す。

 

「えー?だってマコマコの奢りじゃないのー?」

「そうそう真子(まこ)の奢り……ってアタシ!?」

 

突然矛先を向けられた真子が勢いよく白の方へ顔を向ける。

純粋に疑問を浮かべる白の横で、ひよ里は畳に寝そべりながら腹を抱えて笑っている。

 

「ええぞ白!一番高いモン頼んだれ!」

「えっとねー!このおはぎとぉ、あ!これきな粉付いてるかな!?」

「ちょ、ちょい待ちや!アタシはお前らの分まで奢るなんて一言も」

「あ、店員の姉ちゃん。このきなこ餅と緑茶のセットと、あとわらび餅と塩大福と……」

「コラリサァ!お前この流れ的にアタシが奢る前提で複数頼んでるな!?ちゃんと全部食えるんやろうな!?」

「食べれなくなったらあたし食べるもん!」

「ウチも白玉ぜんざい追加で!」

「ひよ里ィィ! !」

 




ひよ里と真子ちゃんは同期で、しかも同じ女の子ですのでちょっとしたライバルのような感情もあると思ってもらえるといいかもですね。
身近にいる人ほど、無意識に自分と比べちゃいませんか?
え、ひよ里は比べたりしない?
この世界線ではそうなんですよ納得してくださいませ。

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