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───衛宮邸───
次の日の朝、桜はいつも通り衛宮邸に来ており、台所に士郎と2人並び朝食の準備をしていた。
「...先輩...その手...」
だがそんな微笑ましい空間は、桜が皿を落として割ってしまったことより、終わりを告げる。
動揺するように士郎を見る桜の視線の先、士郎の左手の甲には赤い痣があった。
「あれ...ほんとだ...どっかでぶつけたかな…って俺の事より桜の方が大丈夫なのか?皿を割るなんていつぶりだ?」
「あ...そうですね...すいません先輩すぐ片付けますね」
そうして桜は、そそくさと割ってしまった皿の破片を新聞紙で包み。再び手を動かし料理を作る。
その後の食事はとても静かだった。
───玄関───
「それじゃ先に学校に行ってますね」
「体調が悪いなら朝練は休んだ方がいいんじゃないか?藤ねぇには俺から連絡しとくけど...」
「いえ大丈夫です。少し頭痛がするだけなので」
では失礼しますと桜は歩き出し玄関の開き戸に手を掛け...何かを思い出したのかゆっくりと士郎の方を振り向き言う。
「先輩今日はバイトお休みでしたよね?」
「え?あぁそうだけど」
「...お願いがあるんです、学校が終わったらすぐに帰ってきてもらえませんか?私は用事があって...今日は
桜がこういうことを言うなんて思わなかったため、士郎は目を見開くがすぐに返答する。
「わかったよ、とにかく家に居ればいいんだな?約束する」
「ありがとうございます、行ってきます」
今度こそ桜は学校へと向かっていった。
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───学校───
「...!?......なんだ?」
桜より少し遅れて学校に登校した士郎は、正面玄関に入るとなにか違和感を感じた。けれど理由は分からない。
「疲れてんのかな…」
特に気にすることも無く、自分の教室へと向かった。
───放課後───
普段通りに授業をちゃんと受け、帰ろうと思った矢先に一成から手伝いを頼まれた。「これくらいなら良いだろう」と手伝った結果、夕暮れまで時間がかかってしまった。
「あれ?衛宮じゃないかまだ学校に残ってたの?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、声が聞こえてきた方へ振り向くとそこには慎二がいた。
「まぁちょっとな」
「ふーん、あぁまた生徒会のお手伝いってわけね偉いねぇ」
「俺たちが使ってるからな、直せるものを直すのは生徒として当たり前だろ」
慎二の嫌味を見事にスルーし当たり前のようにそう言う士郎の何かが癪に触ったのか、不機嫌そうに、慎二は口を動かす。
「はぁ...当たり前ねぇ...前にも言っただろ、何でもかんでも引き受けてるといつか損するぜ、それとも手伝ってくれって言われたら誰でも助けるわけ?」
「そりゃあ俺だって人ぐらい選ぶぞ、あと俺ができることの範疇なら助けるさ」
けれど士郎の答えはいつもと変わらない。
「できる範疇ね...あぁそうだ、実は今弓道場が散らかっててね掃除しなくちゃいけないんだけど代わりにやっといてくれよ」
「...それはお前が頼まれたことだろ」
「これでも僕は忙しいからね、暇なんだろ?助けてくれよ衛宮」
そう言いながら、士郎の肩に手を置き。何かを試すかのような目で士郎を見る。
「...あぁ良いよ」
肩に置かれた手を横目で見たあと士郎はそう答えた。
「...ッ...ああそう「ただし」...?」
苛立ちを隠さずに、言葉で突き放そうとした慎二の手を士郎はつかみ満面の笑みで。
「お前も手伝え、二人でやった方が早く終わるからな」
「......はぁ!?......僕は忙しいんだって言ったよね!」
「桜に早く家に帰れって言われてるんだよ...もうこんな時間だけどな」
忘れてた訳では無い。ただ士郎は困ってる人を放っておけない質なのだ。
「桜が?...あぁそういうこと」
何か心当たりがあるのか1人で納得した慎二は士郎置いて歩き出す。
「あっ...おい慎二」
「掃除やるんだろ?僕もやってあげるよ」
そう言う慎二の顔は士郎の方とは真逆を向いており確認することはできないが、ただ苛立ちは消えたような声色に士郎は笑みを浮かべ。
「それ、お前が言う台詞じゃないだろ」
───弓道場───
あれから二人は黙々と掃除を始めていた。掃除をしながらブツブツと慎二は文句を言ってはいたが、さすが現部員。片付けるものの場所の把握はしっかりとしていた。
士郎は床を掃除し、矢の手入れなどしている。しっかりと二人で分担していたため、すぐに掃除は終わった。
「思ったよりすぐ終わったな」
「この僕が手伝ったんだ、当然だね」
「はいはい」
と雑談を交わしながら掃除用具を片付け、いざ帰るかと、鞄を持ったその時。
─ギィン─
「ん?今なにか...」
「...衛宮、何してるんだよ、もう用なんてないだろ?さっさと帰るよ」
「いやでも何か...」
鉄同士がぶつかるような音が...と言う前に、士郎の腕は慎二に引っ張られていた。
「早く帰れって言われたんだろ、さっさとしてよね僕が風邪ひいたらどうするんだよ」
「だけど」
気になる。それに音はだんだんと大きくなっていってる気がする。
「なぁ慎「衛宮」...わかったよ」
衛宮士郎を知ってる人間からすれば驚いたであろう、なぜなら士郎から折れることはまず無い。だけどこの時の慎二からは、反論は許さないと感じる何かがあった。
二人は音がする校庭から反対の方向へと向かい、帰路についた。
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───衛宮邸───
「はぁ...」
学校から帰ってきてから数時間が経った。
『いいか?どこにも寄り道せずまっすぐ帰れよ』
そう慎二に何度も言われ、気が滅入りながらも家に帰宅し、軽く作った夕飯と風呂を終わらせた。
家に帰っても1人で居るというのは、久しぶりだった。いつもなら大河がいるから騒がしくも寂しくは無かった。
「よし鍛錬するか」
よっと、腰を上げた士郎は、日課の魔術の鍛錬をしようと土蔵に向かうため、縁側へと向かい外に出た。
その時だった。
─カランカラン
「......!?」
その音は滅多にしないものだった、何せその音が知らせるのは侵入者の存在。衛宮切嗣がこの家の敷地に施した簡易なもの。
士郎がこの音を聞いたことなんてほぼ0に等しい。
結界の誤作動なのかの判断はつかないけれど侵入者が本当にいるのであれば鉢合わせしたら何されるか分からない。そう判断した士郎は隠れるために移動しようとするが、既に遅かった。
「こんばんは、お兄ちゃん」
そう声がする方を向けば、そこに居たのは白い髪に赤い瞳を持ち、その小さな体を紫色のコートで包んでいる妖精のような少女、そしてその隣には2mはあるであろう巨体の男がいた。
「初めましてだよね...私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン、早速だけど殺すね」
いきなりの急展開で士郎の頭が混乱していた、だけど最後の一言で動かなければと反射で後方へと跳んだ。
「...あれ?喚んでいないんだ、つまんないけどまぁいいわ」
そんな声が聞こえる、士郎の目線には先程まで自分がいた場所に糸で作られた様な剣が刺さっているのを見て殺されるという実感が湧くのと同時に疑問が浮かんだ。
「なんで...俺を殺そうとするんだ」
「そんなこと、これから死ぬお兄ちゃんが知ってどうするの?」
けれどちゃんと返答は帰ってこない。なぜ自分は殺されるのか、分からない。
「でも教えてあげる、私の目的は」
『お兄ちゃんとキリツグを殺す事』
「は?」
なんで切嗣の名前が出るんだ...どうして切嗣を...。
「えい」
考えなどしてる場合じゃないと頭を切り替える。少女の近くに剣が2つ精製され士郎に向けて射出される。
「──同調、開始」
必死に絞り出した魔術で自分が着ている服を強化し、防ごうとする。
「があぁ...ッ!?」
体を守るために胸の前に腕を交差させるが、防ぎきれず切り傷を作られる。
『──────』
「ッ」
そして突如走った痛みにより頭を抑える。
「?...まぁいいわ、時間かけすぎちゃった、お願いバーサーカー」
「▅▅▅▂」
バーサーカーと呼ばれた化け物が士郎に向かって歩き出す。その1歩があまりに重く、恐ろしく、死をイメージするには十分すぎるものだ。
死が迫っているのに、士郎は動かない。否、動けない。逃げたくても後ろには土蔵の壁があり後ろには下がれない。横に動けば、あの大男の持つ石斧に体を叩きつけられるだろう。
(あぁ...死ぬのか...俺)
なぜ殺されるのか。
なぜ切嗣の名前が出るのか。
なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ........なんでなんだろう。
朝まで平和に過ごしていた。いつも通りの日常を...。
腕から感じる激痛と血の匂い、どうしようもない現実を見るのは士郎が過ごしてきた人生では2回目だ。
諦めるように士郎は目を閉じた。これから来る終わりを受け入れるように。
目を瞑っても浮かび上がる景色があったそれは約10年前の大火災だった。
一面の炎、肉の焼ける臭い、今では顔も思い出せないが士郎を逃がしてくれた人が居た。大事な
耳を塞がなければ、助けを求める声が聞こえてくる。周りを見ればこちらに手を伸ばす人の姿がある。
みんながいつも通りの日常を過ごしていた。明日予定がある人もいたはずなのに全て炎に焼き尽くされた。
誰も助けてくれなかった。
誰も助けてやれなかった。
そんな中、士郎を救ってくれた人がいた。
士郎を助けた人の方が救われたとでも言うように、ありがとう、と酷く安堵したような顔をしていた。
士郎はそんな男...切嗣の姿に憧れた。あまりに綺麗だったその顔が。自分もこうなりたいと思った。
だけど綺麗な月の下で、正義の味方というものがどういうものかを切嗣は語った。切嗣は後悔していたのだろうか...悲しそうに語ったその姿が憧れたものとは程遠く。
『士郎はどんな大人になりたいんだい』
その言葉に士郎はすぐ答えられなかった。切嗣が目指した正義の味方、切嗣がなりたいと思った大切な人の味方、子供には簡単に答えられない問だった。
「俺は........俺は...!」
それでも絞り出そうとし、切嗣の方を見た時にはもう既に...。
こうして衛宮切嗣は、その生涯に幕を閉じた。
衛宮士郎に選択肢を残して...。
だからこそ士郎は、今までの人生でずっと答えを探していた。空っぽになった自分は何になればいいのか。人助けをすれば、と正義の味方の生き方を真似してみた。
ある日いじめっ子がいた。士郎よりも歳が上で体も大きな上級生との喧嘩、通りがかった大河が助けなければ酷い重症を負っていた程だった。
念の為に病院に行き、消毒してもらい大河と帰っていた時、なんでこんなことをしたのか聞かれ、士郎は答えた。
「助けなきゃって思ったから」
在り来りな理由、それはとても綺麗なものなのかもしれない。
けれど士郎は逸脱していた。自己犠牲など当たり前、他人のためなら自分を差し出すその行為に大河は危惧していた。
だからそう答えた士郎の頬を力いっぱい叩いた。
「痛...!?何すんだよ!藤...ねぇ...」
いきなりの衝撃に尻餅を着く。なぜ叩かれたか分からないため苛立ちながら叩いた犯人の方を見上げる。けれど苛立ちなどすぐ消えた。
なぜなら大河の目にはいっぱいの涙を貯めていたからだ。
尻餅を着いたままの士郎の両肩を手で掴み。大河は夜にも関わらず大声で言った。
『だからって士郎が傷ついていい訳ないんだよ!!』
痛かった。いじめっ子に殴られたよりも蹴られたよりも、1人の家族を泣かせてしまったその事実が何よりも士郎の心に痛みを与えた。
「切嗣さんに憧れるのも!目指すのも良い!それが士郎の決めたことなら私は応援する!でもだからって士郎が...士郎だけが傷つく必要は無い!士郎が傷を作って帰って来る時いつも私がどんな思いでいるかわかってる!?」
肩を強く揺さぶりながら、言い聞かせるように大河は自分の気持ちを吐露する。
「士郎はあの大火災で切嗣さんに救われたんでしょ!?だったら生きて!生きて!!生きて!!!ちゃんと幸せにならないと切嗣さんが救われない!!」
いつか士郎が帰ってこなくなる気がしていた。
切嗣が死んでから何かに縋るように、生きている士郎を見るのが怖かった。
自分の知らないところで消えてなくなることが怖かった。
だから大河は士郎に構った。ご飯も一緒に食べて、一緒に勉強したりして。急に士郎がいなくならないように。
だから大河は自分の今の思いを士郎にぶつけた。
その結果が、士郎を人間でいさせた。
「俺は...死にたくない」
場面は戻り、近づいて来る大男を前に士郎は一言。
「まだ何も成せていないのに...」
答えは出ている。
「まだあの誓いを果たせていないまま死にたくない!」
それをまだ実現していない。
「こんなところでお前達みたいな奴に」
切嗣からは人生を貰った。藤ねぇからは生きることを教えて貰った。
「殺されてやるものか―――!!」
俺は、大切な人を泣かせたくない!
そんな叫びと呼応するように左手の甲が熱く熱を灯す。
大男は石斧を振り上げる。その瞬間。
士郎より横。突如土蔵の壁が破壊され、中から人影が出てきた。
その人影は、剣を持っており大男に向けて、振るう。
「▅▂▅▅▂▂!?」
突然の攻撃にも大男は石斧で対処するが、吹き飛ばされ少女の横まで後退させられた。
「...7人目のサーヴァント」
少女は誰にも聞こえない声量で言う。
壁が壊れたことで舞った土煙が止み、大男を吹き飛ばした人影の姿が目視できた。
その見た目からは女の子...だろうと推察する。全身は
髪色は綺麗な金髪というより少しくすんでいる。
その姿はまるで騎士だ。
黒い女騎士は、大男達に警戒をしながら士郎の方を振り向く。
その顔には、バイザーが着いており目は目視出来なかった。
「......召喚に応じ参上した、問おう貴様が私のマスターか?」
その日、少年は運命に出会った。
ヒロインは藤ねぇではありません
あくまでHFなはずなんだけどなぁ