だから聞いてみたんだ。なんでそんなに海外に出かけるんだ?って。
そしたら
「海外にね、僕の大切な娘がいるんだ、だけどその子が暮らしてるお家と喧嘩しちゃってね...しばらく会えていないんだ、でもいつかは必ず士郎に会わせてあげるよ」
「あと...君のお姉さんの名前は...」
ほんの一秒にもみたないその光景を士郎はいつまでも鮮明に思い返せるだろう。
自分を見下ろす漆黒の騎士にただ目を奪われていた。
騎士は士郎の左手の甲を一瞥し。
「...契約はここに完了した」
そう言い、騎士はバーサーカーの方を向く。
「セイバーね...アハハ!面白くなってきた!いいわよバーサーカー。そいつ再生するから、首を落としてから犯しなさい!」
イリヤは、バーサーカーに命じる。
けれど大男は動かず、騎士を警戒し続ける。
「何をしているのバーサーカー?」
イリヤは疑問に思う。バーサーカーはスペックにおいて最強と言える。目の前に突如現れた
けれどバーサーカーは動かず、騎士の動き一つ一つに最大の注意と最大の警戒をもって主の前に立っている。
バーサーカーとは、狂化されたクラス故に意思疎通ができるものはほとんど居らず、狂戦士、と言葉通りの存在だ。それでも自らに染み付いた戦士として英雄としての技術は決して狂化されようとも消えることは無い。
だからこそバーサーカーは動けないでいた。自分と騎士が戦えば、勝つのは自分だ。それは理解している。だけど後ろにいるイリヤは確実に死ぬと英雄としての勘が囁いている。
だがそんな考えを騎士はばっさりと切る。
「退くというのなら追いはしない、失せろ狂戦士」
そんな声が力強く響いた。そこからバーサーカーの動きは早く、イリヤを担ぎ、撤退を決めた。
「バーサーカー!?」
イリヤから抗議の声が聞こえるがバーサーカーは聞かずあっという間に士郎の視界から見えなくなっていた。
「...面倒な」
漆黒の剣にまとっていた
「なぁ...あんたは一体」
なんなんだ?と士郎が聞く前に騎士は再び口を開く。
「外に2人いる。動くなよ」
そう言って今度は、外へと飛び出して行った。
士郎の頭は理解が追いついていないけれど。
「待ってくれ!」
と騎士を追いかけて行った。
───衛宮邸前通路───
「アーチャー、消えて!」
少女の声が響く。青い槍兵との戦いの後、まだ活動できると判断した彼女達は魔力の動きを見て、この辺りの見回りをしていた時に、運悪く建物から出てきた黒騎士により自分のサーヴァント・アーチャーは深手を負った。
『下がれ凛』
アーチャーがそう言った次の瞬間、攻撃を防ぐために交差した双剣は叩き折られ、その身体を斜めに切られた。
咄嗟に消えろと令呪を発動させたため、アーチャーの姿は霊体となり視認出来なくなっている。
アーチャーが消えたのを確認した黒騎士は凛に迫る。
「舐めないでよね!」
凛は宝石魔術で応戦するが、黒騎士が持つ対魔力の前に無効化された。
「嘘っ!?....ッ!!」
「いい判断だ、サーヴァントを失わないための一手としては最善だが、自らの身を守りきれなければそれは悪手だ。
黒い剣から繰り出された一太刀を間一髪で避けるが体制を崩して地面に座り込んでしまう。そんな凛に向けられた剣が首と胴体を二つに分かれさせようとする時。
「待ってくれ!」
そんな場違いな言葉が聞こえてきた。
「...なぜ止める?こいつは敵だぞ?」
「そうだとしても待ってくれ...こっちは何も分かってないんだ。命を救ってくれたのは感謝してるけど、少しは説明してくれ」
「............」
そんな会話が行われている中で凛は生きた心地がしない時間を過ごしていた。自分に向けられている殺気が一切衰えておらず、今この瞬間に「で?いつになったら剣を下げてくれるのかしら?あなたのマスターは下げろって言ってるけど?」とでも言ってみろ。で?と言った瞬間首が跳ぶ。確実に。
「頼む」
と士郎は黒騎士に対して頭を下げる。
「......」
そんな士郎を見た黒騎士は少し間を開けてからスッと剣を下ろした。
それを立つことを許されたと解釈した凛は、立ち上がる。
「はぁ...生きた心地がしなかったわ」
「え...お前...遠坂!?」
「ええ、こんばんは衛宮君」
とにっこりと士郎に笑いかけながら。
───衛宮邸───
士郎は凛から自分の置かれている状況を説明された。
聖杯戦争―――7人のマスターによる魔術師同士の殺し合い。過去の英雄をサーヴァントとして召喚し最後の一騎になるまで争わせる。そして勝ち残った勝者は、全ての願いを叶える願望機『聖杯』が与えられる。
「いい衛宮君?あなたはセイバーを召喚した。この時点でもう戦うしかないのよ」
もっと詳しい話が聞きたいならこの聖杯戦争の監督してるやつに聞かないとね、と凛は簡潔に重要なことだけを士郎に教えた。
「どうするの?行くのなら案内してあげるけど」
「行くってどこへ?」
「隣町の教会、そこに聖杯戦争を監督してるエセ神父がいるわ」
そうして3人は教会へと向かった。
───教会───
「セイバー?」
黒騎士もといセイバーは首を横に振り、教会に入ることを拒否した。外に出る時、鎧では目立つからと雨合羽を着てもらおうとしたが、セイバーから放たれる無言の圧力に士郎は負けてしまった。
けれどセイバーも目立つこと、魔術の隠匿を理解しており、少し妥協した結果、その鎧を霊体化させ、黒いドレスに変わっているが顔にバイザーをそのまま付けており、禍々しさは残っている。
「じゃ行ってくる」
士郎と凛は教会へと入っていった。
「再三の呼び出しに応じぬと思えば、客を連れてくるとは...彼が7人目か?凛」
奥から声が聞こえてきた。そこには1人の男がいた。背丈はかなり高くガタイもいい。黒い目は死んでいるようにも見えた。
「そうよ、魔術師と言ってもからっきしの素人だから聖杯戦争のこと教えてあげて」
「ふむ...いいだろう。少年...名はなんというのかな」
まるで品定めされるような目線を受けながら士郎は答えた。
「衛宮士郎、でも俺はマスターになった覚えはないか「衛宮?」...?」
今士郎の目の前にいる男が笑ったように見えたのは見間違えかもしれない。
「...礼を言おう少年、よく凛をここに連れてきてくれた。君がいなければこれがここに来ることはなかっただろうからな。私は言峰綺礼、ここで神父をやっている」
そこの兄弟子でもある。と付け加えた。
「では始めよう衛宮士郎、君はセイバーのマスターで間違いないかね?」
「確かに俺はセイバーと契約したけど、聖杯戦争とかマスターとか言われたって判らない。マスターっていうのがちゃんとした魔術師がなるものなら選び直した方がいい」
キッパリと士郎は言った。その言葉に少し言峰は目を見開き。
「なるほど彼は本当に何も知らないのだな」
「だから素人だって言ったじゃない、そのあたりもしつけてあげて、そういうの得意でしょアンタ」
「ほう...お前が私に頼るのは初めてだな凛、これは衛宮士郎に感謝し尽くさねばなるまい」
クククッと笑みがこぼれる言峰を冷たい目で2人は見る。
「いいかね、衛宮士郎。マスターというものはそう辞められるものでは無い。
言峰曰く、令呪とは聖杯が選びし者に刻むマスターの証。自分と契約したサーヴァントに3回のみ使用出来る絶対命令権でありサーヴァントを現世に繋ぎ止めておくために魔術師が必要な魔力を送るためのパスを繋ぐもの。それを手放すには腕の切断、それか3画を全て消費することでマスター権は無くせる。ただし...。
「聖杯を求めるのはサーヴァントも同じことだ。彼らは叶えたい願いがあるからこの儀式に参加し、魔術師と契約している。もし令呪を使い切ってしまえばパスは消え、サーヴァントは現世に留まれず、消滅する。だがすぐ退去する訳では無い以上、逆上され殺されても文句は言えんぞ」
「だから人殺しをしろって言うのか」
「それは違うわ」
士郎の疑問に凛が答える。
「聖杯はね...霊体なの、だから私たちでは触れられないけれど
「じゃあマスターを必ず殺す必要はないってことか」
ほっと士郎は安堵する。が水を差すものが此処には居た。
「衛宮士郎、君は自分でサーヴァントを倒せると思うか?」
「はぁ?...そんなの無理に決まってるじゃないか」
士郎の脳裏に浮かぶのはバーサーカーと呼ばれた大男。目の前にいるだけで死のイメージが出来る程の圧倒的な力を表していた。それを一言で撤退させたセイバーが弱いとは思えない。
「その通りだ。サーヴァントに対抗するにはサーヴァントをぶつけるしかないが...どれほど強力なサーヴァントであろうともマスターなしでは存在できぬ…ならば」
「マスターを狙う方が早いってことか」
「その通りだ、だが他にも理由はある。令呪がある限りサーヴァントが倒されてもマスター権は残り続ける。もしマスターを失ったサーヴァントがいれば再契約も可能だ。だからこそいずれ障害になるかもしれんものを殺す方が得策なのだ」
「━━━━」
要するにお前はこの殺し合いからは降りられないと言峰は士郎に告げる。そして...。
「だけど俺には聖杯なんてものに興味は無い」
「ほう、ならばお前は10年前の出来事にも興味はないと?」
「な...に...?」
逃げ道は塞がれた。
「この街に住んでいるものなら誰しもが知っている冬木の大災害...あれは前回の聖杯戦争による爪痕だ」
「......は?」
士郎は無意識に手を握る力が強くなる。
「衛宮君?顔色悪いわよ」
「大丈夫だ...それで前回聖杯を手に入れたやつは何を願ったんだ?」
「さてな...それは知らん。ただ聖杯を持つにふさわしくなかったのだろうよ」
「ふさわしくない?聖杯は現れたんだろ」
「姿を現すだけなら時間が解決する。だが願望機として完成した聖杯は自らを得るにふさわしい持ち主を選ぶ。自分以外の魔術師を全て下し、最後の1人となった時、聖杯は自ずと勝者の下に現れるだろう」
「......」
「......この戦いに参加するかここで決めろと言いたいが、騒がしい客が来たようだな」
───教会前───
士郎達が教会に入り少し時間が経った頃。門前で1人セイバーは立っていた、だがその意識は後ろの木陰へと向けられている。
「...いつまでそうしているつもりだ」
「いやなにお前さんのマスターが来るまで待ってやろうかと思ってな」
木陰から現れたのは青い男、その手には朱い槍を持っている。
「よう7人目のサーヴァント、お前さんはセイバーであってるかい?」
「さぁな…弓兵かもしれんし騎兵かもしれん、ましては狂戦士かもしれんぞ」
「はっ、ぬかせ
端から見れば雑談しているだけのように感じるがこの場には両者から放たれている殺気に包まれていた。
「セイバー!」
教会から士郎たちが走ってくる。セイバーの姿を確認したあとその奥にいる青い男を見て士郎は男を警戒する。
「坊主がセイバーのマスターか?...ってさっきぶりだなお嬢ちゃん、アーチャーの野郎は一緒じゃないのか」
「あんた、ランサー!?なんでここにいるのよ」
凛は驚嘆の中、男をランサーと呼んだ。そして少し忌々しそうにランサーと呼ばれた男は答えた。
「マスターからの命令でな、サーヴァント全員と戦ってこいってよ、んじゃまぁ、そろそろいいよな?剣を出しなセイバー」
「...」
セイバーの魔力がその身を包む。ドレス姿だった格好は禍々しい赤いラインが入った黒い鎧へと変貌し、その手には
「下がっていろマスター」
「セイバー...」
そう言うセイバーに対し士郎は任せることしかできない今の状況に歯がゆさを覚える。だが未だに戦いへの参加を煮えきらいない気持ちを抱いた士郎を置き去りにするかのように両者は地面を蹴り、人が出せるであろう速度を超え、朱と黒の刃が火花を散らす。
「蹂躙してやろう、ランサー!」
「いいねぇ、そういう奴は嫌いじゃないぜ、セイバー!」
今夜初めて士郎が目にする、英雄同士の戦いが始まった。
セイバーオルタの口調がいまいち定まらない