リコリス・リコイル feat.アダルトヒーロー   作:鮭児

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アンソロ勢いで買って良かったので初投稿です


ーWelcome and let us welcomeー

 職人の朝は早い。

 

 深夜3時を知らせるアラームを聞いて起き上がる。乱雑に置かれた買い物袋から取り出すのは前日買い込んだ大量の百均ジョイントマットと接着剤。

 

「よし、始めよう」

 

 眠気覚ましにエナジードリンクを一気に飲み干し、ラインに沿ってナイフをマットに入れていく。スルスルと抵抗なく切り刻まれ形を変えていくマットに、俺はニヤケ面が止まらない。もしここに千束がいたなら、間違いなくドン引きされていたことだろう。だがそんなことは些細な問題だ。

 

「男は譲れない物があるから漢なんだよな。クヒヒ……」

 

 作業の手が止まる。既に日は登り始め、時刻は7時前。俺の目の前には、某企業が展開するいかにも身体が闘争を求めそうな某ロボットのコスプレーー、所謂ガワコスが鎮座していた。

 

「あれ、零土?……くっさ!?なにこれめちゃくちゃシンナーくっさ!?」

 

「なんだ、今日はここで寝てたのか千束」

 

 言い忘れてたけど、ここ、千束兼俺のセーフハウスだったりする。俺も、千束も、訳あって命を狙われていた時期があって、2人でいくつかの部屋を使い分けていた。今はそんなことは無いのだが、ついお互い昔の癖でセーフハウスを転々としてしまい、今日は偶然、同じ部屋の一階二階で寝泊まりしていたようだ。

 

 言うほど臭うか?と思いつつ、千束を見てため息を吐く。

 

「服着ろ痴女」

 

「誰が痴女だ!」

 

 何時までも下着姿でウロウロされるんじゃ溜まったもんじゃない。無駄にスタイルが良いからつい目が行ってしまいそうになるのを、グッと堪える。

 

「アイツはクソガキ、アイツはクソガキ、アイツはクソガキ……」

 

 よし、萎えた。

 

「誰がクソガキじゃこらぁ?」

 

 背後から腕を回され絞められる。着替え終えた千束からのチョークスリーパーだ。いつものウザ絡みの時より力が強い。割と怒ってらっしゃる。

 

 そして背中には柔らかい感触がーー、押して押されて形が変わる一挙手一投足が伝わってくる。間違いない、コイツ、わざとやってるな。

 

「ほーら、どうしたのかなぁ?クソガキに抱き着かれて満更でもなさそうな変態さん」

 

 ぐっ……暗に否定出来ない。考えたら未成年といくつも部屋借りてたまに寝泊まりするって変態のそれだよな。

 

 自分の日頃の行いを振り返る、が、それはそれ、これはこれ。

 

「じゃあ、今から俺のいきり立つ毒蝮を鎮めて貰おうかなぁ!?」

 

 お返しとばかりに自分のズボンに手をかける。

 

「え!?いや、ちょいちょいちょい!?」

 

 拘束の手が緩む。フハハハ、一体何時からの付き合いだと思っている!普段は下着姿でうろつく痴女レベルな千束だが、実はこの手のネタには耐性がなく、ついつい乙女が出て恥じらうタイプ。俺に勝ちたきゃこの手のノリを克服するこったな!

 

 自由になった身体で拘束からすり抜ける。

 

「セクハラ!セクハラしてまで勝ちたいんか貴様ー!」

 

「ハッ!俺は勝てるならプライドも羞恥心だって捨てられる人間だ!悔しかったら俺を押し倒してみるこったなぁ」

 

 ぐぬぬ……と唸る千束の傍を通り抜ける。銃撃戦じゃ、到底敵わないが、戦の舞台は1つではないのだぁ!

 

「じゃ、俺は依頼品納品してからリコリコ行くから。……遅刻すんなよ?」

 

「分かってるわ!覚えてろよ!バーカ!バーカ!」

 

 俺は大満足で家を出た。いやー、朝から気分がいい。

 

「ほんと助かりました!ありがとうございます!これで今度のコス会参加できそうです!」

 

「好きでやってる事ですから」

 

 依頼者の男性から報酬を受け取り、俺は喫茶リコリコに向かう。

 

「本当に、信じられないよなぁ……」

 

 フロントガラスから見える傾いた電波塔を見て呟く。あの凄惨なテロの傷跡も、今や平和の象徴。それをそうたらしめたのが、国家が秘匿する治安維持部隊、通称DA。そこに所属するエージェント、リコリスーー、そのたった1人の少女、錦木千束。

 

 初めて相対したあの時はいつだって忘れない。

 

「そんな化け物と今や一緒の職場か……」

 

 人間万事塞翁が馬ーー、生きてると人生何があるか分からない。だがまぁ、今は楽しく生きていられる。

 

「おーはよーございまーす!」

 

「誰かに似て朝からうるっさいわねぇ……」

 

「おはよう零土。もうすぐ開店だから着替えてきなさい」

 

 喫茶リコリコの扉を開けると既に酒で出来上がってるメガネの美女、中原ミズキと、店主である先生ーー千束がそう呼んでいるから俺も呼んでいるーーこと、ミカの2人が出迎えてくれる。……2人?

 

「あの、千束は……?」

 

「来てないわよ」

 

「あんにゃろう、あんだけ釘さしたのに遅刻か……!」

 

 今度は、縛ってでも連れ出そう。

 

 喫茶リコリコ、それは都心から少し離れた所で営業している喫茶店。客層は学生から高齢者まで、老若男女に愛された常連客でよく賑わう店であり、現在の俺の職場でもある。従業員は店主のミカ、ホールスタッフの千束とミズキ、俺は主に厨房兼ホールスタッフをしている。ーーと、まあ表向きはそんなところ。実際は千束ーー、国家のエージェント、リコリス様が堂々と顔を晒しながら従業員をしていられる場所、DAの支部の1つで全員が関係者。因みに俺は彼女らのサポートだ。

 

 まるで特撮ヒーローみたいな場所だが、現実はそこまで殺伐としてはいない。現に喫茶店としての赤字寄りだが黒字のライン売上を維持しつつ、こうやってのんびりする事だってできる。これも一重にDA支部ではあるが、異なる方針と、前代未聞の問題児がいるからである。

 

 場合によっては左遷先と誤解されるだろう。

 

「そうだ、零土」

 

 着替え終わったところで先生に呼び止められる。

 

「本日付けで新しくリコリスが家に配属される」

 

「もしかしなく、この前の学生服と機関銃の黒髪ちゃんですか?」

 

「そうだ。楠木司令からの直接の指令でね。千束と組むことになる」

 

 あー、それはご愁傷さま……?スコープ越しにしか見た事のない黒髪のリコリスに同情を半分。

 

「よっしゃ!」

 

 あのわがまま娘のウザ絡みが減る……!の嬉しさ半分。

 

「しかしまぁ……これ絶対左遷されたって思って来るでしょうね」

 

「だろうな。何か思う節があるのか?」

 

「向上心の暴走ですかね」

 

 DAの協力者になってから常々思うことがある。リコリスはどうにもいい子ちゃんが多過ぎる。身寄りのない少女を集めている以上、仕方ないことではあるが、認められたい、必要とされたい気持ちが、向上心と言う形で溢れているのが一目でわかる。

 

 恐らく今回やって来る命令違反を起こした黒髪のリコリスも、千束のように感情を優先できても、少なからずその節はある筈だ。目的に固執すれば人間、視界が狭くなる。いくらエージェントの英才教育を受けてもまだまだ10代の子ども、例外はある。思わぬ見落としがより悪い方向に向かわなければいいのだが……、

 

「千束と組んでる限り大丈夫とは思いますが、あいつはあいつで視野広いようで狭いですから……」

 

「苦労をかけてすまない」

 

「慣れてますよ」

 

 そんな話をしていると、喫茶店の扉に設置しているベルが鳴る。開店まで少し時間はある。客では無いし、千束特有の喧しい挨拶も聞こえない。件のリコリスか。

 

「噂をすれば……ですね」

 

「あぁ、そのようだ」

 

 ホールに向かうと、藍色の制服を着た黒髪の少女が、ミズキを千束と思って話しかけていた。

 

「ちゃうちゃう、それはよっぱーー、じゃなくてミズキって人。一応君のOBだよ」

 

「それって言うな!あとなんて言おうとした!」

 

「……はぁ」

 

 これが?と言いたげな冷ややかな目、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。すると今度は先生に向かってーー、

 

「では貴方が……」

 

「いや、ロン毛だけど男だし!髭生えてるし!」

 

 いや、着物着てるだけで、何をどう見たら先生が千束になる!?この子はちょっと天然なのか?

 

「おはよーございまーす!千束が来ましたー!」

 

「おそようございますなぁ!この遅刻魔がー!」

 

 近くにあったモップを槍代わりに千束へ向けて振るう。もちろん当たらない。だがただの1発で終わらせる気はサラサラない。一撃がダメならーー、

 

「闘いは数だよ、兄貴ってなぁ!」

 

「ちょいちょいちょい!?どっこでそんな槍捌き覚えたの!?」

 

「全部躱して言うことか!?」

 

 結局当たらなかった。辞めよう、これ以上バタバタ暴れても疲れるだけだ。

 

「……着替えてこい」

 

「はーい」

 

 何食わぬ顔で千束が更衣室に入っていく。そして扉を閉める瞬間ーー、

 

「……覗くなよ?」

 

 俺は無言でモップを投擲した。

 

「改めて、今日からお互い相棒だ、仲良くしなさい」

 

「この人が……?」

 

「この子がぁ!」

 

 まるで念願の子犬をプレゼントされた子どものように千束が笑う。

 

「よろしく相棒! 千束でぇす!」

 

「井ノ上たきなです。宜しくお願いしま――、」

 

「たきな! はじめましてよね?」

 

「は、はい、去年京都から転属したばかりなので――、」

 

「おお、転属組。優秀なのね! 歳は?」

 

「16です」

 

「私が一つお姉さんか。でも“さん”は要らないからね! チ・サ・ト、でオケー♪」

 

「はあ……」

 

 ダ・ル・絡・み・が・止・ま・ら・な・い……!

 

「千束、彼女はまだここに来たばかりなんだ。ガツガツ行くんじゃなくて丁寧にキャッチボールをしろ、会話の」

 

 今のお前は昭和スポコンアニメ流の会話のドッジボールだ。相手を気圧すんじゃない。

 

「あの、貴方は……?」

 

「俺は五色零土。少し痛い名前なのは気にしないで欲しい。一応同業者で協力者をさせてもらってる」

 

「私が付けてあげたんだから感謝しなよ?ヒーローオタク君」

 

「それは有難いなー!嬉しさでどこかの誰かが14歳の時に書いた俺と同姓同名の救世主物語を音読したいくらいだー!更衣室のロッカーの二重底に隠してあるブツを」

 

「貴様、何故それを知っている!?」

 

「……やるか?」

 

「やっちゃるわ!」

 

 刹那、始まる取っ組み合い。勿論筋力で圧倒的に俺に分があるので、あえて千束をあしらっている状態である。

 

「アンタら朝っぱらから新人の前で何イチャイチャしてんのよ、汚らわしい!」

 

「「僻むな、酔っ払い」」

 

「上等だコラ、表出んかい!」

 

「あの……本当に大丈夫なんです?ここ」

 

「……ああ見えても腕利きとだけ言っておく」

 

 

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