リコリス・リコイル feat.アダルトヒーロー   作:鮭児

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リコリコ新作で月曜日の苦がとんだので初投稿です


ーMeaning to pull the trigger is take care of lifeー

「いやー、持つべき者は車持ちだねぇ」

 

「子どもか、あとシートベルトしろ」

 

「あの、これから何処へ向かうんですか?」

 

 桜の花びらが舞う中、俺は車を走らせる。ちゃっかり助手席に居座る千束を横目に、1人後部座席に静かに座る少女、井ノ上たきなを見る。

 

 やはりなんというか、口には出さないが、腹に溜め込んでいるように見える。目には絶対に本部に返り咲くという意思が溢れている。

 

「今から仕事だよ。リコリコのリコリスのね」

 

「任務、ですか」

 

 車を止める。瞬間、たきなの目が鋭くなり敵を探す、所謂エージェントモードに変化する。しかし、それは直ぐに困惑へと変わっていく。無理もない、なんせここはーー、

 

「あー!千束姉ちゃん!」

 

「おーい、レッド兄ちゃん!」

 

 こども園の駐車場。テロも事件も1ミリも起きていない平和そのものな場所なのだから。

 

「あの……これは一体……?」

 

「見れば分かるぅ」

 

「防犯訓練だ」

 

 黒い雨合羽を目深に被り、サングラスとマスクの完全装備の俺と、刺股を槍のように構え、迷わず胴体を突く千束。ってコイツさっきからマジで捕まえようとしてないか!?

 

「ほらほら捕まえちまうぞぉ〜?」

 

 上等だコラ。こっちだって目の良さには自信があることを忘れてもらっては困る。

 

 千束の動きに注視し、次の動きを予想ーー、した所で合わせてくることは分かっているので更にその先の動きを予想し、フェイントをかける。結果刺股は空を切る。

 

「どうした?捕まえるんだろ?」

 

「うーわ、流石の千束さんもカッチーンときたわー」

 

 そうして始まる一進一退の攻防。防犯訓練の域から逸れてしまっている感は否めないが、子どもたちは盛り上がってるので良しとしよーー、

 

「ぐえっ……」

 

「……これでいいんですよね?」

 

 背後から刺股で引き倒される。見ればそこには無表情の井ノ上たきなの姿があった。しっかり仕事モードの目をしておられる。ドMの変態には堪らん絵面だ。

 

「ナイス!たきな!」

 

「2対1とか卑怯だろ!」

 

「悪い人が来たら大人の人がこうやって捕まえてくれるからね。皆は近づいちゃダメだぞ?」

 

 子どもたちの元気な返事に、俺の抗議はかき消される。せめてもの抵抗とばかりに千束を睨めば、してやったりのドヤ顔で見下ろしている。

 

 ……ご丁寧にざまぁみろと口パクを添えて。絶対あのメスガキいつかわからせてやる……!

 

「さぁー!次はここでーす!」

 

「お次はここー!」

 

 その後も組事務所から、日本語教室。全く関連性のない幅広な場所、それも子どものお手伝いレベルからアルバイトと仕事も広い。リコリスと謳っているが、やっていることは何でも屋。これが国家が秘匿するエージェントだなんて誰が信じるだろうか。

 

「あの……五代さん。これは本当にDAの依頼なんですか?」

 

 重ねに重なった違和感が堰を切ったのか、遂に俺へ質問がとんできた。

 

「まっさか。これは千束がやりたくてやってる事、本人曰く、皆のための民間専属リコリス。要は何でも屋だよ」

 

「……それってリコリスと言えるんですか?」

 

「まぁ、言えないだろうねぇ。実際千束じゃなきゃとっくに懲罰対象になってるだろうね。でも、社会というルールがあってもその中で人は知性と感情を持って生き、生活している。ともなれば必ず小さな問題が出てくる。千束はそれを見過ごせない、見過ごしたくないんだ。千束の噂は知ってるでしょ?」

 

「はい、養成課程でも話は聞いてます」

 

 電波塔事件。8年前、日本で起きた最初で最後の大規模テロ事件。それをたった1人で解決した『英雄』、それが目の前で野良猫相手にモノマネであろう間抜け面を晒す錦木千束、その人だ。蓋を開ければ真面目なリコリスは心底幻滅するだろう。だが、悲しいかな。これが現実だ。

 

「変に首輪で繋いで手を噛まれるよりも好きにさせた方が管理も楽なんだよ。実際実力は確かだから。素行は悪くても成績はいい、とんだ腫れ物だよ」

 

「おいこらそこー!聞こえてんぞコラ!」

 

 千束イヤーは地獄耳。

 

「……まぁ、リコリスと一緒にいる俺も腫れ物だけどな」

 

「そうそう!腫れ物同士仲良くしよう、ぜっ!」

 

「私は違っーー」

 

 そう言うと千束は俺たちの間に割り込み肩を組んできた。仄かな花のような匂いが舞う。でもこれ身長差のせいで俺めっちゃしんどいんだよなぁ……

 

「やっべ、店忙しいらしい。じゃあ俺は店戻るから。阿部さんの依頼、よろしく」

 

「千束さんに任せんしゃい!」

 

「ありがとうございました」

 

 ミズキからのヘルプメッセージ、どうやらリコリコの客足が増えてきたらしい。よってここから先、俺はリコリコスタッフの仕事の時間だ。

 

 2人を警察署まで送り届けると、俺はリコリコに戻った。

 

 

「はい、2番さん団子セット上がり!」

 

「アンタ手際良過ぎなのよ」

 

 ホールを忙しなく動き回るミズキに文句を言われる。

 

「何故だ」

 

「私がサボれなくなるでしょうが!?」

 

「もう私は御役御免だな」

 

「いやいや、先生のコーヒーの味にはまだまだ追いつける気がしないっすよ」

 

 思えば、ここに籍を置いてから8年経つのか。柄にもなく感慨に耽っていると、千束からのコールが来る。……面倒だから無視しよ。

 

 不在着信になった矢継ぎ早またコールが来る。無視して不在着信になるとまたコールが来る。その繰り返し。それが無理となれば細かくワン切りの連発。流石に執拗い。

 

「ちょっと零土!千束から電話来てるんだけど?」

 

 アンニャロウ、ついに店に直電してきやがった。

 

「んだ?こっちは忙しいんだが?」

 

『ねぇねぇ、零土!お泊りセット持って来て!今すぐ!』

 

「断る」

 

『リコリスの仕事ですー!ちょっとヤバめのー』

 

「……分かった。位置情報忘れるなよ」

 

「行ってきなさい」

 

 電話を切ると、何かを察したようで先生に送り出される。

 

「御役御免になる日はまだ先になりますね」

 

「そのようだ」

 

 念の為の準備を済ませ、車を走らせる。送られた位置情報の近くで車を止め、見てみれば白いワンボックスが無惨に銃撃されている真っ最中だった。……って撃ってんのたきなちゃんじゃん。

 

「零土!」

 

「千束、状況説明簡潔に」

 

「たきなと一緒にいた沙保里さん、あぁ阿部さんに頼まれたストーカー被害の人なんだけど、たきなが囮にしたっぽくて今撃ってる車の中」

 

 いや、人質捕まってる車攻撃してるってコト!?メイトリックスじゃあるまいに。

 

「たきなちゃんはまさかのコマンドー系女子か」

 

 問題児に、酔っ払いに、コマンドーとか、ウチの女性陣クセがすごくないか?増えるワカメ並にアクしかない。軽く頭痛を覚える程に顬がキリキリするのを抑え、指示を飛ばす。

 

「千束はたきなちゃん下げて、俺はワンボックスに突撃して時間稼ぐからーー、」

 

 俺は一見何も無い夜空を指差す。

 

「アレの処理も宜しく。んで、合図したら千束が合流して無力化する。やれるよな英雄殿?」

 

「任せんしゃい!」

 

「作戦は勿論?」

 

「『いのちだいじに』!」

 

 互いに拳を突き合わせると、直ぐに行動に移す。あ、速攻で千束がたきな回収した。

 

「じゃあ俺も行きますか」

 

 持ち場へ動く。走るとガチャガチャ五月蝿くて位置バレするリスクはあるが、今回は正面きって行くから関係ない。

 

「出て来やがれ!人質がどうなってもいいのか!」

 

『それは困るなぁ』

 

 街頭をスポットライトのように浴び、俺はゆっくり姿を見せる。

 

「……は?」

 

「おい、あれってコスプレか……?」

 

 露になった俺を見てあがった困惑の声を集音センサーが拾う。そうだろう、困惑するだろう?俺もそう。

 

『こんばんは、悪い子はいねえがぁ?』

 

 紅い電子の目が怪しく光る。新車のように黒光りする角、鎧が街灯を反射する。まるで一昔前の特撮、メタルヒーローを彷彿とさせるサイバーパンクな鬼ーーこと、俺は無言でSPAS12ショットガンを向け、わざと聞こえるようにポンプアクションリロードを行う。これが合図だ。同時に後方から銃声が響く。千束がやったか。

 

 銃声を警戒して車に隠れた誘拐犯の1人ーー、ドアに隠れた奴へドアごと発砲する。

 

 着弾と同時に紅い花が咲き、ドアと誘拐犯が吹き飛ばされる。続け様にもう1発撃つ。初弾とは違い2発目は、守ってくれるものは無い。至近距離から生身に受け、紅い花が咲く。大きく吹き飛ばされ住宅の塀に体を打ち付けた誘拐犯は既に動かない。

 

「畜生!」

 

 車の後方に隠れていた仲間が俺に向け、発砲する。俺はそれを火の粉を払うように腕を振る。

 

ーーガキィン!

 

 時代劇の鍔迫り合いのような甲高い音が響く。少し塗装が剥がれた程度で傷は無い。

 

「なんーー!?」

 

 誘拐犯の目に明らかな焦燥が浮かぶ。おいおい、前線で棒立ちで狼狽えていていいのか?忠告という名の煽りを入れる間もなく、無防備な背後から千束が舞い降り、銃撃、制圧される。ほら、言わんこっちゃない。

 

 その後は早かった。人質の命を最優先に守れるのは、防弾仕様のスーツで全身固めた俺が適任。それを知っている千束が、猫のように縦横無尽に駆け回り、誘拐犯のヘイトを集める。その隙に俺は車から人質を回収する。

 

『あ、たきなちゃん、この人お願い!』

 

 あまり長引かせては、周囲に気づかれる。俺は人質を預け車の方を向く。しかし既に誘拐犯グループは完全無力化され、当の千束は負傷した運転手の手当をしていた。相変わらず手際の良い事で。

 

『あぁ、先生。俺です。片付いたのでクリーナーお願いします。車はワンボックス、数は4、1人は負傷してます』

 

「あの……」

 

 声をかけられ、振り向けば、納得がいかないというか、訝しげなジト目を向けるたきながいた。その手には紅い塊、砕けた非殺傷弾が彼女の掌の上で揺れていた。

 

「『いのちだいじに』って敵もですか?」

 

『モチのロン、これがリコリコの、千束の方針だよ。俺たちはその賛同者』

 

「その姿は……?」

 

『んー?俺の趣味……?』

 

「……はぁ……?」

 

『さぁ、ずらかろう。向こうに車つけてる。護衛対象は責任持って家に送るよ。』

 

「了解しました」

 

「えー!?パジャマパーティーはぁー!?」

 

 ある訳ないだろバカチンが。こちとら閑静な住宅街で銃撃戦してるんだ。少なくとも銃声は聞かれてる以上何時目撃者が現れるか。

 

『俺たちはアメリカンヒーローじゃない。ジャパニーズニンジャヒーローは正体を決して明かさない。見せないものだ』

 

「……確かに!」

 

 千束、お前のそのチョロいレベルの切り替えの早さは素直に尊敬するわ。

 

 車内は異様な静けさに包まれている。無理もない。今ここにいるのは俺と井ノ上たきなの2人だけ。騒音が服着て歩く千束はいない。護衛対象の沙保里さんが気を遣って千束をお泊まり会に誘ったからだ。実際彼女がまだ狙われないと決まったわけじゃないから一理あると言えばある。

 

「……今日1日、リコリコで過ごしてどうだった?」

 

「どうもこうも、まだ分かりません。個人のためのリコリスなんて……私たちは公的機関のエージェントなんですよ?司令は私に千束さんから学べと言われていましたがこのままではーー、」

 

「本部には戻れない?」

 

「……」

 

 押し黙ってしまった。これは図星を突いたかな。しかし、楠木司令も無茶を言う。あの千束から学べとは……

 

「ックク……!」

 

「……なんですか?」

 

「あぁ、ごめん。別に君を笑った訳じゃない。あの堅物マッシュルー厶、あぁ楠木司令ね。あの司令にしては随分幼稚な意地悪じゃないかと思ってね」

 

「はぁ……」

 

「それでさ、別に話を蒸し返す気は無いんだけど、あの時、指令無視してまで何で撃った?」

 

「それは、あれが最も合理的な判断だと思ったからです。それがこんな騒ぎになるとは……」

 

「その合理的ってのは、"仲間のリコリスを助けるためには"だよね」

 

「……はい」

 

「それはとても素晴らしいことだよ。あの時、あの場にいた全員が人質になった子を死なせたくないとは思っていたはず、でも任務もある。感情か、命令か、どっちも大事、でも片方しか選べない。頭の中で理解しているからこそ葛藤し、動けなかった中、たきなちゃんは正しいと思った事をやったんだ。確かに命令違反ではあるけど、千束なら間違いなく言うよ、"かっこいい"ってね」

 

 勿論俺も、と付け足しておく。

 

「トロッコ理論ですね。では私は……正しかったんでしょうか?」

 

「どっちも正しい。正解が無いって本当にタチが悪い。ただーー、」

 

「ただ……?」

 

「それは選択肢が2つしかない時。でも世の中には一定数いるんだ、第3の選択肢を作ることができる、できてしまう人間が」

 

「それが千束さんだと?」

 

「実際その片鱗は見えたんじゃないかな?『いのちだいじに』って全員を助ける第3の選択肢。それが千束に学べってことじゃないかな?」

 

 誰も殺さず、傷付けず、徹底的に不殺を貫く。それを実際の命のやり取りをする現場の最前線でできてしまうのは簡単じゃない。彼女、井ノ上たきなが優秀なのは間違いない。少々感情優位で効率重視な所もあるが、良い意味でリコリスっぽくもありそうでも無い。ベクトルは千束寄りだ。前言撤回、楠木司令、アンタめちゃくちゃ良い人材見てけてきてくれたよ。

 

「まずは千束を知ることから始めたらどうだろう?急がば回れってね」

 

「……善処します」

 

 話が終わる頃、車はリコリコのすぐそこまで到着していた。

 

 

「ーーったく、イチャイチャしてる写真ひけらかすからそう言う目に合うのよ!」

 

「「僻むな、酔っ払い」」

 

「僻みじゃねえよ!ネットへの無自覚な投稿がトラブルを招くって言ってんのよ!!あとまだ飲んでませんー!」

 

 翌朝、珍しく遅刻してこなかった千束から、沙保里さんが誘拐されかけた理由を聞かされ、1枚の写真を渡された。

 

「これは中々くっきりと……」

 

 まさかDAが掴んだ銃取引の情報そのものがブラフだったかもとは。ラジアータ、もう俺の中ではマジ、ラジアータ(笑)だぞ。

 

「おまたせしました」

 

 スタッフルームの扉が開き少女が出てくる。千束の赤い和装と対になるような青い和装を纏い、艶やかな黒髪をツインテールにした井ノ上たきなである。

 

「かーわーいーいー!」

 

 問答無用に千束の抱き枕にされるたきなちゃんを見て、場が和む。

 

「その、どうでしょうか?」

 

「うん、すっごく似合ってる。まーた食べモグにホールスタッフが可愛いってレビューが来そうだ」

 

「うっそ!マジで!?本当だ!ホールスタッフが可愛いってこれ絶対私の事だよぬ!?」

 

「いや私だろ!?」

 

「まぁ、ホールスタッフだからミズキもあながち間違いじゃない」

 

「でしょ!?さすが零土!分かってるぅ!」

 

「あと5年若ければなぁ……」

 

「おい、上げて落とすな」

 

「意外と俺だったりしてな」

 

「「ナイナイナイナイ」」

 

「お前らそういう時だけ仲良いよな!?」

 

「さぁて!たきなも加わったことだし、写真撮ろ!」

 

「アンタね、無自覚な投稿がって言った傍で」

 

「お店の写真だから関係ありませーん」

 

「と言うかリコリコの戦力なら大丈夫だろ」

 

「「確かに」」

 

「さぁ撮るよ!はいチーズ!」

 

 カシャリとスマホのカメラが鳴る。5人で映るには少し手狭だったようでゴチャゴチャしてはいるが、悪くは無い。

 

「千束、お客さんだ」

 

「はいはーい!じゃあたきな、練習通りにーー、」

 

「「いらっしゃいませ!喫茶リコリコにようこそ!」」




リコリコ新作にふもっふ路線を求める自分がいる……
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