勇者に焦がれて 作:勇者万歳!
よく考えれば 、いや考えずとも自分は異端でしかなかった。
明るい光に照らされて誤解してしまっただけで、そこに隣り合うことすらできないのだという自覚が足りなかった。
―――僕は、初めから独りで戦うべきだったのだ。
■ ■ ■
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声が、聞こえた。
必死に何かを護ろうとしている声が聞こえた。
「ぅ、ぁ」
体中が痛かった。痛みが酷くて、気絶と覚醒を繰り返していた。
眠ってしまいたいのに、今までにない焦燥感に駆られている。
――動かなければいけない、
だが身体が動いてくれない。
意志に反して、どうしても動かない。
今すぐ動かなければいけないのにッ!!
『
「ぇ…?」
倒れ伏す自分を見下ろす誰かが居た。
金のショートヘア、笑顔が似合うであろう活発そうな少女は、似つかわしくない巫女服を、しっかりと着こなしている。
『痛いでしょ』
意識すると、ハッキリと言葉が届いた。
鼓膜を震わせるのではなく、心に直接響くような、違和感のあるものだったが。
どこまでも優しい声色は、真を心の底から心配しているのだと分かった。
それでも、真は起き上がろうと必死に地面を掻き立ち上がろうとする。
「関係、ない」
『苦しむよ』
「どう、でも、いい!!!」
自分のこと等、知ったことではない。
死んでも構わない、今動けないのならば
『そっか』
悲し気な表情を浮かべた少女は、そっと真の頭を撫でた。
どうしてか酷く懐かしくて、無性に泣きたくなった。
名前も思い出せないのに、なにも知らない筈なのに。
『いってらっしゃい』
「あっ……」
少女が青い花びらとなって散っていく。思わず手を伸ばし、一枚掴み取る。
消えていく花びらを眺めていると、急速に身体の痛みが引いていき、起き上がることが出来た。
「……行かなきゃ」
血が溜まった口から血を吐き捨て、携帯で銀の位置を確かめる。
いつもの様に白い花が描かれたアプリを、押した。
白い花びらを舞わせての変身は、しかしいつもと違った。
衣装は少し変化し、黒い二刀の刃の鍔が花びらを模したものになっていた。
「……まん、かい?」
変化はそれだけではない。脳裏に浮かぶ情報を呟いて、少年の姿が更に変わっていく。
彼の背後に機械の翼が出来、周辺に浮かぶ3対の黒刃が回転していた。
両の手にはいつもより刀身が長い黒刀を二振り握っている。
「……すごい」
脳裏に満開の効果、散華という代償機能について神樹様であろう存在から、少しの頭痛と共に刻まれる。
だがそんなことは気にならない程に、力が漲っていた。今なら、どんなことでも出来そうだった。
「急がなきゃ」
どうでもいい、強化されたのならば好都合だ。
真は文字通り翼を広げ、一直線にその場から飛び去った。
* * *
三ノ輪銀は普通の女の子だ。
痛いのは嫌だし、辛いと涙が出るし、苦しいと挫けてしまう。
でも今だけは、彼女は勇者となっていた。
護る者達の為に戦う、苦しみを堪え立ち上がる立派な勇者。
「え……ぁ、シ、ン?」
そんな勇者の仮面は、目の前に現れた友の姿を見て、剥がれ落ちた。
一番重傷だった彼の回復力は知っていたが、戦闘復帰は不可能だと思っていた。
もしかしたら、何か後遺症が残るかもと心配していたのだ。そんな彼が、目のまえに浮かんでいた。
銀への攻撃を軽く弾き飛ばす彼は、傷なんてまるで無いかのようで、とても頼りがいがあるように見えた。
「って、ハハ。なに、それ」
「銀、有難う。休んでて」
「ぁー、うん。そーする、よ」
勇者じゃなくなった少女はあっさり限界を向かえ、気絶した。
倒れ込む前に抱え、少し離れた場所に寝かせる。
「……ふむ」
真は慣らし運転がてら周囲に浮かぶ黒刃をバーテックスに向け射出した。
刃はバーテックスごと装備を貫通し、戻ってきた。
黒刃の耐久力は大したことは無いはずなのに、刃こぼれなく戻ってきた。
アレだけ苦労した敵が傷つき、崩れ、伏していく。その姿を見て口元が歪む。
「ハハ、ハハハハハハ!!!」
真には歓喜が溢れていた。
力が漲り、敵を今まで以上に楽に屠れる。
これなら、これならこれならこれならこれならこれなら―――。
「――コロセル」
「クっハハハアハハハハヒャハハ、死ぃいいねぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
手に入れた力、爆発的な高機動、圧倒的な斬れ味。
三体のバーテックスなんて、文字通り瞬殺だった。
まぁもちろん、無傷とはいかない。あまりの超加速で敵の攻撃に突っ込んでしまったりして、避けるという判断の前に中ってしまうことがあった。
何ならあまりの加速に身体にダメージが入っている。
しかし、多少の傷なんて持ち前の回復力でどうとでもなる。
なんなら千切れても、飛べるし浮かんでいる刃で攻撃も出来る。
――殺意があれば、殺せる。
あぁ何と素晴らしいことか!!これだ、こういう『力』を望んでいたんだ!!
だが足りない、もっともっともっと力を付けなくては、■■■には届かない!!
力の使い方を覚える必要がある、そのための練習相手は無尽蔵に出てくる。
環境は出来上がっているのだから、後はひたすら詰めていくだけ。
「ハハハ、ギヒャハ、ハハ……あれ?」
静かに、両の目から涙が零れた。
こんなに嬉しいのに、苦しくて……胸が痛い。
どうしてしまったのだろうか、解放感におかしくなっているのだろうか。
「――ぁ」
零れ落ちた雫を見下ろすことで、ようやく銀の姿が視界に入った。
どれだけ傷だらけになっても必死に立ち上がり、たった一人で強敵を退けた護国の勇者。
「…………あぁ、そっか」
頭が冷め、今の自分をハッキリと彼は自覚する。
誰かの為なんかじゃなく、自分の為に刃を振るう。
傷つく理由も、立ち上がる理由も、命を張り続ける理由も、何もかもが違う。
「もぅ、傍にいちゃ、いけないなぁ」
――自分は、勇者なんて存在じゃないのだから。
* * *
「――ぎ―ん――銀、銀!!」
「ミノさん!!」
「ん、…あれ、ふたりとも……おはよ」
痛みで起きるのは、格別に最悪だった。
それでも、心配そうに声をかけてくれる二人の友人のおかげで、それも反転する。
無事でよかったと心の底から安心しつつ、痛みに顔をしかめる。
「凄いわ、一人で撃退したの?」
「え?いや、しんが……真は?」
「むいむい?ミノさんしか居なかったけど……何処行っちゃったんだろ??」
「アプリにも反応が無いの……」
大きな翼を携えていた少年の姿が無い。
銀は自分にかけられている上着を見て、男子の制服だと分かり、夢じゃないと確信した。
黒い刃をもってして、彼はきっと敵を撃退してくれたはずなのに。
「どこに、痛っ」
「ダメだよ動いちゃ!?」
不安が過ぎり、身体を起こそうとして止められる。
そもそも銀だけじゃない。須美や園子だって重傷だった。
探し回れる体力は誰にも残っていなかった。
「樹海化が解けたら、すぐ病院に行きましょ」
「むいむいは治ったら探そ?」
「あぁ……ん?」
上着のポケットに、分かりやすく折りたたんだ紙切れが入っていた。
『――ゴメン、さよなら。』
その日を境に可夢偉真は、樹海化が解けたにも拘らず、行方知れずとなった。
『オリジナル紹介』
金髪の巫女
本名不明、真の記憶に残る優しい巫女の少女。
外国人の血が流れているが、生まれも育ちも日本。
激しい戦いを嘆き、一人戦った勇者を支え、最期の時まで祈り続けた。