勇者に焦がれて   作:勇者万歳!

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貴方は勇者である

 現れた大型バーテックス、スマホに映るその数は十二。

今までにない絶望的な状況に、流石の勇者たちにも動揺が走る。

 

「な、なんだよこの数……!?」

「うそ、でしょ」

「うわぁ、団体さまだぁ」

 

 銀は驚き、須美は絶望し、園子は苦笑いを浮かべた。

どんな状況でも、彼女たちが勇者として戦わなければ四国は、世界は終わる。

スマホを握りしめ、覚悟を改める三人。

 

「って、シン!?」

 

 満開に加え、散華という代償システムについてさっき聞いたばかりの三人と違い、とっくに覚悟も開き直りも出来ているシンは真っ先に飛び出していった。

とっくに溜まっているゲージを消費し、満開を発動させる。

機械の翼を羽ばたかせ、貫通力と速度を合わせ持つ針を飛ばす、厄介なサジタリウスから削り殺していく。

 

「すごい……あれが、満開」

「でも、流石に一人じゃ無理っぽいよ~~!」

「あぁ、来るぞっ」

 

 サジタリウスの横に居た、毒を持つスコーピオン、盾を持つキャンサーまで一人で相手取って見せる姿は凄まじいの一言にすぎる。

翼の羽が分解し、細かい刃の様になって広範囲にまき散らすことでアリエスとアクエリアスの注意を引き付ける、までが限界だった。

 一対五を制している所に獅子座、レオが人ならすっぽり覆える火球を連射し優勢だったシンをけん制した。

そして、残りの六体が三人の勇者へ牙を剝く。

 

「シンがピンチだっ」

「でも、私たちもこれは……!」

 

 比較的、攻撃力の高いバーテックスをシンが相手しているが、他のバーテックスが容易というわけではない。

ライブラの竜巻を起こすほどの回転力や、タウラスの硬さと鈴の音は協力プレーの邪魔となる。

地中を潜るビスケスや高速移動のジェミニの突進力は厄介だし、放っておけば神樹様に到達してしまうだろう。

ヴァルゴの銃弾爆撃を行える火力や、カプリコーンのドリルによる突破力は厄介すぎる。

 新機能である精霊のバリアが無ければ、今頃とっくに全滅していたのは、想像は容易だった。

 

「中々、厳しいわね」

「アップデートしてなかったらヤバかったな」

 

 満開ゲージは溜まっていた。この状況を好転させるには、切り札を切るしかない。

だが、散華のことが脳裏をよぎり、三人の手をあと一歩のところで止めていた。

そんな時、ふと園子が気づいた――回復力ですぐには気づかなかったが、シンが軽傷を負っている。

 

「あ、あれ……?ねぇ、わっしー、ミノさん!!アレ、むいむいってバリア、ないんじゃ?!」

「はぁ?!」

「うそ……!」

 

 お互いをカバーし合いながら戦っていた三人に備わっている精霊のバリア。

今まで傷を負っていた攻撃なら無傷にしてくれる上に、致命傷を極限まで抑えてくれるバリア。

安全と継戦能力の多大な向上をもたらしたこの機能は――可夢偉シンには備わっていなかった。

その状態でもキャンサーとアリエスを倒しているのは流石といえるだろう。

だが、倒すたびに傷を負うシンを見て、三人が冷静でいられるはずもなかった。

 

「な、なんで!?」

「いくら何でも危なすぎるよ~~」

「っ満開!!」

「ワッシー!?」「須美…!!」

 

 血を流すシンを見て真っ先に咲き誇ったのは、アサガオ。

友愛の為ならば、彼女は散るのも構わない。

羽衣を纏った和服に身を包んだ須美は、複数の砲門を備える空飛ぶ移動砲台を駆使して二体のバーテックスを打ち抜いてみせた。

 

「すごい……よし、私も~~!」

「置いてかれて、たまるかってんだっ」

 

 仲間の、友の勢いに奮い立たされた二人も揃って咲いた。

 

「「満開!!」」

 

 赤牡丹と水連が咲き誇り、同じように羽衣と和服へと変化。

銀は四足の獣の様な機構台座に乗り、その破壊力の高い爪を持って敵を粉砕。

園子は船の様な台座に乗り、漕ぐオールの様に展開された複数の刃を持って敵を貫通。

三者三様の満開は、あっという間にバーテックスを蹴散らして見せた。

 

「よし、これならッ」

「ってわわわ、あれなに~!?」

「合体、したの……?」

 

 シンの方を改めて確認すると、そこには元々レオだったと思われるバーテックスの姿があった。数が減ったのは倒したからではなく、合体したからという厄介さ。

巨大なソレは、小型の太陽と見間違う炎球を繰り出した。直線状にしっかり神樹様があるあたり、バーテックスには知能が備わっていると思っていいだろう。

勿論、シンはそれを自身の持つ全ての刃で受け止め、断ち切ろうとする。

 

「ッ」

 

 いくら持ち前の回復力があるシンでも、常時焼かれ続ければいつかは燃え尽きてしまう。

自分の焼ける音と臭いが、痛みと共にシンを襲った。

断ち切ろうにもあまりに重い敵の攻撃に、一瞬硬直した後圧されてしまう。

 

「シンっ」

「助太刀~~~!」

「突撃!!」

 

 銀が巨大な爪を突き立て、園子はエネルギーを纏った船で突っ込み、砲門に力を溜め近接に対応して見せた須美が言葉通り突撃した。

 

「ぐっうぅぁああ!!」

「こんのぉぉおおお!!」

「とまれぇぇぇ!!!」

 

「「「「はぁぁぁああああああああああ!!!!!」」」」

 

 四人一体の力は、見事に炎球を止めてみせる。

止まった瞬間、各々の力を爆発させ炎球を相殺してみせた。

 

「あっ」

「うっ」

「ふぇ~~」

 

 シン以外の三人の満開が解け、散華が起こる。

園子は右目が視えなくなり、須美は脚が、銀は左腕が動かなくなった。

 

「チッ満開」

 

勿論、力を使いきったのはシンも同様で、満開が解ける。

だが、元々6体を相手取ってただけあって、既にゲージは溜まり切っていた。

すぐさま白い花――シロツメクサが咲き狂う。

 

「これが、散華……シンは一体何を犠牲にしてるんだ?」

 

 傍目から見てシンは五体満足だった。

銀の疑問は当たり前だが、小型のバーテックス(星屑)たちも大勢いるのだ。

黙って考えている暇はない。小型を倒しているうちにゲージが溜まっていく。

 その間にシンは一人で合体レオに立ち向かっていた。

 

「ゴフッ、ゲボ」

 

 さっきの様に炎球を放たれない様に、絶え間なく攻撃しているシン。

だが敵はレオを中心にサジタリウス、スコーピオン、アクエリアスの三体が合体している。

水球で拘束を狙い、針の連弾、毒針のある尾を複数振り回すことで、シンを振り払おうとする。

 その全てを捌きながら攻撃できる程、今のシンに余裕はない。

神樹様へ炎球を出されればまた防がなければいけない、早く倒さなければ――。

 

「シン、今援護をッ満開!!」

 

 ――こうやって、勇者達がまた咲き誇る。

 

「撃てぇ!!!」

「どりゃぁぁぁああ!!」

 

 須美が複数の砲撃で一斉に合体レオを撃ち抜き、武装を破壊。

すかさず銀が強烈な攻撃を繰り出し、深い傷を負わせた。

 

「どいて~~~!!」

「疾ッ」

 

 園子の特攻で合体レオ全体にひびが入る程の衝撃を与え、一気にその巨体を結界の壁際へと押し込み、動けなくなったところをシンが真っ二つにして見せた。

消える最後の合体バーテックスを見送り、星屑を軽く殲滅したところで、ようやく一息付けた。

 

「――ぁ、え?」

 

 次の散華で、遂に取り返しのつかないことが起こった。

 

「ここは、何処……?」

「わっしー……?」

「須、美?」

「………」

 

 鷲尾須美の記憶が、失われた。

銀は右脚が動かなくなり、園子も右腕が麻痺していた。

 

「もう、いいでしょ。須美を連れて大人しくしてて」

「ッシン、お前ッ」

「次は銀かもしれないよ……それに、誰か連れていく必要、あるでしょ」

「え……?――ハ?」

 

 結界の向こうから現れる赤い影が、二十四体。

視線の先には、さっきの倍のバーテックスの姿があった。

あの数から須美のことどころか、もう大橋がどうのなんて気にしてなんていられない。

 

「んだよ、ソレ……なんでもありかよッ!?」

「まぁ、神だからねぇ……満開」

 

 シンは一人静かに力を開放し、また飛んで突っ込んでいく。

記憶を失ったことが原因で気を失った須美を寝かせた銀は、同じようにスマホを操作しようとして、園子に止められた。

 

「まってミノさん……お願い、わっしーを安全な場所、そうだね~……神樹様の近くに連れていって」

「園子?!」

「だいじょーぶ、アレくらいむいむいと一緒に片付けちゃうから!満開!!」

 

 有無を言わせない為に、満開を行う。

切り札を切る以上、戦う以外は選択肢が無くなる。

 

「くっすぐに戻ってくるから、絶対死ぬんじゃないぞ!!」

「アハハ、だいじょーぶだいじょーぶ」

 

 先に飛んで行ったシンを追いかけ、刃を盾のように展開し攻撃にさらされていたその背を守った。

 

「むいむい~、無茶しすぎだよ~~!」

「園子……」

 

 もう、勇者だからとかそうじゃないから、等と言っていられる状況じゃなくなっていた。

一人で戦おうとするシンに対し、絶対に独りになんてさせないと、園子は食い下がる。

言葉じゃ伝わらないなら、行動で。これが、園子の選んだ我儘。

 

「……ねぇ、むいむい。死んじゃイヤだよ」

「園子こそ………ありがとう」

「っうん!!」

 

 あまりにも多い敵の数、そもそもの物量で圧されながらも一体一体片付けていく。

合体しそうな奴らを優先的に倒しつつ、二人は満開と散華を続けた。

 

「さぁ、真打の登場だぁ!!アタシの根性と魂をとくと見ろ、満開!!」

 

 こうして満開と散華を繰り返す二人に銀も合流し、戦闘は激化していった。

後に瀬戸大橋跡地の合戦と呼ばれる大きな戦闘は、勇者の辛勝となる。

 

 

「…………」

「ハァ、ハァ……お疲れ様、みんな」

 

 全てが終わった彼女たちの所へ、大赦の神官であり先生でもあった安芸が急いで駆け付けた。

 十を超える満開と散華の末に、動けなくなった銀と園子を抱えたシンは、暫く安芸を眺めて――。

 

「……あぁ、そうだ、大赦の――誰、でしたっけ」

「……ぇ」

 

 優しい労わりの言葉を賭けようとした安芸は、呆然とした。

機能を失っていく散華について、彼女は知らされていた。お告げによってシンが満開を使えることだって、知らされてはいたのだ。

けれど、こうやって直に言われるのは衝撃的で、動きが止まった。

 

「二人を、お願いします……それと、神樹様の近くに、もう一人、いるはず、です」

「ぁ、まっシンくん、何処に行くの?!」

「シ、ン……?」

 

 可夢偉真は御姿といわれる特異な存在だった。

彼の身体は神樹様から与えられたものであり、逆に捧げられるモノなんて限られていた。

 

「……自分は、戦わない、と」

 

 ――そう、過去の勇者と巫女の願いと祈りによって導かれた彼は、巫女の祈りを、勇者の願いを、そして彼自身(人間)の過去を散華したのだ。

そうしてシンに残ったのは当たり前の一般常識を含め、変身、満開、散華を含む刻まれた(・・・・)戦う知識だけ。

 

「な、なんで……もう此度の戦いは、終わりました。お告げでは暫くは保つ、と」

「なん、で……なんで……それ、は――」

 

 戦って、戦いの記憶を散華して、戦って、散華して、戦って、散華する。

何故刀を振るうのか、どうして痛い思いをして、危ない戦いを続けるのか、分からなくなっていく。

 

「――自分は、『ゆうしゃ』、らしいので」

 

 でも、それでも近くに居てくれた少女達が、『勇者』が傍に居てくれた。

貴方は『仲間』だと、自分たちは『勇者』だと叫びながら、一緒に戦い続けてくれた。

もう詳しいことは思い出せないけど、敵が居なくなって、結界が解除されてからも二人はシンの側に居ようとして、そのまま気を失った。

 

「だから、戦います……まだ少し、残ってるみたいなので」

 

 戦った経験は無くならない。結界が解除される直前、星屑が()に居たのを感じ取っていた彼は、未だ戦おうとしていた。

両手が二人の勇者で埋まっていた安芸には、シンを止める術なんて無くて――。

 

■ ■ ■

■ □

□ 

 

 時が過ぎ、春になったある日。

とある少女の家に、元気な声が挨拶に来ていた。

 

「東郷さんおはよ~~!」

「おはよう、友奈ちゃん」

 

 車いすに乗った少女は明るい笑顔を向ける隣の家の同い年でクラスメイトに挨拶を返した。

そして、その隣にいる――白髪の人。

 

「おはよう、シンくん」

「おはようございま()、東郷……ふぁ~」

「あはは、シンくんお寝坊さんだなぁ」

 

 結城友奈は新しい中学生活を楽しみにしていた。

隣の家に引っ越してきた東郷 美森さん、そして少し前に養子としてやってきたシン……結城 シンと一緒に、きっと楽しい日々が送れると信じているから。

 

* * *

 

 体を神樹様に、お供えしながら戦い続けること。

それはとても素敵なことらしく、私たちの家族は泣いていたという。

わっしー……今は、東郷さんか。私たちより軽度で良かった。

それにむいむいも……システムに精霊が組み込まめなかったのは残念だけど、このまま何も知らない方が幸せなら、それで……。

 

     勇者御記 ■■■.■■.■■

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