勇者に焦がれて   作:勇者万歳!

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鷲尾須美の章
彼で彼女の始まり


 正義のヒーローになりたかった。

ただの憧れで、夢物語。そんなものになれるような人間じゃないのは重々承知だったけど、それでも捨てられずずっと心の底で眠っていた。

 

「―ぃ……おい、――おーい、神居ぃさぁーん!?」

「!? は、はい!?」

 

 物思いに耽っていて気付かなかったが、先生に呼ばれていたらしい。

ハッとして顔を上げると、先生がため息を溢しながらついて来て欲しいと告げた。

 

「え? えっと、どこに……?」

(やしろ)から御呼ばれだ。よく分かんないけど、お前が必要なんだと」

「???」

 

 社とは、今現在世界をウイルスから守っている神樹様を祀っている組織だ。現社会において最高権力を持っていると言っても過言ではない。

神居慎(かむいマコト)、13歳の女子中学一年生。品行方正、苦手なことはあんまりないが、得意かつ特異なこともあまりない。

器用貧乏が座右の銘な自分が何故そんな人たちに……?

 

「……」

 

 無言で先生に連れられ、社へと車で連れていかれる。

社という組織によって民間人が行ける場所は制限が掛けられている。

そこから先に入ってはいけない、神樹様に護られていないから、ウイルスによって死んでしまう、と言われている。

 

(あそこから先は殆ど滅んでる……か)

 

 傍から見るとよく分からない。

滅んでいる、と言っても実は未だ連絡が繋がっている地域があるらしく、全滅しているわけではないらしい。

 

(っていっても、今確認されてる滅んでない場所は確か……四国だけだったっけ)

 

 昔は船や飛行機で行けたらしい場所だが、今はギリギリ電波が届くだけ。

雑音ばかりでロクに会話もできない状況だ。他の場所が無事なのか、そこもそもそも大丈夫なのか、全く持って把握できない。

 

「よっし、着いたぞ。悪いが先生は此処までだ。こっから先は……来た来た」

 

 本部に着くと、なにやら白い装束を着た大人が多数現れた。

はてさて、一体何事なのやら。愚痴を溢さない様に心の中に落とし込みつつ、彼らについて行く。

連れていかれた場所に行くと、何やら大勢同じような服を着た人たちが居た。

 

「……神居慎殿」

「は、はい?」

「貴女にお願いがあって来て貰いました。願いを聞いてもらう前に、話さなければいけないことがあります。……いいですね、これから話すことは真実です。心して聴いてください」

 

 目の前に来たのは、声からして女性。

歳は……20歳前後だろうか。垣間見える肌からしてそんなに年は取っていないように見える。

よく周りを見ると、誰も彼もが成人を迎えたばかりか、下手をすれば自分より年下もいるのではないだろうか?

 

「この国は、今滅びの危機を迎えています」

 

 そりゃそうだ。外界はウイルスまみれで、結界の中でしか住めないような状況なのだ。既に現状神樹というオカルト存在が居なければ滅んでいる。

今更そんな話を自分にしてどうするつもりなのだろうか。

 

「私たちが住んでいる今この場所は、外の世界から来る侵略者(・・・)によって滅ぼされようとしているのです」

「………ハ?」

「貴方にはこの侵略者達……バーテックスを退けて欲しいのです」

「ちょ、ちょっと待ってください?! 侵略者ってなんですか?結界の外はウイルスで滅んでて、ゴキブリ一匹生き残ってないんですよね?」

「侵略者、バーテックスはウイルスによって生まれた生命体です。彼らは人類を滅ぼそうとしているのです」

「死を撒き散らしてるウイルスから、生命が生まれた……?何の冗談ですか?」

「事実なのです。そしてバーテックスから国を護って来た者に、貴方が選ばれました」

 

 選ばれた。誰にとは問うまい。彼女たち以上の権力の持ち主など……。

 

「神樹、様ですか?」

「はい。貴方はこの地の神樹様を守護する、勇者に選ばれたのです」

「何で自分なんです……他にはいないんですか?」

「……もう、居ません」

「もうって?」

「言葉とおりです。……貴方以前の勇者様たちは、立派に国防に励んでくれました」

「…………これ、拒否権とか、ないですよね」

「はい。申し訳ありませんが、至急貴方にはシステムを用いて訓練に励んでもらいます……本当に、申し訳ありません」

 

 死ぬ危険がある……器用貧乏を自称している、自身が無い彼女には恐怖しかない。

だが、自分以外出来る人が居ないという……の、なら。

 

「分かり、ました」

「ありがとうございます。では、こちらに――」

 

 

 彼女に選択肢は無かった。

 

 

 訓練を受け、実戦で化物と一人で闘った。

 

 

 神樹様が用意してくれた結界の中で、一人孤独に戦い続けた。

 

 

 誰かが救われるなら、そう思い込んで戦い続けた。

そんなある日、ふと小さな頃の思い出が湧いて出た。

 

(あぁ、そういえば、ヒーローってのに憧れたっけなぁ)

 

 それが今や勇者とは、世の中何が起こるかわからないものだ。

何はともあれ勇者に成れたのだから、幼い夢がある意味叶ったのだから、尚更彼女は励んだ。

 一人で闘っていたが、彼女をサポートしてくれる人がいた。

大赦の人たち……特に、自分に傅く様に傍に居てくれた人が居た。

尚のこと気持ちが高まり、気付けば護らなければという想いが、護りたいに変化して……そして。

 

 

 

「なに、これ」

 

 

 

 彼女に、終わりの日がやってきた。

勇者歴が一年になろうとしていた、誕生日の4月が近づいていた頃だった。

一人で闘い続け、支えられながら抗い続け、傷だらけの血塗れになりながら、それでも護ろうとし続けた。

それでも一人で複数の敵を抑えることは出来なかった。自分が守って来た場所が、結界を越えて壊されていく。

自分が守ってきた人たちが、傷付き死んでいく。最後に神樹を背に戦っていた彼女が観たモノは………結界が破られ、観えた残酷な世界の真実だった。

 

 

「ウイルス?あれが、ウイルスだって?……ふっざけんなぁ!!!」

 

 

 熱に包まれ焦土と化した世界。生命体が滅んでいるとか、そんなレベルではない。どう見ても意図的な破滅(・・・・・・)だった。

 そんな世界の中、異形の生命体が蠢いている。数えることなんて出来ないほどの、一人で殺し切れる数ではない。

そもそも、自分が今まで退けてきた大型のそれは小型の異形によって象られているではないか。一体を偶然殺し切ったことがあって、調子に乗ったわけではないが希望が見えたと思ったのに。

 

「敵を殺し続けなきゃ生き残れない、なんてもんじゃない。只でさえ殺し切れない奴を殺した所で、直ぐリスポンする無間地獄……私はさながら何も知らされず、知ることもせず踊っていたピエロ、か」

 

 ハハハと乾き切った、半ば狂った嗤いを溢した。

正気を保とうとしているのだろうと、どこか冷静な自分が呟いた。

 

「ねぇ、神樹様」

 

 今まで自分達を結界で守護してきた神に話しかけた。

丁度背中越しだ、声位聴こえているだろう。

 

「あなたがなんでこんな地獄の中私たちを護ってくれてるかなんて知らない、理由なんてどうでもいいさ。

ただ、こんなことをした連中を知っているってんなら……教えてよ!」

 

 手に持った黒刀を振り回しながら、最後の刻を神樹と過ごす。

守りたかった土地は滅ぼうとしている。居たかった場所は壊されている。護りたかった人は、もう居ない。

そんな彼女が唯一託された神樹を護る理由は、もう無い。それでも、一つだけ、どうしても叶えたいことがあった。

 

――護るなんて言葉からかけ離れた思いが溢れていた。

 

 

「ソイツをぶっ殺す方法を教えてよ!!!」

 

 

 叫びながら振るう黒刀が折れた。

折れたそれを投げ捨て、素手で吹き飛ばしていく。内から溢れるドス黒いモノが彼女に力を与えていた。

 

 

「力が無いなら、補う方法を教えて!!!」

 

 

 腕が折れたなら脚で蹴り殺していく。

ズタボロになりながらも神樹に願いを告げていく。

 

 

「頼むから、何でもいいから!!! 私に、一度で、いいから……! アイツらを消し去る、チャンス……を―――」

 

 

 彼女を象徴する青い花を基調とした衣服が変化していく。

彼女の心の中とは真逆の、真っ白い純白へと変質していく。

この地を護っていた力ではなく、彼女の変質に合わせて変わっていく。

 そんな彼女を見て何を想ったのかは定かではない。

だが、それを神は見捨てることはしなかった。滅びゆく人々を見捨てなかったように。

 

「―――!!!!!」

 

 そこに居た最後の勇者の結末を誰も知ることはない。

その日、日本は四国を残し……滅びた。

 

 

 

 これは鮮烈な勇者の物語でも、綺麗な英雄譚でもない。

鮮烈で綺麗になりたかった。そう願っていた一人の少女の復讐心から始まる、ただの……。

 

(………?)

 

 目を擦り、寝ぼけ眼を擦る。

なにか、夢を見ていた気がした。

 

「………ぁ」

 

 涙がこぼれていく。溢れていく。

訳が分からないこの現象だが、自意識がある頃からあったため、もう慣れていた。

 

「………ねみぃ」

 

 可夢偉 真(かむい シン)。神樹館小学六年生の()は、今日も寝起き最悪だった。

 

「………」

 

 ボーっと携帯を見る。

もうそろそろ布団から出なければいけないのだが、寝起きの彼はそんなことは気にせず、必ず毎朝同じものを見つめる。

 

 ――真っ白い花をモチーフにした、端末から消せない謎のアプリ。

 

 これを見ていると心が落ち着かなくなる。何かをしなければいけないと、奥底から自分を掻き立てる。

何かの儀式の様に毎朝繰り返しては、誤魔化すように毎日を過ごす。

 

「………」

 

 みんなは黒いのに、自分は真っ白い髪。変なの、と思いながらも心の中はこれが当たり前だと感じていた。

 

「……よし、いこ」

 

 早めに家を出て、困っている人や動物を探しながら学校へと向かう。

誰かに言ってしまえば笑われてしまうだろうから言わないが――彼の目標は、ヒーローだ。




「オリジナル登場人物」
神居 慎(かむい マコト)
 ギリギリ生き残っていた、別の場所の最後の勇者。
武器は黒刀、攻撃力重視の近接戦闘が主。
心境の変化に伴い、衣服とモチーフがとある青の花から白い花へ。
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