勇者に焦がれて 作:勇者万歳!
神樹館学校に登校すると、何時ものワイワイガヤガヤとした子供の声が響く。
朝早く出たはずなのに、結構ギリギリな時間帯になっていた。
自分からトラブルを探して解決して回っていたら、そうなるのは当たり前だろう。
「あ、可夢偉くんおはよー」
「可夢偉、おっはよ」
「おはよう」
挨拶を交わしながら自分の席に着く。
神樹様の名前がついている学校なだけあり、格式が高い。
家柄とかも関わっているはずなのだが、可夢偉家は特にそういうことはない。
(何で僕はこの学校に通えているんだっけ……謎だ)
訊いたことがあった気がするが、思い出せるのは単に家から近いから応募したら通った、とかそんなふわっとした感じな記憶だった。
ぼーっとホームルームが始まるのを待っていると、チャイムが鳴った後に駆け込みしてくる少女が1人。
「はざーっす!ま、間に合ったぁ」
「三ノ輪さん、間に合っていません」
軽く出席簿で叩かれた少女は、三ノ輪銀。
何故かよく遅刻をする、この学校の生徒にしては変わった少女だ。
性格は明るく、社交的で彼女が居るだけで場が良い雰囲気に変わってしまう。不思議な少女でもある。
(……まぁ不思議さで言えばこっちも負けてないか)
チラッと斜め後ろの席を見る。
そこには突っ伏して朝から惰眠を貪っている少女、乃木園子が居た。
彼女はさっき隣の鷲尾須美という真面目な生徒に起こされていたのだが……。
(……ま、いいや)
彼女たちは不思議な雰囲気を持っている。他の生徒とは、どこか違う。
大赦のお役目とやらについているせいだろうが、自分には関係ない。
今日も今日とて授業を受け、休み時間になると困っている人を探し、助け、時間が過ぎていく。
態々探し回っては解決していくのに、どうしても何かしなくてはいけない、何か、なにかと探し続けて……焦燥感が募っていく。
(………?)
昼休みの時間が終わろうとしていたその時、異変が起きた。
クラスメイトの動きが、ピタリと止まったのだ。
全員ではない。
状況を確認している様子だった鷲尾須美、眠っていた乃木園子、校庭から駆けてきた三ノ輪銀。この三人は動けるようだった。
この三人の共通点はお役目……だが、自分はそんなのに関わっていない。
何か全く状況は分からないが三人の邪魔をしちゃいけないだろう、そう思い自分も止まっている振りをしていたのだが、人間ずっとジッとして居られる様に出来てはいない。
「って、あれぇ?」
教室から出ていこうとしていた三人の内、最後に態々扉を閉めようとしていた乃木園子と、ばっちり視線が合ってしまったのだ。
思わず背けてしまったが、この背けるという行為自体が今現在あり得ない現象なのだ。トテトテと可夢偉真の前に移動してきた。
「えっと、動けるの?」
「………えぇ、まぁ、そうみたい……です」
「乃木さん、どうし―…え?」
「おーい屋上行くんだろー……おぉ?」
乃木園子が来ないのをおかしく思ったのか、先に出て行った二人が戻ってきた。
そして、当たり前に会話している様子を見つかってしまった。
「えっと、どうしよう?」
「どうしようって、お役目って私らだけなんじゃなかったっけ?」
「そう聞いていたけど……可夢偉さん、大赦から何か聞いてますか?」
「………」
あぁやっぱり大赦絡みなんだとか色々思っていたけど、取りあえず一つだけ言っておいた方がいいと思った。
「何も聞いてないですけど、いいんですか?」
「「「?」」」
「何かすることがあるんですよね?」
「「「あ!!」」」
こうしちゃいられないと慌てた様子の三人。
何やら携帯を取り出すと、何かのアプリを起動させた。
すると光と花びらが巻き起こり、三人の衣装が替わった。更に鷲尾須美は弓を、乃木園子は槍を、三ノ輪銀は斧剣を持っていた。
(花の、アプリ……)
思わず自分の懐にある携帯を触った。
心臓が煩い。心の奥底で何かが疼いて……今までに無いくらいに強い焦燥感に襲われていた。
「えっと、此処は安全だと思うから、動かないようにしてね!」
「後で詳しく話を聞かせてもらうわ」
「そういうことだから、また後でなー!」
三人は窓から飛び出していく。
大橋のある方角へと人とは思えない速度で走っていく。
気付けば窓の外の景色は木の根ばかりになっていた。自分が居た場所も根で覆われ、原型が分からない。
「……け、っかい」
結界だ、そう自然と理解した。
意味が分からない、何が起こっているのだろうか、一体自分はどうしてこんな場所に居るんだろうかと疑問は尽きないくせに……何をすればいいのかだけは、よく分かっていた。
「…………へんしん」
初めてそのアプリを起動させたにしては、余りに自然な動作だった。
光と白い花が咲き誇り、自分の姿を埋め隠す。
自分も彼女たちの様に変身するのだと理解できていた。
(何だろう……凄く、落ち着いた)
焦燥感は消え、生まれて初めて穏やかな気分を感じていた。
白い衣装とは真逆の黒刀が手にしっくりくる。こんな武器を持ったことすらないはずなのだが……呑気に思考が続いたのはそこまでだった。
「……行こ」
やることがある、そう思った瞬間に跳び出し大橋へと向かう。
全力で駆けていると、ふと誰かの姿を幻視した。
誰だろうと思いだす間もなく幻は消え去り、あっという間に大橋へと辿りついた。
先に着いていた三人は、白い化物と戦っていた。
―アレだ。
沸々と何かが湧き起こる。
理解できない、分からない、でも。
「お前は、アンタ等だけは――!!」
激情を呟き、息を直ぐに整え黒刀を構える。三人を追い越し、一人疾走する。
風の如く、否、それより速く、早く、卂く――!!!
「消えろ」
嫌悪に憎悪、初めて見たはずの異形に対し向けるような感情では無いはずだ。
でも、そうしなければいけない。そうしたい、そうするのが自然だった。
可夢偉真の疾速の一刀によって水球を二つ抱えていた異形が
乃木園子は呑気にも「すごぉーい!」と拍手しているが、鷲尾須美、三ノ輪銀の二人はその常識外れな光景に目を疑っていた。
「私でも両断は出来なかったんだけどなぁ」
「私なんてまるで効いてなかったのに……」
三ノ輪銀の持つ二本の斧剣は強力かつ強烈だ。コンクリートなんて簡単に割ってしまえる彼女の一撃でも、あの異形を真っ二つにするのは簡単ではなかった。
鷲尾須美の弓矢に至っては、かなり威力を高めないと効く様子すらなかったのだ。
「凄いけど」
「えぇ、ダメね」
真っ二つにされた異形は瞬く間に回復してしまった。
あり得ない、やはりこいつは生物ではないのかもしれないと思いながら武器を構え――た瞬間、異形が上空に吹っ飛んだ。
「は?」「え?」「おぉ~」
可夢偉真が真上に蹴り飛ばしたのだと、数瞬呆けた後に理解した。
「ッ!!」
可夢偉自身も跳び、空中でまた一刀両断。
更に空中に小さな黒刀を出現させ、それを足場にまた跳躍、そして両断。
跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断
跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断
跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断跳躍両断
真っ白の影が空中を跳びはね続け、異形を真っ二つにし続ける。
相手の回復が追いつかない程に……徹底的に切り刻む。
「笑ってる……?」
乃木園子の呟きで二人も気づいた。
可夢偉真は余り表情を変えない。焦燥感に苛まれる生活が常だった彼にとっては他のことに喜怒哀楽を向ける余裕が余りなかったからだ。
三人にとって彼は只のクラスメイトだ。朝の登校は遅めで、休み時間の度に何処かへ行く。放課後何をしているのかなんて知らない。
珍しい白髪と女性にも見間違えられる程に整った顔立ちと、ただ何となく優しいのは知っている。そんなあまりに薄っぺらい繋がりだ。
でもだからこそ、彼のこの姿は余りにかけ離れていて……。
「あ!」
ぼぉっと見続けていると、彼は跳躍の一瞬の間を狙われ、水弾によって吹き飛ばされた。
三人の傍に墜落した彼の元へ駆け寄る。
「大丈夫!?」
「あぁ………?」
……ぷらーんと、見事に左腕が折れていた。
「わぁ!?痛そう」
「ありゃりゃ」
「……すぐ治る、と思う」
「え、ちょ!?」
そう言うと彼は右腕で左腕を思いっきり元の位置へ戻した。
ゴキャッという痛々しい音が聞こえ、三人は思わず顔をしかめる。
「な、なんつーことを」
「……ん、治った」
「そりゃそうだろうけどさぁ」
神樹様の力を借りている変身中は、怪我の治りが早い。
勿論重傷なほど時間はかかる。彼の様に骨が折れたら元の位置に戻し、治療を開始し、治癒される。
だが彼はその第一工程を力押しで済ませたのだ。そうすれば治りは早いかもしれないが、変につながる危険性がある……。
(今、思うって言ったわよね……それに、治りが早過ぎる気が)
自信の無いその単語から察するに、確信していた様子だが、実際どうなるか分かっていなかったのだろう。
だというのに、それをした彼に、鷲尾須美は奇怪なものを見る視線を向けた。
「それより続きを……ぁ」
「まだやる気なのぉ~?? ……あ」
彼が闘おうとし、それを咎めようとしたその時ふと気づく。
……異形の敵、バーテックスはその姿を消していた。
「えっと、撃退成功……?」
「だねぇ~」
「……なんだか、釈然としないわね」
「勝利は勝利だよ~!」
「そうね……」
何はともあれ初戦闘の初勝利に喜ぶ三人。
「…………」
そんな彼女達とは対照的に、可夢偉真は浮かない顔をしていた。
「オリジナル紹介」
・可夢偉 真(かむい シン)
白髪、黒目の男(の娘)。
とある白い花モチーフの衣装と黒い刀。
高速近接戦闘を主とし、高い再生能力を所有。